表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
12/149

09 きるだけ?

 ヴィエルジュの朔日。

「リリー、今日も外に出ないの?最終日なのよ?」

「朔日も三日も外に出たよ」

「昨日も一昨日も出てないわ」

 だって。

 外に出るのなんて無理。

 マリーが言ってることが本当だとしたら、誰に何を聞かれるかわからない。

 あの服を着る勇気だってないのに。

「キャロルだって出かけてないよ」

「喪中じゃ合唱団に参加できないもの」

「エルは死んでないのに?」

「死んだことになってるわ。さんざん色んな人にも聞かれたもの」

 噂が広まってるって、シャルロさんも言ってたっけ。

「なんて答えてるの?」

「家に帰って来ないから分からないって答えてる。ルイスがそう答えれば良いって言ってたのよ。……いくらなんでも、エルが死んだなんて言いたくないわ」

 そうだよね。

 エルの姿はずっと見てないから……。

 ルイスもキャロルも、信じてるけど不安なはずだ。

「ほかに、何か聞かれたりしない?」

「ほかのこと?……リリーのこと心配してる人も居たわ。でも、エルが帰って来ないから家から一歩も出てないって言ってる。だって、本当に家から一歩も出ないんだもの」

「舞踏会のことは……」

「誰にも言ってないわ」

「ありがとう」

 舞踏会に参加したことは、秘密にしてもらっている。

「キャロル、ガレットデリュヌを焼こう」

「エルが居ないのに?」

「うん。ヴィエルジュの朔日にガレットデリュヌを焼くって、約束したから」

 アレクさんは、エルには帰りたい日があるって言っていたから。

 それは、きっと今日だ。

「カミーユさんも来るはずだよ」

「そうね。リリー、手伝うわ。一緒に作りましょう」

「マカロンも作ろうと思ってるんだ」

「マカロン?昨日も焼いたのに?」

「昨日は上手く行かなかったから、もう一度挑戦しようと思うの。レシピはカミーユさんから貰ったし、食べてもらいたいんだ」

「流石、カミーユね」

「なんで、お菓子作りが得意なのかな」

「女の子にもてるからじゃない?」

「えっ?」

「前にそう言ってたわ。本当、カミーユってそんなことばっかり言うんだから」

 カミーユさん、本当に何考えてるかわからない人だな……。

 

 ※

 

 キャロルと一緒にマカロンの生地を焼いて、ガレットデリュヌを焼く。

 マカロンのクリームは後で作る予定だ。

 それから、ガレットデリュヌの為のフランジパーヌを作る過程で余ったダマンドを、昨日焼いたクロワッサンに乗せて、クロワッサンアマンドを焼く。

 残りのクロワッサンはサンドイッチにしよう。

 ランチの準備も、もうすぐ完了。

「ルイスを呼んでくるわね」

「うん」

 台所は甘い匂いで溢れてる。

 エルは、この匂いに耐えられないんだろうな。

 そうしたら、コーヒーを淹れてあげないと。

 ……エル。

 帰って来るよね?

 

 ※

 

 ランチを食べて部屋に戻る。

 エルの部屋には、私の服をしまうクローゼットと姿見が増えた。

 それから、結婚祝いにポリーが作ってくれた、うさぎのぬいぐるみのスピカ。私の姉のポリシアは昔から裁縫が得意で、良く私にぬいぐるみを作ってくれていたのだ。

 ポリーは、もう王都から旅立ってしまった。南を旅して大陸を出るって言っていたけど、どこを目指してるのかな。

 ベッドに座って、スピカを抱きしめる。

 

 いつまで、こんなことが続くんだろう。

 

 エルから何の連絡もないまま、お休みが終わってしまう。

 一緒にお祭りを歩きたかったな。

 ……会いたい。

 

 ※

 

「リリー」

 エル。

 抱きしめて、顔をつける。

「起きて」

 あれ?目の前に居るはずなのに、どうしてそんなところから声が?

 目を開いて、声の方を見上げる。

「おはよう」

「える……?」

 あれ……?

 私が抱きしめてるのはスピカで……。えっと、目の前に立ってるのが……。

「ただいま」

「エル!」

 いつも通りの微笑み。

 夢じゃない?本当に?

 エルに、抱きつく。

「おかえりなさい」

 本物だ。

「ただいま、リリー」

「会いたかった」

「俺も会いたかったよ」

 あぁ。エルが居る。

 会いたかった。

 だって、最後に見たのは……。

「大丈夫?怪我はない?」

「怪我?」

「ドラゴンと戦って、空から落ちたのに」

 大きな怪我はしてなさそうだけど……。

「落ちてないし、怪我もしてない。アレクが助けてくれたから」

「転移の魔法陣で?」

「あぁ」

 アレクさん、本当にエルを転移の魔法陣で助けたんだ。

「元気にしてたか?」

「寂しかった」

 無事で良かった。

 いつも通りのエルに会えて、本当に良かった。

 アレクさんは何も教えてくれなかったから。

 ……教えてくれても良かったのに。

「ツァレンから聞いてると思うけど、しばらくアレクの仕事を手伝うことになったんだ」

 ツァレンさんは、そんなこと言ってなかったけど。

「どんな仕事?」

「言えない」

「言えないの?」

「あぁ」

 教えてくれないんだ。

 ドラゴン退治と、婚約者騒動を潰すこと。

「一緒に居られなくて、ごめん」

「大丈夫。ちゃんと帰って来てくれたから」

「リリーのガレットデリュヌが食べたかったんだ」

「うん」

「何か困ったことがあったら、いつでも城に来て」

 お城に行くってことは……。

「私は、あの……、喪服を着なくちゃいけないの?」

 エルが急に私の肩を掴んで、私を見る。

「着て」

「えっ。あんな可愛いの、恥ずかしいよ」

 喪服らしい服ならいくらでもあるはずなのに。

 どうして、よりによってあれなの?

「協力してくれるだろ?」

「あれを着ることが、協力することになるの?」

「なるよ」

 顔を上げてエルの方を見ると、エルがクローゼットを開いて服を選んでる。

 ……楽しそう。

 やっぱり、それを選ぶんだ。

 エルが選んだのは、私も一番可愛いなって思ってたもの。

 戻って来たエルが、その服を私に着せる。

「あの、これ、どう考えても喪服じゃないと思うんだけど……」

「死んでないんだから、喪服じゃなくて良いんだよ。立って」

 じゃあ、この服を着る意味なんてないよね?

 立ち上がると、エルが後ろのリボンを結ぶ。

 姿見越しにリボンの形が見える。すごく可愛い結び方。

 どうして、そんなに上手に結べるんだろう。

 エルが満足そうに私を眺める。

 もしかして、エルって、私にこういう恰好させるのが好き?

 私にこの服を着せたくて、死んだふりをしてるわけじゃないよね?

 

 ※

 

「おぉっ。可愛いな、リリーシアちゃん」

「カミーユさん……。見ないで下さい」

「相変わらず、きついね」

「あ、あのっ、そういう意味じゃなくて、恥ずかしくてっ」

 台所に集まっている皆が笑う。

「リリー、ようやく着る気になったの?」

「似合ってるね」

「あの……」

「そういう時は、素直にありがとうって言ったら良いと思うよ」

「……ありがとう」

『リリーは、相変わらずルイスに弱いよね』

 イリスの意地悪。

「さ、みんな集まったことだし、ガレットデリュヌを食べましょう」

「五等分って難しいね」

 テーブルにはもう、今日焼いたガレットデリュヌが置いてある。

 エルの隣に座ると、キャロルから包丁を渡される。

「リリーに切ってもらいましょう」

「そうだね」

「私、包丁は……」

「リリーシアちゃんは包丁が苦手なのか?」

「細かい作業は苦手なの」

「どう切ったって良いよ。失敗したらカミーユが食うだろ」

「お前なぁ」

「リリーシア、切って」

 逃げ道を失う。

 呼吸を整えて。

「うん。行くよ」

 大丈夫。

 斬るだけだから。

 野菜を切るよりは簡単なはず。

 包丁で、ガレットデリュヌを斬る。

『リリー、それ、切るって言うの?』

 五等分。

 薪を割るのとそう変わらないはず。

 うん。良い感じ。

「綺麗な五等分だね」

「上手いもんだな。包丁、充分使えてるじゃないか」

「そうかな」

『リリー、使えてないからね』

「フェーヴに当たったら、フェーヴも斬れてそうだったけど」

「えっ。大丈夫かな」

「もう、ルイスったら変なこと言わないでちょうだい。お皿に分けるわね」

 キャロルが、お皿に一つずつ載せて、コーヒーと一緒に配る。

「配ったわよ」

 エルが咳払いをして、祈るように手を組む。

 なんだか似合わない。

「月の女神よ。どうか家族が健康で平和に暮らせますように」

 祈りを捧げるものなんだ。

 どうか。エルが早く帰って来れますように。

「いただきます」

 ガレットデリュヌの前で手を合わせる。

「ん。美味い」

 良かった。

 エルも一緒に食べられたら良いなって思ってたから。

「美味しいね」

「うん。おいしい」

「美味いなー。リリーシアちゃんはグラシアルの出身なのに、良くなんでも作れるな」

「ラングリオンのお菓子の本があったから……」

「そうだ。キャロル、製菓材料店の場所知ってるか?」

「イーストの?」

「いや、ウエストだ」

「知らないわ」

「僕は知ってるよ」

「意外だな」

「ジニーが行くからね」

「……お前、ジニーの作ったもの食って平気なのか」

「何が?」

「いや。知ってるなら、今度、リリーシアちゃんを連れて行ってやってくれ」

「良いよ。何を探して……」

「あ」

 フォークに何か当たった。

 ガレットデリュヌを見ると、白い陶器が出てくる。

 キャロルと一緒に焼きこんだ、ベリエのフェーヴ。

「当たりだ」

「当たっちゃった」

「今年のフェーヴはリリーなのね」

「おめでとう、リリーシア」

「お守りにしな。良いことがあるぜ」

「ありがとう。大事にする」

 でも、お守りなら、エルに持っていて欲しかったんだけどな。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ