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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
101/149

110 長い間

『ハルトが知らない子と居る』

 光の精霊だ。

『お客さんらしいよ』

『なら安心かな』

 安心?

『リリー。無暗に返事しないでよ』

 わかってるよ。

 光の精霊たちは、そのまま向こうに飛んで行ってしまった。

 王都でも良く見かけたけど、王宮にも光の精霊がたくさん居る。

 たまに雪の精霊も見かけるから、クエスタニアもグラシアルみたいに雪が降る場所なのかな。

 そういえば、氷の精霊が多いグラシアルは氷の国って呼ばれている。光の精霊がこんなに多いなら、光の国って呼ばれるのも納得かも。

 でも、グラシアルの氷の精霊は似た感じの子が多かったのに、ここに居る光の精霊って似てない子も多い。今通り過ぎた光の精霊だって、ナインシェと雰囲気が違う。もしかして、アイフェル以外の光の大精霊が居る?

『こっちよ』

 ナインシェの後を追う。

 ハルトさんの用事が終わったから、これから光の間を目指すのだ。

「この国って、光の大精霊が二人居るの?」

『え?』

『どうして?』

「ほら、違う子が結構居るから」

『流石リリーね。アイフェルが生んだ光の精霊って、そんなに居ないはずよ』

『そうなの?』

『アイフェルがこの国に来たのは最近だもの』

『最近って。今は王国暦六百年だぞ』

 マリーを初代オルロワールの娘だって勘違いしてたみたいだし、アイフェルがラングリオンを出たのは建国初期のはず?

『イリスって細かいわ』

『ボクは十八年しか生きてないからね』

『そんなに若いの?意外ね。雷の精霊なら最近の精霊な気がするけれど』

『どこが?』

 雷の精霊は光の精霊の亜種で、雪の精霊は氷の精霊の亜種って言われてるんだっけ。

 基本の精霊から派生した精霊だけど、その精霊だって、ずっと昔に生まれてるはずだ。

『大精霊が居る限り、新しい精霊なんていくらでも生まれるだろ』

『それもそうね』

「あの……」

 クララが私の腕を引く。

「どうしたの?」

「何故、あの人はメディシノかどうか知りたかったんですか?」

 さっきの話しかな。

 クエスタニアのお姫様、ウルリケさんの容姿は黒髪に紅の瞳。ハルトさんは、ウルリケさんがメディシノかどうか確認したかったらしい。

 結局、メディシノじゃなかったみたいなんだけど。

「お医者さんが必要だからかな?ハルトさんはメディシノを探してるんだ」

 エルが受けた依頼はメディシノ捜索。

 エルが治療をしなくちゃいけなかったぐらいだし、病気が流行してるのは確かだよね。今が一番大変な時期なのかも。

 あれ?クララが居なくなっちゃうと、クエスタニアの人は困っちゃう?

「私以外のメディシノは、どこに居るんでしょうか」

 そっか。病気が流行ってるってことは、他にも目覚めてるメディシノが居るはずだ。

「きっと、どこかで治療をしながら旅をしてるよ」

「旅?」

 クララが首を傾げる。

『目覚めたら治療の旅をするんじゃないの?』

『しないわよぉ。旅なんてしたことなんてないわぁ』

 あれ?

「ロザリーは、封印される前に一年ぐらい旅をしてたって言ってたよ」

「違う時代に封印されたメディシノのことは知らないです」

 前も言ってたっけ。

『そぉねぇ……』

 リースの視線の先。

 振り返ると、ユールがエルの肩に乗ってるのが見える。

「他にも問題がありますね?」

「はい……」

 エルとハルトさんは、なんだか難しそうな話しをしてる。

 ユールの契約者はロザリーと同じ時代の人だったのかな。

―一緒にプリーギに感染された人の治療を行いながら、この病気に効く薬の開発を目指してたのぉ。

 研究しながら旅をしてたみたいだよね。

『でもぉ、クララの時代には病気の人はほとんど居なかったものぉ。だから、旅なんて必要なかったのよぉ』

『封印されたのは、ロザリーの後ってこと?』

「クララは、どうして封印されることにしたの?」

「メディシノだからです」

「そうじゃなくって……。ロザリーはココアが好きだからって言ってたよ」

「私もココアが好きです」

 理由を聞いてるんだけど、なんて聞けば良いのかな。

『これもロザリーとは違うみたいだね』

『どういうことぉ?』

『ロザリーは自分から封印されることを選んだんだよ』

『選んだぁ?クララは、最初から封印を前提に育てられたのよぉ』

「育てられた?」

「はい。ずっと、勉強していました」

 イリスが肩をすくめる。

『道理で世間知らずなわけだよ。逃げるのも下手だったしさ』

『失礼ねぇ。錬金術の基礎も学んでるし、医者としての知識も技術もあるのよぉ』

『千年前の知識なんて役に立つ?』

 薬草のことは知ってても、傷薬のことは知らなかったっけ。

『治療に行ってた教会でも、貧困区でも、クララの薬草の知識は重宝されたわよぅ。メディシノは未来に必要だってぇ。クララはその為に努力してきたんだからぁ』

「すごいね、クララ」

 クララが照れたように笑う。

「はい。たくさん勉強しました」

『今の時代の人間はメディシノの存在なんて忘れてるけどね』

『本当ぉ。どうして人間って、すぐに何でも忘れちゃうのかしらねぇ』

 すぐじゃないんだけど……。

 千年がどれぐらい長いかを精霊に説明することは難しい。

「メディシノは、もう必要ないですか?」

「え?」

『えぇ?』

「エルはそう言ってました」

『薬は完成してるからね』

『そうだけどぉ』

「そんなことないよ。メディシノに助けられた人だって、たくさん居る。ラングリオンだって、ロザリーが居なかったら大変だったんだ」

「でも、治療は薬の方が良いです。メディシノのやり方は恐ろしいです」

 それは……。

「メディシノが必要ないなら、リースは私と契約を解除しますか?」

『えぇ?どうしてそうなるのよぉ?私はクララが気に入ったから、クララと契約したのよぉ?』

「本当ですか?」

 イリスが肩をすくめる。

『ユールの前でも同じセリフを言ってもらいたいね。真空の精霊はメディシノ以外とは契約しちゃいけないんじゃなかったの?』

『むぅ』

 でも、リースはいつもクララのことばかり考えてるよね。

「クララ、精霊は嘘を吐かないよ」

『そうよぉ。私がクララを見捨てると思ってるのぉ?』

「いいえ。リースは優しいです。私が呼び出した時、すぐに来てくれました」

『でしょぉ?』

 そういえば、ルキアもすぐにロザリーの呼びかけに応えてくれたよね。

『それにぃ、クララが居ないなら、この時代のことを把握しておく必要だってないんだからぁ』

『クララの為に勉強してたの?』

『当然よぉ。人間って、すぐに変わっちゃうんだものぉ。私がちゃんとしてないと、クララが困っちゃうでしょぉ?』

 そっか。

 真空の精霊は、ずっと契約者が目覚めるのを待ってるんだ。

「これからも、一緒に居てくれますか?」

『当然よぉ』

「ありがとうございます」

 微笑んだクララが、私の方を見る。

「リリーに聞きたいことがあります」

「うん。何?」

「ココアが好きだからって、どういう意味ですか?」

『気になるの?』

「ロザリーの時は、この役目に立候補すると王族並みの扱いをしてもらえたみたいなんだ」

「王族……?ココアが飲めたんですか?」

「そうみたい」

 クララがため息を吐く。

―「羨ましいです」

『優遇されることはあったけどぉ。王族並みとはいかなかったものねぇ』

『でも、この時代まで生きてて良かったんじゃない?ショコラが手に入りやすいんだし』

『そうねぇ。クララ、良いこともあるみたいよぉ』

「ラングリオンに行ったら、またショコラトリーに行こう」

「はい」

 クララが微笑む。

「楽しみです」

『あ、そろそろ着くんじゃない?』

 光の間がある聖堂。

 あれ?聖堂の扉の前に兵士が居る。

『エル。着いたわ』

 振り返ると、話しこんでいたエルとハルトさんが顔を上げる。

「聖堂に御用でしたか?」

 エル、言ってなかったのかな。

「はい」

「お導きがあったのですね」

 導き?

「はい」

『適当に返事して良いの?』

 神さまに言われたわけじゃ無いけど……。

 あれ?グランツシルト教の神さまって、光の神だよね。

 もしかして、アイフェルのこと?

 ハルトさんが兵士の前に行く。

「申し訳ありませんが、現在、聖堂は閉ざされています」

『変ね。開けておくって言っていたのに。……聞いて来るわ』

 ナインシェが飛んでいく。

 天井に精霊が出入りできる場所があるんだっけ。

「お導きのあったお客様です。通して頂けませんか?」

「それは失礼いたしました。すぐにお通しいたします」

 通してくれるんだ。

 ローグは厳しいって言ってたけど、この前も話せば通してくれたのかな?

「しかし、王太子殿下を御案内するわけには参りません」

 やっぱり、だめ?

「わかりました。では……」

「いいえ。殿下もご一緒です」

「申し訳ありません。お導きがなければご案内できないんです」

「それは変ですね。神官様から何も聞いておられませんか?」

「いえ……」

 目の前の兵士が左手を上げたかと思うと、イリスが私の後ろを指さす。

『エル、後ろ!』

「!」

 振り返りざまにリュヌリアンを抜くと、こっちに向かって魔法が放たれているのが見える。そのままリュヌリアンで魔法を斬ると、横で金属音が聞こえた。

 エルが逆虹で兵士の剣を受けてる。

『魔法使いは上だ』

 屋根の上に人影が見える。

 あんなところから魔法を?

 エルが相手を蹴って、聖堂の扉を開く。

「入れ!」

『クララ、こっちよ』

 ハルトさんとクララが中に入る。

 エルが相手をしていた兵士は気絶してるみたいだ。

「リリーも」

「でも、」

「こんなところで騒ぎを起こすわけにはいかないだろ」

 また、一人で戦う気?

 屋根の上の魔法使いが、こっちに向かって魔法を放つ。

 リュヌリアンを構えたところで、エルが私の前に魔法の盾を作る。

「え?」

 飛んで来た魔法は、エルが作った黄金の盾に反射されて飛んで行った。

 これは、月の魔法?

「来い」

「うん」

 エルに腕を引かれて、聖堂の中に入る。


 ※


 扉が閉まる音が響く。

 聖堂の中には、前来た時と同じように神官が三人と騎士が二人居る。

 ……入って良かったのかな。

『どれがマリー?』

 あ。今日は光の精霊も居るみたいだ。

 精霊が屋内に居るなんて珍しい。

『ピンクの瞳の女の子は居ないよ』

『ナインシェも居ないみたいだわ』

 マリーに会いたくてここに集まってたってことは、この子たちは、アイフェルが生んだ精霊なのかな。

『あ』

 光の精霊たちが振り返ったかと思うと、奥の扉が開く。

「良く来たね」

 輝く黄色の光。

「アイフェル」

 ナインシェも一緒だ。

「アイフェル様。勝手に立ち入ってしまい申し訳ありません。どうかお許しを」

 ハルトさんが屈んで頭を下げる。

『外で何かあったの?』

『ちょっとね』

「ハルトはしばらくここに居た方が良さそうだね。また変なのに絡まれているんだろう。立ち入りを許可する」

「ありがとうございます」

『ハルトって、しょっちゅう絡まれてるの?』

『少しね』

『まだ子供なのにね』

―なら安心かな。

 光の精霊が心配してたのって、このことだったんだ。

『この子がエルロックよ。女の子の恰好してるけど』

 ナインシェがエルの側に飛んでくる。

「私に用があるのは君だね」

「はい」

「じゃあ、こっちにおいで」

 アイフェルが手招きしながら、光の間に戻る。

 前と同じように、斑の光が見える場所。

 光の間に行くのかと思ったら、エルは杖を持っている神官の前に行く。

「この場所は安全ですか?」

「聖堂に立ち入りが許されるのはアイフェル様の御客様のみです。それ以外の方は、お帰りいただいております」

 前回は強行突破しちゃったけど。今回は、ちゃんと許可を貰ってるから大丈夫だよね。

「わかりました。リリーとクララは、ここで待っていてください」

「え?」

「え?」

 私も?

『クララを置いて行く気なのぉ?』

『大丈夫よ。ここには光の精霊がたくさん居るもの。守ってあげるわ』

『アイフェルのお客さんなら、まかせて』

『なら良いけどぉ』

「わかりました。ここで待ってます」

「王太子殿下も待っていていただけますか?」

「もちろんです。しばらくは外に出られないですからね」

 また、連れて行ってくれないんだ。

 もう何度目だろう。いつも、いつも、いつも……。

 エルが私の方を見る。

「後で手伝ってもらうことがあるかもしれない」

「手伝うこと?」

 私が?

「だから、待ってて」

「うん。わかった」

 良かった。

 エルの力になれることがあるんだ。

 エルが光の間に行く。

 ……あれ?結局、置いて行かれた?

 


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