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クロの神者  作者: ペケポン
第一章 プロローグ 全ての始まり
21/31

格闘戦術・カクザ

格闘戦術・カクザ


次の30階には直ぐに着いた。チンッと音が鳴り扉が開く直前に銀鏡が前に出た。

扉が15センチ程開いた時、何かが超高速で飛来した。銀鏡はそれを額の数センチ前のところで受け止めた。高速回転がかかっていたそれはただの石だ。銀鏡の手に付けているプレートがなければ回転で掌を引き裂かれていたかもしれない。回転がおさまった時手から僅かに摩擦による煙が見られた。銀鏡は開ききった扉の向こうにそっと石を転がすと向こうの方で仁王立ちする男に目をやった。

「反則でしょ。奇襲攻撃とか」

ぞろぞろとフロアに出た奏達。このフロアの作りもさっきと同じようだ。

――あいつは・・・データにあった脱獄囚か――

間違えようのない外見。白髪の坊主頭に剃り込み、何より白目だけで何を見ているのか分からない目。黒の革ジャンと黒の革パンを着ている。一見バイク乗りか?とも思うが・・・

「お前達がアグニの敵という訳か」

想像していたよりも低くないハキハキとした口調で男は喋りだした。

「ふむ。こんな若い奴らに何が出来るのか・・・だがアグニが敵というからにはそれなりに強いのか?だが俺のローリングストーンを受け止めたのも事実。なめてはかかれんか・・・」

――なんだこいつ・・・思ってたより喋るな・・・――

奏は銀鏡の服を後ろから引いた。

「どした?って可愛いっ!」

緊張感の中、振り向いた視線のやや下方に上目使いの奏は場違いの可愛さだったみたいだ。

むっと膨れ気味にジト目で銀鏡に視線を送る奏。

「悪い悪い。っでどうしたんだ?」

「・・・今回は誰が戦う?」

奏の問いかけに銀鏡は両方の肩をグリグリと回しだした。元気いっぱいに数回軽くジャンプすると両手の拳をガキンッと力強く合わせた。

「そりゃ俺でしょ。宣戦布告も受けてるしね」

すると麗奈も一歩前に踏み出すとマシンガンを一丁装備した。

「なら必然的に私もね。かなでちゃんと戦えないのは残念だけど、こいつを倒さなきゃかなでちゃんが危ないもんね♥」

と言いながら奏に向けずっしりと愛のこもったウインクをした。

気持ちそのウインクの軌道上からさっと離れた奏は銀鏡に更に問う。

「お前ら2人がいくのか?じゃあ次の階は俺とプキだけど・・・・その・・・」

「あぁ~、プキとじゃ不安って言いたい訳か?うろかみ~」

「そういう訳じゃないけど・・・さ・・・」

「安心していいって。プキは俺らの5倍は強いから」

銀鏡はそう言うと戦闘モードに入る。拳を構え、ファイティングポーズをとった。

「そうよかなでちゃん。プキリンはこいつの10倍強いわ」

麗奈は重心を低く構えマシンガンを男に向け引き金に手を当てた。


「ではこの階は君たち2人で決まりですね」


どこからか声が聞こえる。当然ここもアグニが監視しているみたいだ。

「では・・・死合を開始して下さい。彼はカクザ君。楽しんで下さいね」


「行くぞっ麗奈!」

「オーケーまかせて!」

アグニの開始の合図の瞬間2人は行動を始める。銀鏡は回り込む様にカクザの右サイドに大きく半円をかき高速で寄りつめる。走り出すと同時に麗奈はマシンガンの銃口を爆発させる。数多の銃弾が寸分狂わずカクザの身体目掛け飛んでいく。

「ふむ・・・2対1か・・・だが俺なら4対1でも大いなる差で勝利できるだろう。だがわざわざたった2人しか参戦せんとなれば・・・」

「スキだらけよっ!」

キキキキキンっ!秒速34発。小型の強化された特殊弾丸を発射するローゼンクロイツ製のマシンガン。その強力な弾丸の嵐をカクザはブツブツと呟きながら手の甲の強化プレートを高速で捌き弾いている。

「うそっ!」

「・・・余程の自信があるのか・・・だがしかし、なめてはかかれんという訳か・・・」

「麗奈っ!」

あと少しと距離を縮めた銀鏡が麗奈に叫ぶ。麗奈は即座に撃つのを止めスナイパーライフルに換装しなおす。

「ぉぉおおらぁぁぁっ!」

銃撃が止んだ瞬間に銀鏡がカクザの右方向から右ストレートを見舞う。

キィィンッ!鈍く鳴り響く金属音。銀鏡の攻撃はカクザの手の甲のプレートに止められた。

「くっそ!」

「ん?・・・もう戦いは始まっていたのか。せっかちな奴らだ」

軽くあしらう程度に手を振るとそれだけで銀鏡は体勢をやや崩した。間髪入れず左の拳が銀鏡の頭部に迫る。銀鏡の渾身の右ストレートを軽く受け止める程の筋力を持っている男だ。その拳には銀鏡と同じくプレートを装備。刹那、銀鏡のノドが急激に乾く。

だがカクザの左フックは強烈な衝撃で銀鏡の頭部から軌道を外れた。その隙を逃さぬよう銀鏡は数回バックステップをし距離を置く。カクザの左手のプレートの左側には硝煙を上げている箇所が見える。

「危ないわね!ちゃんと戦いなさいっ!」

麗奈のスナイパーライフルだ。すぐさまボルトアクションを行い薬莢を弾き出し次弾に備える。

「悪いなっ!」

数メートルの距離から男を見据えたのち、銀鏡はフロアを強く弾いた。カクザへの距離をみるみる縮めていくが、カクザは撃たれた箇所を余裕をもって見つめている。

「ほう・・・銃で的確に打ち抜かれたのは奴以来だな・・・だが・・・」

淡々と戦いの最中を感じさせないトーンで呟く。続く言葉を発するよりも前に銀鏡はカクザの懐に潜り込んだ。

「・・・ん?」

「っらぁぁぁぁ!」

渾身の拳はカクザの腹部を打ち抜いた。激しい空気の波動が背中に伝い炸裂する。

少しの動揺もダメージも受けていないようにも見えるが銀鏡は追撃をかける。

「おぉぉぉらぁぁぁっ!」

カクザの上半身に向け両の拳を交互に振り抜く。依然、凛と立っている男は連続攻撃に対し涼しい表情を見せる。絶え間なく弾け飛ぶ半透明の空気のエフェクトは壮絶さを物語り、

そして攻撃の最後の一撃をより強く見舞う。

「らぁぁぁぁっ!」

ドォォンッ!一瞬、空間に水の波紋のような衝撃が広がった。カクザは後方に軽く吹き飛ぶ。これだけの攻撃、ダメージが期待できるはずだ。奏は目を細目カクザを見た。

「決まったのか?・・・」

地に足をつけたまま次滑るカクザはその状態のまま銀鏡に対し笑いを含む。

「お~お~・・・少しは戦えるみたいだなぁ」

ピタッと奇妙に停止したカクザは血走った白目を更に色濃くする。

「ダメです。すべて受け止められています」

プキは冷静に答える。曰く、銀鏡の連続攻撃を左手一本ですべて受け止めていたみたいだ。時折垣間見えた火花もそれで説明がつく。それにしても・・・

――化物か・・・あの坊主・・・――

奏は息を飲み込んだ。するとカクザの停止した僅かな隙を狙い一発の銃声がフロアに響く。

またも麗奈のスナイパーライフル。その弾丸は迷うことなくカクザの頭部に迫った。

「・・・だが・・・しつこいな」

カクザはスッと軽く左手を振るった、そして威力の高い弾丸を弾き飛ばした。

「うそっ!またぁっ?」

「少し邪魔だな女。この場合お前から殺るほうが・・・・」

カクザは麗奈のほうに向けしゃがみ込んだ。途端、ブーツの底付近のフロアは軋んだ音をあげひび割れが起きる。

「正解だなっ!」

フロアは重たい悲鳴にも似た音をあげ、カクザは麗奈へと飛んで行く。十数メートルの距離を一回のジャンプで飛び越え迫る。

キィィン!反応に遅れた麗奈の頭部目掛けて放たれたカクザの拳は、同じくプレートを装備した腕に阻まれた。間一髪のところで銀鏡のガードが間に合ったのだ。

「俺から狙えよっ」

「よく防いだな・・・だがこの二発目はどうだ?」

そう言うと後ろに引き勢いをつけていた右腕を作動させる。銀鏡はそれよりも先に、膝を落としカクザの視界からするりと抜けたかと思うと、新たに現れた男の視界には小型のショットガンを二丁構えた麗奈が待っていた。

「バァン♥」

二丁の銃口から爆音と共に放たれた二対の散弾。近距離からのあまりの破壊力にカクザは数メートル吹き飛び仰向けのままフロアに転がった。正面全面から多量の硝煙をあげ表情は確認出来ない。

「危ないな。連携の取り方がなかなか良い。思わず殺られるところだったぞ・・・だが」

たち煙る硝煙を振り払い銀鏡の眼前に高速移動した。

「少し調子に乗りすぎだな!」

下方から抉るようボディに繰り出されたアッパーは銀鏡を確実に捉えた。くの字に折れ曲がり数十センチ身体が浮き上がる。

「銀鏡っ!」

「くらえ・・・マシンガンハリケーンっ!」

ドドドドドドッ!一撃目に捉えた腹部に続けて攻撃を加える。浮き上がったまま連続アッパーフックが絶え間なく交差する。

「もう意識はなくなったか?・・・・だが・・・」

大きく右腕を振りかぶり空中に浮いたままの銀鏡に狙いをつける。

「これで最後だっ」

頭部を狙った渾身のストレート。グレートガンと名付けられたただの右ストレートは空間を歪めるほどの初速を放つ。加えてプレートによる拳の強化。ただでは済まないその攻撃は眼前に迫っていた。

「蓮っ!いい加減にしなさいっ」

「はいはいっ」

麗奈の怒号を受け銀鏡は渋々と返事をする。そして目前まで迫るカクザのグレートガンを冷やりとする距離で受け止めた。右の掌で拳を掴んだのだ。

「なにっ!」

地面に着地し、うつむいた状態から顔をゆっくりと上げた銀鏡は瞳がいつもと違う。色が変わるとか光ってるとかそういう類の変化ではないが、前に見た鋭い目つきだ。

「調子に乗ってるのはお前じゃないのか?」

そう言うと掴んだカクザの拳が軋む音をあげる。骨が声をあげて鳴いている様な苦しい音だ。途端カクザはその場にしゃがみこんだ。

「・・・ぐっ・・・ぐぅっ・・・」

えづく様な声をあげ上目使いに銀鏡を睨む。

「・・ぐっ・・・お・・お前っ・・・なんだ・・・その・・パワー・・・はっ・・・」

カクザの額には汗と血管がにじみ出る。相当な痛みみたいだ。それを見て奏とプキは静かに息を飲む。

「4人相手でも勝てるんだろ?俺一人に押されてないか?」

銀鏡は見下す様に言い放ちカクザを煽る。

「お・・・・お前っ・・・調子に・・・乗るなっ!」

カクザはしゃがんだ体勢から、右足を素早く銀鏡の左脇腹に向け蹴り抜いた。

パシッ・・・その攻撃をも銀鏡は左手で容易に受け止めた。さっきまでとはまるで違う。

「なんだとっ・・・・だが・・・」

「だが・・・なに?言い訳でもするつもり?俺に勝てない言い訳でも・・・」

「くっ・・・貴様ぁぁぁっ!」

銀鏡は両手を左右に払いのけカクザの体勢を大きく崩した。あまりに隙だらけな己自身にカクザは目を見開いた。

「今まで殺した相手でも思い出しとけよ!」

カクンッとその僅かな間合いを詰めた銀鏡は、がら空きの腹部に痛烈な右を浴びせた。

「ぅぐっ!がはっっ!」

多量の血を吐き出したカクザは空中に舞う。その間合いに更に詰め寄る銀鏡。バレエを彷彿させるような軽やかで美しいステップで一瞬で前に立つ。

「それと・・・」

そう呟くと銀鏡は左足を軸に立ち右足をあげ折り曲げた。そして折り曲げたその右足を解放するかの如く、強力な足のバネを使いカクザに向け振り抜く。

メリッ!右足はカクザの腹部を深く抉る。空気を圧縮、コンマ一秒の無限の時間が過ぎる。

瞬間。圧縮された空気が豪快に拡散した。そして止まっていた一瞬は砕け、カクザは自然の法則に従った方角に吹き飛んだ。

「・・・っ・・・」

言葉を発する事もなくカクザはフロア内の柱を数箇所貫き、床に転がった。

砕けた柱から立ち込めた煙がゆっくりと薄れ、銀鏡は口を開く。

「俺のホントは足だから。そこんとこよろしく」

その言葉はカクザには届かなかった。もともとの白目のまま仰向けでピクリとも動かない。

間も無く現れた静寂に微量の不気味さも漂う。

――しゅ・・・瞬殺?・・・――

奏は訳がわからなくなった。序盤の劣勢はなんだったんだ?

「ちょっと蓮っ!かなでちゃんがいるんだから最初から本気でしなさいよ!」

装備を片しながら銀鏡に対し、分かりやすく苛立ちを表しながら歩み寄る麗奈。

「え~、だって虚神に俺の強さを見せようかなって思って」

「もうっ!私の攻撃はちょっとグロイからあんたに任せたのに!」

「も~いいじゃん勝ったんだから、ごめんって」

平謝りをする銀鏡。少し前の戦いはなんだったんだと思える程の和やかな雰囲気を感じる。

「流石です!銀鏡さん!麗奈さんっ!」

「ふふっ♥ありがとプキリン♥」

軽いウインクをプキに飛ばし直ぐに奏の方に振り向く麗奈。

「か~な~で~ちゃ~ん♥」

「おふっ」

奏は突然繰り出された猛牛の様な突進に吹き飛び、自然の流れで麗奈にマウントポジションをとられる。こんな状況だというのに当然の様に服を脱がそうとする。

「おいっ、やめろ麗奈!」

「や♥だ♥頑張って戦った私にご褒美はないの?」

見下ろしながら色気のある表情を見せる麗奈。少し頬を赤くしつつも疑問をぶつける。

「ご褒美って・・・そんなのない!というか麗奈。今の戦いお前は本気だったのか?」

「どうして?♥」

「いや・・・攻撃を弾かれて動揺してただろ」

「あぁ♥あれね♥だって狙ったポイントから1ミリもずれたのよ?」

「1ミリ?たった1ミリか?」

「そっ♥ありえないわよ♥やっぱり異常者は疾いわね、次からはもっと修正しないと・・・

 それに今回の私はサポート♥一発も生身に当てるつもりはなかったわよ。だってかなでちゃんに悪影響でしょ?♥」

「そう・・・そうなのか・・・」

――こいつらの感覚はやっぱり異常者ってことか・・・――

奏は素直に関心した。だが少し意識をぼんやりさせた間に奏の胸部はえらいことになっている。麗奈は既に上から3ツ目までのボタンを外すことに成功していた。

「麗奈さんっ!ダメですよ!」

「プッ、プキリン!もう邪魔しないでっ♥」

「いぃぃやですよ!全力で阻止します!」

「あら♥どう邪魔をするのかしら?」

「その前に二人とも俺の上からどけろっ」

はっと覚醒した奏の上には麗奈とプキが座り込み言い争っている。銀鏡がそれを見てクスクスと笑っていると、崩れた柱の瓦礫からおぞましい息吹が聞こえだした。

「ぉぉぉぉぉぉおおおおっ!」

叫び声だ。まるで狂った獣の様にカスレた声をフロア一杯に満たした。至る所が震えその声に意思を持たない壁、柱、フロアが恐れているかの様だ。

「なんだっ?」

直ぐに反応しその声の出処を確認する為に見たいのだが、そこは仰向けになっている頭の方からの声だ。麗奈とプキが乗っている以上起き上がり見る事が出来ない。

「おいっ、どけろ!見れないだろっ!」

必死に足掻きどけようとするが女二人は動こうとしない。むしろ冷静に声をだす。

「あら・・・・まだだったのね♥」

「確かにダメージが少なかった様ですね」

「ん~、流石にひと蹴りでは勝てないか」

銀鏡はもう一度鋭い目つきを発動させた。じっくりと瓦礫をかきわけ這いずり出てくるカクザ。単純に怒りだけを表し額には大量の血管が浮き出している。掌に収まらない程大きな石を片手で砕き怒気を発散している。

「強いなっ!強いなお前達っ!流石はアグニが敵と認めただけはあるっ!」

口元に一筋の血を流しながらカクザは笑う。その笑顔はどこか不気味だ。

「あいつ、まだピンピンしてるぞ」

どうにか女二人を跳ねのけた奏はカクザを見た。一歩一歩重みのある足並みでこちらとの距離を詰めてくる。すると麗奈が軽い腰を上げた。

「蓮っ、遊びじゃないのよ。手を抜いたの?」

「そのつもりはないんだけど、やっぱり強いよ、異常者は」

ドンッ!急にカクザが加速した。大きい体型からは想像出来ない速度を容易に出す。もちろん狙いは銀鏡だ。だが本気になっている銀鏡には当然反応出来ている。

距離5メートル。銀鏡とカクザの距離がそこまで縮まった時、銀鏡は左の口角をややあげた。そして側転をし、着地するタイミングで右足を振り下ろし、迫り来るカクザに対しドンピシャでその蹴りをヒットさせた。

バコォ!とカクザの顔面がフロアにめり込んだ。その周囲2m、円形のクレーターが突発的に現れる。だがカクザはめり込んだ瞬間に両手をフロアにつっぱりその状況を打開した。

「グレート・・・」

カクザは右手を後方に折り曲げ呟く。グレートガン。先ほどの強力な右ストレートだろう。銀鏡は咄嗟にバックステップし距離を置く。

「マグナァァムッ!」

「なっ・・・」

バックステップにより5メートル程の距離があったハズだ。その空間に放たれたカクザの拳。ガンではなくマグナムに変わった名称の技、それは単に名前が変化した訳ではなかった。振り抜いた拳は何も捉えていないのだが、そのインパクトで空気が爆散した。それは5メートルの距離を伝い銀鏡に迫る。

「うっ!」

まるでうねる龍のように伝った空気の振動と波動。銀鏡の全身に殴られたかのような衝撃が突き抜ける。

「なによあれ」

「あんな事が可能なんですか?・・・」

「パンチの速度が早すぎて衝撃が伝ったってことなのかしら?」

「ですかね・・・さっきまでとは少し様子が違います・・・」

「気をつけろ、麗奈」

「うん♥ありがと♥かなでちゃんっ!♥」

テンポよく会話をした麗奈は勢いよく飛び出した。しかし麗奈は遠距離援護タイプのはず、なのに何の見境もなく狂うカクザに迫っていく。

「貴様もだっ!」

今度は両手を折り曲げ麗奈に狙いを定めたカクザ。麗奈は前傾姿勢でまだ走り続ける。

「ギャラクシー・・・」

呼吸を止め両腕の筋肉を最大限に唸らせた。そして言葉を吐くと共に両腕を解き放つ。

「グレネードォ!」

二筋放たれた空気の衝撃波、それも龍のようにうねりながら不規則に麗奈に向け飛空する。

「おっそい♥」

クスリと笑い甘い声をだした麗奈。高速で走りながらフロアの天井いっぱいまで大きくジャンプした。カクザの衝撃波を回避しそのままカクザの背後へと着地する。

「うっ・・・うぅ・・」

突然苦しむような声を出したカクザ。奏がカクザの顔を見てみるとなるほど納得がいった。

麗奈の手元から伸びた純白の太い線。カクザの首に巻き付きキツく締め付けている。

麗奈はグンッと無慈悲にそれを引く。青白い華奢な腕からは想像も出来ない腕力。流石は能力値異常者だ。自分より何回りも大きいカクザの巨体を頭上へと運ぶ。

シュルルっと宙でムチを器用に離すと瞬時に折りたたみ綺麗なふくらはぎに装着、コートから二丁のショットガンを取り出し頭上に構える。この間、恐るべきことに約1秒。

グラマラスな目元は小さな殺気を帯びた。

「殺しはしないわよ」

そう言うと両の人差指を折り曲げた。それにより二つの銃口から爆炎がおこる。通常ショットガンの弾丸は炸裂弾。ランダムに弾け飛び前方広範囲に攻撃を浴びせる目的、つまり数うちゃ当たる方式だ。だからそれを計算して弾け飛ぶすべての弾丸を当てる何てことは常識的に考えて有り得ない。むしろ不可能である。だが麗奈は異常者、それを可能に出来るみたいだ。さっきの攻撃時でもそうだったが近距離でショットガンをブチかまし、プレート非装備の顔などには一切当たっていない。カクザが躱しただけとでも考えられたが今回のこの攻撃でそれは前者だと理解する事ができた。

近距離で放たれた二丁のショットガン。それは全てプレート部分にヒットした。だが近距離でのあまりの衝撃にカクザは意識が揺れる。

「蓮っ!」

弾圧で対空時間に若干のゆとりが生まれたカクザの下に銀鏡がスタンバイし、麗奈は距離をとった。

「はいはいっ」

重力により落下を開始するカクザに対し、銀鏡はしゃがみ込み反発を利用して飛び上がる。

途中回転を加え接触の瞬間に右足を解放する。

「衝波っ(しょうば)!燕」

深く食い込む靴底。カクザのボディプレートを抉り、衝撃は内臓を巡り背骨から後ろに向け放出された。

「がはっ」

大量の流血を見せたカクザ。だがそれだけには留まらず、回転を含んだ蹴りの衝撃は勢いを増し体を天井へと誘う。

ドォォン!天井にめり込んでも尚走り続ける衝撃の余韻。天井は砕け落ちカクザはフロアへと着地した。それは着地というよりは飛行機の墜落。激しく叩きつけられ落ちたカクザは間も無く確実に意識を消失させた。

軽くフロアに降り立った銀鏡は、その長身から倒れた男を見下ろした。表情は何処か得意気だ。しかし銀鏡のドヤ顔ムードをあっさりと切り捨てるように麗奈は後ろからお尻を軽く蹴飛ばした。

「最初っから使えってのよ。バカ蓮っ!」

「痛っ、勝ったのに」

「結果も大事だけど経過も大事よ。かなでちゃんが不安にならないように圧勝しなきゃならないのよ」

「分かったって。これからはちゃんとするよ・・・・」

学校生活でこの二人を見ていた奏は意外性を感じていた。いつもバカばかりする麗奈、チャラけてはいるがその麗奈を巧みに先導していた銀鏡。それが奏のイメージだ。

だがこの戦いでの麗奈の頼りがいのある感じは随分なものだ。比べて銀鏡は強いものの堅調な様子ではなかった。それにしても・・・

――圧勝・・・――

そう、圧勝だ。能力値異常者に対し圧倒的な戦闘力の差で勝利した。奏が強さを信じていた宗治郎でさえ先の戦いでは苦戦を強いられていた。それなのにこいつらは・・・

「驚きましたね・・・」


頭上からまたもアグニの声が響く。そして淡々と感想を述べだした。

「まさかここまで圧倒的にカクザ君がやられるとは・・・申し訳ない。零君や氷の彼女以外は対したものではないと思っていましたよ」

「いいわよ。舐めててくれたおかげで簡単に勝てたわ、いくら異常者でも2対1、ましてや私の前では物足りないわね。蓮はオマケだけど」

おまけって・・・俺も頑張っただろ・・・。的な表情で麗奈を見つめる銀鏡。なんだかこいつは尻に敷かれているみたいだな・・・。

「そうみたいですね。ふふふ。少し気を引き締めますよ・・・美しいお嬢さん。

 では、次に進んで下さい・・・」

相変わらず紳士的かつ不気味な声を出し通信を切ったアグニ。

「次は・・・私と奏さんになりますね・・・」

プキはすかさず静かに声を出した。そして奏の目を見つめた。

「な・・・なんだ?俺には戦えないって言いたいのか?」

ヒネた様にプキを睨み返し言葉をぶつけた。

「え?違いますよ!どう戦おうか迷っていたんですよ。考えてみればツーマンセルで戦うのは初めてなのでっ」

焦ってプキは言う。そして一瞬麗奈と銀鏡はピクっと固まり沈黙を見せた。その行動に多少の違和感を感じた奏だったが気にせず会話を続行する。

「そういう事か、そこはお前に任せる。俺じゃまだまともな作戦は考えられない」

「そうですか?ん~それじゃあ・・・」

数十秒考えたプキの作戦。それはただ奏が後衛で援護するという作戦。援護といっても奏の攻撃方法は剣のみだ。射撃などの飛び道具はない為、プキと戦っているターゲットに隙が現れた場合攻め入るという美味しいとこ取りな作戦だ。

「分かった。それでいくか」

と奏は言う。が、この作戦の核心は奏に極力戦わせないという事・・・というのは奏には理解できていた。しかしここで我が儘を言ってもガキなだけだ。

「はいっ。では行きしょう」


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