118 今日は何の日
―リリー。俺の一番大切な人になって。
昨日の言葉。
思い返すだけで、ドキドキしてしまう。
良いのかな。
良いんだよね?
返事をしたら、すごく喜んでくれたから。
目を開く。
あれっ?
顔を上げると、エルと目が合う。
……起きてた。
「おはよう」
眼鏡をかけて読書中のエルが微笑む。
「おはよう。まだ起きなくても良い?」
「良いよ」
エルが本を閉じる。
名もなき王の物語を読んでいたらしい。
その本をサイドテーブルに置いて、トリオット物語を手に取る。
まだ本を読むらしい。
「良い夢でも見たのか?」
「夢?」
夢なんて見たかな。
昨日の出来事の方が夢みたいだった。
あ。
「昨日、エルと初めて会った時の夢を見たよ」
「昨日?」
夢って言うの変かな。思い出だから。
「教えて」
わざわざ言うほどのことでもないと思うけど……。
「あの時……。私、城の人間に追われてたんだ」
穏便に、こっそり王都の外に出るつもりだったんだけど。
結局、見つかってしまった。
「アリシアがね、城の人間が救出を装って近づいてくるから、絡まれても戦わずに逃げるようにって教えてくれてたんだ。だから、逃げなきゃって。でも、周りに居るのは氷の魔法使いばかりで、みんな城の人間かもしれないって思ったらどうして良いかわからなくて」
知らない場所。
たくさんの人。
見えるのは水色の光ばかり。
とにかく、捕まらないように夢中で走ってた。
「そんな中、真っ赤な光が見えたの」
「真っ赤な光?」
『エイダの光だよ。あの時、エルはエイダと契約してただろ』
あの、良く目立つ真っ赤な光。
「見えたって思った時には、もうエルにぶつかってたんだけど……」
『えっ?そうなの?』
「だから、あんなに真っ直ぐぶつかって来たのか」
そうだった。
痛かったよね。
「ごめんなさい」
最悪の出会いだ。
エルが笑う。
「別に良いよ。それで?」
「それで、って?」
その先のことは、エルも知ってるはずだ。
「なんで、俺と一緒に行くことにしたんだ?」
「それは……」
話しても、良いのかな。
「運命の人だと思ったから」
あの時は。そう思ってた。
「でも、あの……。エルは、私の運命の人じゃないと思う」
『は?何言ってるの?』
「あのっ。あの時、エルを好きだって思ったのは本当だよ」
「え?」
あぁ。顔が、熱い。
これは、言うつもりなかったのに。
「運命の人の話は、ポラリスから聞いたのか?」
「そうじゃないけど……。ポラリスも、私の運命の人はエルじゃないって言うと思う」
「じゃあ、誰がリリーの運命の人なんだ?」
夢で見た、ラングリオン建国に携わった英雄たちと、アルファド帝国最後の皇帝との戦い。
―大丈夫かい。
あの人は……。
「信じて良い?俺がリリーの運命の人じゃないって」
「え?」
なんだか変な聞き方だけど。
頷く。
……あれ?嬉しそう?
「怒らないの?」
「なんで?」
「だって……」
普通、恋人は運命の赤い糸で結ばれてるのだけど。
「俺が決められた運命を歩かないって言ったのはリリーだろ?リリーの運命の相手が現れても、俺はリリーを渡さないからな」
……私は、エルの一番大切な人だから。
「エル。ずっと一緒に居ようね」
大丈夫。
二人で居れば、怖いことなんて何もない。
※
朝ご飯と言うには少し遅い食事を食べてから、宿を出る。
「まずはどこに行くの?」
「時計屋。買うって約束してただろ?」
「うん」
空は相変わらず曇ったままで、時間はわかりにくい。
「それから、リリーの服を買いに行かないと」
「私の服?たくさんあるよ?」
これ以上、必要ないと思うんだけど……。
「冬服はないだろ?これから寒くなるから揃えた方が良い」
冬服?冬専用の服ってこと?
長袖の服を着て、コートを着るだけじゃだめなのかな。
「あ。レインコートが欲しかったんだ」
「じゃあ、それも買いに行こう」
買うものが増えちゃった。
エルって、本当に買い物が好きだよね。
自分のものは買わないのに。
※
時計店。
壁掛け時計や置時計がたくさん置いてある。
「腕時計よりは懐中時計の方が良いだろうな」
確かに。腕時計は、戦ってる最中に壊しちゃいそうだ。
どれにしようかな。
こんなにたくさんあったら、迷ってしまう。
蓋付きの方が壊さなくて良さそうな気がするけれど……。
「これは?」
エルが選んでくれたのは、蓋に月と星のモチーフが描かれているもの。開くと、凝った時計の針が現れる。
「綺麗」
蓋の内側は鏡になってる。
「気に入った?」
「うん。エルはどれにするの?」
「俺はこれ」
シンプルで、蓋が付いてないタイプのもの。
でも。
「時計の針のデザインが同じ?」
「あぁ。同じ職人が作った奴だ。文字盤にシークレットサインが付いてるだろ?」
エルが指した場所、数字の三と四の間に薄くサインが刻まれてる。
「本当だ」
良く見たら、文字盤が同じデザインだ。
「お揃いだね」
「じゃあ、チェーンはどれにする?女性向けなら……」
チェーンも選ぶ必要があるらしい。
エルって、どうしてこんなに女性向けのものに詳しいのかな。
「!」
突然。
周囲から色んな音が鳴り出した。
驚いた私の肩をエルが抱いて、笑う。
「時間を告げるベルだ」
顔を上げると、壁にかけてある時計の仕掛けが動いているのが見える。
音を鳴らしているだけのものもあれば、鳥が出てくるもの、文字盤が回転するものなど、様々だ。
「次は、こっちの時計が動き出す」
エルが言った通り、今度は目の前の置時計たちが音を出す。
オルゴールのついているものや、踊り子が躍る仕掛けのもの、動物たちが演奏会をしているもの……。
「可愛い」
こっちも、色々ある。
「置時計も買うか。好きなのを選んで」
こんなにたくさんあったら迷っちゃう。
※
時計を選んで店を出る。
置時計は、うさぎの形の時計を選んだ。丸い時計の上にうさぎの耳がついていて、時計の足も、うさぎの足の形になっていて可愛い。耳を動かすと引き出しが出てくる仕掛けもある。と言っても、小さな引き出しだから、指輪やイヤリングといった小物ぐらいしか入らなそうだ。
懐中時計のチェーンは、安全ピンがついたものにした。服に留めておけば、どこかで落としたり失くしたりしないよね。
次は服屋さん。
ウエストは服を売っているお店が多い。特に、この通りは激戦区だ。店頭に飾られている服は、どれもとてもお洒落で、見たこともないデザインのものもたくさん置いてある。
あ。ロザリーが作った服も流行ってるのかな。
フリルの使い方が似たようなワンピースを置いている店もある。
「ここにしよう」
エルと一緒にお店に入る。
「いらっしゃ……。エルじゃない。久しぶりね」
「久しぶり」
知り合い?
「今日は、その子で勝負ってわけ?」
「勝負?」
「別に、勝負なんてしない。可愛いのをいくつか選んでくれ」
店主らしき女の人が私の傍に来て、いきなり私の体を触る。
「あっ、あのっ、」
女の人だけど、でも、そんなに触らなくても……。
「細くて小さい割に、案外しっかりした体つきね。冒険者でもやってるの?」
「知らないのか?リリーは今年の剣術大会の優勝者だぞ」
「そういえば、誰かがそんなこと言ってたわね」
ようやく終わった。
「グラシアルの出身だったかしら?肌がすごく白い。黒髪の子に合わせるのは初めてよ。エル、借りるわよ」
「あぁ。頼む」
頼むって……。
引っ張られるようにして、奥の部屋に連れて行かれる。
店主さんが部屋に明かりをつける。
試着室?
にしては、たくさん服が置いてあって少し広い気がする。
「あの、勝負って何ですか?」
「女の子の服選びよ。皆、私が選んだものじゃ無くて、エルが選んだものを買っていくんだもの」
「女の子って……」
「あぁ、彼女じゃないわよ。良くマリーの買い物に付き合わされてたわね。エルって、私が選んだのを、こうじゃないって変えていくのよ。本当に嫌になっちゃう。それがまた上手いんだけどね」
そういえば、クエスタニアでも……。
―この髪飾りは、こうつけた方が可愛い。
―悪くないわ。
いつも、あんな感じだったのかな。
「まぁ、どれも私が作った服だし、買ってくれるなら構わないけど。なんだか負けた気分になるじゃない?……ほら、これに着替えて」
「えっ?あの、」
ちょっと、待って。
「剣士なら、中に着るものにこだわった方が良いわ。動きやすさに影響するもの」
確かに。
「エル!選び終わった?」
言いながら、女の人が部屋を出る。
エルが選んでくれた服を着て、試着室を出る。
「可愛い」
厚手の柔らかいふわふわのワンピース。裾にも、もこもこのファーが付いている。それから、お洒落なデザインの厚手の長靴下に、ブーツ。立て襟のポンチョコートも全部、白を基調としたものだ。
エルが選ぶ服って、いつも可愛い。
「綺麗だよ」
えっと……。
「ありがとう」
からかってないんだよね?
エルを見上げると、エルが口元を抑えてそっぽを向く。
……え?
やっぱり、からかってただけ?
急に、エルが私を抱きしめる。
「好きだよ、リリー」
「えっ?」
どうして?このタイミング?
えっと……。
これは、喜んでるって思って良いの?
「ほら、そんなところでいちゃついてないで。他の服はどうするの?」
「全部買うって言っただろ?」
「当人の好みはどうなるの。あなた、エルが選んだので良いの?」
ハンガーポールには、すでにコーディネートされた衣装が六セットも並んでる。……私に選択権ってあるのかな。エルのことだから、もう買うことは決まってそうだ。
動きやすそうなパンツスタイルもあるし、これ以上増える前に決めてしまった方が良いよね。
「大丈夫です」
「他に欲しいのはないのか?この帽子も似合いそうだな」
エルが、白いファーのベレー帽を私の頭の上に乗せる。
「こっちのマフラーは……」
「もう、要らないよ」
今着てるのは立て襟のコートだから、マフラーは必要ない。
「じゃあ……」
「早くレインコート買いに行こう?」
このままじゃ、いつまでたっても買い物が終わらない。
エルが、ポケットから出ているチェーンを引っ張って懐中時計を出す。
あれ、そういう使い方をするんだ。
エルの懐中時計のチェーンは、コートのボタンホールに引っ掛けてある。シンプルなコートの表面にきらきら見えているチェーンはすごくお洒落だ。
「そろそろ昼だ。何か食べるか?」
もうお昼?
「そんなにお腹空いてないかな」
「じゃあ、軽いものでも探そう」
※
会計を済ませて、服を一セットだけ荷物に仕舞って、お店を出る。
他の服とキャロルの傘、それから置時計は、まとめて隊長さんの家に届けてもらうようにお願いした。
軽いもの……。
クレープガレットのお店とか?
露店で何か探すのも良いかもしれない。
エルと一緒に中央広場へ行くと、人が集まってる場所がある。
「あれ、何かな」
なんだか賑やかだ。
「掲示板だ」
「掲示板?」
「情報が貼り出される場所だ。国からの布告や報告、王都で行われる公演や大会のスケジュールとか色々」
そういえば、そんなようなものもあった気がする……?確か、アリス礼拝堂の広場にもあったよね。
何が書いてあるんだろう?
掲示板の方に行こうとしたけれど、エルに手を引かれてドリンクワゴンの方に行く。
「オランジュエードを二つ」
「はいよ」
「あの人だかりは何だ?」
エルが掲示板の方を指す。
そっか。話題になってることなら他の人も知ってそうだよね。
「フェリックス王子が伯爵になって、オルロワール家の御嬢様と婚約したらしいぜ」
「マリーと?」
「あぁ。今朝からずっと、その話題でもちきりだ」
マリー。リックさんと結婚することに決めたんだ。
「リリー、ベンチに行こう」
「うん」
広場にあるベンチに座って、エルからオランジュエードをもらう。
やっぱり、この味は美味しい。
『あ、パーシバルだ』
イリスが見てる方に目を向けると、パーシバルさんがこっちに来る。
お仕事中かな。
「こんにちは。エルロックさん、リリーシアさん。デートっすか?」
「違うよ、」
「そうだよ」
「え?」
デートなの?
「お仕事だよね?」
「今日の目的は、リリーの買い物だろ」
「そうですね。その恰好は仕事には向かないんじゃないっすか?」
……そうだよね。
私、ちょっと浮かれ過ぎてるよね。
「そうだ。カレーパンを売ってる店ってどこにあるんだ?」
「そこのイーストの脇道を入った先ですよ」
今度はイースト。
頑張って探さなくちゃ。
「行列が出来てるからすぐにわかるはずです」
「行列?」
「出来たばかりの人気店っすからね」
そういえば、新しいお店って言ってたっけ。
アヤスギさんのお店もそうだけど、最近、国外や大陸の外から来た人のお店が増えてるみたいだよね。
風の大精霊も、新しいもの好きならチェックしに来てるかも。
「そうだ。リリーシアさん。剣術大会の優勝おめでとうございます」
優勝……。
―優勝者が優勝を誇りに思わなければ、敗者が浮かばれないだろう。
―ルールに則って優勝したんだ。
―胸を張ると良い。
アリシアの言う通りだよね。
「ありがとう」
私が、優勝を目指していたことには変わりない。
「アレクシス様の近衛騎士になったんですよね?」
「え?もう知ってるの?」
「掲示板に出てましたよ。マリユス様と一緒に近衛騎士に任命されたって。殿下のこと、よろしくお願いします」
そんなことも掲示板で公表されるんだ。
……違う。
騎士の国において、皇太子近衛騎士は国民に周知される特別な役目なんだ。
パーシバルさんが言う通り、国の為にしっかり働かなくちゃいけない立場なのに……。
「私、全然役に立ててないし、まだ騎士がどういうものか良くわかってなくて……」
「大丈夫っすよ。騎士なんて、偉そうに胸張って立っていれば良いんです」
「えっ?そんなこと……」
「たぶん、殿下に命の危険があった時に、殿下を止められるのはリリーシアさんとエルロックさんだけなんで。一緒に居てあげてください」
「ん」
確かに、アレクさんも自分から戦いに行っちゃう人だから、ちょっと危ないよね。
「私、頑張るよ」
「お願いします。暇があったら、また遊びに来てくださいね。じゃあ、失礼します」
パーシバルさんに手を振って見送ると、横で空き瓶がごみ箱に向かって飛ぶ。
エルが投げたらしい。
空き瓶は、綺麗にごみ箱に入った。
私も早く飲んじゃおう。
掲示板の方を見ると、まだ人がたくさんいる。
マリーとリックさん。
婚約したと言っても、二人とも忙しくて会えない日が続くことに変わりはない。でも、一緒に居なくても、今までずっとお互いのことを好きだったのは確かだ。
二人が、前よりも幸せな気持ちで居られたら良いな。
飲み終わった空き瓶を持って立ち上がる。
「飲み終わったよ。カレーパン屋さんに行こう」
「ん」
あぁ。
この顔は。
また、難しいこと考えてる。
エルの腕を引く。
「今日は、デートの日なんだよね?」
エルが私を見上げて、笑う。
「そうだよ」
休む時間も必要だよね。
※
エルと一緒に、イーストの道を歩く。
住宅街だ。
本当に、こんなところにお店なんてあるのかな?
あ。妖精が飛んでる。
飛んで行った先は、花で溢れた家。
「可愛い家だね」
前にも見たような気がする。
この道、通ったことあったかな。
「昔、住んでた家だよ」
「え?」
住んでたって……。フラーダリーと?
「今は誰が住んでるか知らないけど」
「エルの家じゃないの?」
「薬屋を開く時に、オルロワール家で処分してくれって頼んだんだ。俺が持ってても、花が枯れるだけだからな」
確かに、これだけの花を管理するのは大変そうだ。
っていうか、エルって、マリーだけじゃなく、オルロワール家の家族みんなと仲が良いみたいだよね。
「あれだ。すごい行列だな」
本当にお店があるみたいだ。こんなところにあるなんてちょっと意外。
でも、辺りには揚げ物の香ばしい匂いと、食欲をそそるスパイシーな香りが漂ってる。
エルと一緒に行列に並ぶ。
人がいっぱい居るから、時間がかかりそうだよね。
「エルって、オルロワール家の家族とそんなに仲が良いの?」
「仲が良いって言うか……。マリーは、他人の心配をするのが好きなんだよ」
それは良くわかる。
私も、マリーに良く心配されるから。
「それに、オルロワール家には俺のものを色々預けてあるんだ」
確かに、オルロワール家の警備があれば、物がなくなる心配はなさそうだ。
「いらっしゃいませ。お二つでよろしいですか?」
「あぁ」
もう順番が来た。
あっ。風の大精霊を探さなきゃ。
周りには居ないみたいだよね……?
やっぱり、食べ物には興味ないのかな。
それとも、もうチェック済み?
「アリス礼拝堂の方に行くか」
「うん」
※
礼拝堂前の広場へ行って、ベンチに座る。
広場には大樹が生えていて、大樹に祈りを捧げる人や散歩をしている人、遊んでいる子供たちが居る。
静かな平日の午後。
カレーパンは、とっても良い匂い。どんな味かな。一口齧る。
「美味しい」
「だろ?」
食べる前から良い匂いがしていたけど、かじった瞬間、更に食欲をそそるスパイシーな香りが溢れ出す。中に入っているのは濃厚なペーストだけど、味は濃過ぎず、さくさく食べられる。
具もたっぷりだ。
なんて贅沢なパンなんだろう。
『リリー、こぼさないようにね』
あっ。
白い服にこぼしたら大変だ。
気を付けて食べなくちゃ。
隣で、何故かエルが笑ってる。
どうして?
「エルって、変なところで笑うよね?」
「リリーが可愛いから」
それ、理由になってない。
何が面白いの?
「風の大精霊、居ないね」
広場には魔法使いの光を持った人は一人もいない。
「今日は探さなくて良いよ」
「でも……」
「見つけたら、仕事しなくちゃいけないだろ」
見つけることが仕事じゃなくて?
―エルが帰ってきたら、一緒に探しに行くと良い。
―きっと、大精霊との交渉もしてくれるよ。
そっか。エルの仕事は、見つけた後が本番なんだ。
エルに休んでもらうなら、見つけても黙っていた方が良いのかな。でも、すぐに居なくなっちゃうと困るし……。
「一日ぐらい、リリーのことを考える日にしても良いだろ?」
えっ?
私?
……だから。
突然、そんな風に言われたら……。
『あー!だめだって!』
「あっ」
持っていたカレーパンから中身が溢れ出してる。
潰してしまっていたらしい。
急いで食べなくちゃ。
なんとか溢さずに済んだけれど、横でエルがお腹を抱えて笑ってる。
「笑い過ぎだよ。エル」
すごく大変なのに。
『ハンカチでも膝にかけて置いたら?』
「もう遅いよ」
後一口ぐらいで食べ終わる量だ。
カレーパンを口に入れる。
少し大きかったけど。
口を開けなければ、もう溢す心配はない。
エルは、まだ笑ってる。
エルが手に持っているカレーパンは、まだ半分も食べ終わってないのに。




