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旧作3-2  作者: 智枝 理子
Ⅰ.王都編
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07 あなたのことが理解できない

 年が明けて、立秋の朔日。

 今日は、国王陛下と皇太子殿下が、城の正面に見えるバルコニーから国民に向けて新年の挨拶を行う日だ。

 シャルロさんの家はセントラルにあるから、帰りに聞いて行こうと思ったのだけど……。

「すごいね」

 お城に全く近づけないぐらい人が溢れている。

「いつも、こんな感じよ」

「国王陛下とアレクシス様の御姿を見られる機会だからね」

 って言っても、熱気と声援が激しくて、ここからじゃ姿も見えないし声も聞こえない。

 ラングリオンの王族って、本当に愛されてるんだな。

「毎年、堀に落ちる人が居るってガラハドが言ってたわ」

「え?隊長さんは、イーストの警備をしてるんだよね?」

「いつも手伝いに行ってるんだよ」

 確かに、これだけすごいなら手伝いが必要かもしれない。

 新年だから、王都以外の人もたくさん来てるんだろうけど……。

「でも、国王陛下とアレクさんには、明日のパレードで会えるんじゃないの?」

 明日は、メインストリートで王族のパレードが行われるはずだ。

「会えるとは限らないわ。どっちに行くかわからないんだもの」

「どういうこと?」

「パレードは城を出発した後、中央広場で三手に別れるんだ。去年は、アレクシス様がイーストストリート、国王陛下がウエストストリートを通られたね。ウエストに居たユベールが、国王陛下の御顔は見られたけど、アレクシス様の御顔を見られなかったって嘆いてたよ」

 会いたい人に必ず会えるわけじゃないらしい。

「サウスストリートは?」

「南は、王国兵士が中心となってパレードをするんだよ。研究所の人たちも参加するから、毎回、面白い仕掛けがたくさんあるんだ。エンドの方まで来るし、こっちの方が楽しめるんじゃないかな」

「いつも南大門の前で、お菓子を配ってくれるのよ」

「中央の人たちは知らないと思うけどね」

 エンドは貧困区だから、慈善活動の一環なのかもしれない。

「四日は、中央広場のステージで歌うから見に来てね」

「もちろん」

 四日と五日は、中央広場にステージを作って、王都イースト交響楽団と王都ウエスト交響楽団が演奏合戦をするらしい。

 礼拝堂に所属している合唱団も参加することになっていて、アリス礼拝堂のシルヴァンドル合唱団は、四日に歌うことが決まっている。

「キャロルの歌はカウントダウンで聞けなかったからね。楽しみにしてるよ」

「ふふふ。楽しみにしてて。でも、今日はお祭りに行きましょう。今ならきっと、空いてるわ」

「お祭りもやってるの?」

「中央広場を中心に、いつもより露店がたくさん並んでるんだよ。寄って行こう」

「うん」

 

 年始はイベントが満載だ。

 楽しみなことがたくさんある。

 エル、早く帰ってこないかな。

 

 ※

 

 家に帰って、お茶の準備をしていると、呼び鈴が鳴った。

「誰かしら」

「エルが帰って来たのかな」

「エルなら呼び鈴なんて鳴らさないと思うけど」

 そうだよね。

 じゃあ、誰だろう?

 

 三人で迎えに出ると、大きな荷物を持った騎士が立っていた。

「お初にお目にかかります、リリーシア様。私は皇太子近衛騎士、銀朱のツァレンと申します」

 騎士が、右腕を曲げて頭を下げる。

 銀朱のツァレン。アレクさんの騎士だよね?

 くすんだ赤い色のマントが垂れ下がる。二つ名の銀朱って、マントの色なのかな。

「はじめまして。リリーシアです」

「お会い出来て光栄です」

 横で、キャロルが笑い出す。

「もう。似合わないわ、ツァレン」

 ツァレンさんが柔らかく笑う。

「俺だって、敬語ぐらい使えるんだぜ。久しぶりだな。ルイス、キャロル」

「久しぶり」

「久しぶりね」

 ルイスとキャロルと知り合いなんだ。

 ってことは、エルとも知り合い?

「何しに来たの?」

「配達だ」

 ツァレンさんが、衣装ケースを二つ出す。

「何?これ」

「誰から?」

「主君からに決まってるだろ」

「えっ?」

 アレクさんから?

「置いて良いか?」

「うん。入って」

 お店の中に入ったツァレンさんが、カウンターに衣装ケースを置く。

「開けてみな」

 ルイスとキャロルが、衣装ケースを開く。

「黒い服?」

 中から取り出した服をキャロルが広げる。

「わぁ、可愛い」

 黒と白の生地だけで作られた、フリルがふんだんに使われた衣装。

 形も装飾も、すごく可愛いけど……。

 このサイズって、私の?

「ブーツも帽子も黒なの?」

 キャロルが出した編上げのブーツも、小ぶりで黒のレースがついた帽子も、全部黒で統一されている。

「喪服だからな」

「えっ?」

「え?」

「喪服?」

 どこが?

「ツァレン。どういうこと?」

「エルには、しばらく死んでもらうことになった。だから、リリーシアはしばらく喪服を着てくれよ」

「は?」

「えっ?」

「え?」

 どういうこと?

「それから、これを渡すように言われてる」

 ツァレンさんが私の手の上に置いたのは……。

「剣花の紋章……」

「大事なものだから失くさないでくれよ」

 剣花の紋章は、王家の紋章。

 王族の証。

「これ、誰のですか?」

「前の持ち主はエルだぜ」

 やっぱり。

 エルが一番大事にしてるもの。

 いつも肌身離さず持っている、フラーダリーの形見。

 どうして、これを私に?

 喪服と、エルが一番大事にしているものを持って来るなんて。

 これじゃあ、まるで、エルが……。

「エルは無事なの?」

「その質問が、嫁から出るなんて意外だな」

 だって……。

「ルイスとキャロルは何も言わないぜ」

 二人の顔を見る。

「大丈夫だよ」

「エルが死ぬわけないもの」

 二人とも、エルを信じてるんだ。

 ……二人だけじゃない。マリーも、カミーユさんもシャルロさんも。誰も、エルのことを心配してなかった。

 エルが死ぬわけないって、みんな信じてる。

 でも。

 どうして、死んだことにしなきゃいけないの。

「私は、無事な姿を見るまでは信じられないです」

 だって、私が最後に見たのはドラゴンから落ちるエルだ。

「しょうがないなぁ……。良いかい。剣花の紋章は王家の紋章だ。紋章を見てみな。中央に赤い光が灯っているだろ?」

 紋章を見ると、中央では赤い光が揺らめいている。

 精霊玉に似てるかも。

「その紋章が中央に命を灯す限り。王家に忠誠を誓っている人間は、紋章の持ち主に逆らえない。エルが城に自由に出入り出来たのも、その紋章があったからなんだぜ」

 じゃあ、この紋章があれば城に入れるってこと?

「エルは、お城に居るの?」

「答えられないな」

 言ってることが違う。

 王家に忠誠を誓っている人は逆らえないんじゃなかったの?

「私が紋章の正式な持ち主ではないから?」

「今の紋章の持ち主はリリーシアだ。でも、俺は皇太子殿下の近衛騎士。俺が忠誠を誓っているのは、アレクシス様ただ一人だ。紋章に忠誠を誓ってるわけじゃない。残念だったな」

 近衛騎士は、主君の命令以外は受けないんだ。

「今度、ショコラティーヌを持って遊びに行っても良いですか?」

「おぉ。主君が喜びそうだ」

 いつ行っても良いのかな。

「それじゃあ、俺はこの辺で」

「うん」

「エルによろしくね」

「あぁ。みんな元気にしてたって言っておくよ」

 ツァレンさん……。

「ありがとう」

「じゃあな」

 三人で、ツァレンさんを見送る。

 アレクさんの近衛騎士がわざわざ来て、私たちの様子を伝えてくれるってことは。

 エルは今、アレクさんと一緒に居るんだよね。

 エル……。

 どうして、死んだことにしなくちゃいけないんだろう。

 なんで理由が言えないのかな。

 もしかして、ドラゴンとの戦闘で大きな怪我をしてるとか?

「二人とも強いね。私は、エルが心配……」

 ルイスとキャロルがくすくす笑う。

「リリーシア、これ見て気づかない?」

「?」

「この服、どう考えてもエルの趣味だわ」

「エルって、可愛いもの好きだから」

 それは、なんとなくわかるけど……。

「きっと、リリーシアに着て欲しいんだよ」

「えっ。無理だよ。こんなの」

「だって、エルは死んだことになってるのよ?」

「未亡人のリリーシアが、いつも通りの姿で外に出るのはまずいんじゃないかな」

「未亡人っ?」

「ツァレンだって、この喪服を着るように言ってたじゃないか」

「これ、どう考えても喪服じゃないよね?」

 いくら黒と白しか使ってないからって、こんなに装飾の多いデザインの衣装が喪服な訳がない。

「ほら、着てみましょうよ」

 キャロルがそう言って、衣装を私に合わせる。

 エルが死んだことになってるから、私は、この服を着なくちゃいけない?

 ……そんな話しだったっけ?

「リリーにぴったりよ。どれにする?」

 待って。整理できない。

「もう少し、心の準備をさせて」

「心の準備?」

「もうっ。リリーったら、本当に可愛い服着てくれないんだから!」

 可愛い服なんて、私には似合わない。

「スカートは苦手なの」

「なら、私の部屋に運んでおいて良い?」

 キャロルの部屋に?

 だめ。

 この前、着せ替えられたばかりだ。

「大丈夫。ちゃんと、エルの部屋に持って行くから」

 急いで服を全部詰め直し、衣装ケースをエルの部屋に持って行く。

 

 どうしよう。

 どうして、こんなものが届くの?

 この服を選んだのは、本当にエル?

 エルは無事なんだよね?

 無事だけど死んだことにしなきゃいけない?

 私は、この服を着なくちゃ外に出られない?

「どうしよう」

 衣装ケースから服を出す。

 レースやリボンがたくさんついていて、パニエもたくさん入っていて。

 ものすごく、可愛いデザインなのだけど。

 ……無理。

 こんなの着て外に出るなんて。恥ずかしい。絶対できない。

 それに、こんなデザインの服を着てる人、今まで見たこともない。

 誰が作ったの?これ。

 エルじゃないよね?

 エルって何でもできるから、想像がつかない。

 エル……。

 一体、何やってるんだろう。

 お城に行けばわかるのかな。

 でも、お城に行く為には……。外に出るには、この服を着なきゃいけない。

 どう、しよう。

 どうすれば良いの。

 エルの、ばか。


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