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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅴ.約束
108/149

117 哀音

 エルと一緒にオルロワール家を出ると、鐘の音が鳴り響いた。

「何を食べたい?」

 そっか。そろそろ、夕飯の時間だ。

「パッセさんのお店は?」

 急に、エルが笑い出す。

 私、そんなに変な事言った?

「同じことを考えてたから」

 同じこと?

 ……それは、ちょっと嬉しいかも。


 ウエストにあるパッセさんのお店。

 エルと一緒にカウンター席へ行く。

 少し高めの椅子にエルに手を引いてもらって座ると、パッセさんが傘を持って来た。

「あっ。その傘……」

 キャロルから借りた傘だ。

「お嬢ちゃんの忘れ物だろ?」

「はい。ありがとうございます」

 受け取った傘を椅子に掛ける。

 今度は忘れないようにしなくちゃ。

「了解」

 パッセさんが返事をして厨房へ行く。

 もう注文が終わったらしい。

「その傘、いつ忘れたんだ?」

「エレインとイレーヌさんの歓迎会の時だよ」

「歓迎会?」

「ほら、エルがご飯を作ってくれた時」

 何か忘れてる気がしてたんだよね。

 全然思い出せなかったけど、傘だったんだ。

「薔薇のトマトとか、うさぎのトマトとか素敵だったよ」

 食べるのが勿体ないぐらい綺麗な飾りがたくさんあったのは覚えてる。

「どうぞ」

 パッセさんが私の前に料理を置く。

 サラダ、チーズ、ソーセージにテリーヌが載った豪華な盛り合わせだ。

 美味しそう。

 それに、色とりどりで綺麗だ。

「乾杯」

「乾杯」

 エルとグラスを合わせる。

「今日は、お城に帰らないの?」

「風の大精霊探しをするなら街に居た方が良いからな」

 そっか。明日からは、エルと一緒にお仕事をするんだ。

「買い物好きな精霊なら、この辺に居そうだよね」

「買い物好き?」

「うん。メリブが知ってたの。噂と買い物が好きだって」

 エルの耳に向かって、小さい声で話す。

「名前はデルファイ。普段はデルフィって呼ばれてるんだって」

 これは内緒のことだよね。

 それから……。

「本も借りてあるよ」

 マリーから借りたトリオット物語の最終巻をエルに渡す。

「面白い?」

「あぁ。物理的な距離と心理的な距離の対比が面白い」

 そんな風に言われると、物語に聞こえない。

 物語として読んでるのかな。

「最後まで読んでね」

「読むよ。四巻であんな終わり方をされたら、続きが気になって仕方ない」

 確かに。

「わかるよ。私も五巻が楽しみでしょうがなかった。そうだ。これも、マリーから借りっぱなしの本なんだ」

 エルに見せようと思ってたんだよね。

 本を出して、エルに渡す。

「名もなき王の物語?」

「王様が、身分と名前を隠して旅する物語なんだけど……」

 エルの手にある本を開く。

 目次のページは……。ここだ。

「王様は章ごとに偽名を使っているんだよ。たとえば、真実をおしはかる者の章で使っている偽名は、サンゲタル。炎の眼差しを持つ者の章は、バーレイグ。神の章は、ヴェラチュール」

 あの人と繋がりのある名前。

「恐ろしき者の章は、ユッグ?」

「うん。隊長さんが、名もなき王もあの人の名前だって言ってたよ」

 名もなき王って名前の剣もあるのかな。聞いたことないけれど。

 目次に目を通した後、エルが本をぱらぱらとめくって奥付を開く。

「あれ?」

 作者は不明って書いてある。

「私が読んだ本には作者が書いてあったよ」

『グラシアルにあった奴?』

「うん」

 あれには、ちゃんと年代も書いてあったような気がするけど、細かいことは覚えてない。

「作者の名前は?」

「ラグナロク」

『……』

 何故か、エルの周りに居た精霊たちが驚いた顔をする。

「知ってるの?」

 そういえば、メラニーとバニラ、ユール、ジオは、古い時代のことを知ってるんだっけ。

『答えられない』

『精霊は名前を大切にするのよぅ』

 簡単に教えられないってことは……。

「ラグナロクって、精霊なの?」

『違う』

 じゃあ、人間なんだ。

 でも、聞いたことがない。

「エルは知ってる?」

「リリーは、古代語に存在しない言葉を知ってるか?」

「え?存在しない言葉?」

『リリーは古代語は全然だめだよ』

 そうだけど。でも、これはないはずだ。

「愛」

「正解。わかってるじゃないか。他にも、神って言葉も存在しない。神を呼ぶ時は、神本人の名前を呼べば良いだけだから」

『あたしたちの神は決まってるものぉ』

 そっか。私たちにとって神さまは皆、神さまだけど。

 精霊たちにとっての神さまは、自分を生み、力を与えてくれる神さまだけだ。

「だから、神をひとくくりに呼ぶ言葉も存在しない。存在しない言葉は代用品を使うんだ。物事の善悪を決める助言者という意味において、神、あるいは神々を示す言葉がラグナだ」

「じゃあ、ロクは?」

「運命」

『あたしはぁ、ロックって言うけどぉ』

「え?」

「現代語の発音だと、ロク、レク、ロックって所だ」

 じゃあ……。

「エルは?」

 エルが黙る。

『神を示す言葉の一つ』

『強くある者』

『はじまりの者』

 古代語は精霊の言葉。

 皆、知ってたんだ。

「良い言葉だね」

「どこが?」

 エルは気に入ってないのかな。自分の名前。

「どんな運命でも切り開くって意味だよね?」

「え?」

 レイリスと、エルのお母さんがエルに贈った名前。

「すごくエルっぽい。エルは誰にも真似できないような新しいことをいつもやってるよ。決められた運命ではなく、エルが進みたかった道を進んでる」

 エルって言葉は、何にも負けない強さがある。

 ロックって言葉には、運命って意味がある。

 自分の手を離れて生きなければならない子供に贈る名前なら。

 どうか、幸せに生きられるよう。

 自分が望んだ道を選べるよう。

 そう、願うんじゃないかな。

 エルの方に頭を寄せる。

「今日は暇だったの?」

「暇だったよ」

 エルが私の方に頭を傾ける。

 やっぱり、予定は何もなかったんだ。

 ナインシェのお願いを聞いてくれただけで。

「一緒に行きたいところがある」


 ※


 夕飯を終えて、エルと一緒にお店を出る。

 デザートのオムレットもとても美味しかった。

 行きたい所ってどこかな。

 外では、まだ雨がちらほら降っている。

 エルが差した傘を私の方に傾ける。

 こんなに傾けたら、エルが濡れてしまう。

 エルはマントを着ているけれど、レインコートじゃないから、そんなに雨はしのげないはずだ。

 エルの横顔を見上げる。

 ……ちょっと話しかけにくい雰囲気だ。

 雨がエルの左肩を濡らしていく。

 レインコート、持ち歩くようにしなきゃ。

 視線を前に戻す。

 あれ……?

 見覚えのある道。

 この道って、ウエストストリートだよね?

 お城の方を見ると、自分がお城の左側に居るのが見える。

 間違いない。ウエストストリートを、真っ直ぐ西大門の方に向かって歩いてる。

 だとしたら、エルが行きたい場所って……。

 ウエストストリート沿いにあるフローラの店の前を通り過ぎる。

「エル、フローラの店に寄らないの?」

「寄らないよ」

 寄らないの?

 だったら、違う場所に行くつもりなのかな。

 でも……。


 辿り着いたのは、予想通りの場所。

 何度か来たことのある場所。

 フラーダリーのお墓。

「連れて来るのが遅くなってごめん」

 そういえば、エルと一緒に来るのは初めてだ。

 お墓には、短剣で削った跡が残っている。

「フラーダリー。紹介するのが遅くなってごめん。彼女がリリーシア。俺にとって、一番大切な人だ」

「え?」

 今、なんて?

 エルと目が合って。

 思わず、視線をそらしてしまう。

 どうして、そんなこと言うの?

「フラーダリー。一度、愛を誓ったのに、裏切ることになってごめん。あの時の気持ちに偽りはないと思ってる。でも、今は違う」

 エルの気持ちは知ってる。

「リリーを愛してる。俺が幸せにしたい人はリリーなんだ。だから……」

 変だよ。エル。

 どうして、ここで、そんなこと……。

「リリー。ここに来るのは、これで最後にしよう」

「え?」

 最後?

 もう、お墓参りには来ないってこと?

「だめ」

「リリー?」

「どうして、そんなことを言うの?フラーダリーはエルの大切な人なのに」

「違う。俺の大切な人はリリーだ」

「違っ……」

 あれっ?

『リリー?』

『何言ってるんだよ。エルの大切な人はリリーだろ』

『そうよぉ』

 どうして、私、違うって言おうとしたんだろう。

 ……そうだ。

 エルには、フラーダリーが居るから。

 私は……。

 急に、腕を引かれて抱きしめられる。

「不安にさせるようなことをしてごめん。もう、ここには来ないから」

 不安?

 私が?

 私、そんな風に見えるの?

「違うよ、エル。私、お墓参りをやめてほしいなんて思ってない。フラーダリーを忘れて欲しいなんて思ってない。私……」

 だって。フラーダリーは。

 エルを理解できる人で。

 エルを大事に出来る人で。

 エルを幸せにしていた人で。

 エルの隣に居るのに相応しい人で……。

 だめ。

 こんなこと、考えたくないのに。

 フラーダリーが居たら、私の居場所なんて……。

「俺が、もっと早く忘れるべきだった」

「ちがう……」

 そうじゃ、なくって。

 上手く言えない。

 気持ちが整理できない。

 でも、止めなきゃ。

 エルを止めなきゃ。

「だめだよ、忘れるなんて。エルにとって大切な思い出だって、前に進む為に必要なことだって……。たくさん……」

 ……勝てない。

「一番大切な人を失うぐらいなら、何も要らない」

 要らない?

 全部、なかったことにするの?

 私のことも……。

 いつか……?

「わかんない、よ」

 どうして、そんなに簡単に忘れようとするの。

 愛した記憶を。

 幸せな思い出を。

 積み重ねてきたことを。

 ……違う。

 忘れてるんじゃない。

 だって、エルは全部覚えてる。

 思い出さないように、無理やり閉じ込めているだけ。

 嬉しかったことも、楽しかったことも、悲しい過去と一緒にまとめて全部仕舞いこんでいるだけ。

 ……そんなの、駄目。

 私は、そんなことして欲しくない。

「エル。思い出して」

 過去は消えない。

「私、エルと出会ってからまだ全然経ってないし、まだまだ知らないこともたくさんある」

 出会ってから、まだ一年も経ってない。

「でも、知ってることもあるよ。エルは、砂漠のクロライーナで生まれて、精霊たちと育って……」

 すべて失って。

「フラーダリーと一緒にラングリオンに来て……」

 新しい場所で一からやり直して。

「アレクさんと会って、カミーユさん、シャルロさん、マリーたちと一緒に学生として過ごして……」

 たくさんの人と出会って、学んで、経験して。

 そして、また失って。

「メラニーと会って、ユール、エイダ、バニラ、ジオ、ナターシャ、アンジュと仲良くなって。ルイスとキャロルと家族になって……」

 もう一度、やり直して。

 精霊と人間の家族を手に入れて。

「私とイリスに会って……」

 現在。

「全部、繋がってるの」

 過去を否定する必要なんてない。

「私が聞いた話しは、どれもエルだった。ちゃんと、エルだった。過去のエルも全部、私の好きなエルだった」

 捨てるものなんて一つもない。

「大丈夫だよ、エル」

 エルが捨てても、私が探して来る。

「私は、エルの全部が欲しい」

 エルの頬に触れて。

 深い紅の瞳を見つめる。

「だから……」

 終わりにしよう。

「もう、何も忘れなくて良いよ」

 エルの紅の瞳が、大きく開いて。

 その瞳に吸い込まれる……。

 体が浮いているような不思議な感覚。目の前が真っ暗になったかと思うと、次々と色んな映像が現れる。

 暑い日差し、砂埃の舞う街、水源、待ち合わせの木……。

 整理された道、高い建物、花で溢れた家、温かいスープ、甘いお菓子……。

 教室、黒板、実験、窓から見える虹、バイオリン、鮮やかに舞う桜、花火……。

 異国、紫のドラゴン、船、広い世界、冒険、新しい家族……。

 出会った人、精霊たちの、姿、顔、表情、仕草、声、言葉……。

 そして……。

「リリー」

 急に、地に足がついている感覚が戻る。

「エル」

 エルが私をきつく抱きしめる。

 今のは、何?

 知らない場所ばかりだった。

 知らない顔もたくさん見えた。

 知っている人は少し幼い感じがした。

 紫のドラゴンはフォルテじゃなかった。

 一緒にアレクさんと隊長さんが戦っている姿も見えたから、あれはきっと紫竜ケウスなんだ。

 やっぱり、流れ込んで来たのはエルの記憶なの?

 待ち合わせの木の側にはレイリスが居た。

 ジオやメリブの他にも知らない精霊が居た。

 あの赤い精霊が、ガトだったのかな。

 それに、花に囲まれた庭先に居た、アレクさんに似ている綺麗な女の人……。

「ありがとう」

「え?」

「愛してる」

 あぁ。その声。

 いつものエルだ。

「私も。愛してる」

 もう、大丈夫。

 一人じゃないから。

「一緒に帰ろう」

「うん」

 見上げると、いつの間にか雨が止んでいる。

 足元に落ちていた傘を拾って振ると、雨粒が辺りに飛んだ。

 傘を畳んで、何も飾られていないお墓を見る。

 フラーダリー。

 私はあなたを知らない。

 あなたが生きていたら、って。

 想像する度に怖くなる。

 まだ、気持ちの整理なんてつかない。

 でも。

「エルが来ないなら、私は一人でも来るよ」

 あなたの存在を拒否することは、過去のエルを否定すること。

 私は、それだけはしたくないの。

 それに、あなたがエルの親であったことに変わりはない。

「なら、一緒に来よう」

 それは、考えたことなかった。

「そうだね」

 今度はちゃんと、フローラのお店で花を買って来なくちゃ。

「でも、これだけは忘れないで。俺が一番大切なのはリリーだって」

「それは……」

 今、言うこと?

 視線をそらすと、エルが私の顔をエルの方に向ける。

「信じて」

「そんなこと、急に言われても……」

 なんて言えば良いの。

「どうしたら信じてくれる?」

「だから、あの……。信じてないわけじゃなくって……」

「え?」

 だって。

 私よりもエルを大切に出来る人はたくさん居るのに……。

「一緒に居るのが私なんかで良いのかなって……」

 エルが呆れたようにため息を吐いて。

 それから、真っ直ぐに私を見る。

「一緒に居て」

「でも……」

 だって、私、アレクさんが期待するほどエルを助けてるとも思えない。

 エルの隣に居るのに相応しくなんて……。

「一緒に居るのに理由を探す必要なんてない。俺はリリーと一緒に居たい。今までも、これからも、ずっと。だから……」

 エルがマントを翻すと、目の前に一輪の花が現れる。

「リリー。俺の一番大切な人になって」

 ……情熱的な紅。

「赤い薔薇は嫌いじゃないだろ?」

 いつから用意してたの?

 ……いつも、突然なんだから。

 受け取った薔薇が優しく香る。

「ありがとう。エル」

 嬉しい。

「俺の一番大切な人になってくれる?」

 花を受け取るのと同じように、素直に受け取って良いのかな。

「はい」

 エルが、望んでくれるなら。

「ありがとう。リリー」

 あぁ。その顔は、とても好き。

 嬉しいのは私の方なのに。エルも、そんなに喜んでくれることなの?

「リリー。リリーのことを、もっと教えて」

「え?」

 私のこと?


 ※


 二人でウエストにある宿に入る。

 王都の宿に泊まるのは初めてだ。

 ウエストには宿がたくさんあるらしい。

 王都はイベントが多いし、冒険者も多いから、宿が多いのは当たり前なのだけど。王都の西側には農地が広がっていて、小麦の種まき時期や刈取り時期に、出稼ぎの労働者がたくさん来るらしい。

 でも、今は閑散期だから宿は空いていて、とても静かだ。

「好きなものを教えて」

「好きなものって?」

 どうして、そんなこと聞くんだろう?

「好きな花は?」

「何でも好きだよ」

「具体的に」

 そんな風に言われても……。

「エルは?」

「俺?」

 エルは、花にも詳しそうだよね。

「桜かな」

「あ。私も桜、好きだよ」

 あの、可愛いピンクの花。

「でも、桜じゃプレゼントできない。他には?」

 これ、プレゼントして欲しい花を教えてってことなのかな……。

 何か言ったら、たくさん買ってきてしまいそうだ。

「今までエルがくれたのは全部好きだよ。薔薇も、アヤメも、サンザシも」

 エルはいつも、心を込めて贈ってくれるから。

「いつ、気づいたんだ?」

 エルの手に自分の手を重ねると、お揃いの指輪が当たって、小さく音を立てる。

「秘密」

「なんで?」

「エルも教えてくれないことがたくさんあるから」

 たとえば……。

「薔薇が七本だとどんな意味なの?」

 何故か、誰も教えてくれない。

「秘密」

 また、それ?

 エルが私の頬をつつく。

「それぐらい教えてくれても良いのに」

 誰か教えてくれる人、居ないかな。

「ジョージのことを教えてくれたら教えても良いよ」

「えっ?」

「いいかげん、教えて」

 どうして教えなくちゃいけないの。

「だめ」

 言ってもきっと、笑ったりしないと思うけど。

 エルは相変わらず何も教えてくれないから。

 今度はこっちの番。

「エルの好きな食べ物を教えて」

 なんて言うかな。

「タルトタタン」

「え?甘いもの?」

「リリーが作ったやつ。美味しかったから、また食べたい」

 ちょっと意外だ。

「うん。良いよ」

「リリーも教えて。苺とメロンパン以外で」

「どうして?」

「知ってることを聞いてもつまらないだろ?」

 そんなの、ずるいよ。

 エルが楽しそうに笑う。

 好きな食べ物……。

 今、食べたいもの。

「ロールキャベツ」

「ロールキャベツ?意外だな」

「エルと作ったの、美味しかったから」

 前に一緒に作った物。

 一緒って言っても、全然手伝えなかったけど。

「あれは、フラーダリーから教えて貰ったんだ」

 ……知ってる。

「嫉妬する?」

「少し」

「じゃあ、レシピを変えよう」

「え?変えちゃうの?」

「これから寒くなるから、クリームソースをかけても美味そうだろ?」

「あ。美味しそう」

「今度、一緒に作ろう」

「上手に出来るかな」

「色々試して、好きな味に仕上げれば良い」

「そっか。そうだね」

 包丁は、もう少し特訓しなきゃ。

「次は……」

「待って。エルの好きな食べ物を教えて」

「さっき言っただろ?」

「甘いもの以外で。コーヒーも駄目。それから……」

 私だって、エルのことをもっと知りたい。

「カレーパン」

「カレーパン?」

「揚げたパンの中に、具だくさんのペースト状のカレーが入ってるんだ」

 クリームパンみたいに、カレーが包まれてるってこと?

「美味しそう」

「最近出来た店らしい。明日、探しに行こう」

「探せるかな」

 新しいお店ならマリーが詳しそうだけど。

「風の大精霊探しよりは楽だよ」

「そっか。珍しいものなら、風の大精霊も探しに来るかも」

「精霊は食事をしないだろ」

 そうだった。

 食べ物は毒にしかならないんだっけ。

「リリーの好きな色は?」

「赤」

 エルの瞳。

 吸い込まれそうなほど綺麗。初めて会った時から変わらない。

「宝石のように綺麗な紅。燃えるような炎の色」

「ルビーのことか?」

「違うよ。太陽のような色なの。エルが好きな色は?」

「リリーの瞳」

 それ、色の名前じゃない。

「色を聞いてるのに」

「特別な色だから。当てはまる色の名前がない」

「私の瞳は黒だよ」

「黒だけど、いつも宝石のように輝いてるから」

 エルの方が、ずっと宝石みたいなのに。

「綺麗だよ」

 そんなこと、こんなに近くで言われたら……。

「俺が一番好きな言葉を言っても良い?」

 愛してる。

「リリーシア」

 繋いで。

「私も、言いたい」

 求めてる。

「エルロック」



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