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黄金魂  作者: 天野東湖
第02話 対峙する過去
14/65

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「――で、どうしてこうなった?」


 憮然と頬杖をつき、席に腰を下ろした彰があたしを見る。


 隣町にある大型ショッピングモールの三階。国雄くんの家には劣るものの、景色のいいワイドビューを眺めることができるレストランで、あたしたちは向かい合っていた。


 あたしの左側、窓際に位置する席は黒木先輩が陣取り、やむなく通路側に新田くんを。

 真向かいには国雄くんが座って、窓際にはユキちゃんが、通路側には彰が座している。


「いやあ、ほら、入学して早々、これだけの友達に恵まれたんだからさ。ここはやっぱり、仲間内の親睦を深めるためにも、一緒に遊べないものかなあと思って」


 はっはっは、とから笑いするも、彰の冷たい眼差しは決して見ないようにしたりして。


 週末の日曜日なのだ。駄々をこねる黒木先輩と新田くんをなんとか説得して、今日の約束を取り付けた。国雄くんとユキちゃんには、以前の御馳走などのお返しもあるので彰と一緒に自宅を訪問して、声をかけてみたりして。


 ユキちゃんは窓からの景色を一通り眺めているうちに、とうとう疲れが出てきてしまった様子で、お兄ちゃんに頭を預けて寝てしまった。そりゃモール内で、あたしと先輩とで互いにガールズトークに華を咲かせていたら、さすがに疲れちゃうよね。でもユキちゃん用にコーディネートした私服も見繕ってプレゼントしたりして、黒木女史もすっかりユキちゃんの虜になってくれたようで一安心である。


 しかし男子陣はというと、かなり微妙な空気が続いている。国雄くんと新田くんの相性は最悪で、蛇に睨まれたなんとやらの構図だ。その間を取り持つように彰が二人に話しかけているけれど、国雄くんはともかく、新田くんはずっと俯き加減でなかなか心を開いてくれない様子。それでも逃げずに同行してくれているあたり、新田くんはきっと、藁にもすがる思いで自分の環境をなんとかしたいと考えているのだろう。


 昨日、彼のだらしなかった風采を整えるために、あたしの行きつけの美容院やカジュアルショップを拝み倒して協力を仰いだのも相応の効果があったのかもしれない。そうして身嗜みを整えたところで、彼のゴミだらけの部屋を大掃除したりして――えろえろなパッケージ箱や本が見つかって、新田くんは終始、顔を真っ赤にしていた――なかなか楽しい共同作業の時間を過ごしたものだ。


 彰が呆れたように息をついた。


「茜の癖は、どうやら一生治らないみたいだな」

「あたしの癖?」

「お人好し」


 あたしが膨れっ面をすると同時に、店員さんが注文をまとめにやってきた。眠っているユキちゃんの分は国雄くんが適当にオーダーして、あたしたちは飲み物とデザートを中心にそれぞれ頼んだ。彰は大人ぶってブラックコーヒーを注文している。


 時刻は午後三時だ。一休みするのには丁度いい頃合いだろう。


「もう、あたしのことはどうでもいいの。今日の主役はこっちの二人なんだから、まずはその話を聞くって約束だったじゃない」

「わかってる。茜の紹介だから、決して無下にはしない」

「だったら、最初からそれを早く――」

「その前に、はっきりと断っておきたいことがある」


 彰は、先輩とあたしと新田くんとを順に見て、最後にあたしを見た。


「俺は専門家を気取っているじゃない。だから心身に影響のある悩み事なら、学校内でもカウンセラーがいるし、精神科を受診したほうが健全だという見方もある。それにこれは常々、口にしていることだが、俺たちが持つ『能力』については未知の部分が多く、その全容はいまだ解明されていない。――あなたがたを失望させるかもしれないが、今日こうして会えたからといって、悩みがすぐに解決できるとは思わないことです。むしろ助けにもならず、悪化させる可能性だってある」


 最後の言葉は二人に向けられたものだ。先輩と新田くんの表情には戸惑いと不安が見え隠れしていたが、だからといって、むやみに取り乱すこともなかった。今日の約束を守るだけでも、それなりの期待があったはずなのに。


「それでもいいと言うのなら、俺の個人的な見解でよければ話を伺わせていただきます」そう言って、彰は先輩のほうを見た。「黒木凛さんは、過去のトラウマを克服したいとお聞きしましたが」

「あたしが間違ってるのかどうかを確かめたいの。あの時、友達から見捨てられたことで皮肉にも『能力』を手に入れたあたしが、力を使うことで結果的に人を傷つけるのなら、あたしは今後どうすればいいの? 正直者が正しいのか、嘘つきが正しいのか、あたしにはもう何もわからない……」


 店員さんが、注文分の飲み物をそれぞれに配っていく。彰はコーヒーを一口飲んでから、先輩を見た。彼女はすでに決意を固めた風な眼差しを向けている。


「能力そのものに善悪がないことは知っておられると思います。だから、善悪のどちらに傾倒するかは、あくまでも能力者の使い方――生き方が反映されると言っても過言ではありません。あなたの能力は、そういう意味では非常にきっぱりとした白黒をつける力だと言えます」

「そうよ。あたしに『嘘』は通用しない。でも正しさが人を傷つけたら、これは『悪』にはならないの? そもそも真実と嘘は、どっちが正しくてどっちが間違ってるの? それがわからないと、あたしはもう怖くて力が使えないわ」

「そんなもの、考えるだけ時間の無駄です。正しさが人を傷つけて、だから悪だと見限るのも早計です。なぜなら生きていくうえで、これほど不毛な極論はないからです」


 そうなのか、と問い返したのは意外にも国雄くんだった。


「論点を間違えているだろう。いろんなものを混同するから雁字搦(がんじがら)めに遭う。真実と嘘、これを善悪で、さらに正しいか否かで考えてはいけない。真実と嘘の問いかけは、善悪で区別するべき問題ですらない」


 先輩が首を横に振った。訳がわからないといった風だ。


「どうして? 真実と嘘のどっちが正しいかなんて、すぐにわかりそうなものじゃない」

「そのとおりです。真実は『正確な情報』で、嘘は『間違った情報』です。しかしこれと、善悪として正しいかどうかはまた別問題です」

「……どういうこと?」

「たとえば先輩が将来、本物のジャーナリストになったとします。そうなると多くの敵を作る反面、必ずあなたの支援者なり理解者なりといった人脈を築いていくでしょう。しかしこうした善意の協力者に対しても、あなたはいずれ『大丈夫じゃないのに大丈夫だ』と嘘をつく日がやってくる。なぜならあなたには、すでに多くの敵がいるからです」

「……あたしが周到で、敵を作るとは限らないわ」

「そうかな。あなたは正義感の強い人だ。そしてジャーナリストは隠された真実を見つけ出すのが仕事になりうる。しかし人には、決して暴かれたくない真実があるもの。それは茜が身を持って体験したはずだな」


 あたしはたまらず、彰の視線から目を逸らした。


「それに、人間なら誰にでも、どうしても肌に合わない、気に入らない相手というものを作ってしまう恐れがある」


 彰の視線がまだ痛い。うう、あたしになんの恨みがあるのさっ。


「だから真実と嘘で最も肝心なのは、それが『今必要か』という一点に尽きる。正しいから真実を暴くんじゃない。真実を暴き出すことが善良でもない。その真実が今必要だと思うから暴くんです。その結果、自らの行為が最善だったかどうかについては、神のみぞ知る」

「神じゃなくても、周りが勝手に評価を下すわ」

「他人の評価で築き上げるのは自信ではなく、単なる好感度ですよ。人の良い人間だと自分をアピールしたいなら引き止めはしませんが、弱音を隠しても弱い心は消えません。大体、真実を暴くことで、あなたは何が欲しいんです? ご自分の望みがわからないのでは、ご自身の悩みもまた永遠に解決しないでしょう。正義、金、好感度、真実――黒木凛の望みは一体どれでしょうか。俺から言えるのはそれだけです」


 先輩は眉間に深いしわを刻み、飲み物を手に取って顔を背けた。またしても深い悩みを抱えてしまったようだった。その眼が本当に大窓の外に広がる景色を眺めているのかは、あたしにはわからない。


「……あたしは友達に見捨てられた。あの時は、本当はどっちが正しかったの?」

「無論、あなたが正しい。ご友人はお化けの存在を認めたうえで、もうあの家には絶対に近づくなと、真実を知らない他人に当時の恐怖を伝えるべきだった」

「……そう。やっぱり、あたしは正しかったのね。だから復讐は間違ってた。正しい道を、自分から踏み外してしまったから……」


 頷いた彰を見つめて、彼女はもう一度窓の外の景色を見て黙り込む。

 どうやら黒木女史には、じっくりと考える時間が必要なようだった。


「さて、次はあなたですね」


 彰に見つめられ、新田くんは怯えたように顎を引いた。首筋のしわが幾重にも浮かぶ。


「僕は、別に何も……」

「こら、違うでしょ。――ごめんね。新田くんは人見知りが激しいから」


 あたしの言葉に反応して心外そうな眼をしたが、結局、新田くんは何も言わなかった。あるいは何も言えなかったのかもしれない。


「あなたのことは茜から伺っています。率直に言わせてもらうと、不謹慎ではありますが、あなたは人格障害の兆候が表れていると言わざるを得ません」

「人格障害ィ?」


 驚いたのは、思索に耽る先輩と、健やかに眠るユキちゃん以外の全員だった。もちろん発言者の彰を除いて、あたしを含めた他の三名である。


「ど、どういうことですか。僕が人格障害だなんて、そんなバカなことが」

「あなたの能力名を聞かされた時、ちょっとした符合を思い出しました。もちろんただの偶然でしょうが、同時にご自身の家庭内事情を茜より伺った時、これは無視できない符合だと確信したのです。ボーダーライン――またの名を、境界性人格障害」


 呆然とする新田くんは、その最後の言葉だけを、虚ろに復唱した。


「境界性人格障害とは、端的に言えば、不安定な精神状態のことを指します。そしてなぜ精神が不安定になるのかと言えば、これは見捨てられるかもしれないという不安が絶えず本人を苦しめているからです。だから、見捨てられないためには相手の関心を引き寄せるしかないと考え始め、より極端で大胆な行動を取るようになる」

「彰、もっと詳しく教えて」

「誰でも一度は経験があると思う。子供の頃、親と一緒に買い物に出かけた時に、自分が駄々をこねて路傍(ろぼう)に座り込み、相手を困らせた経験が。けれど親は無駄な出費を控えたいので、子供の要求を無視する。それどころか、早く家に帰りたい一心で、子供をその場に置き去りにして立ち去ろうとする。もちろん本当に帰るわけじゃないが、子供は親の姿が見えなくなった時、本当に見捨てられたと思い、自分から後を追って歩き出すようになる」


 思わず子供の頃を思い出しそうになるほど、それは懐かしい経験だった。


「この例は、しかし誰にでも経験があるように、親による『見捨ての行為』が、育児には極めて効果の高い(しつけ)になる点を重要視したい。親は自分の言うことを子供に聞かせるため、時には脅しを使わなければ――命令に背いた『罰』を与えなければ、教育の一環にはならないと考えている。だから自分の言うことを聞いた子供には、ご褒美として甘やかすんだ。いわゆる飴と鞭というやつさ」

「それが、教育上はやっちゃいけないってこと?」

「いや、むしろ必要な行為だ。ただし、度が過ぎなければの話だが」


 考えれば当たり前のことだ。誰にでも経験があるということは、その『見捨ての行為』自体が育児には必要だという経験則の証明になる。単純な理屈だが、効果的な方法だから、ほとんどの子供に適用できるのだ。


「ということは、新田くんの場合は、それが過剰に行われたってこと?」

「彼は、その経緯はともかく、父親の眼というものを非常に意識していた。父親の厳格な性格は、当然ながら教育にも大きく反映されただろう。だから新田さんが失敗を繰り返すたびに落胆し、期待がなかなか成就しないことに苛立ちすら覚えたかもしれない。なまじ、長男であるということが、あなたに対する期待に拍車をかけていたのかもしれませんが」

「……僕は、それでも僕は、努力してきたんだ」

「だが父親にとって、努力するということは、結果を出すことと同義語だった。この場合、新田さんの努力の定義は重要にはならない。あくまで父親ご自身が考える努力の定義が、あなたの教育に大きく影響されたでしょう」


 新田くんは歯噛みした。沈黙は同意を示す、とは誰の言葉だっただろうか。


「成功には褒美を、失敗には罰を――あなたを取り巻く家庭環境、というより教育環境の基礎は、こうして形作られた。おそらく、家庭の大黒柱という意味でも、父親の力関係は家族内で絶大だったのではないですか? でなければ、新田さんはここまで苦痛を強いられることはなかったでしょう。家族の誰かが父親を止めることができていれば、高校受験に関しても徹底的に口出しすることはなかったでしょうから」

「でも彰。それは誰かが悪いとか、そういう問題じゃないと思う」

「難しい境界だな。大人を責めるのは簡単だが、子供を育てるのは容易じゃない。だから俺はこの件で、彼の家族をどうこう言うつもりはない。その権利があるのは、他ならない新田さん本人だけだ」

「ぼ、僕が……?」

「親からの『見捨ての行為』には、当然ながらリスクが伴う。親から見れば教育に効果がある躾だと理解できても、子供からしてみれば、それは自分が親から見捨てられてしまうような子供だと認識してしまう恐れがあるからだ。だから使えば使うほど、子供は自分が愛される価値のない人間だと考え始め、最悪の場合、自分で自分を見捨ててしまう恐れがある」

「自分で、自分を見捨てる……」

「それが境界性人格障害の一例です。あなたは父親の期待に応えられない子供だと自分を責め続け、父親を意識するあまり、自分自身に自信が持てなくなってしまった。あなたはそうして、幼い頃から父親に刷り込まれてきた歪みから抜け出せないまま、父親が養子を引き取ったことで今まで抑圧してきた鬱憤が爆発したと推測します。不安を弄ぶ親への怒り、むしゃくしゃする家族内での居心地の悪さ、耐えがたい孤独感――それはあなたにとって何より苦痛だったでしょう。そしてこう考えたのかもしれない。親が自分を必要としないなら、望みどおり、誰からも必要とされない人間になってやる」


 新田くんが息を呑む。いつしか額に脂汗が浮かび、その鼻息が荒くなっていた。


「しかし、勘違いしてはいけない。稀有な能力を使って部屋に閉じこもったのは、決して自暴自棄になっていたからではありません。むしろ逆、自分と他人を傷つける破壊衝動を見せつけることで、自分が本当に必要とされない人間なのかを試していた。能力の使用は、言わば新田さんからの挑戦状です。いつか、きっと誰かが、自分を必要とするために会いに来てくれることを信じて、強力な心のバリケードを――堅牢な予防線を張り巡らせていたにすぎないのです」


 嗚咽していた。新田くんの眼から、また涙がこぼれ落ちた。あたしは静かにハンカチを差し出した。彼はそれを受け取って、すぐに目元を覆った。


「不幸中の幸いでした。もしその挑戦状に立ち向かったのが茜でなければ、あるいは誰も新田さんの能力を打ち破れずに、異世界の中で果てていたかもしれない。家庭内の事情はどうあれ、能力を使って他人を傷つけることの危険性を、あなたは深く知るべきだ」

「ご、ごめんな、さい……そんな、つもりじゃ、なくて……」

「それに、あなたはご自分の能力の使い方を、根本的なところで誤解している」


 えっ、と泣き顔を上げた新田くんを、彰はまっすぐに見返した。


「他人の心の力を利用して異世界を作る能力と茜から聞きましたが、それは適切ではありません。あなたの能力は単純に、心の力を投影した異世界を支配するのみです。そこに、自分か他人かの境界線は必要ない」

「……え?」

「自分の力だけで能力が使えなかったのは、新田さんご自身が、自分自身を信じられない、自分という個人に自信が持てなかったからです。異世界に投影するだけの、強烈な意志を込めたプライドを堅持できないからこそ、あなたの能力は他人を必要としなければ発動しなかった。おそらくその原因も、教育環境の弊害にあったのでしょうがね」

「じゃあ、僕の能力は、欠陥品なんかじゃない……?」

「欠陥品どころか、類を見ない強大な力ですよ。あなたに確かなプライドが、自分自身をしっかりと支える自意識さえあれば、それを強固にしていくだけで自在な異世界を支配することができる。ご自身に秘められた無限の可能性を、ご自分の手で叶えることができるようになる」

「無限の、可能性……」

「まだ個性がないのは、これからの成長を暗示させる白紙の状態を意味します。しかし、新田さんの能力は先のとおり、非常に不安定な制御法を熟知しなければ使いこなすことはできません。そこで、こちらから一つの提案があるのですが――」


 言って、彰はコーヒーを口に含んだ。焦れったいように新田くんが身を乗り出す。


「な、なんですか。なんでも言ってください。僕にできることなら、なんでもします!」

「そちらに害を及ぼすことはありません。これからは、新田さんの都合のいい時間を指定して、俺の家を尋ねてきてください。まずは現状どおりの使い方を習熟して、完璧に能力を操ることが先決です。そのほうが独力で異世界を支配するイメージも組み立てやすく、俺自身も、実際にこの目で見たほうが手助けの鍵になれるでしょうから」

「ぼ、僕が、お邪魔してもいいんですか……?」

「そちらから連絡いただければ、俺としても都合を立てやすくなります。それに、あなたはもっと外の刺激を受け取るべきだ。俺の家に来ることは、あくまでもご自身の成長のための足がかりでしかないことを憶えていてください」

「僕の、成長のために……」


 もうすっかり涙が止まった彼は、不安そうにあたしを見た。だからあたしは迷わず親指を立てて笑顔を作る。


「大丈夫、頑張って! あたしも応援するから」


 新田くんはぎこちなく、けれど確かに安堵したように笑みを浮かべた。なんとなく険がなくなったように感じるのは、それだけ不安も取り除かれたからだろう。


「あ、ありがとうございます。僕、頑張ります」

「わかりました。それと、学校は同じだとお聞きしましたので、今後は俺と国雄とでも、ご一緒する機会が増えるでしょう。もちろん、それは新田さんが登校すればの話ですが」

「――行きます。僕は、僕自身を、早く変えたいから」

「仙道彰です。今後ともよろしく」


 二人は、たっぷり時間をかけて握手した。美しい男の友情。

 いやあ、これで一件落着ですなあ。


「おいおい、オレの出番はなしかよ。勿体ぶってこのまま退場なんてイヤだぜ、オレァ」


 あたしと彰は思わず苦笑した。新田くんだけが困ったように恐縮する。


「まあ、彰が認めたんだ。オレからは何も言わねえけどよ」


 じろり、とねめつけるような国雄くんの視線。ただでさえ鋭い目付きなのだから、新田くんが怯えるのも無理はない。


「オレは女々しい男が大っ嫌いなんだ。テメェが仲間になるっつうなら、それは『漢』になるってことだぜ。テメェ自身の行動に『誇り』をかけるってことだ。これだけは絶対に忘れるな」

「は、はい――ッ!」


 ショッピングモールを出たのは、午後五時を回った頃だった。結局あれから眠ったままのユキちゃんは、頼りになるお兄ちゃんが背負っている。

 黒木先輩が口を開いた。いつか盗撮された写真と、小さなメモリーカードが渡される。


「神崎さん、今日はありがとう。とても有意義な一日を過ごせたわ。そしてごめんなさい。この前はあたしがどうかしてた」

「いいえ、あたしは何もしてませんから」

「そんなことないわ。――でも、どうしてあなたが彼に惚れたのか。ちょっとわかる気がして、なんだか少し妬けちゃった」

「えええっ!」


 ま、まさかのライバル出現ですか! だ、ダメですよぅ! 彰はほら、三度の飯よりも小難しい話が大好きな、変人思考のぶっとび鉄仮面なんですから! あんな朴念仁と付き合うなんて、時間と労力と赤い糸の無駄遣いですよ!


 ――あ、なんか自分で言って虚しくなってきた。


「でも、彼は危険な香りもするわ。仙道くんはたぶん、あまり積極的に関わらないほうがいいタイプかもしれない。いわゆる観賞用ってやつね。彼に近づいたら、そのうち大変な目に遭うかも」

「そそ、そうですとも! もうほんと、命が幾つあったって足りないぐらい大変なんですから! 先輩は、もっと素敵な男性とお知り合いになるべきです!」

「……あんた、話題を逸らすために必死ね」

「べべべ、別に必死じゃありませんことよ、おほほほほ」


 先輩のジト眼が突き刺さる。あたしは苦笑いするのに精一杯。


「まあいいわ。あたしはあんたを応援してあげるわよ、未来の助手さん」


 ぽん、と肩を叩かれてあたしを追い越す黒木女史。なぜそれを知っているのかと考えて、あっという間に思い出す。


 初めて会った時、あたしの進路希望表はクラスメイトの分と合わせて、一番上に載せていたような気がした。


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