囚われた女の子?
囚われた女の子?
帰路の途中。三人は山奥を走るバスに乗っていた。それでも30分歩いてバス停に到着し、
1時間くらい待った末のバスだ。バスの停留時刻表を見た時プキが吹いていた。宗治郎は
慣れていたらしく何も気にしていない様子だ。ちなみに奏はこういうバスは初めてだ。で
もまぁそらそうだろう。だって坊ちゃんなんだから。
――か・・・・変わった乗り物だな・・・――
何食わぬ顔で乗った時に切符を取れ。と運転手に怒られた奏は軽くへこんでいた。
――知らないおばあさんも乗っている・・・電車と似た乗り物ってことか・・・?――
車内のそこらじゅうを見回す奏を見たプキはニヤリと悪い顔をした。
「か~な~で~さん」
「なんだ?」
「もしかして・・・バス初めてなんですか?」
「・・・・悪いか?・・・」
「いえ~・・・」
なるほど。こいつ、少しバスに乗ったことがあるからって優越感にでも浸っているな。
「ふふ」
戯れる二人を見て宗治郎が笑う。
「ん?どうかしたのか?」
「いえ。とても微笑ましい光景だったもので。・・・それよりも・・・そろそろですよ?」
(次は~ ○△ ○△ お降りの方は・・・・・・・)
車内アナウンスが流れた。奏は時計のメモ機能で帰路の確認をした。
「本当だな、ここだ」
乗車時間は40分ほど。山道を降りて走っていても田舎道ばかりだったのだが、ようやく街のような所に着いたみたいだ。○△町。時計のGPSにはそう表記されている。でもまぁ本部までの道程の10分の1程度しか進んでいない。来る前は片道五時間と言っていたが・・・最速って意味か。
ピンポーン。プキが停車ボタンを押した。
「ここで降りれば次は電車に乗るぞ」
「はい!付いていきますよ~」
「分かりました」
――なんか・・・遠足のガイドみたいだな・・・――
バスを降りると自分の住んでいる所までとは言わないが、少しくらいは街だ。街というよりかは(町)って感じだ。建物は平均的に低いし大きいのは数棟しか立っていない。大きいと言ってもローゼンクロイツ指令塔よりも小さいが・・・
「駅は・・・っと」
奏が時計の地図で頭を悩ましていると・・・
「こちらですよ?」
宗治郎がさっと答える。そうか!こいつはここに何回も来ているから道を知っているのか。
――こいつに頼めばいいんじゃねーか・・・――
ガイド役の交代だ。
「流石ですね~宗次郎さん」
「いえいえ。ただ何回も来て道を知っている。というだけですよ」
「でも助かりました。ありがとうございます」
ニコッと軽いお辞儀をしてお礼を言うプキに対して奏は少しモヤっとした。
――はっ・・・道を知っているだけだろ――
三人はテコテコと町を歩く。人通りはまばらだがお店はけっこう軒を構えている。
元気良く呼び込みをする人なども多く、活気がある。
「なんかいいですね~」
「そうですね。私はここの町が好きです。ほのぼのとした空気に心が癒されます」
「平和・・・だな」
「はい」
すると魚屋の体格の良い男が話しかけてきた。
「おっ!宗治郎さん!今日はべっぴん二人をはべらせて羨ましいねぇ!」
「ははは。そのようなものではございませんよ」
「言うねぇ~この色男!お姉ちゃん達。この人は本当に優しいお方だ。ついて行って損はないぜ!がはは」
「あまりからかわないでください。それにこの方は・・・」
宗治郎は気を遣い奏の方を見た。奏はジト目で魚屋のおっさんを見て言う。
「俺は男だ・・・」
・・・・・・・ボトッ
魚屋のおっさんは持っていた中くらいの美味そうな魚を落とした。
「な・・・・お・・・・男?このべっぴんさんが・・・」
「そうですよ!奏さんは男の子ですよ!」
「はぁ~~こりゃたまげた。世の中こんなべっぴんな男がいるとは・・・うちの母ちゃんより百倍べっぴんなのになぁ」
――く・・・複雑な気持ちだ・・・――
「そんなこと言ってはいけませんよ。奥様は十分お美しいですよ」
「ははは。あいつに聞かせてやりたいくらいだ!宗治郎さんにそう言ってもらえると喜ぶよ!」
と。こんな世間話をしていると、一台の車が魚屋の前の赤信号で停車した。
この場所は十字路の交差点の角の店だったので目の前が信号だ。
「みなれねぇ車だな」
おっさんが言う。その車は黒のリムジン。確かにここには不釣り合いだな。失礼だけど。奏はそう思いふと後部座席を見た。窓のスモークは少し薄めだったため、中の様子が多少だが分かったのだ。なのでどんな人物が乗っているんだろうという興味本位だ。
――え?――
中を見た奏は硬直した。女の子が見えた。それも可愛いと一目で分かる可愛さだ。
でも髪の色や瞳の色はスモークの具合で分からないのだが・・・その女の子は窓に向かって優しく息を吐いた。そして曇った窓にスラッと細い人差し指で可愛い丸文字を書いた。
――なんだこれは?――
9文字の言葉。暗号?いや!まさか!
【タスケテ?ケロケロ】
思った通り。窓の外には反対に文字が見えると思ってなかったのか、ふむ。で?内容が?
【助けて?ケロケロ】
「え?」
後半のカエル語は分からないが、助けて?よく見ると手には手錠がされている。傍の男はスーツを着たこわもてのおっさんだ。幸いにも寝ているようだが。
これって?・・・・奏は後ろの3人をゆっくりと見た。
「・・・・・・」
宗治郎とプキは目を点にして変な汗をかいている。おっさんは内容を掴めていない。
ブロロロ~・・・青信号になり車が走り出した。奏はゆっくりと口を開く。
「誘拐・・・か?」
「・・・そうですよね?今のって・・・」
「確かに・・・これは誘拐なのでしょう・・・」
固まる三人だが、即座にプキが叫んだ。
「誘拐ですよ誘拐!ダメです!助けましょう!」
――やっぱりそうなるのか・・・・――
でも助けてと言われたんだからここは男見せなきゃな。
「私は構いませんよ。この街の悪を見逃すのはとても不愉快です」
「そうだな・・・・助ける・・・か」
3人の意見は一致。とりあえず寄り道になってしまうので本部に報告することになった。
時計の通信機能でクリスを呼び出した。
「虚神さぁ~ん。今日は何回も連絡をいただけますね~。とても嬉しいですよ」
画面の向こうでとてもご機嫌なクリスが応答した。まぁこの通信をするとクリスに繋がるというだけでクリスを狙って連絡している訳ではないのだが・・・
「・・・少し問題が起こった。誘拐事件らしきものに遭遇した」
その言葉にクリスもにやけた表情をやめ、きりっと構えた。
「誘拐?ですか?大変です!すぐに近場のエージェント、警察に連絡を取らせますね」
「いやっ、ちょっと待ってくれ。」
「どうしたんですか?」
「これは俺たちが解決したい。誘拐された女の子に助けてと言われたんだ・・・」
「そうなんです!ご指名ですよ。これは私たちが助けないと!」
プキもグイグイと入ってきた。
「えっと・・・・羆さん?どうしますか~?」
画面の外の羆に助けを乞うクリス。本来誘拐などはCクラス任務にも属さない軽犯罪だ。
もちろん軽犯罪で済ますのは悪いのだが、貴重な神者、能力値異常者の人員を割くには軽すぎる。という世界政府の思考だ。なのでこの任務を受理するかどうかでクリスも立場上困るのだ。
「好きにしろ!お前が最高責任者だろ?」
と羆の声。面倒くさいから適当にあしらった言葉にも聞こえたが・・・
「そうですね!じゃあ頑張って助けてあげてください~!」
――軽っ!――
一同がそう思った。そんなノリでいいんだな・・・
「その変わりちゃんと助けて早く帰ってきてくださいね?」
ちょこっと首を傾げ、可愛らしくクリスは言う。ただでさえ可愛い癖に・・・
「わ・・・分かった。ありがとうクリス」
照れくさそうに奏がそう告げるとクリスが暴走してしまった。
「あ!ありがとうですか~?もう~可愛らしくて死んじゃいますよ虚神さん~」
なぜテンションが上がる。こいつのツボが分からないのだが・・・
プツッ。可哀想だがいつもの恒例なので喋るクリスを無視して通信を遮断した。
「オーケーがでたな」
「はい!助けましょう!」
「及ばずながら、頑張ります」
ピピ。また時計が鳴った。クリスか?しぶといなと思いつつ時計のボタンを押した。すると地図のようなウインドウが送られてきた。どうやらレヴィの計らいみたいだ。その地図には赤く点滅するポイントがゆっくりと動いている。
「なるほど・・・さっきの車の居場所を知らせてくれるのか・・・」
「レヴィちゃんですね?流石です!」
――流石というか・・・いつこの車の情報を知ったんだよ――
奏はレヴィの情報網のすごさに呆れながらも感謝をした。
「行くか。Dクラス任務」
「ふふっ。Dクラス任務ですか?」
「はい」
三人はタクシーを呼び追いかけることにした。
「またこれは・・・ベタなところだな」
奏は言う。それもそのはず。ターゲットの車が止まったのは人里離れた山の上の廃墟のような所だ。あのリムジンで上がれるものかと心配になるが、道はちゃんと舗装されていた。
キキー・・・建物のかなり手前でタクシーの運転手が車を止めた。
「す・・・すみません。これより先には進めません」
「ん?普通に行けるだろ?」
「ち・・・違うんです。あそこの建物には色々恐ろしい噂が出てるんです」
「噂?」
奏はバックミラーごしに運転手を見た。その顔は少し青ざめていて怯えているようだった。
「はい。怪しげな奴らが最近あそこに出入りするようになったみたいで・・・
タクシー仲間から近づくのはやめておけと言われています」
「じゃあここでいいですよ!奏さん。宗治郎さん。歩きましょう」
――プキは一般人に対しての気遣いがものすごく良いな・・・――
「そうですね。歩きましょう」
「申し訳ありません!ありがとうございます!」
3人はタクシーを降り、歩く事にした。
「4時か・・・暗くなる前にはカタをつけたいな・・・」
時計を見ながら奏が呟く。だいたいこの季節、6時くらいには暗くなる。だから猶予2時間程度ということだ。
「奏さん、どう攻めましょうか?」
「作戦・・・か。相手の人数、所持している武器、配置、建物の構造。何も知らないからな・・・」
なんて言いつつも舗装された道を堂々と並んでしゃべくる3人。廃墟に近づくとさっきのリムジンが止まっている。横には4台の同じような黒塗りの車が並んで停車している。
――けっこう数がいそうだな・・・――
流石に3人は草むらに身を潜めた。でも見張りの者も見えないしあまり警備は厳重ではない。
――素人のヤクザか?これじゃおじさんの家の方が百倍難関だな・・・――
「一気に乗り込んで殲滅しますか?」
宗治郎はそう言いながら2本の刀の柄を撫でる様に触れた。いやいや怖いよ。奏は少しジト目で宗治郎にバッテンサインを出した。
「じゃあどうします?」
プキが言う。しかしこんな所に乗り込んだ経験なんかある訳がないからな・・・
ピピッ・・・すると奏の時計が鳴った。すぐに確認してみるとまたもレヴィからの特別回線だ。内容は犯罪グループの人数、所持している武器、建物の詳細構造。やはりレヴィはすごい。というかはある意味で異常だ。
――ん・・・・なに?――
構成メンバーのプロフィールウインドウをスクロールしている内に奏は意外な者を見た。
「プキ。見てみろ」
時計から出ているウインドウをプキに見せた。
「え!奏さん!」
プキは目を丸くし驚いた。そうだ。この構成員の中の男は・・・
「プキって・・・・初めて名前を・・・・」
――え?――
そう言いながらプキはうっとりと奏の顔を覗く。ってそこじゃない。
「う・・・嬉しいです」
「あほ、それどころじゃない。こいつを見ろ」
奏はプキの頭を軽く小突き多少強引にウインドウの人物を見せた。
【unknown】
その者のデータ表記には大きくunknownと出ている。前の世界検診で個人の能力はローゼンクロイツには記されているはずだ。それがないということはつまり・・・
「あ!シークレットデヴィアントですか?」
「多分そうだろ。レヴィの手書きで【要注意】と書かれてるしな」
「うぅ・・困りましたね。Dクラス任務どころじゃないですよ?これ」
「・・・そうだな・・・でも・・・助けないと」
「シークレットデヴィアント・・・・とはなんでしょう?」
宗治郎自身シークレットデヴィアントなんだがな。そう思いつつもプキに説明させた。
・・・・・・・・・・
「なるほど・・・しかしすでに悪に染まっているかの様にも思えますが・・」
「そうですよね。ということはこの任務は」
「・・・Aクラス任務という事か・・・」
簡単な人助けの予定だった2人は唾を飲み込む。ん。もう1人は?・・・
「いいですね」
宗治郎は糸目をこじ開けまたあの禍々しい猫目を見開く。疼くように刀の柄を握っていた。
「おい宗治郎。無茶はするなよ?女の子がいるんだ」
奏は今にも飛び出しそうな宗治郎を諭すようになだめた。
「分かりました。しかし・・・強者と戦えるというのは一剣士として心が踊ります」
「戦わなくて済むのが大前提ですよ!」
闘気を収めそうにない宗治郎に対しプキが強く言った。
「とりあえず。作戦的なものを考えて迅速に動く。戦闘は多分プキと宗治郎に任せる。
俺は・・・・俺はまだ役に立てないから・・・」
自分で言いながらマイナスに浸っていく奏。
キュン。そこにプキは胸を打たれて少し悶えている。それを見て微笑む宗治郎。アホ共め。
作戦は大雑把だが異常者3人がいるこっちが明らかに有利。油断をするつもりもさらさら
ないが。とりあえず・・・・
「作戦開始だ」
奏の言葉と共に各々が行動に移った。