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クロの神者  作者: ペケポン
第一章 プロローグ 全ての始まり
11/31

近衛学園②

近衛学園2


「Cクラス任務?」

奏は尋ね返す。ちなみにここは指令室。プールの日から2日。羆が奏に提案を持ちかけた。

「そうだ!ローゼンクロイツ指揮下の特殊諜報部員達によると、例のフェイカー達の所在はつかめてないが、近日何か事を起こす可能性は極めて低いとの報告だ。

 あの夜の戦いの埠頭で火のフェイカーの血痕らしきものが多量採取できたそうだ。

 致死量に近い量だったそうだからな。また攻めてくるには時間がかかるだろう」

「やっぱり死んでなかったのか・・・」

「うむ。だがフェイカーばかりが驚異ではない。事件は世界中で起こっている。しかしお前達神者。能力値異常者の力があれば容易に解決できる凶悪事件もあるのだ。

 簡単に言えばそういう事件の解決がCクラス任務だ。」

淡々と羆は語るが奏はちょっとキョトンとしている。本部待機命令から一転。今度はとうとう任務に就くらしい。零が重傷を負い、プキと奏が軽傷を負ってしまった為に出ていた待機命令だが、三人の傷もすっかり回復した。茅乃の回復魔法さまさまである。

話によると、ローゼンクロイツの神者、能力値異常者は基本ツーマンセルで任務に就く。

神者はローゼンクロイツの最重要の保護対象なのだが、それに重ねて敵となったフェイカー、能力値異常者に対する唯一の対抗手段でもある。これは前にプキが言っていたやつだ。

危険なのは百も承知だが前線に出るしか手段がないということだ。という訳で小手調べのCクラス任務の勧めだ。フェイカーなどの相手をする訳ではないが、人助け件実践経験の獲得と、一石二鳥である。とのこと・・・前に羆が言っていた話の通り、能力値異常者は悪に染まるケースが多い。力があるから人助けをしたい、なんて正義の味方を気取りたがる奴がこの現実世界に一体どれくらいいるのだろう。大半は悪に染まるのが世の中だろう。

その点奏含め他の奴らは少数派だ。任務で命をかけて人助けをすることに抵抗があまりない。確実に理解をしている訳ではないが、奏は現実的条件をつけて任務を引き受けた。

「・・・まぁ良いが・・・学校は行くぞ?」

「ははは!良い良い!こちらが一方的に引き込んだみたいなもんだ。ある程度は自由にしてくれてかまわない。それにペアは他にもいるからな。おいおい出会う事になるだろう!」

――他のペア?自然ペアだけじゃなかったんだな――

「それで?もう任務があるのか?」

「いや今はない。まぁこれからの連絡手段としてこれを渡しておく」

羆は奏にアンティークのお洒落な時計を渡した。見た目は高級感もありかっこいい。

でもサイドのボタンが普通のよりは少し多めだ。

「時計?これをどうするんだ?」

「使いかたはプキにでも聞け。一応それは高度な通信機器だ」

「え!?私ですか?」

なぜかプキはギョッと驚いて一歩下がる。

「お前だ」

容赦なく羆の追撃。奏は大体の察しはついている。

「はっ、分からないんだろ?お前これと同じの家に置いてたよな」

「うっ!」

プキの顔を見て羆の表情が怒りに変わった。

「ちゃんと付けて回れって言ってるだろ!旧型の携帯パソコン型は早く卒業しろ!!」

「うぅ~~すみません!」

プキは半べそをかいて両手で頭を隠している。

「羆さん。使いかたを教えてくれ」


てっきり難しいのかと思ったが簡単だ。プキはやはり機械が苦手だった。

奏はすぐに使いこなすことができた。

「虚神さん達はそろそろ自宅に戻りますか~?」

話に節目を見てクリスが言う。奏はプール以来少し対応に困っている。

「そうですね。奏さん、待機命令解除が出たことですし家に帰りますか?」

――こいつ・・・・すっかり俺の家を自分の住処気取りだな・・・――

「そうだな・・・戻っていいなら戻る。学校も休みすぎた」

「あっ。その件なら大丈夫ですよ~?虚神さんのおじ様が対処してくれてます~。公欠扱いで通知表にも乗りませんよ~」

「えっ?そうなのか?」

――おじさんの権力は絶大だ。何か裏の手でも使ったのかな――

「・・・まぁ帰るよ」

奏はそう言うとエレベーターの近くで話している自然ペアを見た。

「零・・・・またな」

そう言うと零はにっこり笑った。傍の茅乃は妙にジト目で見てやがる。

「まぁ~。友情ですか~?可愛いです虚神さん♪」

ムギュ!クリスは見境なしに奏に抱きつく。これだ、あの日以来何かあれば抱きついてくる。2日間で14回目だ・・・・。慣れたとは言わないが抗体は徐々についてきている。

赤らめた顔で奏は冷静に振り払う。

「じゃあまた何かあったら連絡してくれ。羆さん」

「あぁ分かった!」

「虚神さん司令官は私ですよ~?私にお願いしてくれないんですか~?」

潤んだ瞳で哀願するクリス。かなりの可愛さだが相手にしていたらキリがないので奏はササっとエレベーターの方に歩いていく。それに合わせプキは一礼して後を追う。

「プキ!例の手続きがようやくできたそうだ!」

羆が少し慌ててプキに叫んだ。

「あっ!本当ですか!?ありがとうございます!」

「いつでも行けるからな!必要なものは送っておいた!」

「流石です羆さん!助かりました!!」

――なんの話だ?あんまり良い予感はしないが・・・――

奏は奇妙な不安がよぎった、エレベーターに乗る時零と茅乃が見送りがてらに口を開いた。

「またね。虚神ちゃん♪元気でね~」

「さらばじゃ!またの!」

ウィーンと閉まるドアの向こうでクリスが名前を呼んでいたが無視をした。別にクリスが嫌いとかじゃないけど近寄られたら苦手だ。エレベーター内でものすごい視線を感じるので恐る恐る見てみると、プキがガン見している。なんとなく理由は理解できたがそれも見て見ぬふりをした。ちなみに帰りだけは電車移動ではなくなった。エージェントが虚神邸に相互用の転送魔法陣を設置してくれているらしい。四人の魔導師に飛ばしてもらえば帰りは家の庭にひとっ飛びだ。今日は前の埠頭事件からちょうど一週間後の日曜日。明日からはちょっと久しぶりの学校だ。学校を休んだ事のない奏は妙な気分だったが、それよりも早急に家で休みたかった。

ローゼンクロイツ本部もなかなか居心地は良いのだがやはり家が落ち着く。

エレベーターを降り、一階で待機してくれていた転送魔導師さんにお願いする。

キュイン!光の柱の拡散と共に奏とプキは虚神邸へと転送してもらった。


――やっぱり転送は慣れない・・・――

奏は眩しく感じた瞼を開く。すごいな。一瞬で到着だ。そう思って庭を見渡した。

――あ・・・おじさんが来てくれたのか――

視界の先には精密に選定された芸術性の高い庭木。雑草一つない花壇。空気で分かる家内の清潔さ。おじさんが来れば必ずこういう状態になっている。

「1週間開けてたのに手入れがされていますね!」

プキはそう言いながらずかずか家に入っていった。

「・・・・・」

奏は家に入ると真っ先に大好きなフカフカソファーに腰を下ろした。

「はぁ~~~~~~~」

床の下まで抜けていきそうな深いため息を吐いた。やはり色々ありすぎた。

奏は腰を下ろしたままソファーの背もたれにだらしなく頭をもたれさした。

――なんか・・・・疲れた・・・・・――

家に帰ってきた安心感もあり、まだ昼前というのに瞳を閉じた。

・・・・・・ス~・・・・・・

プキがお手洗いを済ませリビングに戻ると、無防備な状態で寝ている奏を見つけた。

プキから言わせれば奏の寝顔はまた格別に可愛いのだ。

「お疲れ様です・・・奏さん」

そっと何かをかけようとしたが、何もなく。というのを理由にプキは奏の膝にゴロンと横になった。猫の様にくるりと身体を丸め、奏に引っ付いた。

「ではでは・・・奏さん・・・私もおやすみします~・・・・・・・・・・」

プキも疲れていたのだろう。奏のお腹にギュッと顔を寄せすぐに眠りに落ちた。

このあと目覚めた奏がプキに怒ったのは容易に想像できるだろう。


月曜日の朝。奏の想定外の事態が起こった。いや・・・想定内か・・・。

白を貴重とした上品なイメージ。まだ少し肌寒い今の季節はブラウスを羽織る。

多少細工の施されたシルクのカッターシャツ。袖元には小柄なフリルが縫われている。

蝶々結びのタイは黒色で、えんじゅ色のカシミアのブラウスには校章が施されている。

スカートは膝上10センチと短めで、校章の着いた黒のニーソックスがよく映える。

まぁこれが奏の通う近衛学園の女生徒の制服だ。で。その制服を何故かプキが着用している。くるりと1回転。スカートをなびかせながらドヤ顔で奏を見る。

「おい」

奏はドスの効いた深みのある声で尋ねた。

「それは俺の学校の制服だ。なんでお前がそれを着ている?」

「なんでって?今日から通うからじゃないですか!」

「・・・・はっ?」

「今日から私は近衛学園二年のA組ですっ!」

プキは胸元に手を当てて可愛く?ウインクをした。

――なんだよ・・・ウインクって・・・――

「はぁぁ~・・・・やっぱりそうか・・・予想通りか・・・」

奏は途切れそうな細い声でため息をつく。

――まぁでも今の状態ならこの選択肢がベストだろうな・・・――

だいたいこの事態は予測できたことだ。確かにこれがベスト。いくら街の中とはいえフェイカー、能力値異常者が攻撃を加えてこない保証はない。

「早く行きましょう!奏さん♪」

よほど嬉しいんだろう。溢れんばかりのウキウキ感がすぐ分かる。奏はプキにそぐわぬテンションで後に続いた。

晴れ、まさに快晴だ。一週間前散りかけだった通学路の一本桜はすべて散っていた。

「やっぱり散ったか・・・」

奏は大きく空に向かって伸びた桜の木の上を眺めながら、溢れる日差しを浴びていた。

「いや~奏さん!気持ちいいですね~!」

――人が少しセンチな気分になっているのにこいつは――

シカトというかこのくらいのプキの言葉にはもはやあまり反応をしめさなくなった。

奏もそれでプキが傷つくとか思ってないからだ。まぁ一重に少し友情が芽生えてきた?みたいな感じだろうか。

「はぁ~・・・奏さんと学校に通えるなんて嬉しいです」

相変わらず一人で喋り続ける奴だな。と思いつつ疑問が一つ浮き出た。

「おい?近衛学園は金持ちしか入れないんだぞ?どういう肩書きで入ったんだ?」

「奏さんのおじ様の子供として入らせてもらってるはずですよ」

「おじさんの!?まぁ確かにてっとり早そうだが・・・勝手に名前使ったのか?」

「いえいえ!奏さんのおじ様はローゼンクロイツの重要なスポンサーですよ?」

「はっ?」

なるほど合点がいってしまった。俺が長い間家を空けているのに連絡が来ないこと。それなのに家に手入れはきっちりしてくれていた。通知簿の改ざんもやっぱり本当におじさんの仕業か。

「知らなかったんですか?」

「まぁな・・・でもなるほどって感じだ」

歩きながらの会話。校門まではあと少しだ。しかしこのタイミングは大体こいつが来るんだ・・・。

「かなでちゃ~~ん♥」

九十院麗奈。毎日毎日飽きないのかこいつは!うぐっ!言葉にならない声をだしながら吹き飛ばされる奏。そして毎度のことながら麗奈はマウントポジションをとっている。他の通学生はいつもの光景+虚神家の子供。ということで素通りだ。

「か~な~で~ちゃん。朝はちゅーは?」

倒れた奏の上に四つん這いになりながら顔を近づける。自然と鼻息は荒い。

「アホか!そんなことしたことないだろ!どけっ」

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

麗奈はマウントポジションのまま身体を起こし、口に手を当ててあからさまに驚いた。

口がカクカクなっているが、どれだけ驚いてるんだこいつは・・・・。

「ま・・・・まさか、かなでちゃんのお口は・・・・処女・・・・なの・・」

「はっ?」

「ふっふふ・・・・あはははは・・・・」

麗奈は何やら不気味な声で笑い出した。目に少しずつ「ほ、ん、き」という言葉が刻まれるかの様に力が込められていくのが・・・・分かる・・・。

「もらうわ!かなでちゃん♥私が!もらうわ!」

「やっ・・やめろ!」

奏の両手を押さえつけ麗奈が顔を近づけていく。ちなみにもう一度言っておく。ここは近衛学園校門前である。決して人ごみの少ない路地裏とかではない。

「麗奈さん!なにしてるんですか!?」

ジッと見ていたプキが麗奈に声を上げた。というかもっと早く言えと思ったが。ん?

――なんでこいつ麗奈の名前を知ってるんだ?――

その瞬間麗奈はプキに歩み寄った。なかなかの速度だ。

「こら・・・・それは秘密事項よ?」

奏に聞こえないトーンで麗奈はプキにぼそぼそと囁いている。

「関係ないです!麗奈さんのお仕事はか

プキが言葉を発する時。一つの事件が起こった。麗奈はプキの口を防ぐ手段として、いわゆるキス・・・と言われる行為を実行した。3秒くらい?とても長く思える時間に感じた。

――ええ!??――

奏はただただその3秒間を固まって見ている。

「んまっ!」

麗奈はチュパッという効果音とともに柔らかな唇を離す。どこか表情は満足気だ。

「んも~この娘ったら♥なんで私のこと知ってるの?あんまり可愛いから我慢できなかったわ♥」

「・・・・・・・」

麗奈の声も届かず、プキは氷魔法を使ったかの様に固まっている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お・・・・おい?」

流石に可哀想に思えた奏は心配の声をかけた。

それが硬化解除のスイッチになったのか、少しずつプキの目に光る液体が溜まっていく。

――あぁ・・・これはダメだな――

誰もが予想できる次の事態。大きな瞳からひと雫ひと雫、綺麗な流れ星が頬を伝い地面へ

と落ちていく。

「・・うぐ・・う・・・初めてだったのに・・・」

プキは重い口を開く。にしてもあんな戦いのできる屈強な戦士のようなやつなのに、胸の

奥底はやはり乙女だ。奏は焦ってフォローを入れる。

「えっと・・・・おい、大丈夫だ。麗奈は女だから多分ノーカウントだ」

ゆっくりとプキはこっちを見た。こんな時に不謹慎だが泣き顔も泣き顔で可愛いものだ。

プキはのそのそと奏の元に歩み寄る。

「・・・うぅ~・・・そうですか?・・・」

泣いてよたよたの足が悪かった。本当に悪かった。

「・・・うぅ・・・うわっ!」

!!!!

プキは奏に抱きついた。前に倒れかけた反動で奏の胸に飛び込んだ。といっても身長はほ

とんど同じだから胸ってわけでもない。そうだ。胸ではないのだ。偶然の重なり合い。

ほんのコンマ何秒の一瞬だ。プキと奏の唇が触れ合ってしまった。歯と歯もぶつかった為

痛みが先によぎった感想だが・・・

「・・・・・・!」

「・・・・・・!」

抱き合ったまま2人は硬直。奏にいたっては顔が腫れ上がるほど真っ赤だ。

もう一度。キスというのは2人の唇と唇が重なり合う行為だ。通常なら好意を抱きあった

男女。もしくはカップルというのだろうか?それらが行う愛の行為だ。

「か・・・かなでちゃんの・・・・くちびるが・・・」

麗奈は口に手を当てわなわなと驚愕している。そして流石に通学生達もその眼差しを2人

に向ける。なんというか最悪だ。公衆の面前で男女がキスをする。

そんな如何わしい事を考えたこともなかった奏とプキにはヘビー級の羞恥行為だ。

「・・・・・お・・・お・・・い・・・」

奏は恐る恐る抱き合った体を離す。少しうつむき加減のプキの表情は今まで見たことのないく

らいに乙女だった。

「は・・・はぃ・・・・・」

頬を火照らせ目はウルウルと光を帯びている。もじもじと構える唇がなんとも可愛らしく、

そして奏にはとても見ていられないくらいに恥ずかしい。

「が・・・学校が始まる・・・行こうか・・・」

カタコトの時代劇のような言い回しをし、2人は昔のポリゴンゲームの様にカクカクと歩きだす。

「か・・・かなでちゃんの・・・・くちびるが・・・・」

同じ事を繰り返し発している麗奈はキスのショックでバグが発生したらしい。

2人は遅刻ぎりぎりで学校に間に合ったがプキの転入初日としては最初からインパクトがあり

すぎた。校内では奏が転入生をいきなり襲った。虚神財閥の許嫁を連れてきた。

可愛い顔して美女2人をはべらせているなど・・・うざい噂が流れた。

特に。ホームルームの転入生紹介時。いつもの元気なプキのキャラクターならいくら美人でも

そこまでいかなかったはずなのだが、今朝のキスの衝撃でプキも本調子ではなく・・・

「この方は今日から急遽転入することになった虚神財閥のお嬢様です。皆さん。くれぐれも粗相のないように接してください。プキさん?何かご挨拶などはございますか?」

担任の教師が少し気遣いながらプキに言う。

「あ・・・・あの・・・・」

プキはうつむき加減で顔を赤らめ、もじもじと両手をこすり合わす。

「プ・・・プキと申します・・・・仲良く・・・して下さい・・・ね」

上目遣いで教室を見渡す。正直このギャップには奏自身もキュンとした。

・・・・・・・・・・・

教室は静まり返った。これは反応に困っている訳じゃない。クラス全員男女問わず心を奪われ放心状態なだけだ。

「は・・・・・・はい・・・・」

クラス全員が静かに声を合わせ答えた。

――なんだこの状況は・・・――

昼までの授業が終えるまで奏はプキと一切会話することができなかった。

気まずいのはあるがプキに人が群がっていた、ってのも理由だ。

――虚神家には喋りかけづらいんじゃないのか?・・・――

自分自身には同じ虚神家なのに入学時から話しかけられることは極めて少なかった。というかプキは虚神家ではないのだが。やはり最初の掴みか・・・あろうことか昼休みにはプキのファンクラブが設立されていた。半日でファンクラブができるとは驚きだ。


そして昼休み。奏は学食に行く。学食といっても普通の高校とは別物だ。まずお金はかからない。いわゆる食べ放題だ。フレンチのコース。和風会席。本格中華。世界中の料理が食べられる。教室のある本館とは離れた場所にあるが高級ホテルの一部屋のような空間を醸し出した、いかにもお金をかけた作りの建物だ。

「いらっしゃいませ虚神様。本日はどのお食事になさいますか?」

綺麗な中庭を超え、建物に入ると数十人いるウェイターが生徒のお世話をする。

「フレンチ」

席に着き奏が愛想なく返事をするとウェイターは指を鳴らした。

「フレンチコース!カモォォォン!」

・・・・・・・・・・・・・・

まぁこれがここの普通。とはいえこれが嫌で学食を利用しない生徒も多い。なんでこんな接客精神を植え付けているのか・・・・。すると聞きなれた声が聞こえてきた。

「奏さぁ~~ん!」

プキだ。なんだか知らないがようやく元に戻ったみたいだな。元気に手を振り近寄ってくる。

「一緒に食べてもいいですか?」

「・・・あぁ」

愛想なく返事を返す。もちろん内心は鼓動の太鼓を鳴らしている。

「いらっしゃいませ綺麗なお嬢様。お食事は何になさいますか?」

ウェイターがすかさず椅子を引きプキを誘導する。プキは慣れぬ事態にオドオドしている。

「あっ。はい!お食事ですか!?えっと・・・・」

右に左に視線を泳がすがここにはメニューはない。

「す・・・少し待ってください!」

――プキよ。流石にテーブルの下にはないだろ――

あわあわと表情を引きつらせている様をウェイターも微笑ましい顔で眺めている。

というか可愛いのは分かるっちゃ分かるが早く指摘してやれ・・・奏は見かねて注文をとった。

「こいつにも同じのを」

「オーケー!フレンチコース追加カモォォォン!」

物腰の柔らかい対応をしていたウェイターが急に叫ぶ。やはりプキはビクっとしていた。


テーブルに置かれたワイングラスを一口飲みプキが口を開く。

「か・・・奏さん。さっきは本当にすみませんでした・・・」

あらら。まさかこいつから切り出してくるとは、てっきり自然消滅を狙っているかと。

「・・・・まぁしょうがない。事故だし。俺も・・・・悪かった・・・」

事故とはいえうら若き少女のファーストキスを奪ったのだ。奏も冷静に謝った。

「いえ!私のほうが悪いです!か・・・かか・・・奏さんの・・・・

 ファファ・・・・ファ・・ファースト・・キスを・・・頂いてしまい・・・」

テーブルに手を着き勢いよく前のめりにすごんだ、後半沈んだ口調になったが顔は火照り乙女モードだ。そこまで照れられたら流石にこっちも照れる。

「いや・・・お前もだろ。俺なんかで悪かった。お・・・女はそんなとこ気にするだろうからな・・・」

「とんでもないです!ファーストキスが奏さんで嬉しいです!!」

ん~なんとなくいつもの調子のプキに戻ってきたが、今のはどういう意味だ・・・・

ファーストキスが俺で嬉しいとは。知り合いだからまだマシだった?それとも俺が女みたいだ

からノーカウント。それで嬉しいなのか?奏は悩んだが納得のいく案が浮かばなかった。

「え~っと・・・そうか・・・なら良い」

「はい!」

とびきりの笑顔。やっといつものプキって感じか。にしても・・・

あたりをくるりと見回すと、他の生徒がこっちを見ていた。目を背ける生徒は良いのだが視線

を離さない生徒も数人いる。それらの生徒は共通して紙で作った即興のバッジの様な物を胸元

に装着している。目を凝らして見てみると。なるほど。プキのファンクラブ員だ。

そのあとはどうにか放課後まで何もなかったが・・・

時たま視線が刺さる感じが気持ち悪い。やっかいな奴らに目を付けられたものだ。

昼食のあとから、教室でもローカでもどこでもついてくるプキもプキで悪いのだが・・・


放課後。下校途中。今日一日朝を期に現れなかった麗奈の行方が銀鏡の話で分かった。

ちなみに銀鏡は昼から登校らしい。のんびりなやつだ。

麗奈はうなされながら医務室で寝ているとのこと。ショックだったのかは知らないが一日

寝込むなんて凄まじい。少し見に行ってやろうかとも思ったが、弾みでキスなんかされたら困

るのでとりあえず下校を選んだ。

「あいつも大変な奴だな」

呆れ笑いを浮かべながら奏が言う。

「だな~。まぁ麗奈らしいわ」

「まぁな。あぁ、そういやこいつ知らないよな?俺のおじさんの子供のプキだ。一応従兄弟だ」

――というか・・・なんで俺がこいつと従兄弟の設定なんだよ――

銀鏡は一瞬キョトンとした顔で奏を見た。

「あ・・・あぁ。プキさんね。変わった名前だな。よろしく」

「よろしくお願いします。銀鏡さん」

――だからなんでこいつは知ってるんだ・・・?――


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