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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
100/149

109 本音と建前

 クエスタニアの王宮に来るのは二回目。

 王宮内には兜を装備した兵士がたくさん居るけど、この中にローグが居るのかな。確か、偽名はロビンだったよね。

「こちらが謁見の間でございます」

 大きくて豪華な扉の前まで来たところで、案内してくれた人がエルを見る。

「申し訳ありませんが、陛下の御前では、帽子を脱ぎ、眼鏡も外して頂けませんか」

 クロエさんの変装、だめなの?

「失礼になるようでしたら、私はこちらで待たせていただきます」

 えっ?

「私もここに残るよ」

 エルを一人になんてできない。

「リリーシア様は皇太子殿下の遣いの方です。私のことは御気になさらずに、どうか国王陛下への御挨拶を優先してください」

「でも……」

『心配しなくても大丈夫よぉ』

 病み上がりなのに。

「クララと一緒に、ここで待っています」

『私たちは、ここに居た方が楽よねぇ』

 リース。

「マリアンヌ様、よろしいでしょうか」

「仕方ないわね」

 マリーまで。

「でも、私が戻るまで絶対にここから動かないって約束して頂戴」

『釘を刺されたね』

「仰せのままに」

 やっぱり私も残るって言おうとしたところで、ローズさんが私を小突く。

『心配せずとも、エルが移動すればすぐにわかる』

 ローズさんは闇の精霊とも契約してるだろうけど。

「これで良いかしら?」

 大丈夫かな……。

「恐れ入ります。では、こちらへ」

 ローズさんに腕を引かれて、マリーと一緒に謁見の間に入る。

 エル。何処にも行かないでね。


 ※


 謁見の間。

 玉座に座っているのが国王陛下で、その横に座っているのが王妃様かな。

「どうぞ、お進みください」

 マリーを先頭に、ローズさんと並んで歩く。

 ラングリオンでは絨毯の両端に兵士が並んでいたけど、ここでは兵士は皆、壁際に並んでるみたいだ。

 マリーに合わせて歩みを止めて、一緒に礼をする。

「お初に御目にかかります、国王陛下。マリアンヌ・ド・オルロワールと申します。こちらが皇太子近衛騎士のリリーシア様。そして、騎士のローズ様です」

 マリーが手で私たちを示しながら言う。

『何も言わなくて良いの?』

『こちらに合わせて頭を下げれば良い』

 ありがとう。セシル。

 ローズさんに合わせて、一緒に頭を下げる。

「この度は謁見の御許しを頂き、ありがとうございます」

「ようこそ、クエスタニアへ。こちらこそ、光の祝福の厚いマリアンヌ様にお越しいただき嬉しく思っております」

『マリーはどこへ行っても歓迎されるね』

『少し怖いぐらいだけど』

『……そうだね』

 良いことばかりじゃなさそうだよね。

「皆様は、クエスタニアで医療活動をされながら旅をされているとか。我が国に貢献していただき、大変感謝しています」

『そういえば、クエスタニアの王族って精霊の声は聞けないのかな』

「とんでもない。勿体ないお言葉です」

『聞けないだろうな』

「私たちが出来ることなど些細なことですから」

 魔法使いの光を持った人は……。

「御謙遜を」

『リリー、きょろきょろしないでよ』

 そんなに、してないつもりだけど……。

「私たちが医療活動を行う際には、少々制限がございます。陛下も私たちがこの国に来ていることは御存知なかったのではないでしょうか」

 見える範囲には、魔法使いの光を持った人は居ないみたいだよね。

「仰る通りです。マリアンヌ様がいらっしゃたとなれば、すぐにでも話題になるかと思っておりましたが」

『魔法使いは居ないの?』

 うん。

「私自身はもとより、この病に詳しい者の素性を隠しながら旅を続けていますから、無理もないかと。しかし、私たちが治療の目的としている恐ろしい病については、陛下の御耳にも届いていることでしょう」

『ラングリオンとは違うんだね』

「例のラングリオン王国発祥の病ですね」

『クエスタニアの王家は、神や大精霊と深い繋がりを持っていないからな』

「お言葉ですが、この病はラングリオンが発生源であるとは考えられておりません」

『そうなんだ』

 クエスタニアは、モルティーガ都市同盟が一つになってできた国だから?

「原因は大地震による水脈の変化によって、王都に流れ着いた病原が増殖した結果であるとされております。各国において似たような時期に病が流行しているのは、同様に病原が流れ着いた可能性も高いかと」

『光の大精霊は関係ないの?』

「つまり、最初に何処で流行ったかは関係ないと?」

『アイフェルはラングリオンの建国に助力した大精霊だ』

『アイフェルはオルロワール家と縁のある大精霊だもの』

 セシル、ナインシェ。

「はい」

 そっか。二人とも、ラングリオンに力を貸したアイフェルから生まれたんだっけ。

「特に現在は、大地震やアンシェラートの出現、亜精霊の活発化など、大陸中で災いが続いておりますから」

『じゃあ、なんでアイフェルはここに居るの?』

「大陸の危機と言われる今では、どこで何が起こるかは分からないと言うわけですか」

『知らない』

『知らないわ』

「その通りです」

『知らないって。アイフェルは何も言わずに光の洞窟から出て行ったの?』

 セシルが肩をすくめて、ナインシェを見る。

「今こそ、大陸の平和と安全の為に皆が手を取り合うべき時。……今回、私が大陸を巡って医療活動を行おうと考えたのも、私にも何かできないかと考えた結果なのです」

『そうね……』

「それは素晴らしい。我が国も惜しむことなく、大陸の平和と安全の為に尽くす考えです」

「陛下に御賛同いただき、光栄です。おそらく、多くの国も同じ考えを持っていることでしょう。そう遠くない時期にオービュミル大陸会議が招集されることは間違いありません。今ここで、陛下の御意志を伺うことは可能でしょうか」

『そうだわ。何か探し物があるって……』

 探し物?

「残念ながら、その答えを今ここで出すのは難しいかと。私もこの事態には憂慮していますが、我が国では各都市の意向も汲み取らねばならないものですから」

「それは残念です」

「しかし、マリアンヌ様が我が国に留まり、協力して下さると言うのならば、全ては上手く行くことでしょう」

 え?留まる……?

『もう。失礼しちゃうわ。マリーに何をさせるつもりなのよ』

『ちゃんと話し聞いてるんだ』

『当然よ。マリーのことだもの』

『何か秘策があるんじゃなかったの?』

「お言葉ですが……」

『秘策っていうか……』

 ナインシェがローズさんの方を見る。

「私からも少しよろしいかしら」

 王妃様。

「私たちは、いつでもマリアンヌ様を市民として受け入れる準備がございますのよ。マリアンヌ様がこの国に残られるならば、ラングリオン王国との友好も、より強いものになるに違いないでしょう」

『下心が見え見えだね……』

 マリーとハルトさんを結婚させたいってこと?

「そのようなお言葉を頂き、大変光栄です。しかし、神官様のお話しでは、私が医療に携わることになったのもグランツシルト教の神のお導きであるとか。それならば、私はこのまま旅を続けるべきであると思うのです」

『そんな話しもしてたんだ』

 グランツシルト教の神さまって、信仰してなくても導いてくれるのかな。

「マリアンヌ様が旅を続けられると仰るのならば、国を挙げてお手伝いさせて頂くことも可能です」

「いいえ。私は信頼する仲間と共に旅を続けるつもりです。そうであれば、国王陛下から御助力を頂くのは難しいかと考えております」

『上手い返答だな』

『流石、マリーね』

「どうか、大陸会議招集の書状が届いた折には良いお返事を頂けるよう、ご高配頂けると幸いです」

 あれ?

 国王陛下と王妃様が顔を見合わせる。

「すぐにお返事は出来ませんが」

 大陸会議参加の返事をもらうのが目的じゃなかったっけ?

「もちろんです。今回の謁見の目的は、陛下へお礼を申し上げることでしたから」

『返事、要らないの?』

『そういうわけじゃないのよ』

『こちらに任せておけば良い』

 ローズさんがどうにかしてくれるってこと?

「そしてもう一つ。国王陛下へ内密の手紙を預かっております」

 手紙?

「ローズ様」

「はい」

 ローズさんが持っていた手紙をマリーに渡すと、陛下の近くに居た侍従がマリーの傍に来る。

「お預かりいたします」

 マリーから手紙を預かった侍従が陛下に手紙を持って行く。

『何の手紙?』

『私もマリーも中身は知らないのよ』

『知らないの?』

『リックが用意したものだ』

 リックさんが?

 どんな内容なんだろう。

『見て来る』

 そう言って、イリスが国王陛下の方に飛んでいく。

『イリス、文字が読めるの?』

『そのようだな』

 精霊が文字を読めるのって珍しい事なんだよね。

「すぐに書記官を呼んで御返事を御用意致しましょう」

 返事?

「感謝いたします、国王陛下」

「妃がマリアンヌ様の為に宴を用意しております。手紙が御用意できるまでの間、どうぞお楽しみください」

「光栄です」

「では、ご案内致しましょう」

 王妃様が立ち上がってマリーの傍まで来る。

「どうぞ、こちらへ」

『イリス、早く来ないと置いて行っちゃうわよー』

『待ってよ!』

 イリスが飛んで戻ってくる。

 謁見はこれで終わり。

 手紙は貰えそうだけど、マリーが欲しい内容とは違うよね?


 ※


 みんなで謁見の間から出る。

 良かった。エルもクララも、ちゃんと待っててくれたみたいだ。

 あれ?王太子のハルトさんも居る?

「ハルト。謁見に遅刻するとは何事ですか」

 遅刻……。

 私たちが先に来ちゃったから、謁見の間に入れなかったのかな。

「申し訳ありません、母上。礼拝が少し長引いてしまいまして」

「言い訳は結構です。マリアンヌ様に御挨拶もせずに……」

「マリアンヌ様。先日は、お時間を頂きありがとうございました」

「こちらこそ。ハルトヴィヒ王太子殿下にお会いできて光栄です」

『礼』

 マリーに合わせて、慌てて頭を下げる。

「まぁ。ハルト、一体いつ、マリアンヌ様とお会いに?」

「もちろん、神の導きによる場所です」

「……あなたはもう少し、自分の立場をわきまえて行動なさい」

 王妃様、怒ってる?

『どこの国の王子も一緒ねぇ』

 ハルトさんも自由な人なんだな。

「これからマリアンヌ様を音楽堂へご案内いたします。あなたも来るのでしょうね」

「いえ。クロエ様に、ウーラとお会い頂く予定なのです」

 ウーラさん?

「勝手なことを……」

 誰かな。女の人みたいだけど。

「クロエ様の御了承は頂いておりますから」

『また別行動をする気なの?』

『いや。そんな話しはしてなかったぞ』

 え?

『どういうこと?』

『嘘つき王子なのよぉ』

 えっと……。

 ハルトさんはエルにウーラさんを会わせたいけど、ウーラさんのことは、まだエルに話してないってこと?

「ウーラ様とは?」

 マリーが王妃様の方を見ると、王妃様が口元に手を当てて咳払いをする。

「王家縁の者ですわ。しかしながら、国賓たる皆様が時間を割いてまでお会いになる必要などございません。ハルト、失礼なお願いをするものではありませんよ」

 王家縁って、王族?

 ってことは、お姫様?

「では、改めてお願いいたします。マリアンヌ様、クロエ様とクララさんをお借りしてもよろしいでしょうか」

「マリアンヌ様、どうかお気になさらずに。私と共に音楽堂へ参りましょう」

『どうするんだ?エル』

 行くって言う気がする。

「マリアンヌ様、王太子殿下に同行してもよろしいでしょうか」

 やっぱり。

『別行動だな』

「そうね……」

『ユール。交代だ』

『えぇ?またぁ?』

『ねぇ。クララが一緒なら、行くのはユールじゃなくても良いんじゃないの?』

 ユールが頷きながら、エルの後ろに隠れる。

『じゃあ、オイラがそっちについて行くよー』

『マリー、今回は私がエルと行くわ』

 ナインシェがエルと行くってことは……。

『ならば、私は残るぞ』

 そう言って、セシルがローズさんの中に戻る。

『ナインシェと交代で、私の友達が来てくれることになったわ。安心して頂戴』

 メリブ。

 私も……。

「リリー。私は王妃様と音楽堂へ行くから、クロエと一緒に行ってくれる?」

 良かった。

「はい。任せて下さい」

 今度は一緒に居られる。

「皆、王太子殿下に失礼のないようにね。……王太子殿下。三人をお願いいたします」

「もちろんです。では、皆様参りましょう」

「ハルト、お待ちなさい。まったく、あなたは……」

 先に行ってしまったハルトさんを、エル、クララと一緒に追い掛ける。

 王妃様の話し、聞かなくて良いのかな……?


 ※


『本当に、勝手に何でも決めちゃうんだから。エルと行動すると大変ね』

『いつものことだ』

『そうだね』

 お姫様。どんな人なんだろう。

『皆、慣れ過ぎよ』

『ふふふ。エルと一緒に居たらぁ、すぐに慣れるわよぉ』

『ユールは御機嫌ね』

『当然よぉ』

 ユールが後ろの方に飛んでいく。

 エルの方に行ったのかな。

 エルとクララは、私とハルトさんの後ろに居るから、ここからじゃ見えないのだけど。

『これからアイフェルと会う約束だってしてるのに。予定が滅茶苦茶だわ』

 午前中にナインシェが約束してくれたから、謁見と演奏会が終わったら会いに行く予定だったけど……。

『用事があるのはエルだけだから、このまま行けば良いんじゃない?』

『アイフェルはマリーにも会いたがってたのよ』

『え?会ったよね?』

『この間は、ゆっくり話す時間はなかったからな』

『そうよ。誰かさんのせいで急いでたんだもの。……あ』

 ナインシェが後ろへ飛んでいく。

『あれが光の間よ』

 エルに教えに行ったのかな。

 光の間……。

 なんだか、この前来た時と雰囲気が違う気がする。

 あ。扉の前に衛兵が居ないんだ。

 私たちが入りやすいようにしてくれてるのかもしれない。前に来た時は騒ぎを起こしちゃったから……。

「リリーシア様」

「はいっ?」

 ハルトさんが笑う。

「すみません。驚かせてしまって」

『皇太子近衛騎士なんだから、しっかりしてよ』

「あの、すみません」

「どうか、お気になさらずに」

 ハルトさんが微笑む。

 なんだかアレクさんっぽいよね。

 何が似てるかは上手く言えないんだけど……。

「この国で何か不自由に感じることはありませんでしたか?」

 不自由?

「えっと……。ラングリオンとは違うことも多くて、ちょっと慣れないですけど、大丈夫です。食べ物も美味しいし」

 ハルトさんが苦笑する。

「それは良かった」

『リリー。聞いてるのはそう言うことじゃないと思うよ』

 え?

「けれど、髪の色で苦労されることはありませんでしたか?」

『ここは神聖王国だよ?』

 そっか。黒髪だから心配してくれてたんだ。

「いえ。髪を引っ張られることもなかったし、大丈夫です」

「髪を引っ張られる?」

「ラングリオンでは、そういうことがあって」

「ラングリオンでも黒髪の方に対する差別はあるんですね」

 差別、あるのかな。

 シリルさんは、お祭りで私を尾行してた人たちは神聖王国の人だって言ってたけど。

「でも私、王都でそういうことにあったのは一回だけです。ラングリオンに来てから、皆良くしてくれてて……」

「ご出身はラングリオンではないのですね」

「グラシアルです」

「グラシアルですか。では、騎士を目指してラングリオンへ?」

「え?」

 なんて言ったら良いんだろう。

『リリー。あまり自分のことを話さない方が良いわ』

『そうだね』

「あの……。好きな人が居て……」

「好きな……。そういえば、御結婚されているんでしたね。叔父上から聞いていますよ」

 ハルトさんの叔父って。

「ローレンツさんから?」

「はい」

『昨日の今日なのに、良く知ってるね』

 クエスタニアの王族って仲が良いのかな。

「グラシアルと言えば、先日、ティリシア女王がいらっしゃいましたよ」

 ティリシア。

 確か、メルとは別行動で諸国の挨拶巡りをしてるんだよね。

「新しい女王のことは御存知ですか?」

『知らないって言った方が良さそうだよ』

「すみません。私、詳しいことは知らなくて……」

「失礼しました。ラングリオンにいらっしゃるなら最近のことは御存知ないですよね。今でも何かと謎の多い国ですし」

 グラシアルって、謎の多い国って思われてるんだ。

「では、女王の崩御に際し、黄昏の魔法使いが関わったという噂があるのは御存知ですか?」

 黄昏の魔法使い。

「あの……」

「はい」

「その名前、本人はすごく嫌ってるので、言わない方が良いと思います」

 ハルトさんが驚いた顔をした後、また微笑む。

 あ。この顔。

「それは気を付けなければいけませんね」

 そっか。ハルトさんって、アレクさんと同じで、いつもにこにこしてるんだ。

 疲れないのかな。

 ……アレクさんみたいな変な笑い方したらどうしよう。

 そこまでは似てないよね?

 ハルトさんがエルの方を向く。

「僕の話しに乗っていただき、ありがとうございます」

「そろそろお話しいただけますか?」

「はい。王宮内でも軽々しく話せることではなかったので、説明が遅れて申し訳ありません。ウーラというのは、僕の妹のウルリケのことです」

 やっぱり、お姫様だったんだ。

 


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