表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東亜の途 -2010-  作者: 伊東椋
第四章 京城動乱
24/29

第二十四話 真実

 「我々は朝鮮光復軍である。日本の支配から朝鮮の解放のために戦う正義の軍隊である」

 覆面を被った男の声がテレビの画面から漏れ、それを見守る人々が固唾を呑んだ瞬間が訪れた。

 この映像は総督府を占拠した武装集団が、日本政府に対してインターネット上に公開したものをマスコミが編集、テレビに流したものだった。

 「我々はかつて繁栄と平和を築いた故国を侵略した日本帝国主義に対し、今日、韓民族の百年に及ぶハンを晴らした。しかし我々は今後ともその十倍を以て報復する。千年に渡って日本に罰を与える事をここに宣言する。そしてその始まりとして、我々は日帝の侵略の拠点を制圧し、帝国主義に与する輩を捕縛した。これらは全て、日本政府の責任に他ならない」

 覆面の男は淡々とした口調で語り、尚もその視線は映像に釘付けとなる民衆に鋭く向けられていた。

 「要求は以下の通り。一つ、日本当局に逮捕・拘束された同胞を解放する事。一つ、朝鮮半島に駐留する日本軍の撤退、及び現在大陸に進駐している日本軍も撤退させる事。一つ、警察や省庁各政府関連機関・組織等を解散、又は撤退させる事。一つ、将来の朝鮮の独立を国際社会に宣言する事。……以上。これらの要求に対する回答時間は十二時間後の午後9時。次の回答時間にこれらの要求を受諾する旨が無い場合、我々は人質を処刑する。以上」

 映像が公開された後、世間ではテロリストの要求に対する様々な反応や意見が飛び交った。テレビの報道番組では登場したコメンテーターが先に起こった京城連続テロ事件を念頭に今回の事件を防げなかった政府の対応に批難する声も発せられた。インターネット上の掲示板でも大騒ぎとなり、人質の安否を憂う声や政府への批判など紛糾した。

 国民や東亜全体が混乱する中、日本政府はテロリスト側との交渉の開始と共に、武力制圧による早期解決を見送る事を宣言した。

 これに東亜諸国の大臣が人質に捕らわれている状況下、人質の安全確保が第一である事が強調されていた。人質には日本の商工大臣が捕えられているが、その他には日本の周辺国、東亜連合の加盟国一同の閣僚まで居る。

 最早、日本一国の問題では無かった。

 同盟国の国民の命運も懸っている中、日本側は逸早く交渉人を現地に向かわせ、報道管制を行う裏で交渉を始めていたのだ。

 しかし一方で、日本軍がテロ集団が籠城する朝鮮総督府の周辺に兵力を展開、包囲した。

 交渉を行うと宣言した裏で、日本軍は着々と突入に備えていた。



 「ご覧ください、軍が総督府を取り囲んでいる様子が伺えます。政府は人質の安全を第一とし、朝鮮光復軍側との交渉を行っているとの情報ですが、政府の方針と軍の行動は矛盾しているのではないかと言う意見も聞かれます……」

 テレビのチャンネルを横目に、葉山利彦はパソコンの画面に目を向けていた。彼が見詰めている画面の中には、インターネットの大手掲示板に次々と寄せられる書き込みがあった。


 「併合から百年も経っているのに、未だに朝鮮を日本から独立させようと言う輩が居るのか」


 「我々大和民族だけでなく、東亜の諸民族は八紘一宇の下、東亜良民の一員足らんと努力し生きているのに、朝鮮人はいつも邪魔をする」


 「普段から白菜が不作に陥ると、キムチが無いと叫んで暴動を起こすような朝鮮人だ」


 「米欧蘇が世界の覇権を虎視眈々と狙っていると言ふのに、我が帝國はこんな事で手を拱いているだなんて。嗚呼、帝國の栄光は何処に」


 「朝鮮は直ちに奥州に金を返すべき」


 「我々が手放すべきだったのは満州ではなく朝鮮だった」


 「いっその事半島を手放せ。福沢先生の仰っていた通り、朝鮮と関わらない方が良かったのだ!」


 「通報しました」


 「これだから半島者は……」


 事件は何処も大騒ぎとなっていた。テレビは新聞の番組欄に掲載されていた予定を全て変更し、事件に対する速報や特集番組が組まれている。どこのチャンネルに変えても、映されるのは朝鮮総督府の庁舎だ。だが、放送局によっては映像の距離感が感じられ、中でもよく見えるのが国営の放送局だった。この事に関しても、葉山が眺めているインターネットの掲示板にネタとして上げられているが、それはごく一部で、大半が朝鮮に対する日頃の不満や不平の言葉だった。

 「……言いたい放題だな、本当に」

 匿名とは言え、インターネットが普及してからは大分自由にもなったが、あからさまな差別発言や政府の批判はネット警察による検閲の対象にもなり得る。だが、葉山が目の前に展開されているのは、明らかに度を越えたような発言が溢れていた。今回の事件を機に、様々な方面に対して溜まっていたものが一気に解放された証なのかもしれない。

 一部の書き込みには、朝鮮人というだけで事件に関係のない報道がまるで関連性があるかのように見せられたり、記事を更に持ち上げる等の悪意のある書き込みも目立った。政府に対する不満より、一民族に対する攻撃的な発言が多い。中には面白可笑しく書き込んでいる者もいるだろう。匿名のインターネット社会では、こういう日常風景は常日頃から溢れたものだが、今回に限ってはひどすぎた。

 政府への反発もあって、強気な輩が増えているのだ。この騒ぎに乗じ、攻撃的な差別主義者が躍動している可能性も捨てきれない。

 「たった今入った情報によりますと、人質の中には民間人も含まれているとの事です」

 その時、葉山は視線をテレビの画面に向かっていた。葉山は嫌な胸騒ぎを感じていた。



 会議室は悲痛の声で溢れていた。悲鳴を上げているのは、四人の日本人だった。

 彼らは朝鮮総督府の職員と政府関係者だった。その内の一人の職員は朝鮮系日本人だった。

 彼らは室内の一箇所に集められ、他の人質達の目の前に晒されていたが、その光景の余りの惨たらしさに目を背ける者が多かった。

 四人の日本人は後ろ手を縛られたまま、長時間の間、頭と膝がくっつく体勢のまま放置されていた。

 そんな彼らの腕や背中を、テロリスト達が銃床や棒のような物で時折殴打を繰り返していた。

 殴打される度に、彼らの口から苦痛の声が漏れる。

 そして彼らがそんな声を漏らす度に、テロリスト達から喜色の声が上がった。

 テロリスト達は、日本人を嬲るという行為に喜びを覚えている様子だった。

 その光景には彼らが抗日活動の根本として主張する『ハン』の片鱗が見え隠れしていた。

 「死ね! チョッパリめ!」

 「大韓帝国の偉大さを思い知れ!」

 「日帝の糞野郎!」

 テロリスト達は口々に罵りながら、ただ呻き声を上げる四人の日本人を殴り続ける。

 そんな光景を、朴がまるで見下すように眺めていた。

 「(なんて無様な光景だろう……)」

 その思いは暴行される日本人に対してだけではなく、感情を剥き出しにする部下達を含めての、目の前で起こっている全ての光景に対してのものだった。

 「(人というのはこれ程まで愚かなものになれるのだな)」

 朴は笑っていた。その姿を見た者は、朴がその光景を見て楽しんでいると思った。

 百年前に滅びた国の幻想に囚われた朝鮮人を寄せ集めた朝鮮光復軍という組織を率いるには、彼らに夢を見させるのが必要だった。日本は絶対悪とする思想を植え付け、来るはずのない朝鮮の独立という未来を自分達が切り開くという空想をもたらす。彼らは実に使いやすかった。少しのきっかけを与えれば、簡単に感情を暴走させる民族性を持つ朝鮮人故であった。

 突然、会議室に大きな悲鳴が響いた。

 悲鳴が上がった方向に目を向けてみると、暴行を受けていた日本人達は苦悶の色を浮かべながらその場に横たわっていた。その傍でテロリスト達が笑っている。四人は皆、両膝部分を抑えながら苦痛の声を上げていた。

 テロリスト達が実行したのは、李氏朝鮮時代に『チュリ』と呼ばれた拷問の一つだった。両足の親指と両膝を縛った後、縛られた両脛の隙間に二本の棒を差し込んで反対方向に無理矢理引っ張る事で、脛の骨折や膝の脱臼を起こさせるという拷問方式だ。

 併合後、このような朝鮮式の拷問は余りの残虐性に日本によって即廃止されている。そんな拷問の一つを、朝鮮系テロリスト達は四人の日本人に実行したのだ。

 骨を折られた彼らはそのまま殴る蹴る等の暴行をしばらく受け続けた。その光景に見かねた人質の一部が涙を流す程だった。

 今、会議室は憎悪や怨恨が混ざり合う地獄と化していた。



 見回りをしていた二人の男は、背後から近付く殺気に気付く暇もなかった。まず、一人目の男が声を上げる前に、背後から掴まって喉をかっ切られた。

 そこでようやく異変を感じ取った二人目が、咄嗟に振り返る。彼が見たものは、血を流す仲間の姿だった。

 「ウェイ! 你怎么ニーゼンミー(おい! どうし……)」

 彼はそれ以上、言葉を続ける事ができなかった。自分に迫る殺気を、察知したからだった。

 振り返った先に、日本の憲兵が居た。

 その手には血が滴った軍刀が握られている。

 「――你这个东西ニージィガドンシー!(この野郎!)」

 男はサブマシンガンを構えるが――その手が遠くから銃撃を受け、武器を手放す。

 その隙に、近江はその男の首元に刀を忍ばせた。刀の刃先が男の首に着き、微かに触れた箇所から一筋の血が流れる。

 「………………」

 男は無言で、両手を上げた。



 総督府前の移動指揮車に、総督府内から初めて無線が入った。敵から無線機を奪った憲兵の生き残りだった。

 『……こちらは近江大尉だ。応答を』

 「一宇!? 無事だったのか!」

 真っ先にその声に反応した憲政が、士官からマイクを奪う。

 若干興奮気味になっていた憲政を、会津が冷静になるよう促す。冷静を取り戻した憲政は、無線の先に居る近江に内部の情報を求めた。

 「状況を教えてくれ」

 『は。総督府は敵の手中にあり、我が憲兵隊は壊滅状態にあり。誠に申し訳ありません」

 「いや、よく生き残ってくれた。こちらも対応に全力を尽くす。必ず助け出すから、それまで頑張ってくれ」

 『は』

 「……他に、誰か居るか?」

 『憲兵隊は自分一人です。他の隊員の安否は不明。この場に居るのは自分と、台湾のSPだけです』

 百人態勢で総督府の警備に投入されていた憲兵隊が完全に瓦解している状況がありありと伝わってきた。おそらく最初の攻撃ヘリと装甲車突入に伴う初期の襲撃時にほとんどがやられてしまったのだろう。

 「そうか……」

 『中将閣下、敵に関してお伝えしたい事があります』

 近江の言葉に、憲政を始めその場にいる誰もが耳を傾けた。

 「なんだ?」

 『先程、武装勢力の一人を確保し尋問したのですが……、総督府を襲撃した武装集団の大半は支那人です』

 「支那人!?」

 指揮車内にいる誰もがその情報に驚いた。

 『はい、自分も接敵する際に彼らが中国語を話している様子を確認していました。尋問の結果、敵は自分達が支那人である事を自白しました』

 「どういう事だ、一宇。敵は朝鮮独立派ではないのか」

 総督府から発せられた犯行声明の中においても、敵は自分達を朝鮮光復軍だと名乗っていた。ならば敵の人種は朝鮮系であるはずだった。

 『おそらくこの者たちは国民党兵です』

 国民党兵――つまり、中華民國軍の兵士と言う事である。しかし同盟国の兵士が何故テロリストの仲間になっているのか。

 『正確には、元……でありますが』

 「一宇、それは……」

 憲政は気付いた。そして近江の言葉が、憲政の中で確信に近付く。

 『……閣下、11年前の事件を覚えていますか』

 「まさか……」

 少しの間を置いた後、無線から近江の確信に満ちたような声が響く。

 『武装集団の支那人は――11年前に脱走した兵士達です』

 その場の空気が、シンと静まった。



 一旦無線を切った直後、近江は生け捕りにしたテロリストの一人に視線を向けた。

 男は椅子に座らされ、部屋にあった縄状の物で縛り付けられていた。その顔は所々に腫れがあり、血が流れていた。

 「話は終わったか?」

 傍にいた李菊倫が笑みを浮かべていた。彼が何故笑っているのか、近江にはわからない。

 「ああ、出来るだけ得た情報は伝える事が出来た」

 「なら、じきに日帝軍が突入してくるだろう。こいつらの運も尽きってわけだ」

 李菊倫は、ニヤニヤとした笑みを男に向けた。

 「ハン没良心的坯子メィランヒンダピーツ!(ふん!恥知らずの出来損ないめ!)」

 次の瞬間、李菊倫の拳が男の頬に飛び出していた。男の口から血の塊が飛び散る。

 「台湾人の俺に中国語で罵倒とは、良い度胸してるな」

 殴られた男はそれ以上何も喋る事はなかった。

 「………………」

 近江はただ、その光景を眺めるだけだった。

 11年前――中華民國とソ連の国境で起こった事件。中華民國軍の脱走兵がソ連領内に逃走した事がきっかけで、日本をも巻き込んだ紛争にまで発展した。『平成のノモンハン事件』とも呼ばれたこの紛争は三ヶ国間で停戦交渉が成立したが、ソ連領内に逃走した脱走兵は帰らず、日本側も大損害を被っていた。

 停戦後の捜査は打ち切られ、事件は歴史の闇に封じ込められたと思われた。

 だが――意外な形で、再び近江の下に事件の真相の一端が舞い降りたのだ。

 生け捕りにした支那人の男を尋問した結果、11年前の事件が深く結びついている事が判明した。

 その情報は総督府内の状況と共に、外にいる憲政達にも知らされた。

 「(単なる独立派の過激なテロ行為ではない。やはり背後にもっと大きな……)」

 しかし――11年前なら兎も角、現在の彼の国にそれをして利する事になるのだろうか。

 近江には想像し得ない複雑な事情が絡んでいそうだった。

 「おい、日本人」

 李菊倫の呼び掛けに、近江はハッとなる。

 「……ああ」

 近江は頷いた。

 既に知りたい情報は目の前で縛り付けられている男から聞き出した。

 敵は会合があった会議室だ。人質もいる。しかしたった二人では事態の解決は不可能だろう。

 やはり応援を待つしかない。

 それまで出来るだけ突入しやすい環境を用意しなければならない。

 まずはその前に、この部屋から出る用意だ。近江が小銃を抱え、扉の方に向かうと同時に、李菊倫が椅子に縛り付けられた男の方に歩み寄る。

 「再見サイツェン豚野郎チャンコロ(じゃあな、チャンコロ)」

 近江の視界の端で、赤い噴水が見えた。



 総督府占拠から既に三時間が経過した頃、総督府を包囲する皇軍は既に突入準備を進めていた。

 「総督府への突入は、機動旅団が行う」

 移動指揮車内に集まった幹部達を前に、憲政が説明を始める。

 機動旅団とは、帝国陸軍の特殊部隊だ。設立当初は関東軍直属の独立旅団として生まれた。満州返還後、陸軍参謀本部の直轄部隊となり、日米ソが介入したベトナム戦争では北ベトナムに潜入し後方攪乱に活躍した。

 米国のグリーンベレーや英国のSAS、ソ連のスペツナズに並ぶ世界屈指の特殊部隊である。

 「機動旅団が現地に到着する予定時刻は一六○○。突入決行は解答制限時間に当たる一時間前の二○○○時となる」

 本土から派遣された機動旅団は、到着次第、総督府包囲部隊の指揮下に入り突入に備える。

 そして夜間に紛れ、目標に潜入、制圧する予定だ。

 「本作戦の成否は帝国のみならず、東亜の未来を左右する。心して掛かるように!」

 一層の緊張感が、車内に張り詰められた。



 移動指揮車を出た憲政を追ってきたような形で、会津と北条がやって来た。

 彼らは人目のつかない端の方に立ち、言葉を交わし始める。

 「あら、二人ともこんな所にまで付いてくるなんて。わざわざこんな場所でなんて、何だかやらしさを感じてしまうな」

 「あからさまに誘っておいて、何をほざいている」

 それに、と北条は続ける。

 「貴様自身は元から邪なもので溢れているだろう」

 「何をう?」

 睨み合いを始めた二人の間に、会津が割って入る。

 「はいはい、いつもの下らない言い争いは止めて頂戴。それよりもさっきの情報の件でしょ」

 会津の発言で、三人の間に不穏な空気が漂う。

 「……あの憲兵の言う事が正しいとしたら、なかなか難しい問題よ?」

 「まだ確証はない。今後の調査次第だ」

 「だが……忠考、お前も本当はわかっているのだろう? 一宇がもたらした情報は、おそらく真実だと」

 「………………」

 北条は無言を返答とした。

 「何せ、一宇が言っていた事が本当なら色々と辻褄が合うからだ。我々が得ていた情報とも照合する」

 「敵はやはり……朝鮮独立を目指すただのテロ集団ではない。東亜共栄の和を乱そうとする輩が居る」

 「でもその輩の本当の狙いって? それに……もしそれが真実なら、彼の国との関係も最悪なものになるわ。それを現在いまの彼の国が望んでいると言うの?」

 「11年前、悔しいが帝国は惨敗した。あの国の実力は本物だと改めて痛感した。帝国が再び戦う事になったら……果たして今度こそ勝てるだろうか?」

 それは普段強硬的な北条でさえ漏れてしまう程の事だった。その大国とは長年日本の最大の仮想敵だっただけに、そして実際に剣を交えた経験があるからこそ、言える言葉だった。

 「だが、いくら強国であろうと世界から孤立してしまえば、自滅の道を辿るだけだ」

 毅然として言い放ったのが憲政だった。

 三人は顔を見合わせる。

 「それは帝国も同じだ。帝国が承知している事を、あの国がわかっていないはずがない」

 憲政ははっきりとそう断言した。

 もしあの国が自分達が想像するより愚かしい国だったら、とっくの昔に崩壊している。

 帝国を凌駕する世界一の領土を有し、半世紀に渡って米国と肩を並べる超大国の片翼。

 既に革命から90年を数えようとしている彼の国が、自ら崩壊の道を歩むとは思えなかった。

 「先ずは目の前の事柄を解決する事だな。我々は現場として事態を収拾し、事後の事は……おそらく政治の枠に移るだろう。軍人は政治に関わるべきではない事は大陸での戦いで倣ったはずだ」

 満州事変と支那事変を含む対国戦、そしてその後の10年に渡った対共戦を含んだ大陸での戦いは、何れも軍部の台頭と躍動によって泥沼化した。勝利は導いたものの、帝国は戦闘が長期化した過程を反省し、五・一五事件後に増幅した軍部の影響力を先帝自ら戒め制限化した過去がある。

 軍人は任務を遂行する。国際問題に発展した際、それは主に政治屋の役目だ。

 憲政の言葉を最後に、三人は話を終えた。

 移動指揮車に戻る直前、機動旅団を乗せたヘリが到着した。


■解説



●機動旅団

1944年に関東軍直属の独立旅団として誕生した機動第二連隊が発祥。その後編成を経て帝国陸軍参謀本部の直轄に移転した際に現在の名称になった。大日本帝国最強の特殊部隊として名を馳せている。



●チュリ

李氏朝鮮時代に存在した拷問の一種。方法としては様々なものがあるが、作中で朝鮮系テロリスト達が行ったのは朝鮮式拷問の中でも最も残酷とされるもの。死刑直前の囚人に対しても実施された拷問だとも言われている。余りの残虐性にこれらの拷問方法は全て日韓併合時に廃止された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ