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クロの神者  作者: ペケポン
第一章 プロローグ 全ての始まり
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黒塗りの使者

黒塗りの使者


こんな感じの日が三日過ぎた。今日は木曜日。プキのいる生活にもちょっと慣れてきた。

「ん~~まっ♥ん~~っま♥」

九十院さんがものすごい投げキッスをしてくるなか、下校途中別れた。蓮もだいたいそのくらいで分かれている。一本桜通りを過ぎ、よく行く散歩コースの公園に通りかかった。

そして何気なく公園内を見たその時。

――誰かいる――

まぁ、公園に誰かいるのは不思議なことではない。共用スペースだし当然だ。でもそこにいる者はどこか不自然だった。もう暖かくなってくる季節なのに黒いスーツに黒い厚手のコートを羽織っている。マジシャンのようなハットをかぶっているのが印象的で、何より、不気味な眼光でこっちを見ている。

――気持ち悪いな・・・――

奏は気にせず公園をあとにしようとした。と、その瞬間それが笑った。

「見つけたよぉぉおお♪」

そいつはニタァァと笑った。その歯は真っ黒に塗られている!

――今時お歯黒かよ!――

あまりに気持ちが悪い表情に、奏が少し表情を引きつった時。

ダダン!そいつが体制を前のめりにして地を蹴った。持っているステッキから細い剣を抜きながらすごい速さで走って来る。そして20メートルくらいある間合いを瞬時に詰める!

――な!仕込みステッキ!?――

お歯黒が細身の仕込み剣を振りかざす。

ブンっ!奏は斬りかかってきた縦振りの初太刀をどうにか右へのサイドステップで躱した。

「このっ!」

奏はお歯黒の脇腹にパンチを繰り出したが数メートル後ろに飛んで躱された。

――くそ・・・なんだこいつ・・・早い!――

「ふふ・・・流石に、ちょっとはお強いんですねぇ?」

バッと振り払った細剣から赤い血が地面に飛沫とぶ。

ピチャ!

――なにっ!――

奏の右肩が少し抉られていた。幸い傷はカスリ傷程度でたいした事はない。奏はお歯黒を睨むと声を張った。

「はっ、なんのつもりだ!」

奏は喧嘩なら腐る程した。だが今までは一方的な強さでねじ伏せた喧嘩だ。

対等、あるいはやや不利の喧嘩に緊張感を覚え、同時にそれに増す恐怖を感じた。

「あなた?これをただの喧嘩とか思ってないでしょうねぇ?」

相変わらず気持ち悪いお歯黒を見せつけながらニヤニヤ笑い、細剣にまだ少し付着している奏の血をぺろっと舐めた。

「じゃあなんだ!」

奏はイラッとし、戦闘体制を構え直した。しかし少し拳が震えているのが自分でも分かってしまう。

「こ・・ろ・・し・・あ・・い♥」

「はぁ?」

「あなたが狙われる理由なんて腐る程あるじゃない」

――まぁ・・・確かに・・・財閥の一人息子だしな・・・――

お歯黒は7メートルくらいの間合いの円を歩きながら

「そうね~。虚神家財閥の資産を狙うもの・・・虚神家に恨みのあるもの・・・・」

少し間を含み。一瞬の緊張がよぎった。

「神者候補であるこ♥・・・と♥・・・・・とか!!!?!」

――な!神者を知っている?こいつ!フェイカーってやつなのか!?――

ドン!土煙を巻き上げるほどの踏み込み!お歯黒はさっき以上のスピードで向かってきた。

右手に持った細剣を体の左側に構え、攻撃の間合いが迫ってきた。

――マズイ!――

奏が咄嗟にかわそうとしたその時、

ガキィイン!

「・・・・!・・・・」

美しい氷の刃が突然眼前に現れ、お歯黒の細剣を防いだ。

「なっ!」

お歯黒は数歩後ろにバックステップで距離をとった。そして視線を違う所に向けた。

「あらら?まさか本物の神者さんが登場かしら?」

お歯黒が嬉しそうににやけて言う。すると、公園の入り口からプキがひょこっと現れた。

――あいつ。プキなのか?――

体中から冷気が溢れ、目が青白く輝いている。

「あなた・・・私のパートナーさんに何してるんですか!・・・・」

少し怖々とした表情で怒りを簡単に読み取れる程のオーラを纏っている。

というか、あれ?・・・ちょっと怖い・・・

「うふふ。神者と神者候補。2人殺せば伊邪那岐様に褒めてもらえそうだわ♥」

お歯黒は相変わらず不気味にニヤつく。しかし今のプキに逆なでする言葉は御法度だった。

「そんなことさせません・・私!怒ってます!あなたなんか八つ裂きです!」

プキは顔を強ばらせ、指先に青い光の軌跡を描きながら手を上にかざした。

キィィィン!

すると、公園付近の水の出る至る所から冷気が発され、みるみるうちに美しい氷の剣が精製されていく。数十本くらい!?の氷剣が円を描き宙を舞う。それがお歯黒の周りを囲む。

「なによこれ!?」

お歯黒はとてつもなく動揺し、剣を地面に落とした。

「真っ黒さんは死刑です!」

プキがお歯黒に向かって手を振りかざした瞬間、氷剣の刃先が全てお歯黒に向いた。

ヒュンッ、っと音をたて無数の剣が四方からお歯黒にむかっていく。

ドドドドドォォン!公園の地面が割れるような轟音とともに土煙が舞う。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」

お歯黒の断末魔。奏は状況がつかめない。いや・・・なんだこの状況は!

サーッっと土煙が晴れた時、お歯黒は見るも無残にボコボコになっていた。

――?――

てっきり切り刻まれているかと思った奏は少しホッとした。

「安心して下さい奏さん。ちゃんと剣の刃先は鈍器のように変えておきました」

鈍器ってどうなの?とか思いながらも危険を回避できた安心感か、力が抜けてどうでも良くなった。にしても・・・プキがこんなに強いなんて・・・

「さぁ、家に帰りましょう!」

奏はプキに手を引かれ、言われるがまま帰宅した。


「結局。あいつはなんだ?フェイカーなのか??」

奏はリビングのソファーで紅茶を飲みながら一息ついた。

「いえ違います。あれは多分フェイカーでも能力値異常者でもないと思います。

 訓練された使い捨ての兵じゃないでしょうか?」

夕御飯の仕度をしながらプキは言った。初日のご馳走以来、なぜかプキが夕飯を作るように決まった。盛りつけのセンスがなく、見た目はアレだが味はイケる。

「使い捨て?なのにあれだけ強いのか・・・・・!?」

先の戦闘で、その使い捨てのお歯黒に負けそうだった奏は悔しがる。

「いえ、かなり弱かったと思いますけど・・・」

プキはフライパンを振り回しながらキョトンと答えた。

「え・・・そうなのか・・・」

奏は今までの相手を圧倒していた分、井の中の蛙の気分だった。あれで弱いのか・・・

剣閃も見えなくもなかったし、反応ができない訳でもなかったが、【弱い】という部類には到底思えない強さだった。

「だから私が来たんですから。あとちょっと遅かったら危なかったです!」

「・・・・・・・・」

――確かに危なかった。というか女の子に守られるってどうなんだ・・・――

やっぱり奏は悔しくなった。

「っつか、伊邪那岐様とか言ってたけど誰だ?そいつ?」

話を紛らわす意図もあるが、奏はさっきのお歯黒の言葉が気になった。

「伊邪那岐・・・ですか??多分イザナギ イリアって人のことです。現在確認されている第一のフェイカーですね」

「フェイカー?そいつの手下がもうこっちに来てるのか?」

奏はお歯黒以上に強い奴に狙われているかも知れないことに恐怖を感じた。

「ん~~。確証はまだないんですが、もしかしたらそうなのかも知れません。

 でもそんなに怖がることはないですよ!」

恐怖を悟ったようにプキが気遣ってくれている。

「怖がってなんかない・・・」

――・・・いやでもちょっと怖いか・・・情けないけど・・・――

「ふふ」

プキは奏の捻くれを笑顔で流した後続けた。

「実はですね、奏さんは能力値異常者の中でも突出していて神者候補、という能力者の中でも特に特別扱いをされているんです。けど、今は潜在能力の10%もだせてないと思います!」

不器用に盛り付けながら言った。ほんと綺麗に盛れる感性があれば良かったのにな・・・・ん?

――なんだと?――

「俺が10%の力もだせていない?」

奏は妙な期待を感じて声を張った。

「はい。だって奏さんは検査結果では私より潜在能力値が高いんですよ?神者より高いとかすごいですよね」

「・・・!・・・」

――さっきのコイツの強さよりも俺に眠ってる力の方が上?――

「ってことは、力を磨けばお歯黒も倒せるってことか?」

少し希望の光が見えてきた気がした。別に戦いたい訳じゃないが、あんな気持ち悪い奴らに狙われているなら抵抗する力がいるからだ。正直あんな奴らがごろごろいることにビビっている。出来る事なら何事もなく過ごしたいが・・・

「モチのロンです♪でも能力値異常者やフェイカー相手なら分からないですけど・・・」

「そんなに強いのか?・・・」

「はい・・・だからこその最低2人行動。ツーマンセルという訳です」

なるほど・・・確かにお歯黒よりも強いのが大人数で来たら一人では問題がある。というより勝てる気がしないのが今の奏の正直な気持ちだ。

――でもそんな奴が来たら俺は役にたつのか?――

「できましたよ~奏さん♪」

夕飯を用意したプキが笑顔で呼ぶ。

「・・・悪いな」


ご飯を食べながらの会話。

「おい、あのお歯黒どうなったんだ?」

もぐもぐ。プキはおかずを口に含んでいた為、喋ろうと必死で噛んでいる。

「・・・・・・・・・」

ごくん。

「あの人は・・日本本部のエージェントに引き渡しました」

「そっか・・・・」

奏は口につけようとしていた汁椀をテーブルに戻した。

「・・・・・俺が強くなるにはどうしたらいい?」

「ん~今のうちは私が守りますけど・・・そんなに早く強くなりたいんですか?」

「女に守られようなんて思わない。命を狙われてる現状を理解できないほど馬鹿じゃないからな・・・」

もぐもぐ

「・・・・ぅぐ・・・」

ごくん

「そうですよね!奏さんは綺麗ですけど男の子ですもんね。

 ん~強くなりたいですか・・・では近々本部に顔を出してみますか?」

口の周り最悪だなコイツ。

「本部・・・か・・・早い方がいい。土曜日に行ってみる」

と言いながらティシューを数枚手に取りプキに渡した。

「あ!ありがとう○△ざ×ぃ□○ます!うふふ。奏さんはツンケンしてるのに優しいですよね。学校休んで明日行くか!とかもならないですし。真面目で優しくて。ほんと素敵な人ですね!」

ティシューで口周りを拭き終わった後、プキは満面の笑みで言う。

ぶわっああぁ

奏は顔が赤くなった。それも沸騰しそうなほどだ。体温の上昇が分かる。

――こいつ!真顔で何てこと言うんだ!――

動揺を隠しきれない。

「あっ。応急処置だけしかしていないので、食後ちゃんと処置しますよ?幸いほんのカスリ傷でしたので良かったですが・・・。」

「あ・・・・あぁ・・・わ・・分かった・・・」

まだ動揺してる。ホント直球に弱いな俺・・・というより女に弱いのか。こいつは平然としてるし意識している俺がバカみたいだ・・・なんて思いながらもまだ鼓動が鳴り止まない。

「あれ?そう言えば週末って自然ペアが来るとか言ってましたよね!?」

プキはキョトンとした顔で次々話題をふってくる。

「ん・・?そうだったな・・・まぁ俺に会いたいならいずれ何処かで出会うだろ?」

乱された心を落ち着かせながら奏は考えた。

――自然ペアか。大地と草木・・・プキクラスに強い奴らなのか・・・プキの氷の魔法を見たから流石に疑うのも無理がある・・・どんな強さなのか一度は見ておきたいな・・・――

「そうですね!出会うことをオススメできる2人じゃないですし」

プキはジト目でフッと苦笑った。

「ん?問題があるのか?」

「いや~・・・問題とかの問題じゃないっす」

と。まだジト目だ。

「・・・・・・・・・・・」

「どういう意味だよ」

「会えばわかりますよ~・・・」

あれ・・・・・・まだジト目ですよ。


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