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クロの神者  作者: ペケポン
第一章 プロローグ 全ての始まり
2/31

秘密組織?

秘密組織?


「私はコーヒーミルク、ミルク多めでお願いします」

フカフカソファーの上でテレビを見ながらだらしなく彼女は言っている。

おいおい、あのあと確かに巻いて帰ってきたよな・・・

彼は言われたとおりきびきびと準備をしながら少し前の思いにふけた。

――は?ふざけんな!じゃあな!ストーカーさん――

みたいな事を言ってダッシュで帰ってきたのに・・・

そんなことを思いつつ、オシャレなマグカップに挽いたブラジル産コーヒー豆をいれ、冷蔵庫のニュージーランド産高級ミルクに手をのばしていた。

――・・・これ飲ませて帰らせるか・・・しぶとけりゃ警察だな・・・――

とニヤリと目を光らせ、彼女にコーヒーミルクを渡した。

ずずずず・・・・

「うっっ!うまっ!なんですこれ!美味しいですよ!」

と彼女は声をあげて驚いた。そして味への衝撃で揺れる手から少し溢れている。

――はっ、当たり前だ――

この家の物は何もかも厳選した高級品。良い素材を手に入れる為世界中から物を仕入れているんだ。なんて思いつつ、久しぶりに他人に褒められたのが嬉しかったんだろう。

「そうか?そうだろ?」

自然と彼は小動物のようなはじける笑顔で答えた。彼としてもこの笑顔はある意味誤算だ。

「・・・っ・・・」

彼女はその笑顔に一瞬心奪われ、ほほを赤らめ目線をそらせた。

彼もそれに気づき少し戸惑いながらうつむいた。

「そ!それでですね!」

彼女は空気を変えようと切り込んできた。

「パートナー・・・の意味をお伝えしても良いですよね?」

彼は静かにうなづく。

「でわでわ」

彼女は人差し指を上げ、得意気に話だした。

「まずは自己紹介ですね。私の名前はプキ。と申します。

 年齢は内緒、身長152センチ体重はっと!うふふ・・ヒ・ミ・ツです。」

と訳の分からぬコミカルな冗談を挟みつつプキは話をきりだした。それにしても・・・俺と身長が一緒くらいなのか?と、彼は地味にショックを受けた。

「で!好きな食べ物はコーヒミルクです。他にもいっぱいあるんですけど言えないくらいあるのでとりあえず一つだけ」

「・・・・」

「嫌いな食べ物は特にありません!!

 炊事洗濯料理!なんでもできるオールラウンダーです!」

楽しそうに話を進めるプキとは反対に、彼は興味のない表情をし、ジト目で話を聞く。

炊事と料理が類義というツッコミもなしだ。

「あと好きな動物は・・・

「おい・・・」

あまりの意味のなさげな話題に彼は物静かに横やりをいれた。

「本題を言え」

そしてさげすむように冷たく言う。今言いかけた好きな動物なんて絶対に関係がない。

というよりそもそもこいつのプロフィールなんか興味はない。

「う・・ぉぉ・・・は・・はい!本題を簡潔に説明させて頂きます!」

唐突なお叱りにビビリながらもプキは、はきはきと説明しだした。

「パートナーっていうのはですね、私たちの組織の決まりで

 ツーマンセルっていうのがあるんです。あ!分かりますか?ツーマンセル?」

彼はイラっと頷いた。

「それで私のパートナーがまだ決まってなくてですね・・・・

 色々と組織で調べた結果・・・あなた!ということです!」

ニコリ、とプキは笑った。

「本当に出会えるまで時間がかかりました・・・いろいろと忙しくなってしまいまして。

 でもこれでようやくです!」

と続けて笑う。

――なるほど・・・つまるところコイツは馬鹿ってことなのか・・・――

プキのテンションはさておき、彼は少しムスっとした表情でプキに質問しだした。

「お前はプキって名前でどっかの組織の者・・・で?

 組織で何をしてて何でツーマンセルが必要で何で俺が選ばれたんだよ」

と言い放つ。そして気休めに自分用に淹れていたミルクを一口飲んだ。

プキは少し困った顔をした。

「ここからは承諾をいただけなければお答えできません・・・」

頑なに拒否をするプキ。何がそんなにダメなんだ・・・?

「じゃあこの話は終わりだ。意味の分からない話に付き合うつもりはない。すぐに出ていけ」

彼は冷たく言い放った。まぁでも当然の反応だろう。見ず知らずの者に組織の勧誘をされ、詳しい内容は教えてくれない。怪しいとしか思えないのは仕方がないことだ。なのにプキは引かない。

「はいと言って下さいよ!オッケーしてくれればなんでも話せます。体重以外なら!」

頭を何度も下げながら懇願してくる。おまけに体重なんかに興味はない。むしろそういう冗談を会話に含ませてくるな。と心から思う。

――本当強引な奴だな・・・警察にでも引き渡すか・・・――

彼はスマートフォンを右のポケットから出して110番を押そうとした。

プキもその行動を察知した。これはマズイと一瞬のパニックの後、口を開く。

「は・・・入らないと本当に後悔しますよ!あなたの世界も変わるはずです!」

適当なプキの必死な一言。でもこれは本心だ。

その一言に彼はピクっと指の動きを止めた。こいつの話には興味がないし、よくある宗教の誘い文句にも聞こえる言葉だ。でも、今の彼の心には響いた。

世界を変える。嘘でもなんでもかまわない。変えられるものなら変えてくれ・・・

最後まで聞くだけ聞いてやろうという決断にいたった。


彼はスマートフォンを丁寧にポケットに戻し、プキを見た。

「・・・・・・・続きを聞かせろ・・・。」

その一言にプキは目を見開いた。そして流れる様に彼に歩み寄り両手を握った。

「えっ!じゃあパートナーになってくれるんですか!?」

――こいつ!・・・なんでそうなる!――

強引に歩みよられるのには彼は慣れていない。顔が美少女のせいで女よりもむしろ男に言い寄られていた。だから女性に近寄られるのは苦手だ。頭の回転が熱で回らない。何を思ったのか、ついつい弾みで承諾してしまった。

「あっ・・・あぁ!・・・なってやるから離せ!」

彼は顔を真っ赤にしてプキの手を突き放した。そんな態度をとられているクセにプキは溢れんばかりの満面の笑みになった。

「あぁホントによかったです。契約書とか複雑な物はないんですけど上官さんからの命令で、イエスを相手の口から言わせたらオッケーですよ~。って言われてたんです。」

「いい加減な上官だな・・・」

「ですね!ふふ。これですべて話せますね!」

プキはソファーに座り直し、半分くらい残っていたコーヒーミルクを一口飲んだ。

「奏さんは虹の七神者っていう神話を聞いたことありますか?」

コーヒーカップをテーブルにコトッと置きながら首をかしげた。その話題以前に、奏は話出だしに目を見開いて驚いた。

「おまっ・・・俺の名前知ってたのか?」

「えっ?調べて来たんですから当然ですよ♪虚神奏さんですよね!」

プキは無邪気に笑いながら答えた。

――えっと・・ここでようやく自己紹介。こいつが言うように、俺の名前は

  【虚神 奏】うろかみ かなで。

  世界に名を轟かせる虚神家財閥の一人息子。この家の大きさはそういう事だ――

「・・・・・・まぁいい。続けろ」

奏は少し納得しがたがったが話の続きが気になった。

「はい!で。虹の七神者は知らないって事でいいんですよね?」

プキはまたも首を傾げながら奏を見た。

奏は、当然しらないだろっ・・・と思いつつコクっと頷く。

「分かりました。簡単に説明するとですね。今までの世界、日本の歴史の中で、名を馳せた有名人がたくさんいますよね?その中でも力を持っていた人物の中にに神者はいました。

 例えば~・・・織田信長さん!海外だとナポレオンさんとかアレキサンダーさんとかだったと思います!」

「まぁそいつらのことは習っているが、それが(しんじゃ)ってやつとどう関係があるんだ?」

奏はちんぷんかんぷんな表情で聞く。

「神者は簡単にいうと能力者です。神の力の一部を宿した人ってことなんです」

「はっ?神の力?」

「はい、七神者っていうだけあって、七つの力があるんです。

 火炎、大地、月光、草木、天空、氷水、夢幻。って感じの七つです」

「ふぅん・・・で。その神の力がお前の組織とどう関係あるんだよ」

「実は神者の発生率の高さが問題らしいんです。それが関係してきます!

 今までの歴史のデータでは、一時代に一人いるかいないかってぐらいらしいんです」

「この時代には多いってのか?」

「そうです!この時代にはもう3人の神者が見つかっているんですよ!

 これは異常なことなんですよ!と聞きました!」

少し前のめり気味にプキが言う。この一連の会話に奏は少し沈黙した。

いやはや・・・世界が変わるとは聞いたが、こんなメルヘン宗教どうやって信じればいいんだ・・・少し付き合ってやろうと思ったが・・・酷すぎるぞ・・・こいつ。

「お前・・・宗教は選んだほうがいいぞ?

 お前のとこは少し酷すぎる。もう少しそれらしい情報でもでっちあげろよ」

奏は目を細めてバカにした。

「えぇ!信じてくれてなかったんですか!?」

プキは頬をプクっと膨らませて怒った表情をした。でも少し可愛い。

「信じるには無理がある話だ」

「ひどいっ。何を隠そう私もその神者の一人なんですよ!?」

プキは涙目になりながら必死に訴える。

「はっ、それはすごいな。じゃあ何か能力でも見せてみろ」

という奏の意地悪な言葉にプキはニヤリと笑った。

「そうですね、そうすれば早く解決するんでした」

プキはそう言うと飲みかけのコーヒーミルクが入ったマグカップを持って、

「ちょっと見ててくださいね」

奏の前につきだした。

「なんのつもりだ?」

その瞬間!ピキキッ!

一瞬ヒヤリとした冷気が辺りを包んだかと思うと、コーヒーミルクが瞬く間に凍ってしまった。

「な・・・なんだこれ・・・・」

「信じてくれましたか?」

得意気な顔をしてプキは凍ったマグカップをテーブルに置いた。そこからはまだ冷気が踊るように立ち込めている。奏は固まった。プキに何かされたからではなく、驚いていた。

えっ?なんだ?今時の宗教ってここまできてるのか?っていう方の驚きだ。

「どうやったんだ?」

「だから言ってるじゃないですか~・・・神者の力ってやつですよ。

 ちなみに私の能力は(氷水)です。だから液体を凍らす事が出来ました」

ん~・・・これは信じていいのか・・・・でもまぁ少しは面白みのある宗教だな・・・

それにしても万が一本当だとしてもこいつが織田信長とかナポレオンと並ぶ位置にいるのが少し腑に落ちないな。と頭に過ぎりつつも奏はもうちょっと聞くことにした。

「はっ、とりあえず信じてやる。話を続けろ」

プキはホッとした表情で続けた。

「良かったです。えーっと・・・神者の数の異常まででしたね。

 そうです、それでですね、今現在の3人。私の氷水。あと大地と草木さんです。

 最初が大地。次が私で草木さんです。」

プキはたんたんと話し続けた。

「三年前に大地さんが発見されて私が候補として上がった時点で組織の設立が決まりました。二人とも日本で発見されたので本部は日本にあります。あと世界各所に支所があって私たち神者のサポートをしてくれます」

「なんでそんな大掛かりな組織を作る必要があったんだ?」

奏は席を立ち、冷蔵庫からミルクを出しながら聞いた。

「一つ問題が起こったんです。神者が現れた時代は何か大きな変異の起こる時代ってのが今までの歴史ですから一人現れた時点で世界政府は警戒をしていたらしいんです。

 二人目の私が出たときは天変地異の前触れかってくらいの大騒ぎらしくて・・・」

奏が再び入れてきたくれたコーヒーミルクを受け取りながら話を続けた。

「ありがとうございます♪それでですね、草木さんの発見前に問題が起こったんです」

ズズズ。プキはコーヒーミルクを一口飲んだ。やっぱり美味しい!みたいな表情を見せたがそのまま話を進めた。

偽者フェイカーが現れました・・・七つとは当てはまらない能力者らしいんです。

 最初は当然新しい可能性かと接触しようとしたみたいなんですが、接触者が殺害されたため危険視されたんです。もちろん、色々な対応策をしたらしいんですが、どれも効果はなかったみたいで。対抗を試みたらしいんですがあまりの強さに完敗だったらしいです」

――なんか話がシビアになってきやがったな・・・――

平然を装う奏だったが、話の綿密さに疑う余地の無さを感じ始めた。

「そこで、当初は神者の保護を目的としていた組織も方針を変更。

 唯一対処できうる力を持っている神者に対抗させる事になりました」

――対抗?・・・――

「はっ?てことはお前がその偽者と戦うのか?」

「そうなります。なぜだかわかりませんが偽者は神者を狙う傾向もあります。なので力のある者をパートナーとし、ツーマンセル行動が必要となったわけです」

「理解はできた。が、俺が力のあるものってどういうことだ?」

奏はミルクをすすりながらプキを見つめた。

「ん~・・・ちょうど二年前くらいから全世界で健康診断の人間ドックをうたった活動が強制的に実行されてますよね?実際、あれは健康の調査は二の次で、身体能力の高さを段階的に分けて候補者の割り出しと監視、または保護を目的とした活動だったんです。そこで奏さんの能力値が異常に高かったため、今にいたるということです。」

「は?俺は神者ってやつなのか?」

自分自身が関係してるのか?奏は急にこの話題に吸い込まれるような感覚になった。

「いえ、まだ候補の段階です。この時代に神者が多いせいなのかはまだ分かりませんが、能力値異常者が明らかに多いんです。ちなみに能力値異常者とは奏さんみたいに世界診断時に数値の高かった人のことを指します。さっきの喧嘩を見て確信しましたが身体能力がずば抜けているのが奏さん自身実感していると思います。そういった力のある人が多いんです。

 早めに接触を試みて仲間にするか、悪意の確認をしないと事件につながりますので・・・」

今のプキの話で奏にはおおよその事が検討できた。

「あまり気持ちのいい話じゃないな・・・能力値が高いかどうかは知らないが、疑われているってことなんだな?」

奏は少し眉間にシワを寄せてプキを睨んだ。

「うっ・・・」

プキは申し訳なさそうに下を向いた。

「すみません・・・でも奏さんが何かを起こすかもしれない危険性だけではないんです。

 能力値異常者がフェイカーから狙われるかも知れない危険性もあるんですよ!」

力強く押し気味に話すプキに奏は条件付きの結論にいたった。

「分かった。意味はまだ理解しきれてないが、お前は俺のパートナー兼ガードマンってことなんだろ?」

「はい!簡単に言えばそうゆう感じにもなります!」

「・・・・なら一ヶ月だ」

奏はプキに向け人差指を上げて見せた。

「一ヶ月?ですか?」

「あぁ。一ヶ月だけ様子見でパートナーになってやる。その間何もなければ契約は破棄する!分かったか?」

奏はソファーから立ち上がり、見下ろしながら発した。

「うぅぅ・・・・一ヶ月は短い気もしますが、この際仕方ないです。」

プキは少しもじもじしながら承諾し、気持ちを込めた。

「この一ヶ月間!何か事件がおこるよう祈っておきます!!」


――・・・こいつ・・・事件は祈るなよ・・・――


「今日の昼飯はトマトの冷製パスタと簡単なサラダだ、時間がないからな」

奏はキッチンの前においてあるパスタケースを取りながら言った。

「はい!わざわざご馳走になってすみません。お手伝いさせて下さい!」

腕まくりをしながらプキが近寄ってくる。

「はっ、ついでだ。俺が昼飯の時間なんだよ。野菜洗って盛り付けろ」

さささっと段取りよくパスタの準備をしながら命令した。

「任せて下さい!」

プキは冷蔵庫から適当に野菜を取り出し用意を始めながら少し疑問を感じた。

「そういえば奏さんはおぼっちゃまなのに使用人とかは雇わないんですか?

 広い屋敷なのに掃除とか色々大変じゃないですか?」

奏は少しの間黙り込みながらトマトをカットした。

「はっ・・・俺は一人がいいんだよ・・・・・」

――・・いや・・・本当はそうじゃない・・・――

「だいたいの事は一人でできるし邪魔なだけだ」

――・・・・ひとりは・・・・・――

奏はそう言うともくもくと料理を続けた。

「そうなんですか。まぁ候補者さんは有能な人が多いですからね~」

そう言いながらプキはレタスをむしっている。

「で、組織名とかは教えてくれないのか?」

話題を変える様に奏は言った。

「あれ、名前を言ってませんでしたか?すみません!

 組織はローゼンクロイツと言います。日本語では確か薔薇十字団って言いますね」

プキがそう言うと奏は思い出すよう目線を上にした。

「ローゼンクロイツ?・・・ドイツで魔法研究してたとかいう訳の分からない組織か?

 神話的な組織だろ?」

「ん~、名前はそういう感じでそこからもらったらしいですよ。神者の能力も魔術的ですからね。魔法を研究。隠蔽をしていた組織の名前の受け売り的な命名じゃないんですか?

 あんまり分からないんです・・なんせ全て受け売りで・・・すみません・・」

と、真っ白い中くらいのお皿の上に、ちょっと不格好に野菜を盛り付けている。

「そうか。なんか聞いていくほど怪しい組織だな・・・で?パートナーの役目はなんだ?」

奏も四角の綺麗なお皿に、それまた綺麗にパスタを盛り付けている。

プキは野菜を盛り付け終え、シンクで手を洗いながら振り向いた。

「はい?とりあえずはこんな感じですけど?」

「・・・・・・はっ?」

奏は手を止めてプキを見た。と同時に嫌な予感が脳を巡る。

「だから、一緒に行動、一緒に生活♪離れずにいることがパートナーのお勤めです」

プキはにこッと笑った。

「はぁぁぁ!?お前一ヶ月間ずっとここにいる気か!?」

「え?もちろんです!」

プキは至極当然の様にきっぱりと言い切った。

――なんだそれ・・・それはない!流石に今日会ったばかりの訳分からんやつと

  生活なんてできるか!しかも女――

「ダメだ!パートナーはいいとして、俺の生活に干渉してくるな」

「えぇぇ~!それは困ります!せっかくオッケーしてくれたんですから!」

と、プキはまぶたに涙の雫をうるうると貯めながら泣きついてくる。

「そして近寄るな!」

奏はキッチンの壁にじわじわと追い込まれた。

「お願いします!パートナーがいないと困るんですよ!」

プキは頬を赤らめて今にも泣きそうだ。それにしてもコイツは強引だ。

「・・・・・く・・・・・そ・・・・・・・!」

それよりも顔を真っ赤にした奏はまたまた押し負けた。

「わかったよ・・・・・!勝手に住み着いてろ!」

奏は顔を見られまいと天井付近を見ながら怒鳴った。半強制的に受諾させた事に対してプキは何も感じていないかの如く新鮮に喜んだ。

「やった!ありがとうございます!

 私、プキは只今より一ヶ月。パートナーとして住まわせて頂きます!」

軍隊のような真似事の敬礼をしながら、にっこり笑った。


――意外な発見だ・・・・俺は女に弱かったんだな・・・――

奏は天井を見上げ小さく聞こえないようにため息を吐いた。あまりに絡みすぎないとここまで苦手になるものなのか・・・

お腹が減っていたのか、プキは奏の盛り付けたパスタを近くにあったフォークで一口食べた。

「あっ!すごくおいしいです!」


――・・・この女・・・――

――――――――――――――――――――――――――――

ザァッァァー

食べ終わった食器の片付けをしながら奏はプキに言う。

「おい、部屋は空いている部屋を使え」

奏はそう言いつつもこの状況?の不自然さに頭の整理はまだつききっていない。

「えっ?一緒の部屋じゃないんですか?」

――何を当然のように言ってんだ・・・――

「そんな訳ないだろ、俺はリビングで寝る」

「分かりました~。そうします・・・」

プキはちょっと悲しそうな顔をした。でもそんな顔をされてもこっちはこっちでこの状況の整理で余裕がない。しかし多少頭の隅に残っていた余裕が今後を冷静に考えた。

「あぁ・・・お前には関係ないが、俺は明日から学校でいないからな。おとなしくしとけよ」

「知ってますよ♪近衛学園ですよね」

「あ?あぁそうだ。はっ?お前」

奏は嫌な予感がした。それだけは勘弁してほしい・・・

「まさか・・・学校にくるとか言わないだろうな」

「まさかぁ~!流石にまだそれはないですよ♪」

プキは食器を仕舞い終え、手を拭きながら答えた。

――こいつ・・・読めない・・・――

「・・・・ならいぃが・・・」

奏は疑心暗鬼の表情で少し怪しむ。怪しげな宗教、それと妙に正確な情報網。こいつが真実か嘘かを掴みづらい。でも奏自身の情報は家柄もあるし誰でも探ればすぐ分かるのか・・・

などと考えているとプキは思いついたかの様に切り出す。ほのかに豆電球のシルエットが浮かんでいるかの様な錯覚に落ち入る程だ。

「あ!そぅだ!奏さん!上官さんと連絡とってもいいですか?

 条件付きとは言え、一応パートナーに決まりましたので!すっかり忘れてました」

奏は興味があった。確かに嘘か真か分からない話だが、こいつよりも上官とやらに聞いたほうがいいだろうからな。そもそも上官とやらも怪しいものだが・・・

「あぁ、俺も興味がある。」

「はい♪では報告させてもらいますね」

というと、んっ?どっから持ってきたんだ?と思う位の16インチくらいのモニターを出してきた。そしてテーブルの上に周りの物を駆使して立てかけた。

――本当に・・・一体どこから・・・――

「これをこうして・・・・こうして?・・・・・こう?」

モニターはタッチパネルみたいだ。せっせと操作しているが・・・

――ハテナが多い・・・大丈夫か・・・――

「こぅ!」

プキはモニターの画面を触りまくって何かの機能を起動させた。

ピピピ。画面が一度暗転すると【Rosencroitz】の文字がスタイリッシュに現れた。

――・・・どこかに繋がったのか・・・?――

「あ!クリ!じゃなかった。上官!今回の任務の報告です!」

すると薄めのモザイクのかかった人の影が・・・そして変声機能のかかったエラく太い声で応答してきた。

「はい~。私ですよ~。本人がでちゃいました~」

太い声だが少しとぼけた女ってことが一瞬で分かる。

「どうでしたか?あらっ。どこかの家にいらっしゃるのですか~?」

続けて太い。

「ふふ・・・そぅなんです!オッケーいただきましたー!」

とプキは満面の笑みでガッツポーズをしながら画面に近づいた。モザイクの女も手をパンッと合わせて喜んでいる?のがモザイク越しに分からない事もない。

「わぁ!すごいじゃないですか!プキさんならやれるって思ってましたよ~!」

――しかし・・・声が太すぎて喋り方のギャップがひどい――


「それでですね・・・・・・」

「まぁ・・・・・・」

「そうなんですよ!・・・・・・」


――話が長い・・・――

なんてことを思いながら奏は考えた。このプキ。上官のキャラクター。絶対に世界政府とか何かを敵に戦うとか真剣な感じはないだろう・・・の割にモザイク、変声とか手が混んでるな・・・本当にラインが微妙過ぎて読めない・・・。

考えているうちに話がおわったのか、プキがいきなり腕を引っ張ってきた。

「なんだよ!」

引っ張られるがままモニターの前に連れて行かれた。

「まぁぁぁぁ!こんなに可愛い女の子だったんですかぁ~?」

モザイクごしに手を胸の前に合わせ上官とやらがいらぬことを言う。

「だから!男の子なんです。こんな綺麗で可愛いんですけどね。」

「初めまして~。私。ローゼンクロイツの最高責任者、クリスと申します。あっ、レヴィちゃん。映像と音声戻して下さい~」

「分かりました。加えますと男性という情報はちゃんと提示しています」

「えっ?そうでしたか~?」

無機質的な声の女の子と画面のむこうで会話しているのが分かる。

パッ。画面上のモザイクが取れて女の人が現れた。またか・・・

星空のように輝く銀色の髪の毛。胸くらいまでの長髪で緩やかなウェーブがかかっている。女女している体つきが組織の制服の上からでも見て取れる。吸い込まれそうな銀色の瞳は、延々と輝くダイヤモンドのようだ。

だが、最高責任者にしては見た目の年齢が比例してないように見える。イメージではお堅い岩の様な男か長老の様な威厳のあるおじいさんだったのだが・・・

「お前が最高責任者なのか?」

奏はストレートに疑って聞く。

「ちょっ!失礼ですよ!?」

「いいんですよ~。お願いしてるのはこっちだったんですし。そうですよ~。最高責任者にしては少し威厳が足りませんかね~。ふふ」

「・・・・・・」

奏はどう返すかすぐには考えつかず黙った。もし本当なら確かに失礼な気がする。

「あ、プキさんから色々聞かれたんですよね?もう状況は把握できたんですか~?」

クリスは微笑を浮かべて柔らかい声を出した。その笑顔に奏は目線を逸らしほっぺを人差指で少し撫でて言う。

「ローゼンクロイツの敵?・・・フェイカーとかいう存在が分からない。実際存在するのか?」

「はい~。ですが少し説明不足ですね~。フェイカーだけが敵になりうるという訳ではありません。虚神さんと同じ能力値異常者の中にもその可能性はあるんです~」

「敵になる可能性ってことか?」

「はい~。現在、虚神さんのいらっしゃる日本だけでも能力値異常者が6人確認されています。接触できたのは虚神さん含めて4人なんです。

 あとの2人も早めに接触をしたいんですけど、今のところ所在が分からないんですよ~」

真剣な話のはずなのに首を傾げながら言うクリスはえらく可愛い。

「日本だけで6人?・・・世界規模ではどうなんだ?」

奏はすっかり話に食いついている。

「世界規模では13・・えっ?・・あっ。18人です。日本がかなり密度が高いですね~。

 世界支部が捜索に力を入れているんですけど・・・18人以外にも確実にまだいると思いますが。今のところ9人と接触。そのうち2人が亡くなりました」

クリスはレヴィちゃんとやらに指摘されながら危なっかしく答える。

――ん?・・・待て?・・・――

「死んだ?・・・」

奏は驚いた。

「はい・・・接触時に反抗されたためです。能力値異常者は力がある分精神面にも異常が生じることが多い様なんです。残念なことだったんですけど・・・・」

「反抗?殺す必要はあったのか?お前らみたいな組織が来たら驚くだろ?」

奏ではモヤモヤした気持ちで体が疼いた。

「こちらの接触態度に問題がなかったとは思いません。何か悪い点があった可能性もあるかも知れません。ですがこちらのエージェントさんが何人も殺害されました・・・・ 

 本当に・・・本当に仕方がなかった事なんです」

真面目な顔で少し寂しそうにクリスは言った。余程の事情なのか、それともこいつら組織の演技なのか・・・しかしクリスと短時間会話しただけだが嘘をつける人だとは思えない。

だけど奏は言う。

「これからもし、万が一。フェイカーや敵対する能力値異常者と遭遇することになれば、殺さなければいけない状況がくるってことなのか?」

追い込むように迫った。

「そうしなければまたこちら側の誰かが死ぬ。なんて状況に陥れば・・・できれば話し合いで解決したいのですが・・・」

またクリスは悲しそうにした。

「・・・分かった。十分だ。この一ヶ月間、何もないことを祈るよ」

落ち込むクリスを少し気遣うように奏は言った。

「はい・・・そうですね。一番は何も起こらないことなんですが・・・」

「あぁ・・・」

「・・・・・あ!忘れてました~!」

奏が低く頷いた後クリスは何かを思い出した。だって一瞬豆電球のシルエットが・・・こいつらの間で流行っているのか?

「プキさん~?」

「はい!?」

プキは奏の下側からひょこっと出てきた。

「近々そちらに大地、草木ペアさんがお見えになるそうですよ~」

「えぇー・・・・あの2人が来るんですか・・・?」

プキは露骨に嫌そうな顔をする。誰なんだその二人は。

「はい~。さっきレヴィちゃんに連絡してもらったんですけど、どんな奴か見てやる!って意気込んで返事がきたそうですよ~?」

――さっきってほんの数分まえだろ?返事早いな・・・そいつら――

「いつごろ来るんですか?自然ペアは?」

「来週末には行くでしょうね~。今はロンドン支部で任務の最中ですから」

「分かりました・・・また何かあったら連絡します!」

「はい~。奏さんもお元気でいて下さいね~」

クリスはにっこりと笑い手を振ってきた。奏は少し照れくさそうに頷いた。

プツッと画面が暗転。【Rosencroitz】の文字が出たあとホーム画面に戻った。

「って感じですね!報告もできましたしこれでばっちりです」

プキはびしっと振り返る。

「責任者の女、かなり若く見えたが本当にあいつが責任者なのか?」

「ちょっ!失礼ですって~。上官さんはあぁ見えて成人してますよ?」

「?・・そうなのか・・・」

奏は意外な驚きでちょっと硬直した。

「そうです。確か天才すぎて最年少なのに責任者になった神童さんとかだったと思いますよ!」

プキはこめかみに手を当てて悩ましそうに言う。

――こいつが言うと本当でもバカに聞こえる・・・――

「はっ・・・まだ信じきれてないが、少しはそれらしくなってきたか」

「はい!というか本当の話ですって!」

そう言いつつもプキは嬉しそうな顔をした。


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