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クロの神者  作者: ペケポン
第一章 プロローグ 全ての始まり
14/31

お助け大作戦

お助け大作戦


この作戦は救出作戦だ。プキが勝手に名づけた作戦名は【正義の味方のお助け大作戦】。

センスの無さには突っ込む気はないが、内容はいたってシンプル。

奏が正面から入り相手を陽動。プキ、宗治郎が各自の判断で奇襲攻撃をかける手筈だ。

――2人の状況はっと――

奏は少し胸の高まりを感じつつ、2人の状況を目で追った。宗治郎は建物の背面から屋上へとスルスルと上がっていく。武士というより忍者か。プキは・・・自分の考えがまとまらなかったのか、宗治郎について行っている。

――まぁあいつについていれば安心か――

奏は首に下げた銀のペンダントを懐から取り出した。

――考えてみればなぜか人助けをする事になってる・・・まぁ成り行きだが・・・

  あいつが来る以前なら想像もしなかったな・・・――

奏はペンダントを額に当て、想いを込めるかのように目を閉じた。

ピピッ。プキからの配置完了の合図だ。流石にさっきあれだけ教えたから成功させたか・・・

といっても合図を鳴らすという操作だけだが。ペンダントを懐に戻し、覚悟を決めた。能力値異常者、神者の戦いを目にしてからというものの、一般人相手にでも多少の緊張感を抱いてしまうのが今の奏の心境だ。前なら何の迷いもなく殴り捨てていたのだが・・・少し衝撃の強い戦いを見すぎたか。

――いくか――

奏は草むらから身を乗り出し、入口の方に歩いて行く。入り口は多少ガタのきている両開きのドアだ。ゆっくり開いてもギギィと音が響きそうな感じだ。しかしこんなに接近しているのに誰も出て来ない。なめているのか?窓はすべて板木で閉じられており中の確認はできない。

――作戦通り・・・正面から入るか――

プキ、宗治郎が待機しているしそこまで恐怖はない。

ギギィ。と扉を押しあけた。はずだったのだが・・・

ガガッ!扉は固く閉ざされておりビクともしない。

――やば・・・鍵は計算になかった・・・どうする・・・――

想定外の事態に慌てた奏だったが作戦は難なくスムーズに進んだ。

「誰だ!」

扉の向こうから男の怒号が聞こえる。ピンチだがチャンスだ。ガチャン。と扉の鍵を開ける音が次々とする。重たく響く金属音が使用している鍵の大きさを物語っている。しかも何個も仕掛けてあるとは。

――はっ、これじゃ開くわけがないな・・・――

と、鍵が全て開くのを待っていた時。

「何かあったのか?ドアには手をかけるなと言っておいただろう?」

冷たく、それも桁違いに落ち着きを感じさせるクールな声が聞こえた。

「あ!すみません!扉を開けようとする音が聞こえたので、怪しい者かと」

「怪しい者?・・・・・・・・いやそうじゃない。多分僕たちの大事なお客様だ。」

「客人・・・ですか?そのような話はなかったのですが・・・」

――クールな声の方がこのグループのトップなのか?――

態度で大体が察知できた。

「開けてやってくれ」

「は、はい。分かりました」

よしよし。好都合だ。何者かと勘違いでもしているのか?奏がそう思いドアが開くのを待っていたその瞬間。

ピッ、何かの音がドアの向こうで聞こえるのを感じた。それと同時に奏に不安がよぎる。

――まさかっ!――

即座に後方へとステップを踏む。だが時同じくして不安が的中した。

ドォォオン!古びたドアが勢いよく爆発。飛び散る破片をステップでどうにか躱し、身体的なダメージは免れることができた。しかしいきなり爆弾を使うとは・・・

――耳が痺れる・・・――

爆音で両耳を少しやられたみたいだ。奏は煙の中歩いてくる男に視線を向けた。その男は知的な風貌、落ち着いた物腰だと一目で分かる。多分声の主だ。腰に差してある見慣れない剣は何かを物語っている。

――こいつか・・・・――

さっき見ていたリストの【unknown】の男。橘真琴たちばな まことだ。

そいつはかけてあるメガネのブリッジを右手の中指でクイッと押し上げて言う。

「こうすれば大体の客は死んでしまうと思ったが・・・それを察知して躱したお前は何者だ?」

零並の身長のその男から見下げられる眼光は、色を含んでいないかのような異様さを放っている。そう、まるで心を塞ぎ込んでしまっている様に感じ取れるのだ。

「お・・・俺は迷ってここに来た」

「迷う?・・・こんな所にか?僕をバカにするなよ?」

橘はそう言うと腰の剣に手を触れる。風貌とは違いずいぶんと短気な様子だ。

「バカにしてない!本当だ!」

奏は必死に注意を自分に向けようと声を張る。

――作戦開始だ――

こいつらの注意が奏に向いた瞬間。

ドンッ!

一階の天井の一部が切り刻まれて落下した。同時にプキと宗治郎が空いた穴から降りたつ。

「奏さん!大丈夫ですか?」

着地の瞬間に踏み込んだプキは、愛刀・朧桜を抜き前方に構えた。そして建物一階にいたヤクザのような男6人に対し向かって行く。ヤクザは突然の事態に驚いたが銃を構えようと懐に手を伸ばす。だがすでにプキは瞳を輝かしていた。青白いライトエフェクトが移動するプキの目から線の様に後を追う。

「なんだお前らは!」

怒号を放ち、銃を構えたヤクザの腕がみるみると氷に包まれていく。

ピキキキ

「なんだこれは!手が!」

「俺もだ!」

「ぐあぁぁぁぁ」

凍る手の痛みにうずくまるヤクザ達にプキは止めをさす。

「はぁっ!」

高い声を胸から出し、裏返した刀と蹴りで6人を瞬く間に吹き飛ばした。

「ん?こいつらは何者だ?お前の仲間か?」

仲間がやられている状況なのに橘は表情一つ変えない。それどころか面白い見世物を見るかのような瞳をして見物している。

湧いて出てきた残り5人のヤクザは宗治郎が迅速に処理をし、二人は外に歩き出た。

・・ ・ ・

「ふーん」

橘は奏に背を向け残り2人の方を正面に向いた。プキ、宗治郎も刀を構え、橘を視認する。

「この子が囮で君たちが本命ってこと・・・なのか。ははっ。すっかり作戦にはまったよ。

 で?何者?警察?僕を捕らえにでもきたのか?」

言葉を並べる橘にプキは言う。

「警察・・・ではないですけど。あなたたちが誘拐した女の子を助けに来ました!」

「ん?じゃあ何だ?人助けのボランティアなのか?ふふ。君たち。おもしろいな」

「笑い事じゃないですよ!」

「いやいや・・・くくく。本当に面白い人たちだ」

話が成り立たないな・・・奏は2人のやり取りを背後で黙って聞いていた。

「それで?僕をどうするつもりだ?」

薄ら笑みを浮かべて橘は続けた。

「ど・・・どうするって・・・悪いことをしているんだし・・・捕まえます・・・よ!」

――そういや助けるってだけで悪者の対処は倒すしか考えてなかったな――

動揺するプキを見て奏は冷静に考えていた。

しかし倒すと言ってもあのヤクザ達のようにはいかないだろう。シークレットデヴィアントで、しかも本能的かどうか分からないが得物に剣を選択している。これはかなりの確率で能力値異常者の可能性が高い。橘は右手で腰の剣をゆっくりとなぞる様に抜いた。やはり見たことないタイプの剣だ。

「捕まえる?・・・僕をか?」

だらけた構えをし、左手でメガネをクイッと押した。

「そうです!」

プキが念を押した。

「おもしろいね。でも・・・少し面白くないな。君たちは多分僕と同じタイプの特殊な人間なんだろう?」

「・・・・・・」

「やっぱりね。動きが常人とは明らかに違うから分かるよ。君にいたっては氷を操ってい たみたいだしね。・・・ふーん・・・」

橘はそう言うとプキ、宗治郎を見定め、背後の奏も振り返ってジロジロと見た。

「僕達だけじゃなかったのか。そうだとは思っていたけど・・・」

この時、宗治郎は刀を構えた。

「やはり面白くないな・・・」

バッ!突然橘は常体を低くし、地面に這い蹲るかの様な構えをとった。

「一体、どのくらい強いんだ?」

フワッ、橘はうっすらと残像を残し瞬発的に移動した。何か動いてるのをどうにか視認できる程度でしか分からなかったが宗治郎へと向かっている。それは理解できた。

キィィィン!宗治郎は難なく橘のひと振りを防いだ。低い姿勢のまま移動したのか下方からの振り上げる斬撃だ。橘はニッと唇を引きつらせ呟く。

「新月」

フワッ。またも橘は消えた。というくらいの速度で動く。宗治郎には見えているはずだ。

ピクッと宗治郎は反応した。背後だ。体を前のめりにし、右手の剣を後方に返した。

キィィン!またも鳴り響く金属音。ビンゴだ。

――すごい――

奏は思わず見とれた。攻撃を防がれた橘は、タタンッとステップを踏み後方へと距離をとる。

「ははっ。すごいな。これを防ぐ人間に出会ったことはなかった」

「そうですか。褒め言葉ととっておきましょう」

「その余裕。ははっ。いいね!謝るよ。さっきの言葉は撤回だ。おもしろいよ!」

クールな様子から一転。橘は新しいおもちゃを得た子供の様に高揚していた。

キン  キン  キキン

素早く動き、低い姿勢から四方からの斬撃を宗治郎に浴びせる橘。

それを二本の刀で軽くあしらう宗治郎。どれだけ強いんだこいつは・・・

「ほら!」

「これも!この技も!」

「全部通用しないってか!」

笑顔を含んだ表情で中段右方向から斬りかかる橘。低い体制からの攻撃ばかりだったので少し意表を突いた形の攻撃だったのだが、宗治郎は分かっていたかの様に剣線の先に刀を構えた。

「繊月!」

「なっ!」

宗治郎が珍しくうろたえた。構えた刀に剣を交えた時にかかる重みと響く金属音がない。

「幻影?」

はっと感覚を磨ました宗治郎は下方を視認する。橘の剣が弧を描き迫っていた。

「くっ」

苦言を発し、体を後ろに反らしながら首を上げた。ブンッ。

どうにか橘の剣は空を斬る結果になった。しかし宗治郎はその体制からも技を繰り出す。

「鷹爪閃」

躱した勢いそのままに宗治郎はバク宙をした。それに合わせ二本の刀が宗治郎を中心に円を描く。

キィィン!その斬撃を橘は両手で剣を構えて防いだが、反動で5メートル程ずり下がった。

宗治郎は着地と同時に追撃をかける。二本の刀を前方にクロスさせ構えた。

ダン!強烈な踏み込み。踏み込み地点から反動が円を出して広がっている様に見える。

5メートルの間合いを目にも止まらぬ速さで詰め寄った。

「大詰!」

キィーーン!クロスした刀を相手の正面で開き斬る詰め技。加速したスピードと宗治郎の太刀筋の強さから、見ていた奏にも容易に想像できる破壊力だ。

橘は数メートル吹き飛んだ地点でそのまま仰向けに転がった。だが鳴り響いた音からして剣で防いだのであろう。致命傷は与えていないようだ。というかそれでいい。プキも戦闘に参加できない雰囲気を悟ったのか、いつの間にか奏の傍に来て戦闘を眺めていた。

「なんかすごいですね。横入りしたら怒られそうです」

「まぁな・・・」

奏とプキがぼそぼそと話していると、橘はモゾッと動いて立ち上がった。

「ふぅ~。まいったね。君。強いな。それも相当だ」

「あなたもなかなか。お強いですよ」

「ははっ。しかも謙虚だ。面白いよ。僕も本気を出さないと悪い気がしてきた」

少し口の中でも切ったのか、橘は赤い唾を地面に吐き捨てた。

――本気じゃなかった?嘘だろ?――

奏は橘を凝視した。こいつも確かに強い感じがするのだが流石にまだ底があるとは思えない。ハッタリ程度だと思っていたが。

「やはりそうでしたか・・・」

宗治郎はそう言うと細目を開いた。あの猫目だ。というより確かに宗治郎はキレたり気持ちが高ぶった時に瞳を開いていた。それを今まで開かなったのはそういう事なのか。

「じゃあ・・・」

橘はまた常体を低く構え、低い位置から宗治郎を上目遣いで睨んだ。

「いくよ」

フワッ・・・またも残像だ。橘は高速の移動を始めた。宗治郎の周囲の土が所々で跳ね上がっている。少しづつ間合いを詰めていく作戦なんだろうか。

キィン!橘は後ろから斬りかかったり、下方から斬り上げたりと攻撃を開始した。

やはり速い。確かに速いが宗治郎は見切っている。それを橘も理解しているはずなのにさっきと似た攻撃パターンばかりだ。攻撃を加えつつ橘は呟いた。

「上弦の月」

またも後方中段からの左から右へのなぎ払い攻撃だ。その剣閃を宗治郎は左手の刀で半身で防いだ。だが何か呟いたのだ。宗治郎は警戒を強めた。その時。

「宗治郎さん!」

プキが叫ぶ。奏はその意味を唐突には理解できなかったが宗治郎は察した。バッと宗治郎は空を見た。そこには無数の何かが落下してきているのが分かる。

「なるほど」

距離わずかまで迫ったそれに対し宗治郎は刀をクロスさせた。

「大詰!」

開き斬る斬撃で無数の何かを弾き飛ばした。カランと転がるそれはナイフだ。数にして6本のナイフが弾き出された。

――いつの間に投げていたんだ――

奏が転がったナイフを目で追い宗治郎に視野を戻した時。

「ぐっ!」

宗治郎の脇腹に痛烈な蹴りがクリーンヒットした。ミシッと音をたてめり込んだ後に衝撃が伝わる。空気が揺れ空間がはじけ飛ぶエフェクトを発しながら宗治郎は横に吹き飛んだ。

「!」

声を殺し吹き飛びながら気合を込めた。そして空中でどうにか体勢を立て直し地に足をつけ踏み止まった。

「はっ!」

心臓奥深くから吐き出す様に声を出す。その様子からして今の蹴りは中々のダメージだったのだろう。

「宗治郎!」

奏は気を使って叫んだが、今回は優しい目ではなく猫目で睨まれてしまった。

「大丈夫ですよ奏さん。しかしこの戦いに手を出す事は許しません」

ふー・・・っと長く息を吐き、構えを直しながら宗治郎が言う。

「でも!」

プキも心配そうに叫んだ。正直。宗治郎がダメージを与えられるのは予想外だった。能力値異常者の中でも群を抜いていると勝手に思い込んでいた2人だった為、今の一撃は2人心に動揺を刻み込んだのだ。

「それと・・・外野からの助言もやめてください」

――外野て!――

心配したのに少しけなされた感じがした奏は脳内ツッコミをした。

そろっと傍のプキを見てみると、

「・・が・・・外野って・・・・ひどいです・・・」

あぁ、なんか今にも泣き出しそうな位のショックを受けておられる。しかしこれは宗治郎なりの流儀なのだろうか。相手が1人なら1対1で戦うのが剣の道なんだろうか。そんな事を言っている場合ではないと思ったが、邪魔をすると本当に斬られそうなので奏は言葉を飲み込み戦いを見守る事にした。その会話を黙って聞いていた橘は剣を肩にトントンと当てた。

「いいね?宗治郎さんって言うんだっけ。その精神。今時笑えそうだけどそうでもないね。

 僕は良いと思う」

「そうですか。私もあなたの戦い方は好きですよ。他のお二方を狙わない姿勢がいいですね。大概。あなたがたのような方は真っ先に利用すると思いましたが」

「そうだろうね。普通はそうするかもね。でも女の子をいたぶる趣味はないし、そこの小さい男を斬ろうとも思わない。君達3人が現れて君を直感的に選んだよ」

「私も戦いたくて疼いていました。あなたにはまだまだ底がありそうです」

「ははっ。戦闘狂かよ。でも分かるな。せっかくバカみたいに名づけて作ってみた技も普通の人間には耐えられない。それを試せる相手がいたということは、嬉しくもあり少し悲しい・・・かな」

橘は下を向き、メガネをクイッと押した。

「分かります。ですが私の場合は嬉しさばかりが胸を躍らせますよ。あなたの様な強者と戦えて・・・」

宗治郎はそう言うと刀を構え直した。左足を前方に出し、左手の刀は腕を水平に相手に向けて

伸ばし、右手の刀は頭付近で構え剣先を同じく相手に向けた。

「私の名前は宇治宗治郎。天正宇治二刀流現師範代!」

突然大声を出した宗治郎に橘は刹那硬直したが、すぐに冷静な顔をニヤけさせた。

「っとに面白い。最高だ宗治郎さん」

橘は思い切り酸素を肺にいれ、顔に似合わぬ大声を出した。

「僕は橘真琴!現代を生きる異能者だ!」

叫び終わると同時に橘は体勢を低く構えた。

「最高の戦いをさせてくれ!」

そう言う橘からは最初とはまるで違うオーラを感じることができた。怖さなど微塵も感じとれないほどにだ。橘は軸足に力を込め、力強く踏み出し声をからし吠えた。

「宗治郎さん!」

ダダン!

――さっきより速い!――

奏がさっきまで見た速度を上回る脚力で橘は残像を残し消えた。そして宗治郎の周りを隙を伺うように走り周り詰めていく。宗治郎は目を瞑り静かに言葉をはしらせた。

「花車」

さっきの構えから顔付近の右手を背面に向いて振り切った。その反動を利用し、右足を軸にして回転の刀を浴びせる。

ブゥゥゥン!およそ数回転の単調な回転技のようだが・・・違う。刀のリーチよりも数十センチ長めに斬撃が放たれている。宗治郎の刀への力の伝え方が圧力を増加させている。

キィィン!激しい衝撃を浴び橘は大きくのけぞった。斬撃が全方位攻撃だったためヒットした。

「くっ」

残像は消え、ガードした反動でのけぞる橘がそこにいる。

「二刀・・・」

宗次郎は左手の刀を身体の右側に構え、右手の刀を天高く構えた。そして右足を力強く踏み込み間合いを詰める。

「両断!」

グンと攻め、両手の刀を十文字に斬りつけた。キィン!2本の刀は輝く火花を強烈に散らした。

・・・・・・・・・

――今のを防ぐのか・・・――

見物に精を出している奏はゾクッと背筋が痒くなった。体勢を崩した所に繰り出された宗治郎の技を、橘は右手の剣と咄嗟に出した小型のナイフで防ぎきったのだ。

「すごいな・・・けど!」

橘はバッ!と交えていた二本の刀を力で弾き返し、数メートルバックステップで距離をとった。そしてステップを終えたと同時に前方に迫り出た。シュッ。迫りつつ懐から数本のナイフを出し、宗治郎の頭に向けて投げつける。それを宗治郎は難なく捌いたが視界から橘の姿が消えた。

「くっ・・・後ろ!?」

宗治郎はがむしゃらに背面めがけて刀を振った。しかしそれと同時に背中に冷たい感覚が走る。

ブシュ!背中をかすめる橘のひと振り。下から仰ぎ斬る斬撃。

宗治郎は剣が背中に当たるのを察知し、自然と反対側に倒れこみ重傷をまぬがれた。

攻撃が成功した橘は慎重にも、バックステップで距離をとった。

「決まったと思ったけど・・・」

橘はまたも剣を肩に当て宗治郎を見た。

「ふふ。楽しいですよ。橘さん」

背中を流れる血は少なく、本当に幸いにも軽症だ。奏はヒヤヒヤしながら戦いに見とれていた。

「橘さん・・・・とても戦い慣れてますね。背後から襲うイメージをつけさせておいて頭部への攻撃。それを防ぐ際に少し視界が上がってしまいます。そして本人は体勢を低くしてそのまま間合いを詰める。イメージのせいで後ろに気を取られた所を攻撃する・・・・すごい人ですね」

と。なぜかプキが解説を始める。いつの間に解説ポジションについたんだよ・・・

と奏はジト目でプキを見つつもやはり戦いが気になるので目を背けた。

「まだまだ!」

宗治郎が構え直すのを見届けた後、橘は次の技を繰り出す。

橘は手に持っている剣を空高く放り投げた。そして懐のナイフを両手で取り出した。

「十三夜月!」

シュッ。シュシュ!連続でナイフを投げつける。しかし明らかに宗治郎から軌道がずれているナイフもある。

――コントロールミスか?――

あまりに外れた軌道に奏も少し目を点にする。

「厄介ですね」

宗治郎は猫目を凝らして周囲を見た。驚異的な速度で飛来するナイフの中、軌道のずれたナイフの後方に、夕焼けに照らされて光る細い糸のような何かがあるのが分かる。

――あれは・・・ピアノ線か!――

「はっ!」

橘は手をすばやく交差した。両手から光る細い糸が見える。

カクン!宗治郎から外れていたナイフ6本の軌道が変化し、宗治郎へと向かう。

正面からの7本のナイフと合わせ、13本のナイフが襲う。

「・・・・・」

宗治郎は感覚を研ぎ澄ました。周りの気配を察知。近づいてくるナイフの軌道、橘との距離、そして挙句は奏とプキの位置まで。強烈な集中力と感覚ですべてを感じ取る。

「はぁ!」

強く息を吐く様に言葉を乗せる。そして同時にナイフをほんの数振りで全て弾き飛ばした。

「月麗剣・・・」

だが地面にナイフが転がり落ちるよりも先に橘が正面に迫っていた。

・・・!・・・・

「三日月!」

キィィィィン!薄暗くなる空のせいもあり、交わる剣の火花がひどく綺麗に見えた。

その追撃を予測していた宗治郎であったが、想像以上の攻撃にカウンターの姿勢を取れず、二本の刀で防ぐのがやっとのことだった。ジジジジ。と技の反動で宗治郎は数メートルずり下がった。そしてお互いにニヤリと口を緩め笑っているかのように見える。

――・・・・――

もはや奏は言葉を失っている。すごい戦いはもう見た記憶があるのだが、それはお互いに強い敵意を持っていたからだと勝手に解釈している。相手を殺す。もしくは倒す。

その気持ちがあれほど残酷なまでに緊張感のある戦いをできる理由だと・・・

でもこいつらは何か違う。戦いが好きって感覚は伝わるのだが、それでここまでの戦闘をできる事に驚いている。今の一撃だってそうだ。ナイフで陽動し、気がそれた所に間合いを詰め、両手で持った剣を目いっぱい振り上げる。月麗剣・三日月だっけ?

明らかに当たれば即死。なんせ真剣。競技でスポーツマンシップにのっとってやっている訳じゃない。なのに楽しんでやっている・・・

「・・・・・・」

――異常者は皆こんな奴らなのか・・・――

奏は同じ異常者なのにあまり気持ちを理解できなかった。キィン!キン!橘のナイフと剣の巧みな攻撃パターン。対する宗治郎の鍛え抜かれた技の数々。常人には何か特撮の撮影かと思える程の戦闘だ。そのあとも2人は剣を交え戦い続けた。


作戦開始からどれくらいたったのか。多分それほど時間はたっていない。しかし空は暗くなり始めた。予想が外れたな・・・と思いつつ2人を更に凝視した。

「少し暗くなってきたね。どうする?飛び道具を使う分こっちが有利な気がするけど?」

橘はフェアな条件で戦いたいらしい。そこらへんは良い奴に思える。

「お心遣い感謝します。ですが自然の変化を理由に決闘を中断するなんてことはできません。続けさせてもらえますか?」

宗治郎はそう言いながら刀を構え直した。しかし遠目にも呼吸の乱れが目立つ。だがそれは橘にも言える事だ。2人は体力をかなり消耗しているように伺える。

――決着がつくのか・・・――

奏はふと思った。しかし真剣での決闘で、決着がつくということは・・・

その時だった。

バッバッバッ!薄暗い空の下。周囲から何個もの人工的な照明が奏達を明るく照らした。

――誰だ!――

眩しい光を防ぐ様に手をかざし、一番賑やかに思える一帯に目を向けた。

すると一人の女が堂々と前に歩み出てメガホン越しに叫んだ。

「警察よ!橘真琴!未成年者略及び誘拐罪であなたを逮捕します!

 あと他にも色々あるけどとりあえずそれ!大人しくしなさい!」

女の偉そうな警官が出てきた。その風貌は遠目から察するにミディアムヘアーの若い女だ。

しかし女とは分かるのだが胸元がいささか寂しい様にも見える。

宗治郎。橘も目をやった。橘は女警官の言葉を聴き終えると宗治郎を見た。

「これは?」

「すみません。分かりません。私もつい先ほどこの方たちに同行させてもらった身分なので・・・・」

宗治郎は横目に奏とプキを見た。その眼光で分かるのは余計なことをするな。の言葉。

だが二人にも何かをした記憶がない。おそらく察するにレヴィくらいの仕業だろう。

「私たちも知りませんよ!」

責任逃れに必死に答えるプキ。ついでに奏も首を横に振る。

「まぁ・・・いいよ。決着は次の機会にでもしようか。宗治郎さん」

橘はゆっくりと剣を収めた。合わせて宗治郎も刀を腰にさした。

「そうですね。しかしこの状況をどう回避するおつもりでしょうか?」

「簡単だよ」

橘は両手を上げ、女警官の方に歩みよっていった。

「も、物分りがいいわね橘真琴。手錠をかけてあげるからここまで来なさい。変な真似をするんじゃないわよ!」

拳銃を構えた四人の警官が橘を囲むように回り込んだ。

「さぁ両手を出しなさい。あんた強いらしいからすっごい手錠だからね」

奏たちはその状況をジッと見守った。捕まえるのを補助したら宗治郎に殺られそうだ。

橘が両手を差し出し女警官が手錠をかけようとした時。

フワッ・・出た。残像だ。高速移動で女警官の背後に回り込み、女警官の肩を両手でつかんだ。

びくっ!と全身を逆立てて驚く女警官。部下たちも信じられない事態に慌てた。

「さ!佐藤警部を離せ!橘!」

「動くんじゃないぞ!下手な真似はするな」

騒ぎ立てる部下たち。橘は佐藤の耳元にこそっと言葉を吐いた。

「佐藤警部・・・さんか。悪いけどまだ捕まるわけにはいかないんだ。お仕事の邪魔して悪かったね」

異常者というくくりにビビっていたのか佐藤は固まっている。

「じゃあね。まな板さん」

橘はそう言うとまたも残像を残し、姿をくらました。

「・・・・・・・・・・・・・」

ドサ。緊張が解けたのか佐藤はその場にしゃがみ込んだ。部下たちはその瞬間に慌てて何かの準備を始めた。

「私・・・容疑者を逃がした・・・ひぐっ・・・・無能なんだ・・・ひぐっ・・・」

「大丈夫です佐藤警部!今の相手は能力値異常者!我々一般人が捕らえられないのも仕方ありません!」

「そうですよ!佐藤さんは優秀です!」

痛々しい程のフォロワー達だ。なんなんだこいつらは。邪魔にしかなってないように見えるが、この佐藤警部とやらはすごく慕われているのが分かる。慕われるというか頑張って持ち上げられているのか?可愛いから。

「・・・ひぐっ・・・まな板・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・・・・」

そしてこいつらそこを一番フォローしてやれ。なぜ黙る。確かに悲惨だけれど。

奏は脳内ツッコミを繰り広げていたが大事な事を思い出した。

「プキ!さっきの女の子は?」

「あっ!そうでしたね!探しましょう!」

佐藤警部の慰めに必死な警察たちは使えない。奏たちは本来の任務を遂行する。

「・・・多分地下が怪しいんではないでしょうか?」


宗治郎の言葉通り地下を探して見ると女の子はすごく簡単に発見できた。階段を降りたすぐの6畳くらいの部屋に手錠も何もされてない状態で見つかった。さっきはガラス越しで分かりにくかったがかなりの美少女だ。赤みがかったボリュームのある巻き髪。フルーツをあしらった髪留めが可愛らしい。プキよりは少し身長が高そうだ。おまけにすらっとした体型なのにまな板じゃない。別にエロく観察してる訳ではない。一目見た感想だ。そして何より・・・寝ている。この状況でここまですやすやと寝れるものなのか。

睡眠場所はその部屋の真ん中にポツンとある純白のソファーの上だ。

「・・・おい・・・大丈夫か?」

珍しく奏が先導して女の子に声をかける。だが微塵の反応もなくスピースピーと目を覚まさない。しかし・・・可愛いな。

「すみませーん!大丈夫ですか~?」

プキの大声。

「・・・す~・・・・す~・・・」

ダメだ。反応がない。なんて危機感のない女なんだこの子は?プキがユサユサと肩を揺さぶったり髪の毛を触ったりしても起きない。あまりに起きないので、宗治郎が豆知識でまつげを触ったら誰でも起きるという事を進めてきた。

ここはモチロン女のプキの出番だ。女の子の長いまつ毛をプキが指でなぞった。

ピクッ・・・瞼が振動し反応らしい反応を見せた。加えてプキがもう一度追撃をかけるとようやく彼女は重たく瞼を開いた。

「・・・・ん・・・」

ぼんやりと半目でプキを見た。とろんとした大きな目は今にも閉じそうだ。

「・・・だぁれ?・・・」

その瞳は珍しいというか見たことがない色をしている。薄ピンクの綺麗な瞳。カラーコンタクトでも入れているのか?という結論で奏はとりあえず納得した。

「わたしはプキ。と申します。誘拐されたあなたを助けに来ました」

胸に手を当て自己紹介をするプキ。

「プキ・・・・ちゃん・・・・ゆ~かい?・・・」

「いえいえ!私は誘拐してませんよ!助けに来たんです!」

「たすけに?・・・だれを?・・・」

「あなたです!」

――最初に話しかけなくて良かったな・・・疲れるタイプだ――

数歩離れた所で観察し、奏は思う。プキが状況説明を寝ぼけた彼女に頑張ってしているのを数分聞いて、本題というか奏たちの自己紹介にたどり着いた。

「で、この2人もあなたを助けにきた私の仲間です!お二人どうぞ」

さぁ!自己紹介を!的なノリでプキがふってきた。

「私は宇治宗治郎と申します。ご無事で何よりです」

宗治郎は丁寧な物腰で一礼をし、優しく笑みを浮かべて挨拶を済ませた。

「・・・そ~ちゃん・・・うん・・よろしく」

――そうちゃんて・・・――

対して奏は対称的にふてくされた顔で面倒くさそうに挨拶をする。ま。照れているだけ。

「お・・・俺は虚神奏だ」

すると彼女はにこっと笑って奏に顔を近づけた。

「・・・かなちゃん・・・かわいい」

ドサッ!

「・・・・っ・・・」

奏は顔を赤くし激しく後退した。なんか久しぶりのやりとりだが・・・そうだそうだ。最近忘れかけていたが、奏はやっぱり女の子が苦手だ。奏の変な行動に反応せず、彼女はついでに自分の自己紹介を始めた。

「・・わたしはアプル・・よろしくね・・・」

独特の不思議オーラを放ちながらアプルは可愛く会釈をした。

「はい!よろしくです!」

「よろしくお願いします」

「・・・・・よ・・・よろしく・・・」

「あぁでもよろしくしたいんですけど、アプルさんは警察の方に保護してもらった方がいいんじゃないですか?」

正論だ。プキが正論を口にした。

「まぁ・・・確かにな。俺たちで保護は難しいか。クリスとかに聞いたらどうにかなるだろうけど、保護は警察で十分だろう」

奏も続ける。だが宗治郎は意外な事を口にした。

「いえ・・・私たちで保護できないでしょうか?」

奏とプキは驚き、くりんくりんの目で宗次郎を見た。

「私たちでですか?・・・警察の方の方がいいと思うんですけど・・・」

すると宗治郎は何も言わずこそっと一枚の紙を取り出して2人に見せた。

【宗治郎さん また再戦しよう

 あと誘拐と勘違いされていたアプルのことなんだが宗治郎さん達で保護してやってもらえないかな?理由はおいおい分かってくると思うが警察に引き渡すのは危険だ。君達なら任せられる気がする。深くは話せないが頼んだよ】

・・・これは・・・橘の手紙か?

「これをいつ渡されたんだ?」

「佐藤警部が泣かれていた時です。ナイフにこれをくくりつけ投げつけてきたのを受け取りました」

――俺だったらそのまま刺さって死んでそうだな・・・――

「・・・警察よりあいつを信じるのか?」

奏は宗治郎に問いかけた。

「手合わせした感覚。あの方は悪者には見えません。一緒にいた方々は悪そうでしたが。

 何か理由があるのではないでしょうか?」

手紙を折りたたみ懐に忍ばせながら宗治郎は説得力のある表情で言う。

「私もそう思います。今までの能力値異常者とは違う気がしました」

プキも賛同らしい。正直なところ奏自身も橘を悪そのものには思えない。

だが爆弾を使われた件があるからな・・・奏は二人の説得しようとする目を毛嫌いアプル

の方を見た。アプルは眠たそうに少し首をかしげて言う。

「・・もしかして・・・はなちゃんのことをいってるの・・・?」

――はなちゃん?・・・あぁ・・・たちばなの「ばな」を「はな」って言ってるのか―

「あぁ。多分そうだ」

奏がそう言うとアプルは少しほっぺを膨らました。ハムスターみたいだ。

「・・・はなちゃんのわるぐち・・・だめだよ・・・」

アプルは奏を何の凄みも無い大きな瞳で睨みつけた。ただ可愛らしく見つめている様だ。

と同時に奏は少し謎を抱く。まぁ謎とまでも言わないか・・・

アプルはどうやら橘を敵視してはいないようだ。そのように上手く催眠をかけることも橘

にはできそうだが、どうもその感じじゃない。手紙の通り確かに何か複雑な事件を噛んで

いるのかも知れないな・・・

「悪かったよ・・・別に悪口を言っていた訳じゃない」

「・・・そうなの?・・・かんちがい・・・」

アプルはほっぺを戻し、また首をかしげた。にしても変わった子だ。

「じゃあどうしましょう?クリスさんに頼んでみますか?」

「そうだな。嘘ついて警察に引き渡したと言ってもすぐにバレるだろうしな」

「なんにしても本部に戻るのが先決ですね」

眠たげなアプルをプキが誘導し階段を上り4人は建物を出た。


バババッ!あぁ。まぁ案の定佐藤警部達が入り口前で待っていた。というか、眩しい。

「大丈夫!?女の子は無事?」

佐藤警部が小走りで駆け寄ってきた。間近で見たらホントにまな板だ・・・

「はい!大丈夫ですよ。何かされた形跡もありません」

「そう・・・なら良かった・・・橘真琴は逃がしたけど女の子が無事で」

佐藤警部はまな板をなでおろす様に安心した表情を見せた。

「じゃあこの子の身柄はこっちで預かるわね。身元を調べたけど全然情報不足で親御さんの居場所も分からないのよ」

「え?そうなんですか!?」

プキは奏の方を見た。まぁだいたい今の言葉で理解はできた。

「佐藤さん?だよな。アプルの情報がないってどういうことだ?」

「え?その声・・・もしかしてあなた男?」

「・・・・・・」

「え?・・・本当に男の子なの?・・・・・すごっ」

何をすれば初見で男!と確実に理解されるのだろうか・・・このくだりは疲れる。

「あぁ・・・男だよ・・・で?」

佐藤は不機嫌そうな奏の顔に少し慌て、急ぎ足で部下にタブレットを持ってこさせた。

「これを見て?ほら・・・って個人情報見せていいのかしら」

個人情報漏洩とか警察にあるまじき行為だが・・・奏はタブレットを覗きアプルの情報を

見た。プキもアプルを宗治郎に託し覗きに来た。

【unknown】

――え?これって・・・――

「これなのよ!うちの情報科は何やってんのよ。unknownとか通用する訳ないっての。そう思わない?」

「あぁ・・・まぁ・・・」

「これは・・・奏さん?もしかして・・・」

奏の顔を覗くプキを無視して食い入る様にタブレットの情報を見る。これは・・・おかし

い。プキが思っているシークレットデヴィアントとかの事じゃない。宗治郎。橘。同じシ

ークレットデヴィアントの情報とは違う。普通なくてはならないものがないのだ。

「佐藤さん。アプルの情報はホントにこれだけなのか?」

「そうなの。おかしいわよね。経歴もないなんて・・・ミスとか?」

そう・・・出生場所。生きてきた経歴。その情報すらunknownなのだ。宗治郎は経

歴などは普通にあった。橘も途中までは経歴が残っていた。それが全てないのだ。

「プキ。やっぱりいったん連れて帰ろう。クリスに話を聞く」

「は、はい。分かりました」

「え?ちょっと!困るわよ!私の管轄よ?」

「悪い。だけど俺らはローゼンクロイツ直属の者だ。決定権はこっちのほうが上じゃないのか?」

口八丁。適当だが奏はそれっぽいことを言ってみた。

「うっ・・・そうね。あなた達がローゼンクロイツの人達だとは聞いてるし。

 ・・・・ただし。責任を持って保護しなさいよ」

「あぁ。分かってる。本部に着いたらあんたのとこに連絡が行くように言っておく」

「よろしい!それと・・・・・あなた男の子なのよね?」

佐藤警部は奏を舐めまわすように見た。どうも半信半疑みたいだ。

「そうだ・・・」

いい加減うるさいので機嫌が悪くなりそうだ。

「ホントにすごいわね・・・・ちょっと可愛すぎない?」

少し眉間にシワが入りそうになったのをプキが察知した。

「ですよね!ホントに綺麗なんですけど男の子なんですよ!それよりあんまり遅くなると悪いのですぐに出発してもいいですか?」

プキは慌てて横入りし、身振り手振りを加えて大げさにアピールをした。

「え!?あぁそうね。流石に暗くなってきたみたい」

ほぅ。プキの気遣いは中々いい。最近特に使えるな。

「そうですね。闇は危険をともないます。早く帰りましょう」

宗治郎も合わせてきた。でも闇は危険って山篭り修行のことだろ・・・。

「分かったわ。どう?良かったら送っていくけど?」

「いいのか?」

「もちろん。期待の組織。ローゼンクロイツに媚び売るチャンスじゃない」

「・・・・・そぅか・・・」

「じゃああれに乗り合わせて行きましょ!○○市までよね?」

「あぁ。じゃあ頼むよ」

「任せて!・・・はいはい皆!解散!明日また署で会いましょう!」

「了解!」

佐藤警部の一言で部下たちは迅速に撤収した。

出発の前に佐藤警部が宗治郎の応急手当をしてくれた。傷口はホントに軽傷だ。

奏達の足になる送迎車は大きめの7人乗りだ。前に宗治郎。後ろの席にプキ。アプル。そ

の後ろに奏という配置で乗り込んだ。運転はもちろん佐藤警部だ。ここからだと数時間の

旅だ。出発時。アプルが言葉を発した。

「・・・しゅっぱつ・・・・」

何故かドヤ顔。なぜかキリっとした表情だ。駅員さんみたいなつもりなのか?しかし数秒

も立たぬ間に大きな瞳は閉じられた。眠りの儀式なのか・・・

走行途中クリスに連絡、その後プキ、奏も割とすぐに寝てしまった。宗治郎と佐藤警部が

何気ない世間話をしているのを耳にうっすらと感じながら眠りについた。


バタン・・・奏は扉を閉める音で目が覚めた。頭がぼやける・・・

話声も何やら聞こえる。宗治郎と佐藤警部、それとプキの声だ。

奏は瞼を開けた。うっすら、ゆっくり鮮明に見えてくる車内が分かる。起きやすいように

車内の明かりをつけてくれているのか。そう思い意識がはっきりした時目の前にいた。

前の座席のヘッドの間に両手をかけ、鼻から上を出してこっちをまじまじと見ている。

大きなタレ目とピンクの髪。アプルだ。

じーっと見つめるアプルに奏はどうしたらいいのか分からない。というかなぜ見ている。

「・・・かなちゃん・・・・」

数秒の沈黙を裂きアプルがか細く可愛い声を出した。

「・・・どうした?」

奏は顔が赤くならないように少しうつむき加減に言葉を発する。

「・・・ねがお・・・かわいい・・・・」

「・・・・」

ボン!  チェックメイト。


佐藤警部は奏達が降りたあと直ぐに帰った。どうやら始末書やらなんやらを明日部下が来

る前に仕上げなきゃならないらしい。率直に、部下思い+部下に思われている良い警官だ。

着いた場所は虚神邸。いっそのこと送って欲しかった所だがローゼンクロイツの所在地を

簡単にばらしていいものかというプキの考えでここにしたらしい。奏は知らなかったが途

中目が覚めたプキがここまでナビしたみたいだ。

今からローゼンクロイツに行こうにも時間が時間だ。12時前・・・流石に無理だな。

クリスに連絡をとったところ、今日は虚神邸で泊まらせてあげてとのこと。

私も行きたいですと駄々をこねるクリスはもうお馴染みだ・・・

しかし・・・宗治郎は良しとするが・・・アプルがどうも危険だ。奏からしてアプルは完

全に女性だ。そして何故か妙に絡んでくる。本音を言えば嬉しいのだが・・・・嬉しくな

い。精神の摩耗が半端ないからだ。でもそれこそ時間が時間。奏は2人を家に入れた。

「大きいですね・・・うちの道場の敷地よりも広いです」

着物姿のままの宗治郎はなんだか家にミスマッチだ。綺麗に履物を揃え家に上がった宗治

郎は何か物色する事もなく、キッチンの椅子に座った。

――育ちが分かるな・・・プキの時とは大違いだ・・・――

「・・・おおきぃ・・・おしろ・・・」

玄関、ローカの天井を見上げておぼつかない足取りでキッチンへと歩く。途中二三度コテ

っとなりかけたがプキがそれを阻む。ナイスフォローだ。ヒヤヒヤしながらもアプルを椅

子に座らせることができた。

さぁ。ようやく家に辿り着き落ち着いた所で状況の整理をしよう。

奏は4人分の飲み物を入れテキパキと差し出した。宗治郎は一礼をし上品に口に含む。

プキ、アプルはまぁ・・・ごくごくと飲んでいる。喉が渇いていたのか。普通この男女の

行為が逆の方がいいとは思うが・・・

「少し整理したほうがいいな」

奏も席につき一口ミルクを飲んだ。

「そうですね・・・アプルちゃんの事もですけど・・・橘さんとか、も~色々ありすぎましたよ」

「あぁ、流石に疲れたな」

「はい~。あ、というか宗治郎さんは今日泊まってもいいんですか?道場のこととか」

「大丈夫でしょう。道場師範なのですがこの力の件もありまして、あまり今は公に出入りしていません。先代が稽古をつけていますよ。今は自由人という奴です」

「そうなんですか?力がありすぎるのも色々不便なんですね」

「ははっ。ですがこうしてあなた方に力をお貸しできます。この剣が世界平和の為に使えるのですから不便なことなどありません」

「そう言ってもらえると助かりますね!奏さん」

「・・・そうだな」

「ですが虚神さん。いきなり泊めていただいてもよろしかったのでしょうか?」

「ん?あぁ大丈夫だ。気にしなくていい」

「ふふ、ありがとうございます」

「それより」

奏はふわふわとと辺りを見ているアプルに目をやった。

「・・・アプルは大丈夫なのか?説明も曖昧なまま連れてきたけど?」

【アプル】という語句に反応し、アプルは奏を見た。

「・・なぁに?・・・かなちゃん・・・」

――いや・・・だから・・・――

「アプルは今日ここに泊まっても平気なのか?」

後頭部付近をちょろっと掻きたて奏は二度目を問う。

「・・・うん・・・たのしみ・・・」

やんわりと笑顔を見せたアプルは少し犯罪クラスの可愛らしさだ。

――聞いてたのか?・・・つかめない子だな・・・――

「ならいいが・・・じゃあ橘の件からまとめるか」

「はい!」

「分かりました」

「・・・・はなちゃん・・・・どこいったの?・・・」

――くっ・・・アプルはとりあえず放置だな・・・――

橘の件でアプルを混ぜるとややこしいので先にアプル抜きで橘を解釈してみた。

会話内容は大幅に省くが3人の考えはだいたいまとまった。

会議の結果。やはり橘は何かを隠しているという路線になった。アプルの様な純粋な子が

なついているんだ。それなりの理由があるからこうなんだろう。つまりは橘は悪い奴ではないんじゃないのか?という安易な可能性の話。

正直奏一人で考えるなら爆弾・・・の件もあるしあまり良い奴と推したくもないのだが。

でも宗治郎がキャラに似合わず橘を力強く推すので折れた・・・って感じだ。

まぁしかし奏も心の奥底では思ってはいたのだが・・・・

「待っていれば彼は自分から現れるでしょう。その時に真実を聞きましょう」

という宗治郎の自身満々の言葉に納得するしかなかった。橘の件はとりあえずこれで良いとして、問題はアプルだ。ローゼンクロイツの情報でも彼女の過去はunknown。年も分からないしな。見た目から察するに奏と同じくらいだとは思うんだが・・・

12時を回っていて女の子には悪いか?と思いつつ奏は茶菓子も出してきた。話が長引いているからな。その女の子2人は何も気にすることなくさっと手を伸ばし食べだした。まぁそんなキャラだよな。と思いつつ奏はアプルに話を投げかけた。

「アプル。お前の過去の事なんだが、何か教えてもらえないか?」

真剣な奏だったがアプルはモゾモゾとクッキーを食べている。

喋ろうとしているようにも見えるが口の中がいっぱいで目で訴えてきている。

――く・・・見つめるな・・――

奏はアプルに目の前のミルクを飲め。と簡単なジェスチャーをして薦めた。

ごくっごくっ・・・アプルは言われたとおりにミルクを飲み口の中をスッキリさせた。でも今度は口の周りにミルクがついている。すかさず奏は自分の口元に指をあて、ついてますよ~のジェスチャーを見せた。

「・・・・ん・・?・・・」

しかしアプルはそれを間違った意味にとり真似をした。口元に人差し指をあて「これであってる?」みたいな感じでそのまま首をかしげた。

・・・・・・・・・

卑怯だ・・・と思えるくらいの可愛さだ。可愛い顔に可愛い仕草の掛け算は恐ろしい。

奏は一瞬目を逸らしたがスグにアプルを見てそのまま声に出した。

「違う・・・口周りのミルクを拭け」

そう言ってテーブルの端に置いてあったティシューを手に取り、アプルに渡そうとした。

ペロッ・・な・・・なんてやつだ・・・ミルクを舌で舐めやがった・・・危険領域の可愛さだ。

そしてそのあとの追撃。アプルはにっこりと微笑を浮かべた。奏は流石に顔を赤らめた。それを見て宗治郎はにこにこと笑っている。プキはマグカップを口に当てながらジト目で監視している。

「・・・かなちゃん・・・たのしいね・・・」

アプルは嬉しそうに笑った。この子は扱いが難しい・・・可愛いだけに余計にだ・・・


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