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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅵ.大陸会議編
127/149

138 亜精霊研究所

「わぁ……」

 北大門前の広場で、魔法使いたちが大きな布の袋を膨らませている。

 今朝、アレクさんが、エルの移動方法は巨大風船になったって言ってたけど……。これが、風船?

「リリー、エル。おはよう」

「おはよう、セリーヌ」

「おはよう」

「それが、マリーが作ったワンピース?素敵ね」

「うん。ありがとう」

「カミーユなら、もう門で待ってるわよ」

 北大門はもう開いていて、カミーユさんとバニーが出発の準備をしているのが見える。

 陽炎も一緒だ。

「エル、ちょっと待ってて」

「ん?あぁ」

 門のところまで走って行く。

「おはようございます」

「おはよう、リリーシアちゃん」

「おはようございます、リリー様」

 あれ?

「今日は、王国兵士の鎧じゃないの?」

「秘密の任務ですからね」

 バニーの今日の装備は、軽そうな素材の胸当てに、フォールドとタセット。それにマントも付けている。

「これが、いつもの冒険者の服装なの?」

「そんなところです」

「私もマントを外した方が良いかな」

「いいえ。リリー様は付けていて下さい。近衛騎士が王国兵士と歩くと、ちょっと面倒な問題があるんですよ」

「今回は、建前上、俺もヴァネッサも君の同行者って扱いだ」

 えっと……。近衛騎士は、部下を持ってはいけないから?

「わかりました。あの、もう少し待ってて貰って良い?エルに陽炎を紹介したいの」

「良いですよ。でも、先に準備をしておきましょうか。その剣を貸してください」

 リュヌリアンを渡すと、バニーが陽炎に括り付ける。

「これじゃ使えないよ?」

「街道で戦闘はしません。亜精霊を見かけても無視します」

「良いの?」

「北の港から王都への道は、大陸会議に参加する要人が利用する。警備も厳しくなってるはずだ。余計な騒ぎを起こして刺激しないほうが良いぜ」

「はい」

 この辺りを担当してる人たちに任せたほうが良いらしい。

「出来ましたよ」

「ありがとう。ちょっと、行ってくるね」

 陽炎を連れて、エルの所に戻る。

「この子が、陽炎だよ」

 陽炎を撫でると、陽炎が私に頬ずりする。

「良い馬だな。陽炎。リリーを頼むよ」

『心配しなくても大丈夫だよ』

 今回は、イリスも私と一緒に来てくれることになっている。

「リリー、気を付けて」

「うん。エルもね」

 カミーユさんとバニーが居るところまで戻って、陽炎に乗る。

「準備は良いかい」

「はい」

「それじゃあ、行きましょう」

 もう一度、エルに手を振る。

 いってきます、エル。

 

 ※

 

 街道の街を目指して、三人で駆ける。

「良いペースだ。二人とも、寒くないかい」

「私は大丈夫ですよ。リリーはどうです?」

「大丈夫」

「一番寒そうに見えますけどね。そのワンピースは、昨日と同じ性能のものですか?」

「あれよりも、もっとすごくなったんだ。炎の魔法はもちろん、水の魔法も弾くし、雷の魔法に打たれても平気だったの」

『大した威力じゃないけどな』

『あんなの、人間に向かって使って良い威力じゃないからね?』

「毒への耐性はないですね?」

「あ。そうかも」

「確かにな」

『冷静だね……』

「まだ実験が必要な防具のようですから。色々試して、防具のことをきちんと理解していきましょう」

「うん。わかった」

『頼りになるね』

 バニーからは教わることがたくさんある。

「そういえば、リリーシアちゃんの馬は、セズディセット山の出身かい」

「はい。砦の騎士団が、不知火と一緒にプレゼントしてくれたんです」

「だと思った」

「あそこって、馬で有名なところなんですか?」

「あぁ。ヌサカン子爵領は、騎士が乗る名馬の里として有名なんだ。あの地方出身の馬は、炎の大精霊にあやかって、火や炎を冠した名前を付けることが多い」

 セズディセット山は、昔、炎の大精霊が居たから?

「アレクさんの馬は黒炎だよね?黒炎もセズディセット山の出身なの?」

「そうだよ。ヌサカン子爵領はアレクシス様の御静養地。乗馬の稽古もそこでなさったそうだからな」

―幼少期は、良くこちらにおいでになっていたんです。

―乗馬の稽古も、東の砦でされていましたね。

 そういえば、セズディセット山の西の詰所の人も、そんなことを言ってたっけ。

「カミーユさんの馬は?」

「俺の馬は、雪風。俺の出身地で生まれた馬は、風や鳥の名前を冠することが多いんだ」

「出身地って……」

「エグドラ子爵領。俺の地方も、名馬の里として有名なんだぜ」

「風の大精霊のゆかりの場所なの?」

「ゆかりって言うか……。田舎だからな。風の通り道って言われてる何もない場所があるんだよ」

 そんな名前があるなら、デルフィが使ってそうだ。

「あ。熱気球が浮かんでますよ」

「熱気球?」

 バニーが振り返って空を指す。

 その先を見上げると、巨大風船が空を飛んでいるのが見えた。

「北大門前の広場で、魔法研究所の方たちが膨らませていた奴です。今回は、あれに乗って、空からセルメアを探すそうですよ」

「空から……」

 ここから見ると、人が乗っているようには見えないけど。籠の部分にエルが乗ってるんだよね?あんなに高いところまで飛べるんだ。

「さっきの連中には、研究所以外の奴も混ざってたんだぜ。熱気球は、セリーヌがリーダーの同好会で作ったものだからな」

「同好会?」

「同じ趣味を持った集まりだ。研究所では、国の意向に沿った研究を進めることが前提だが、それ以外の研究もやりたいって奴は、同好会を組織することで自由な研究を行えるんだ」

『本業がおろそかにならないの?』

 研究所は国の機関だから、国の為になるような研究がメインなんだろうけど……。

「自分が担当してる仕事は、ちゃんとやらなくちゃダメなんだよね?」

「そりゃあな。でも、同好会から立ち上がったプロジェクトが、そのまま新しい研究として迎えられることもあるし、自由な研究は奨励されているんだ。明確なプランを提出すれば研究所からも資金が出るし、足りない場合は出資者を募ることもある」

 かなり大掛かりなことも出来そうだ。

「誰でも入れるの?」

「研究所の資金を使うなら、リーダーは研究所の所員じゃないといけないが。それ以外のメンバーは自由だ」

 カミーユさんが、熱気球の方を見上げる。

「それにしても、すごい速さだな」

「馬よりもはるかに速いですねぇ」

 熱気球は、どんどん遠ざかって小さくなっていく。

『ほら、ちゃんと前を見なよ』

「うん」

 視線を前に戻す。

 空に乗って飛ぶなんて、楽しそう。

 ドラゴンとどっちが早いかな。

 

 ※

 

 街道沿いで亜精霊を見かけることはなかった。

 本当に警備が厳重になってるんだな。

 街道の街に寄って、バニーお勧めのお店でランチを食べて。

 それから、カミーユさんを先頭に、ヴィクトルさんの研究所を目指す。

 目印も何もない草原を馬で駆けて。薄暗い森の小道に入ってからは、馬の速度を緩めて進む。

 精霊や妖精が飛びかう静かな森だ。

 空気も気持ち良いし、落ち着く。

 

 小道に沿って進むと、池の近くに小屋があった。

「ここですか?」

「あぁ」

「冒険者の休憩所にしか見えませんが」

「上の方は、休憩所として使って良いようにできてるからな」

「上の方?」

「調査が長引いても、野宿せずに済むってわけですか」

「そんなに時間はかからないと思いたいけどな」

 早く帰れるなら、早く帰りたいな。

 エルは、移動中のセルメアを探して会談を行う予定だから、一日で戻れるかわからないって言っていたけど。あれだけ早い乗り物で移動するなら、早く帰れるかもしれない。

「馬小屋はこっちだ」

 カミーユさんの案内に従って、馬小屋へ。

 屋根もついているし、ちゃんとした場所だ。

「すぐに戻るから、ここで休んでてね」

 陽炎を馬小屋に繋ぐ。

「水を汲んできましょう」

「手伝うよ」

 バケツを持って、バニーと一緒に池の方へ行く。

「綺麗な湧き水ですね」

 身を屈めてバケツに水を汲んでいると、バニーが私に向かって水をかけてきた。

「わっ」

 悲鳴を上げた私を見て、バニーが笑う。

『こんなところで水遊び?』

「遊んでる場合じゃ……」

「やっぱり、魔法以外には効果なさそうですね」

「え?」

『本当だ』

 水滴が腕やワンピースから滴っている。

 マリーの魔法は弾いてたのに。

「冷たいですか?」

「そんなに冷たくないかな?」

「結構冷たいんですけどね」

 池の水に触れてみる。

「本当だ。冷たい……」

「不思議ですね。魔法の水は弾く。自然の水を浴びた場合は、耐寒耐熱の効果は生きてるものの、水を弾くことはない。そして、自分から触れた水は自然現象のままに感じる」

『綺麗にまとめてるけど。合ってるの?』

「うん。自然現象は、この防具じゃ防げないのかも」

「まぁ、それが可能なら、火山に入ることも海中で自由に散歩することも出来そうですからね」

「えっ?それは、ちょっと……」

 魔法でも、強い魔法は防げないはずだ。

「二人とも、まだかかりそうか?」

 振り返ると、準備を整えたカミーユさんが立っている。

『いつまで遊んでるんだよ。さっさと行くぞ』

「ごめんなさい。今、行きます」

 陽炎も待ってるよね。

 バケツに水を汲んで、バニーと一緒に馬小屋に戻る。

「喉が乾いたら飲んでね」

 自由に水が飲めるよう、水飲み場に水を入れてから、準備を整える。

 リュヌリアンを背負っていると、隣でバニーが小さな丸い盾を左腕に着けている。

「今日は盾を持ってるの?」

「はい。ブレスを防ぐには盾があった方が良いですからね」

 小さい盾だけど、役に立つのかな?

 

 準備を整えた後は、カミーユさんに続いて小屋の裏側へ。

 表と違って、裏手は草木が生い茂っている。

「人の出入りは少ないようですね」

 小屋の裏側には扉がついている。

 扉は壁の色と同じで、ここまで近づいて見ても扉には見えない。隠し部屋みたいだ。

 カミーユさんが、鍵を使って扉を開く。

 暗い。

 カミーユさんが自分の杖に光の玉を当てると、光の玉が光を放ちながら杖の周りを周回し始めた。

 照らされた部屋は狭くて何もない。奥の方は、更に暗くなっていて良く見えない。

「この先は階段になってるから、足元に気を付けてくれよ」

「はい」

「中はかなり狭いから、剣は鞘から抜いていた方が良いだろう」

「わかりました」

「了解」

 天井も低そうだ。

 周りに気を付けて、リュヌリアンを抜く。

 あれ?

「それ、光ってないか?」

『本当だ』

 リュヌリアンの刀身は、暗闇で淡く光を放っている。

「どうして?」

「これ、前から光ってましたっけ?」

『光ってるところなんて見たことないよ』

 だよね。

「元々、光る剣じゃなかったはずだよ。でも、ここまで暗いところで剣を抜く機会なんてなかったから……」

「流石に、リリーでも暗闇で剣を振り回したりしませんか」

『まぁね』

 ……どういう意味?

「昔は光ってなかったけど、いつの間にか光るように変化したのか?」

「はい」

『じゃあ、いつから光ってたの?』

 わからない。

 でも、きっかけがあるとしたら。

「もしかしたら、月の女神にお祈りした時かも」

『エルが祈って、月の花が咲いた時?でも、月の女神から得た力は、月の花になったんじゃないの?』

「あの時、月の女神がリュヌリアンにも力を分けてくれたんじゃないかと思って」

「月の女神から力を得た剣か。暗闇で輝くことといい、エイルリオンみたいだな」

「エイルリオンと並ぶ剣。月の女神の剣ってところですか」

「えっ?そこまですごいものじゃ……。あの、すごいけど、あれとは、全然違うものだと思う?」

 正確には、エイルリオンは神さまの子供って感じだし……。

 二人が笑う。

「でも、剣が光るっていうのは良い案です」

 バニーが自分の剣に光の玉を当てる。

「これで、お互いの位置も確認しやすいでしょう。さぁ、行きましょうか」

「うん」

 帰ったら、エルに教えよう。

 

 ※

 

 バニー、私、カミーユさんの順で階段を降りる。

 降りた先には、また扉があった。

「鍵はかかっていませんね。気を付けて開けましょう」

 扉を開くと同時に、スライムが飛びかかってきた。

 すかさずバニーが剣でスライムの核を突くと、スライムが消える。

「敵が多そうですね。注意して行きましょう」

 

 研究所って聞いていたから、魔法研究所や錬金術研究所みたいなところを想像していたけれど。

 鉱山の採掘跡のような、カトルサンク山の洞穴のような、土を掘りだしたトンネルが続いている。

 通路にはスライムがたくさん居た。

 赤や緑に黄色。色も大きさも様々だ。

「多いですねぇ」

 どれも半透明で核が見えるから、狙う場所がわかりやすいけど。

 小さいスライムは見落としやすい。他のスライムの陰に隠れて突然襲ってきたりするから、少し困る。

「帰り道は楽出来るってことで、頑張りましょう」

「疲れてないかい」

「大丈夫です」

 数が多い上に好戦的なスライムを避けながら進むことは出来なくて、結局、戦う予定じゃなかったカミーユさんも参戦している。

 っていうか、カミーユさん、強いよね?

 剣の動きに無駄がない。剣術はマリユスに似てるかな。……あ。マリユスのお兄さんなんだから、一緒に練習してるはずだよね。

「次の扉が見えてきましたね」

 通路の果てに、頑丈そうな扉があるのが見える。

「じゃあ、残りのスライムも退治しておきますか」

 バニーと一緒に、扉を背にして振り返る。

「え?」

 あんなに大きいスライム、居た?

「合体しましたね」

「合体?」

「スライムは単体でも自己治癒能力を持っていますが。傷の修復の為に他の亜精霊を飲み込む場合もあるんです。それ以外にも、攻撃的なタイプは周囲の弱い奴を吸収することで巨大化を繰り返すことがあるんですが……。なかなか見ない大きさですねぇ」

『あいつ、周りに居た奴を全部吸収したってこと?』

 あれを倒せば終わりってこと?

「倒し方は同じ?」

「はい」

 なら、狙うのは一つ。

 リュヌリアンを大きく振り回して、核を狙う。

 ……あぁ。また、この嫌な感覚。大きくなればなるほど、核を守るゼリー状の部分も強化されていくんだ。

 力一杯斬り払った後、回転しながら勢いをつけて、もう一度斬りつける。

 鳥肌を感じる感触。

 そして、剣が核に当たる感触。

 これで終わりにする。

 そう思った瞬間、剣が赤く煌めいた。

『リリー?』

 赤い光を纏ったリュヌリアンがスライムを通過すると、スライムが消えた。

『今の、魔法?』

「たぶん……?」

「すごいですね。あれだけの大きさのスライムを、たった二撃で倒すなんて」

「剣に精霊でも宿してたのか?」

『まさか。リリーが連れてるのは、お前だけだろ?』

『ボクだって、わからないよ。剣に魔法を込めたんだろうけど……』

 感覚としては、短剣を長剣に変える魔法と同じ感じだった。

 でも、精霊を宿したって、剣に魔法の属性が加わるだけで、剣が光ったりはしないはずだ。

―これは、君にしか作れない魔法だ。

 私の魔法……?

「とにかく、この通路の安全は確保出来た。先に進もう」

「はい」

「そうですね」

 

 カミーユさんが通路の先にある扉の鍵を開ける。

 そして、バニーが、警戒しながら静かに扉を開く。

 今度は、急に何かが飛び出してくる気配はなさそうだ。

 バニーが光の玉を使った片手剣を伸ばして、周囲を確認する。

「静かなようですね。中に入りましょう」

 注意しながら、中に入る。

 小部屋みたいになっている空間だ。

 一通り安全を確認した後、カミーユさんが扉を閉じて、鍵を閉める。

「鍵はこれしかない。俺が居ない時に脱出が必要になった場合は、この扉を壊して逃げてくれ」

「あまり想定したくないケースですねぇ」

「万が一を考えて、だ。リリーシアちゃんの大剣なら、扉ぐらい軽く吹っ飛ばせるだろう」

 この扉、結構、頑丈そうだよね?

 出来るかな。

『扉を蹴破るよりも、あの魔法を使った方が良さそうだけどね』

 砂の魔法?

『まぁ、リリーには無理か』

 無理。

「階段を上ろう。この上が研究所だ」

 さっきと同じように、三人で階段を上る。

「研究所は、外から見たら窓も出入り口もない建物になってるんだ」

「中に入る方法は、さっきの隠し通路だけってことですか」

「スライムがたくさん居たところ?」

「あぁ」

「亜精霊なら飲食も必要ないでしょうし。閉じこもって研究やるのに向いてる場所かもしれませんね」

「人間でも、そういう環境が好きな研究者は居るんだぜ」

「とんだ引きこもりですね」

 ……エルのこと?

 

 階段を上った先の扉を開き、バニーが先行して周囲を確認する。

「亜精霊は居ませんね」

 さっきまでの場所と違って、ここは研究所っぽい雰囲気の場所だ。

 エルが錬金術で使ってるような色んな器具が並んでいる。

「俺は、この部屋の資料を探してるから、先に他の部屋の様子を見てきてくれないか?」

「了解」

「わかりました」

 バニーと一緒に、奥の扉を開く。

 廊下沿いには、いくつか部屋がある。どれも扉はついていないみたいだ。

 確認の為に一部屋ずつ覗いていくけれど、何もない。

「こういった逃げ場のない狭い空間でブレスを吐かれたら厄介ですね」

 扉が付いてるのは、カミーユさんが居た部屋だけ。ブレスが充満したら、あそこまで逃げなくちゃいけない。

「あ。エルがね、キマイラは部位ごとに倒せるって言ってたの。だから、蛇の尻尾だけ先に倒すことも可能みたい」

「良い情報です。放っておけば回復する可能性もありますが、なるべく先に攻撃しておきましょう」

「うん」

 すべての部屋の確認が終わった後、二階に向かう階段を見つけてから、カミーユさんが居る部屋に戻る。

「一階に亜精霊は居ませんでした。二階も調査しますか?」

「あぁ。こっちも調べ終わったから、行こう」

 

 階段を上って、二階へ。

 二階は扉が付いている部屋が多いみたいだ。今度は、三人一緒に一部屋ずつ調べることにした。

 一つ目の部屋は、棚がたくさん並んでいる。

「亜精霊捕獲用の小瓶だ」

 本当だ。

 この棚には、小瓶が並んでいる。

「あれ?三段目には何もない」

 他の段には小瓶があるのに。

「そこにはスライムの小瓶があったみたいだな。ヴィクトルが、ここを出る時に持ち出して、通路に放って行ったんだろう」

「キマイラやマンティコアが逃げ出した時の保険ですか?それとも、侵入者対策に?」

「両方だろうな。まぁ、スライムがあれだけ居たなら、あの通路を使った奴は居ないだろう」

 戦わずに通路を通り抜けるのは無理だよね。

「キマイラとマンティコアは、どこに居るんでしょうね」

「同士討ちで消えてたら、探しようもないけどな」

「同士討ちするタイプですか?」

「どうだろうな。情報が無いから何とも言えないが」

「そういえば、亜精霊同士って、あまり敵対してないよね?」

「基本的に、同族の亜精霊や同じ生息域に居る亜精霊は争いませんよ。縄張り意識が強い奴や凶暴な奴は、生き物だろうと亜精霊だろうと関係なく襲うって感じです。ただ、スライムは特殊で、別の亜精霊を吸収することがあります」

「吸収して、大きくなるの?」

「そのようですが。それにしては、大きなスライムの報告例は少ないですからね……。逆に、大きい奴が分裂するって情報もありますよ」

「え?そうなの?」

「スライムは、素体がわかってない謎の多い亜精霊だからな」

「亜精霊が最終的に行き着く場所ともいわれてますねぇ」

 二人とも、博識だ。

「俺は、この部屋をもう少し調べる。二人は他の部屋を見てきてくれるか?」

「了解」

「はい」

 バニーと一緒に、廊下に戻る。

『リリー!左!』

 左を向いて、リュヌリアンを構える。

『キマイラだ』

 私たちに気付いた獅子の顔が、こちらに向かってブレスを吐く。

「リリー、」

「大丈夫」

 そのまま走って、炎のブレスを浴びながらキマイラを斬り上げる。

 魔法のブレスなら私には効かない。

 まずは、尻尾を切り落とさなきゃ。

 こちらを向いた蛇の尻尾に向かって攻撃し、そのままキマイラの背後に払い抜ける。蛇の尻尾はうなだれるように頭を落としたけど、消えない。

 もう一度、後ろから攻撃を加える。

「リリー、蛇はもう倒してますよ。他の部位を狙いましょう」

 そっか。

 これで一つの個体だから、部位を倒したところで、特定の箇所だけが消えることはない。消える時は、全部一緒に消えるはずだ。

 バニーが獅子のブレスに向かって、盾を押し付けている。盾に阻まれたブレスは、バニーに当たることなく周囲に霧散している。

 すごい。小さな盾でも、あんなに効果的にブレスの攻撃を防げるんだ。

 前方でバニーが耐えてくれている間に、一気に胴体を倒そう。

 キマイラの胴体に向かって何度か斬りつける。山羊の顔がこちらを向いたけど、獅子の首はバニーを見たままだ。そのせいか、胴体の向きがこちらに変わる様子はない。

 更に攻撃を加えると、キマイラの姿が消えた。

「完了ですね」

 これで終わり?

 周りには、もう敵は居なさそうだけど……。

「終わったみたいだな」

 部屋から出てきたカミーユさんが、別の部屋の前に行く。

「もう少しこのフロアを調べてるから、二人は探索を続け……」

 カミーユさんが、開いた扉を静かに閉じる。

「キマイラは一体だけじゃないらしいぜ。戦えるか?」

「また狭いところに居ますね……。毒のブレスが充満してないなら行きますよ」

「部屋は煙ってなかったし、毒は充満してないはずだ。俺が確認できたのは、キマイラが二体。まだ、こちらには気付いてないし、攻撃態勢も取ってなかった」

「わかりました。危なくなったら、扉を閉めて逃げるってことで。リリー、行きましょうか」

「うん」

 

 ※

 

 バニーと一緒にキマイラを二体倒して、調査を続ける。

 部屋を全て調べたけど、キマイラも他の亜精霊も居なかった。

 三人で、三階に上る。

「次で最後。上は広い空間になってるはずだ」

 今まで探した場所にマンティコアは居なかったし、ここに居るかもしれない。

 

 バニーが、三階の扉を静かに開く。

 薄暗い空間が広がっている。

 広い部屋の中央に、赤い毛並みの動物が居るのが見えた。

 金色の瞳が光る。

 こちらを睨みつけて、その場で立ち上がった赤い獅子が大きな咆哮を上げた。

 あれが、マンティコア。

 バニーが、マンティコアに向かって光の玉を投げる。

「行きますよ」

 光の玉が当たり、マンティコアの周囲が明るくなる。

『気を付けて』

 うん。

 リュヌリアンを持って、駆ける。

 けど、向こうも走り出していた。

 あれだけ眩しい光を受けたのに、目が眩んだ様子はない。

 それに、早い。

 大剣を早めに振りかざしたものの、私の攻撃はマンティコアに避けられた。そのままマンティコアは高く跳躍して部屋の壁に足を付け、私に向かって大きく口を開く。

 その口めがけてリュヌリアンを振り上げると、マンティコアが刃に噛みつく。

 後ろから回ったバニーがマンティコアの尻尾を斬りつけたけど、サソリの尻尾は、簡単に倒れる様子はない。

 噛みつかれたままのリュヌリアンを大きく振り回して、マンティコアを遠くに飛ばす。壁の高い位地に着地したマンティコアは、大きく口を開きながら再び私に襲い掛かってきた。その、マンティコアの攻撃をリュヌリアンで受け止めると、また、刃に噛みつかれた。

 上手く振り払えずにいると、サソリの尻尾が私の方に伸びてくる。

『リリー!』

 避けられない。

 刺される、と思ったけど、何故か尻尾の攻撃は私に当たる前に止まった。

 虹のワンピースの力?

『動くなよ』

 ブレストがそう言った直後、目の前に雷が落ちる。

『当たったぜー』

 カミーユさんの魔法?

 マンティコアが口からリュヌリアンを離す。

 すかさず、リュヌリアンで斬りつける。

 ようやく、攻撃が入った。

 雷の魔法で動きが鈍ってるみたいだ。一気に片を付けよう。

 胴体をなぎ払い、そのまま体を回転させて、砂の魔法で勢いをつけて、もう一回斬り払う。

 後退した相手に向かって、リュヌリアンを突き刺す。

 ……だめ。これじゃ、届かない。

 マンティコアの素早さについていけてない。

 後、もう少し伸びれば……。

 そう思った瞬間、剣から伸びた赤い光がマンティコアに当たった。

 光に貫かれたマンティコアの動きが鈍る。

 これなら、届く!

 走って、マンティコアに向かって斬りかかる。

 綺麗に攻撃が入った後、マンティコアが消えた。

 周囲を確認する。

「これで終わり?」

「そうみたいですね」

 思わず、その場に膝をつく。

「大丈夫ですか?」

『大丈夫?』

 何だろう。そんなに疲れてないはずなのに、体がだるい。

『魔法の使い過ぎじゃねーのか?』

「魔法の使い過ぎ?」

「リリーが使っているのは、剣に力を与える魔法ですか?」

「まだ、良くわからなくて……」

 刃に自分の気持ちが反映するのは確かだけど。

 何かを具体的にイメージたわけじゃない。

『下手な奴ってのは、余計な力が入るんだよ。要は、無駄に魔力消費するってことだ』

 剣術でもそうだよね。上手く使いこなせていないと、力んで余計な力が入ってしまうことがある。

 ……もしかして、私の使い方って、間違ってるのかな。

 エルなら、無駄な力なんて使わずに、もっと具体的なイメージを反映させることが出来るのかもしれない。

『リリーは、魔法なんて全然使ったことないからね』

『だろうな。見た目に同じ魔法を使ってたとしても、上手い奴と下手な奴じゃ、効果も魔力の消費量も全然違うんだぜ』

「少し休もう」

「私、大丈夫です」

「持ち帰る資料を整理して、足りないものがないかチェックしたいんだ。待っててくれるかい」

『良いから、大人しく休んでおけよ』

「休める時に休んでおくのも仕事の内ですよ」

『そうだよ。この後、馬に乗って帰る体力あるの?』

「……はい」

 休もう。

 エルは、どうしてるかな。

 セルメアの人たちに会えたかな。


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