↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
PR
104/149

113 恐れ知らず

 扉が開いて、明かりが射し込む。

「まぁ」

 ロザリーの驚いた声の後に、二人分の笑い声が聞こえた。

「おかえり、リリーシア」

「ただいま。アレクさん、ロザリー」

 二人でお茶の時間だったらしい。

 バルコニーに用意された席には紅茶セットが置いてある。

『帰還したのはリリーシアだけか』

 コートニー。

『勝手に知らない奴を連れて来るなよ』

 カート。

『しょうがないだろ。こっちも色々あったんだ』

『アレク、三人も余計な奴を連れて来てるぞ』

「クララ、降りよう」

 頷いたクララを抱えてバルコニーに降りると、ルキアがリースに抱き着く。

『リース!』

『ルキア。こんなに早く会えるなんて思わなかったわぁ』

『中の二人は眠っているようだな』

『こいつ、どっかで見た顔だなー』

「紹介するね。この子はクララ。ロザリーと同じように、クエスタニアで目覚めたメディシノなんだ」

 クララが頭を下げる。

「はじめまして。クララです」

「私はロザリーです」

『この子がパートナーなのねぇ』

「こんにちは、クララ。歓迎するよ」

『ここって、ラングリオンなのよねぇ?』

『そうよぉ』

『なんだか不思議なことばかりだわぁ』

『思い出した。こいつ、クエスタニアの王太子だ』

『一緒に居るのは護衛の騎士か?』

「護衛を頼んだんですけど……」

 どこから話せば良いのかな。

「ロザリー、皆を集めてくれるかい」

「はい」

「彼女のことは任せるよ」

「クララ、私と一緒に来てくれますか?」

『来て来てぇ』

『わかったわよぅ』

「はい。わかりました」

『どぉして、この子、現代語が話せるのぉ?』

『それは私も聞きたいんだけどぉ?』

 なんだか賑やかそうだ。

「クララ、後でね」

「はい」

 ロザリーとルキア、クララとリースを見送ると、アレクさんが大樹の中を見る。

「ハルトヴィヒ殿下だね。隣に居るのは聖堂騎士かな」

「はい。アイフェルと一緒に居た聖堂騎士のヒルダさんです」

「アイフェル?」

『アイフェルだって?』

『リリーシア。アイフェルに会ったのか』

「うん」

『アレク、アイフェルはオルロワールと契約していた光の大精霊。私の親だ』

『なんでクエスタニアに居るんだよ』

「二人がここに来た理由は?」

「大陸会議に出席する為です」

「ヴィエルジュの力を借りた理由は?」

「王宮でクーデターが起きて……」

「エルは?」

「捕まってるマリーとローズさんを救けに……」

「不要だね。他の用件があったのかい」

 アレクさんも、マリーとローズさんなら大丈夫って思ってるんだ。

「王妃様の救出も請け負ってくれたんです」

「王太子殿下の依頼かい」

「違います。私がやりたかったことをエルが引き受けて……」

「来たようだね」

「え?」

 アレクさんと一緒に振り返る。

「帰ったのか。リリー」

「グリフさ……、グリフ」

「おかえりなさいませ。リリーシア様」

「エミリー、ライーザ、アニエス」

「私達もいるよ」

 バルコニーに入れなかった二人が、部屋の中から顔を覗かせる。

「おかえり、リリー」

「ロニー、マリユス」

「何かあったの?」

「リリーシアが、ハルトヴィヒ殿下を連れて来たんだ」

 ロニーが笑う。

「また、面白いことをするね」

「大陸会議に参加する為にいらっしゃったそうだよ。ライーザとエミリーは陛下に報告を。殿下は甘い物がお好きだ。ショコラよりケーキが良いね。考古学に精通していらっしゃるから何か面白いものを用意してあげると良い。扉の番はロニーに任せるよ」

「かしこまりました」

「かしこまりました」

「御意」

 ライーザとエミリー、ロニーが出て行く。

「グリフとマリユスは陛下の指示が出るまで殿下の護衛を。大樹の中にいらっしゃる」

「御意」

「御意」

「アニエス、お茶を淹れ直してくれるかい」

「かしこまりました」

 アニエスがバルコニーから出て行く。

 グリフとマリユスの邪魔にならないように大樹から離れると、二人がハルトさんとヒルダさんを部屋の中に運ぶ。

「あの、私は……」

「お茶の相手をしてもらおうかな」

 椅子に座ったアレクさんが、さっきまでロザリーが居た場所を指す。

「はい」

 従うしかないけど。

 私、何もしなくて良いのかな。

『無事に送り届けられたし、ボクはエルに呼ばれたら行くよ。何か伝言ある?』

「帰ったら一緒にワインでも飲もうって伝えてくれるかい」

『何それ。リリーは?』

「早く帰って来てって伝えて」

 イリスが眉をしかめる。

『そんなどうでも良い内容を伝えろって言うの?』

「どうでも良くないよ。エル、すぐに寄り道しちゃうんだもん」

「そうだね。今回も色んなことに巻き込まれたようだから」

 色んなこと……。

『さっきの説明で足りた?』

「充分だよ。後は、エルとローグの報告書を読めば良い」

 まだ帰ってないのに。

『報告書ならリリーも書いてるよ』

「見せてくれるかい」

「え?」

 今?

「あの、ほとんどローグに渡しちゃったし、書きかけのしかないんですけど……」

「構わないよ」

 すでに眼鏡をかけて準備をしたアレクさんが、こちらを見る。

『どうせ駄目出しされるんだから、早く渡しなよ』

 イリスの意地悪。

 渡すと、すぐにアレクさんが読み始めた。

 最後に書いたのは昨日の夜。ここにあるのは、二十三日と二十四日の分だ。

「ベネトナアシュを倒したんだね」

「はい」

 読むの、早い。

「エルとローズさんが……。あの、どうしてローズさんにエイルリオンを渡しておいたんですか?」

「貸して欲しいと頼まれたんだよ」

 頼まれたんだ。

『簡単に持ち出して良いの?』

「必要になれば、いつでも呼び出せるから問題ないよ」

 便利な剣だ。

「それに、あれは慈悲の剣と共にあった方が良いものだからね」

「ベネトナアシュを倒すには、ジュレイドだけじゃだめだから?」

「ジュレイド?」

 そういえば、アレクさんも知らないんだっけ。

「慈悲の剣の名前です。ヴィエルジュが言ってました」

「初耳だな」

「後、エイルリオンは世界の加護を受ける剣、ジュレイドは本来あるべき姿に戻す剣だって。昔、剣を託した人が言ってたみたいです」

「私も知らない特別な力があるようだね」

「はい。この報告書にはないんですけど、エルが大変なことになって……」

「ローズティーでございます」

 アニエスがカップに紅茶を注ぐ。

 良い匂い。

「その報告は後で良いよ」

『良いの?』

「今は無事なんだろう」

「そうですけど……」

「殿下がラングリオンに来ることは、いつ決まったんだい」

「えっと……」

―冒険者ギルドには既に依頼を出してあります。

 ハルトさん、いつ依頼を出したんだろう?

 あれ?謁見の後はずっと一緒に居たよね?

「謁見の前には来ることが決まってたのかも……。ハルトさん、エルに護衛の依頼を出してたみたいなんです」

『じゃあ、今日の謁見の意味って何だったんだろうね。リックが国王に渡した手紙も全然違う内容だったし』

「リックの手紙?」

 そういえば、イリスは手紙を見てたっけ。

「どんな内容だったの?」

『ちゃんと読む暇はなかったけど。ティベリス大河がどうとか、大陸河川?とか。川の話しだったよ』

「リックは、その話しを持って行ったんだね」

 アレクさん、内容を知ってるんだ。

「大陸河川って何ですか?」

「商船が自由に航行できる河川の仮称だよ。河川にかかっている通行税を撤廃し、貿易の活性化を目指すんだ。リックは、これを次の大陸会議の議題に上げるとクエスタニアに掛け合ったのだろう」

「通行税の撤廃なんて、賛成しますか?」

 国の収入源だよね?

「クエスタニアは大賛成だと思うよ。通り抜ける国の数だけ通行税がかかる現状は、商船にとって大きな負担となるだろう」

 ってことは……。

「内陸国は通行税の分だけ高いものを買うことになるんですね」

『なら、ラングリオンは関係ないんじゃないの?』

 ラングリオンは通行税をかける方?

「そうでもないよ。外海の航行には危険がつきものだ。天候に大きく左右される上、海賊に襲われる可能性もある。その点、内陸を通る河川は管理がしやすく、安定した航行が可能だね」

 海の船が、ものすごく揺れる乗り物だって言うのは知ってる。メロウ大河で乗った船は全然揺れなかったのに。

「河川の活用は流域国全体の問題だ。これを機に、協力して管理して行く体制を確立したいと思っているんだ」

『大局を見てるってわけだね』

 アレクさんがくすくす笑う。

「実は、水資源の活用や水質の保全に関しては、下流国であるラングリオンの方が不利なんだよ。この先、上流で勝手に何かされては困るっていう事情が大きいかな」

『今の内に口を出せるようにしておこうってわけ』

 アレクさんが頷く。

「それに、ローレライ川とアスカロン湾を繋ぐ運河の建設計画を進めているところだしね」

『えぇ?』

「そうすれば、ティベリス大河活用の恩恵も受けられるだろう」

 ローレライ川は東の海と繋がってる。運河が出来れば、アスカロン湾を通じてティベリス大河まで川が繋がって……。海に出なくてもグラシアルまで行けちゃう?

 でも。

「結構、距離がありますよね?」

『リリーでも距離の感覚があるの?』

 ひどい。

 アレクさんまで笑ってる。

「だって、竜の山の右側に新しい川を作るってことですよね?」

『東側ね』

「東だね」

 ……そんなに変なこと言ってるかな?私。

「大掛かりなものは、平和な内に作ってしまった方が良いと思ってるよ」

『平和?』

「今って、平和ですか?」

 アンシェラートが出てきたり、ヴェラチュールが現れたりしてるのに。

「大きな敵は居るけれど、国家間での争いは起こっていない。天気が悪いぐらいで平和だと思っているよ」

「アレクさんとレイリスは大変なのに」

「私もレイリスも元気だよ。元気がないのは君の方じゃないのかい」

「私?」

「騎士について悩んでいるようだね」

 騎士。

 今回の旅で、私は何もできなかった。

「私、主命を全然果たせなくて……」

「君は君らしくしていれば良いよ」

「私らしく?」

「剣花の紋章はエルに渡したんだろう」

「はい。……え?」

 どうしてわかったんだろう?

 アレクさんが私の首を指す。

 私が持ってないから?

「やっぱり、エルの為に私が持ってたんですか?」

 アレクさんが微笑む。

「正解」

『リリーが思った通りだったね』

 気づくのは随分遅れちゃったけど。

『あ。エルが呼んでる。行って来るよ』

「うん」

 イリスが消える。

 エル、大丈夫かな。

 早く帰って来てくれたら良いけど……。

「エルを置いて来たことは間違いだったと思うかい」

 私は、エルの護衛を優先すべきだった?

 それが出来ない状況だったのは、もう十分に考えた。

「私が出来る一番のことだったと思います」

 アレクさんが頷く。

「それで良いんだよ」

「え?」

 続きの言葉を待ったけれど、アレクさんは何も言わずに報告書を片付けて、ローズティーを飲む。

「私、エルが心配です」

「心配しなくても、すぐに帰って来るよ」

 そうかな。

「エルが帰ってきたら、頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」

「砂漠にある封印の棺も封印し直してもらおうと思ってね」

 そういえば、砂漠にもあるんだっけ。

「砂漠にも、封印を解いてくれる大精霊が居るんですか?」

「残念ながら、協力してくれそうな大精霊の当てはないよ。砂漠の棺の封印を解く為には、風の大精霊の力が必要なのだけど」

『風の大精霊なんてふらふらした精霊を簡単に探せるわけないだろ』

 確か、風の精霊は土地に付かない精霊だよね。

 探すのは難しそう……?

『王都でも見かけたという話しは聞くが』

「王都を探せば見つかるかもしれないってこと?」

『お前、俺の話し聞いてたか?』

『常に居るとは限らないぞ』

 アレクさんが笑う。

「リリーシアなら探せるかもね。任せても良いかい」

「はい。頑張ります」

『安請け合いしやがって』

 風の大精霊なら、色は黄緑色。

 黄緑色の輝く光を持った人を探せば良いんだよね。

 王都の精霊たちに聞いてみても良いかもしれない。

「エルが帰ってきたら、一緒に探しに行くと良い。きっと、大精霊との交渉もしてくれるよ」

「わかりました」

『ん?なんか騒がしいな』

 カートが屋内を見る。

 誰か来た?

「行こうか」

 アレクさんが眼鏡を外して立ち上がる。


 屋内は外より少し温かい。

 グリフとマリユスが控えるソファーの上で、ハルトさんとヒルダさんが眠っている。

 ノックの音がして、アニエスが扉の方に行った。

「アレクシス様。エグドラ子爵がお見えです」

 エグドラ子爵?

「通してくれるかい」

「かしこまりました」

 アニエスが扉を開くと、騎士が入って来る。

「失礼いたします」

 目が合って、小さく会釈をする。

 初めて見た。

 雰囲気はクロフトさんに一番似てる気がする。

 そういえば、国王陛下の近衛騎士なんだよね。

 あの剣、かっこ良い。鞘も素敵だ。

「部屋の準備は出来たのかな」

「いくつか候補に挙がっております。御確認を」

 子爵が用意した書類をアレクさんが見る。

「この案で良いよ」

「そう仰っていただけると助かります。クエスタニアからいらっしゃった御方は、こちらの御二方で間違いありませんか?」

「もちろん」

「他の御方が到着されているというお話しは?」

「冒険者ギルドの依頼で、エルが二人の護衛を任されたとしか聞いていないよ。目的は大陸会議への出席だ」

「当人は何処に?」

 アレクさんが肩をすくめる。

「さぁ?」

 子爵が私を見る。

『余計なこと言うなよ』

 えっと……。

「ここには居ないです」

「他に何か聞いているようでしたら、至急ご連絡ください」

「情報が増え次第連絡するよ」

「お客様の御部屋の準備が整うまで、警備を厚くしてもよろしいですね」

「ロニーと相談してくれるかい」

「かしこまりました。では、失礼いたします」

 エグドラ子爵が足早に部屋を出る。扉が開いた時に、外に近衛騎士らしい人が何人か見えた。皆、国王陛下の近衛騎士なのかな。

 入れ違いに、ライーザが荷物を抱えて入って来る。

「遺跡の資料をお持ちいたしました。机に広げてもよろしいでしょうか」

「頼むよ」

 ライーザが机の上に資料を広げる。

「そろそろ二人を起こそうか」

『了解』

 顕現したコートニーが二人に光の魔法をかけて、すぐに顕現を解く。

「精霊……」

 マリユスが驚いた顔をしてる。

『まだ慣れないのかよ』

 そういえば、お父さんが来たのに何も言わなくて良かったのかな?

「こんばんは」

 アレクさんが声をかけると、ハルトさんが首を傾げる。

 まだ寝惚けてるみたいだ。

「あなたは……。アレクシス様……?」

「覚えていて頂けて光栄です」

「えっ?本当に?」

 急に大きな声を上げたハルトさんに、アレクさんが笑う。

「ようこそ、ラングリオンへ。お久しぶりですね。ハルトヴィヒ殿下」

「ラングリオン……?リリーシア様、これは一体……。僕は、どれぐらい眠っていたんですか?」

「えっと……」

 目覚めたらラングリオンに居るんだもん。普通なら、移動にかかる期間ずっと寝ていたって思うよね。

 なんて説明すれば良いのかな。

 アレクさんが口に人差し指を当てる。

「移動方法は秘密だそうですよ」

「そうでしたね。申し訳ありません」

 あれ?私、エルがハルトさんにどういう説明をしたか言ってないよね?

「エルロックさんはどこに?」

「忙しい身ですから、今はここに居りません。この先、殿下の身の安全は私が保証致します。すぐに部屋の準備も整いますから、こちらでお寛ぎ下さい」

「ありがとうございます」

「皇太子殿下」

 ヒルダさんが、アレクさんの前で膝を突く。

「リリーシア様からお聞きのことかと存じますが、私は神聖王国クエスタニアにおいて光の間の守護を任されている聖堂騎士、ヒルダと申します。現在は、ハルトヴィヒ王太子殿下の御身を御守りすることを一任している身。どうか、帯刀にて王太子殿下に伴うことをお許しください」

「許可しよう。城内での帯刀を認めるよ」

「ありがとうございます」

「楽にしてくれるかい」

「はい」

 ヒルダさんが立ち上がる。

「ヒルダ。君もまた、私たちの客人であることには変わりない。何か要望があるならば、気兼ねなく相談してくれて構わないからね」

「お心遣いに感謝いたします」

「ハルトヴィヒ殿下は、お疲れではありませんか?」

「いえ。僕は眠っていただけですから。……アレクシス様。このように失礼な形での訪問になってしまい、申し訳ありません」

 ハルトさんが頭を下げる。

「どうかお気になさらずに。お客様はいつでも歓迎ですよ。丁度、遺跡に関する資料をまとめていたところなのです。ご覧になりませんか」

「遺跡ですか?是非、お願いします」

「では、こちらへ」

 アレクさんがハルトさんと一緒に机の方に移動すると、グリフとマリユスもそれに従う。

―グリフとマリユスは陛下の指示が出るまで殿下の護衛を。

 二人とも、護衛対象から離れてない。

 私って、エルの護衛をしてたって言えるのかな……。

「本当に、ここはラングリオンですか?」

 ヒルダさんが部屋を見回している。

「はい。ラングリオンです」

「アイフェル様の精霊の気配がします」

「え?」

 それって、コートニーのこと?

「わかるんですか?」

「はい。光の間に長く居りますから、アイフェル様が生んだ光の精霊の存在は特別に感じるのです」

『すごいな』

「そういえば、アイフェル様は昔、ラングリオンにいらっしゃったのでしたね」

「はい。その時に生まれた精霊が居るんです」

 ヒルダさんが私を見る。

「リリーシア様は、王族であられますか?」

「えっ?違います」

「ラングリオン王家は、特殊な力をお持ちだと聞いています」

『お前、いつからラングリオンの王族になったんだよ』

「違います。私、グラシアルの出身です。それに、アレクさんとは全然似てないと思います」

 カートが笑う。

『まずは、アレクのこと主君って呼ばねーと説得力ないんじゃねーか?』

 そうだ。

「その、主君とは、似てないと思います」

 ヒルダさんが笑う。

「これは失礼いたしました」

『カート、あまりからかうな』

『本当のことしか言ってないぜ』

『魔法使いの素質がある人間ならば、下手に語りかければ声が聞こえるぞ』

『精霊のお喋りに口突っ込んでくるのなんて、リリーだけだって』

 カートの意地悪。

「リリーシア、こっちにおいで」

「はい」

 呼ばれて、アレクさんの方に行く。

「箱舟伝説の話を聞かせてくれるかい」

「え?」

「私は読んだことがないんだ」

 アレクさんに知らないことがあるなんて意外だ。

 そういえば、ハルトさんも珍しい本だって言ってたっけ。

「箱舟を作った人々は、高い土地の人間と呼ばれているそうだね」

「はい。神さまに従って険しく高い土地を選んだから、高い土地の人間って呼ばれています」

「面白いね。その神について、特別な記述はあるかい」

「神さまについてですか?」

 神さまは神さまとしか書かれてなかった気がする。

「クエスタニアでは、グランツシルト教の神に通じるものがあると言われているようだけど」

 グランツシルト教の神さまは、アイフェルのイメージだ。

「私は、少し違う気がします」

「僕は、グランツシルト教の聖典と箱舟伝説は親和性が高いと思います」

 ハルトさん。

「でも、箱舟伝説で神さまがやったことは、設計図を渡して建造物をを作るようにって言っただけです。何を作るのかも、これから何が起こるのかも伝えないのは、少し意地悪な気がして……」

「聖典では、大洪水は正しき者を残し、悪魔を滅ぼしたとあります。悪魔にこれから起こることが伝わらないよう配慮されたのではないでしょうか」

「世界を洗い流す規模の大洪水なのに、滅びたのが悪魔だけだとは思えないです。ドラゴン王国時代にたくさん居たはずのドラゴンだって、今はほとんど居ないじゃないですか」

「クレアドラゴンはともかく、ブラッドドラゴンは悪魔に味方した悪魔の眷属とみなされています」

「そんなことないです」

 ケウスもフォルテも、悪魔なんかじゃなかった。

「ブラッドドラゴンは凶悪です」

「人間と敵対していただけで悪魔とみなすのはおかしいです」

『こら。喧嘩するなよ』

 だって……。

「聖典では、ドラゴンの滅びに関して、どのように書かれているのですか?」

「クレアドラゴンは箱舟を守る為、あるいはドラゴン同士の戦いによって滅びたと書かれています」

「それは、クレアドラゴンを祀る国とブラッドドラゴンを祀る国による戦争があったという説に通じるものがありますね」

「はい」

 その話は、私も他の物語でも読んだことがある。ドラゴンが世界を二分する戦争で滅びたという話しだ。

「では、ドラゴンは都市を守ったために滅びたという説は御存知ですか?ドラゴンの犠牲によって大洪水を生きのびた都市もあったとか」

 都市を守ったなんて、黒竜ニゲルみたい。

「僕もその話しは聞いたことがあります」

「私は、ドラゴンとは高潔な生き物だと考えています。それは、ブラッドドラゴンも変わりなかったと」

「私も。私もそう思います」

 ニゲルも、身体を張ってトゥンク村の人たちを守っていた。

「僕は、そうは思えません。何故、そのような御考えに至ったのですか?」

「ドラゴン王国時代と謳われるほど、人間とドラゴンが共に在った時代です。そんな中で、守護竜としての役目を放棄するようなドラゴンが居たとは思えないのです」

 そうだ。ドラゴンはずっと、人間の国を守っていた。

 ほとんどのドラゴンが大洪水を境に消えてしまった理由も、これなら納得がいくかも。

「そうですね。確かに、凶悪なばかりではなかったのかもしれません」

 良かった。ハルトさんも納得してくれたみたいだ。

「リリーシア、高い山について聞かせてくれるかい」

「その話しだったら、ハルトさんの方が詳しいです」

「いえ、箱舟伝説に関してはリリーシア様の方がお詳しいかと」

 アレクさんがくすくす笑う。

「専門家が御二人もいらっしゃるとは頼もしい限りです」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。