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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅵ.大陸会議編
128/149

139 心の渇きを癒して

 帰りは、街道の街に寄らずに、真っ直ぐ王都を目指す。

 この方角で駆けていけば、いずれ街道に戻れるらしい。そこから南下すれば、王都はすぐだ。

「日が暮れるまでには帰れそうだな」

「これだけ暗くちゃ、日暮れもわかりませんけどね」

 見上げた空は、相変わらず雲で覆われている。

 それでも雲の上に太陽が存在している時間は、真っ暗闇にはならない。

 広い空の中。

 鳥が飛んでいるのが見えたけど、大きな風船は見当たらない。

「雨が来そうだな」

「そうですね」

『たぶん、その防具でも雨は防げないんだよね』

 自然現象は防げないから、雨が降ったらレインコートが必要だ。でも、あの可愛いレインコートは、馬に乗る時でも着やすそうだよね。

 

 ※

 

 王都に近づくと、北大門が開くのが見えた。

「合図したっけ?」

「してませんよ。でも、リリー様が今日か明日に帰還するという話は知っているはずですからね。物見塔の兵士がサボってなければ、きちんと開けてくれます」

「そっか」

 

 三人で、北大門から帰還する。

「おかえりなさいませ、リリーシア様」

「ただいま」

 出迎えてくれた王国兵士に挨拶をする。

『歓迎されてるね』

 陽炎から降りて、括り付けていたリュヌリアンを外して、陽炎を撫でる。

「お疲れ様。今日も一日ありがとう」

 陽炎が小さく鳴く。

「ゆっくり休んでね」

「リリーシア様、お預かりいたします」

「うん。お願いします」

「お任せ下さい」

 敬礼した王国兵士に陽炎を預けて、厩舎に向かう陽炎を見送る。

 この後はどうするのかな。

 振り返ると、カミーユさんが懐中時計を見ている。

「報告は明日だな。リリーシアちゃん、この書類だけ先に届けてくれるかい」

「わかりました」

 カミーユさんから書類を預かる。

 他にも、亜精霊の小瓶とか持ってきていたと思うけど。それは、明日渡すのかな。

「今日は解散ですか?」

「あぁ」

「なら、食堂にでも行きますかね」

「え?食堂は……」

「さっき聞いたら、再開したって言ってましたよ。大陸会議前にごたごたが片付いたみたいで良かったです」

 ってことは、首謀者が捕まったんだ。これでもう、エルが狙われることはないのかな。

 

 ※

 

 カミーユさんとバニーと別れて、アレクさんの部屋へ行く。

 途中の応接室の前にマリユスが居た。

「おかえり、リリー」

「ただいま、マリユス。……アレクさん、ここに居るの?」

「そうだよ。来客中なんだ」

「報告って、後にした方が良いかな」

「そうだね。まずは、アレク様の部屋に行ってくれる?」

「わかった」

 

 廊下を歩いて、アレクさんの部屋の前へ。扉の前に居るのは、グリフだ。

「おかえり。リリー」

「ただいま、グリフ」

『ねぇ、リリー。ハルトの部屋の前に国王の近衛騎士が居ないけど。別の場所に行ったのかな』

 本当だ。

「ハルトさんって、どこに行ったの?」

「クエスタニアの使者が来たから、合流してヴァランタン子爵邸に移ったんだ」

「そうなんだ」

 信頼できる人たちが来てくれたのかな?

「カミーユさんから報告書を預かってるの。部屋に置いて良い?」

「あぁ。ライーザに渡したら良い。ロザリーの支度が終わってたら、一緒にアレクの所に行ってくれ」

「うん。わかった」

 アレクさんの部屋を開いて、中に入る。

「リリーシア、戻りました」

 中に入ったけど、誰も居ない。

 支度をしてるって言ってたから、メイドの待機部屋に居るのかもしれない。

 ノックをして、扉を開く。

「おかえりなさいませ、リリーシア様」

「おかえりなさい、リリー」

「ただいま。ライーザ、カミーユさんから預かった報告書って、どこに置いたら良い?」

「こちらでお預かりいたします」

「お願い」

 報告書を渡すと、ライーザが部屋を出る。

「ロザリー、何か手伝う?」

「では、この首飾りを付けてもらっても良いですか?」

「うん」

 ロザリーの後ろに回って、首飾りの留め具を付ける。

「支度が出来たら、一緒にアレクさんのところに行くように言われてるよ」

「はい。一緒に行きましょう」

 

 ※

 

 支度が終わったロザリー、ライーザと一緒に、マリユスが護衛をしていた部屋に入る。昨日、マリーたちと食事をした応接室だ。

「失礼いたします」

「リリーシア、戻りました」

「おかえり。ロザリー、リリーシア」

 アレクさんの声が聞こえるけど、部屋の中央にはパーティションが置いてあるから、お客さんの姿は見えない。

 ロザリーと一緒にパーティションの向こうに行くと、アレクさんの近くにエルが座っていた。

「エル?帰ってたの?」

「あぁ」

 早く帰って来れたんだ。

 あれ?向かいの席に居るのって……。

「コランタンさん?」

「!」

 ものすごく驚いた顔をして、コランタンさんが立ち上がって礼をする。

『すごい反応だね』

 この前と全然違う反応だ。

 同じ人だよね?

「リリーシア。座ってくれるかい」

「はい」

 ライーザが持ってきてくれた椅子に座る。

 コランタンさんも席に着いたみたいだ。

「ロザリー、おいで」

「はい」

 アレクさんの隣の席にロザリーが座る。

 あれ?テーブルの上には、アレクさんとロザリー、コランタンさんの食事しかない。

 エルが飲んでるのはコーヒーだけ。

「夕飯を食べてたんじゃなかったの?」

「リリーを待ってたんだよ。報告が終わったら、一緒に食べに行こう」

「うん」

 良かった。

 ここで一緒に食事をするのは、少し気が引ける。

「コランタン。私の婚約者は既に知っているはずだね」

 そういえば、アレクさんがロザリーのことをみんなに紹介したのって、剣術大会の時だけ?

 あ。貴族なら、リックさんの叙任式でもロザリーを見てるはずだよね。

「そして、皇太子近衛騎士である彼女も、まさかメイドと間違えたりはしないだろうね」

 ……この前、間違えられたけど。

 コランタンさんと目が合ったけど、コランタンさんは何も言わない。

「リリーシア。亜精霊討伐の報告だけ先に聞いておこうか」

「はい。今回討伐したのは、スライムがたくさんと、キマイラが三体、マンティコアが一体です」

「スライムは、正確な数がわからないほど居たのかな」

「はい。通路に溢れかえっていて、数えきれないぐらい居ました。でも、対処方法は、ア……」

『主君だろ?』

「主君から教わっていたので、問題なく対処出来ました」

 今は公式の場所だから、間違えちゃだめだよね。

「順調だったようだね」

「はい」

 言われた仕事は全部こなせたと思う。

 カミーユさんの報告は明日になるけど。

「リリー、マンティコアって?」

 亜精霊図鑑にも乗ってなかったし、エルも知らないのかな。

「赤い獅子の姿で、尻尾は猛毒のサソリの尾。大きさはキマイラと同じぐらいだけど、キマイラよりも素早い動きをするのが特徴で、ブレス攻撃もしてくる亜精霊だよ」

 むしろ、キマイラは首が二つある分、動きが鈍くなってそうだ。

「毒は受けなかったか?」

「大丈夫。サソリの尾は防具が守ってくれたし、キマイラも、エルに教わった通り尻尾を先に倒すようにしてたから」

「良かった」

 それに、毒を受けたとしてもエルの薬があるから大丈夫。

「アレク、帰って良いか?」

「もう少し待ってくれるかい」

 まだ聞きたいことがあるのかな。

「コランタン。二人の帰還が早くて良かったね。二人に伝えたいことがあるというのなら、この機会に話すと良い」

 コランタンさんが立ちあがって、丁寧に頭を下げる。

「リリーシア様、エルロック様。御不快な思いを……。ここ数日の間、御不快な思いをさせてしまい、大変、申し訳ございませんでした。御二人の御活躍は、私も、常に、厚く、聞き及んでおります。今後、アレクシス様の御意向に逆らうようなことは決していたしません。ラングリオン王国と剣花の紋章に忠誠を」

「私に向けた言葉は求めていないよ。エル。リリーシア。何か声をかけてあげると良い」

「言うことなんてない」

 不快な思いって……。

 この人が首謀者だったってこと?

 エルは怒ってないのかな。

 命を狙われたのに。

 ……怒らないよね。

 謝ってもらったし。

 でも、許せないことはある。

「一つ、お願いしても良いですか」

「構わないよ」

 黒髪がそんなに気に入らないって言うのなら。

「しばらく、黒髪で生活してください」

 コランタンさんが驚いた顔をして、アレクさんが楽しそうに笑う。

「面白いね。髪の色を染めさせようか」

「えっ?あの、鬘とかで大丈夫です」

 そこまでしなくても……。

「君がそう言うなら、別の方法も考えることにしよう」

 えっ。

「報告をありがとう。二人とも、今日はゆっくりお休み」

「ん」

「はい」

 エルに促されて、一緒に部屋を出る。

 

 マリユスに挨拶をして、廊下を歩く。

 大丈夫かな。

 アレクさんって、急に変なこと思いつくよね。

 私、余計なこと言っちゃったかな。エルみたいに何もないって言っておけば良かったかな……。

 

 ※

 

 エルと一緒に、食堂へ行く。

「個室は空いてるか?」

「はい。ご案内いたします」

 エルが銀貨を払うと、メイドさんが私たちを案内してくれた。

 

 四人ぐらいが座れそうなテーブルに、メイドさんが椅子を二つ用意する。

 隣り合わせで並べてくれた椅子に座ると、メニューをくれた。

「レストランみたいだね」

「あぁ。何か食べたいものはあるか?」

 食べたいもの……。

「あ。エクレールが食べたいかも」

 エルが笑う。

『なんで、今からデザートの話してるんだよ』

 だって、この前、食べそこなっちゃったから……。

「じゃあ、デザートにエクレールを。それ以外はシェフのおすすめで」

「かしこまりました。お飲み物はいかがいたしましょうか」

「飲みたいものはあるか?」

 色んな飲み物が頼めるみたいだ。

「エルのおすすめは?」

「そうだな……。じゃあ、炭酸水とライムのシロップを持ってきてくれ」

「かしこまりました」

 メイドさんが部屋から出て、すぐに戻って、炭酸水の瓶とシロップの瓶、それからマドラーを置く。

「お注ぎしましょうか?」

「いや、良いよ」

「では、ごゆっくり」

 メイドさんが部屋を出ると、エルが氷の入ったグラスにシロップと炭酸水を注いでかき混ぜる。

「ライムシロップの炭酸割り。甘みが足りなかったら言ってくれ」

「ありがとう」

 エルとグラスを合わせる。

「乾杯」

「乾杯」

 爽やかで甘くて美味しい。

「お疲れ様、リリー」

「お疲れ様、エル。空を飛ぶって、楽しかった?」

「楽しかったよ。リリーも、セリーヌに頼めば乗せてくれるんじゃないか?」

 乗ってみたいけど……。

「あれを膨らませるのって、すごく大変なんだよね?」

「風の魔法があればどうにかなる。リリーが乗る時は、俺も手伝うよ」

「そっか。じゃあ、今度一緒に乗ろうね」

「あぁ」

 きっと、ドラゴンとも違う感じなんだろうな。

 楽しみ。

「リリー。そろそろ、話したいって言ってたことを教えて」

「えっ?あの、まだ、上手くまとまってなくて……」

「もう十分待った。家族の話なんて、一人で悩むことじゃないだろ?」

「え?知ってるの?」

 ベルクトのこと。

「なんで、すぐに話してくれなかったんだ」

「それは……。エルは忙しいから、もう少し具体的なことが決まってからの方が良いかなって」

「どれだけ忙しくても、リリーのことを優先するに決まってるだろ。調子は?遠征中に具合悪くなったりしてないか?」

「え?」

 私の調子?

「大丈夫だけど……」

『あのさ。何か勘違いしてない?』

 勘違いって……?

「だって、家族が増えるから家探しを頼んだんだろ?」

『そうだけど』

 合ってるよね。でも、それと私の体調に何か関係がある?

「っていうか、アレクにも言ってあるのか?これからは、仕事も無理しないようにしないと……」

『やっぱり、勘違いしてない?』

「子供が出来たんだろ?」

「えっ?」

「え?」

 子供が出来たっ?

『違うよ』

 どうして、そんなこと……?

 もしかして、家族が増えるって意味を勘違いしたの?

『子供が出来たかどうかなんてぇ。メラニーに聞けばわかるんじゃなぁい?』

「わかるの?」

「わかるのか?」

『リリーの中に別の魂の気配はないぞ』

『……だってさ』

 エルがため息を吐く。

 落ち込んでるみたいだ。

 そうだよね。エルは子供が好きだから……。

 ノックの音が鳴って、メイドさんが料理を運んでくる。

「ごめんね。ちゃんと言わなくて」

「良いよ」

 もっと早く話していれば、勘違いなんてさせなかったのに。

「あの……。残念だった?」

 聞くの、少し怖いけど……。

 どう思ってるのかな。

 メイドさんが、ミントの葉をテーブルに置いた。

 ……ミントの葉?

「では、失礼いたします」

 丁寧に礼をして、メイドさんが部屋から出ていった。

「貸して」

「うん」

 エルがまだドリンクが残っているグラスにミントの葉を足して混ぜる。

「冷めない内に食べてて」

「うん」

 ……話してくれないってことは、やっぱり言いたくないのかな。

 手元を見ているのも楽しいけれど、せっかくだからスープを飲もう。

 美味しい。

 優しい味がするポロネギのスープだ。

 温まりそう。

「残念じゃないよ」

「え?」

 残念じゃない?

「リリーと二人だけで過ごす時間は、俺にとって大切な時間だから。大切な時間は、いくら長くても構わない」

 どうしよう。

 そんな答えが返ってくるなんて思ってなかった。

 私……。

「ありがとう」

 嬉しい。

「それで?話したかったことって、結局、何だったんだ?」

 隠すようなことじゃないんだけど……。

「ベルクトから、家族になりたいって言われたの」

「養子の話だったのか」

「うん。でも、エルに相談する前に……。引き取るかどうか決める前に、私もラングリオンでの養子の制度とか知っておいた方が良いと思って。それで、アルベールさんに相談したの。そうしたら、もう少し広くて、お城に通いやすい家を探したらどうかって言われて」

 そして、まだ何も決められていない。

 ルイスとキャロルは、どう思うかな。イーストエンドの人たちとは顔馴染みだよね。

「引っ越すなら、あの家も引き払わないとな」

「え?引っ越すの?」

「セントラルに引っ越すんだろ?」

「まだ決めてないよ?それに、薬屋だって……」

「あそこを引き払うなら、薬屋もやめるよ」

 そんな。

「夢だったのに?」

「やりたいことは、十分やったからな」

 本当に?

「薬屋がなくなっちゃったら、イーストエンドの人は困らない?」

「困らないだろ」

「そうかな……」

 エル、自分がどれだけあそこの人たちに頼られてるか知らないのかな。

 エルが居なくても、あのお店にはたくさんお客さんが来ていた。

 プリーギが流行った時だって、相談に来てた人がたくさん居るのに。

「明日、ベルクトに会いに行こう」

「え?ベルクトに?」

「俺はベルクトのことをよく知らない。引き取る予定なら、早めに会って、少しでも一緒に過ごす時間を作っておいた方が良いだろ?」

「でも、まだ、養子に引き取れるような状況じゃないって言ってたよ。アルベールさんは、最低でも焼印の跡が消えるまでって言ってたけど……」

「消えるまで?なら、結構かかりそうだな」

 エル、焼印のこと知ってるんだ。

「でもね、マリーの研究で作った大地の魔法を込めた布があるの。それを使うと、傷跡も早く綺麗になるんだって」

 あの、痣のような跡。

 リーディスさんは、もうすぐなくなるって言ってたよね。

「エルは、どうしてベルクト達にそんな跡がついているのか知ってるの?」

「知らないなら、知らない方が良い」

 誰も教えてくれない。

 エルが笑って、私の頬をつつく。

「リリーは、ベルクトのことが好きなんだろ?」

「うん」

「俺だったら、過去のことなんて詮索せずに、その気持ちだけで接して欲しいと思うよ」

 ……そっか。

 エルも、同じだったから。

「だから、跡が消えるまで待とう」

 だから、ベルクトの気持ちがわかるんだ。

「うん。わかった」

 きっと、話したくなったら、ベルクトの方から話してくれるよね。

 それまで待とう。

 っていうか。エルって、本当に何でも決めるのが早いよね。本当に引っ越すのかな?そんなに長く住んでいた訳じゃないけど、あの家も、あの通りの雰囲気も、私は、すごく好きなんだけど……。

 ノックの音が鳴って、扉が開く。

 メイドさんが、魚料理を持ってきてくれたみたいだ。

「魚介のフリチュール、二種のソース添えです」

 フリチュールって、レースみたいな薄い衣をつけた揚げ物だっけ。

「変わったソースだな」

「エシャロットソースと、カニミソソースです」

「……あれか」

「カニミソって?」

「カニの中で、珍味として扱われる部分だよ」

 珍味?

 積極的に食べられることのない、変わった食べ物ってことだよね?

 特に詳しい説明はせずに、メイドさんは部屋から出て行った。

 フリチュールはいろんな種類があるけど、衣をまとってるから、どれがどれか良くわからない。えっと……。これが、カニかな?

 同じものなら、合いそうだよね。

 カニミソソースを付けて、カニのフリチュールを食べる。

 ……フリチュールは、衣がサクサクしていて美味しいけれど、カニミソソースは、少し苦手かもしれない。エシャロットソースの方で食べよう。

 こっちは、すごく美味しい。

「そうだ。あのね、エル。私、変わった魔法が使えるみたいなの」

「変わった魔法?」

「剣に魔法の力を込めると、刃が赤く輝いたり、魔法の刃が本物の剣より長く伸びたりするの」

 どんな魔法かは、実際に見せた方が早いけど。ここじゃ見せられないよね。

「色は、赤だったのか?」

「うん。炎の魔法じゃないと思うんだけど……。アレクさんは、月の魔法でもないって言ってたよ。私にしか使えない魔法だって。何の魔法かわかる?」

 あの色は、炎の精霊の色だと思うんだけど。

 炎の精霊の亜種が居るって話は聞いたことがないし、炎の精霊と契約していない私が使える魔法だとは思えない。

「もしかして、その魔法を使う時って赤い色をイメージしてないか?」

「え?……うん。そうかも。エルの炎の魔法をイメージしたから」

 炎の刃のイメージ。

 あれと同じ色だ。

「どうしてわかったの?」

「魔法は使用者のイメージを反映するからな」

「青い色をイメージしたら、青くなるってこと?」

「試してみないと解らないけど。その可能性はある」

 つまり、私は好きな色の魔法を作れるってこと?

 あれ?ってことは、透明な剣も作れる?

「どんな魔法で、何が得意な魔法なのか解ってない以上、魔法の使い方は、これからリリーが見つけていくしかない」

「え?私、魔法使うのが下手だよ?」

「リリーは魔法を剣術に応用するセンスがある。剣に魔法を込める感じで使い続けたら、きっと魔法のことも理解できるようになるよ」

 出来るかな。

 今日やったみたいなことを、もっと効率良く出来るようになれば良いってことなんだろうけど。魔力の込め方みたいな、魔法使いにとって大事なことは何一つ知らない。

『リリー。もう一つ、言うことがあったんじゃない?』

 もう一つ?

『リュヌリアンが光るようになっただろ?』

「光る?」

「そうだ。暗闇の中で、エイルリオンみたいに光るようになってたの」

『エルがアレクの為に祈った時に、月の女神の加護を得たんじゃないかって』

 月の女神が顔を出してくれたのは、あの時だけ。

「あいつに対して、より有効な力を持ったってことか」

 やっぱり、そういう結論になるよね。

「あの人って、今、どこに居るのかな」

「神の台座だ」

 グラシアルの北。

 名もなき王の行きついた場所。

 女王の手記にも、簡単にはたどり着けない場所って書いてあった。

「どうやって行けば良いのかな」

「行く方法はある。でも、どの方法を選ぶかは確定してない」

 もう、そんなところまで考えてるんだ。

「方法が決まったら、神の台座に行く」

「え?すぐに?」

「もちろん」

「こんなに忙しいのに?」

「今、一番優先すべきことは、アレクとレイリスを助け、太陽と月の神の力を借りてアンシェラートを封印し直すこと。そうすれば、亜精霊やアンシェラート関連の懸念事項も払しょくされる。今回の大陸会議の招集目的も解決するんだ」

 そっか。

 全部、解決するんだ。

 あの人と戦って、空を晴らすことが出来れば。

「私も手伝うね」

「あぁ。一緒に行こう」

 約束したから。

 

 ※

 

 エクレール、美味しかったな。

 食堂の個室は、レストランみたいに料金を払うらしい。

 エルが代金を払っていると、コック帽を被った人が来た。

「よぉ、エル」

「今日の料理を担当したのは、お前か」

 あれ?知り合い?

「エル、この人は?」

「城の厨房で働いてる料理人のデュグレだ」

 エルって、本当に顔が広いよね。

「はじめまして。リリーシアです」

「リリーシアって、」

「あんな珍味をソースに使うなんて、良く料理長が許したな」

「あれは試作品だぜ。どうだった?」

 珍味のソースって、カニミソソースのこと?

「リリー。どうだった?」

「えっと……。ちょっと苦手だったかな」

 デュグレさんが肩を落とす。

「あ、あの、ごめんなさい」

「癖が強いんだから、万人受けする味なわけないだろ。でも、臭みもなかったし、フリチュールに合う味付けだった」

「料理長にも似たようなことを言われたよ。もっと酷い言い方だったがな」

「もう辞めろって?」

「えっ」

「そっちは、もっと洒落た言い方だったぞ」

「あの、どれも美味しかったです」

「リリーシア様にそう仰っていただけたなら光栄です」

 丁寧に頭を下げられた。

 ……そっか。撫子のマントをつけてるから、私が皇太子近衛騎士ってわかるよね。

「独立するなら、俺の店を使うか?」

「え?」

「え?」

『え?』

 ちょっと、待って?

「丁度、引っ越そうと思ってたんだ。場所はイーストの端だし、少し狭いかもしれないけど。備え付けのオーブンもあるし、一人で店を始めるには悪くないだろ。慣れてきたら広いところに引っ越せば良い」

「待て待て、お前はいつも、話が急過ぎるんだよ」

「そうだよ。まだ、ルイスとキャロルにも相談してないのに」

『引っ越し先も決まってないのに、もう少し考えてから決めなよ』

 全然、そんな話じゃ無かったよね?

「それに、俺は、まだ辞めるって決めたわけじゃ……」

「開店資金ぐらい出すよ。オルロワール家に行けば俺が出資できるように手配しておく」

 エル、この人の話聞いてるのかな。

「あー、本当にお前って奴は、話を聞かないな。わかったよ。俺も腹をくくる。今月いっぱいで辞めて、新しい店の準備に取り掛かることにする」

「ん。なら、その方向で進めておいてくれ」

『あー。決まっちゃったよ』

『驚くことか?』

『いつものエルねぇ』

 確かに。すごく、エルっぽい。

 でも、本当に、こんな風に決めて大丈夫なのかな……。

 新しい家を探す時は、絶対にルイスとキャロルに付いてきて貰おう。

 


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