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 お立ち寄りくださり、誠ににありがとうございます。

幼馴染をテーマに書いていたら、いつのまにかキャラが走り出し、あれよあれよと続編まで書いてしまいました。笑


現在、「素直になれなくて2」も連載中です。気に入ってくだされば、是非続けてお楽しみいただければ幸いです。


では、最後までお付き合いください。


篠原悠哩



 「朝だよ!おはよ!…朝だよ!おはよ!」

ふとんの塊の中から細くて華奢な手が伸びる。


「わかったって!」


不機嫌そうにつぶやくとバンバンとベッドサイドのテーブルを叩きながら手探りで時計を探す。

お目当ての時計の手応えを感じると茶色いクマの頭にあるボタンをバンッ!と投げやりに叩く。かわいそうに目をキョロキョロさせながら朝の到来を告げていたクマは無残にもテーブルから叩き落とされた。その瞬間、静かになる。

しばらくして布団の塊は大きくため息をつくともぞもぞと動き出した。やがてばっと布団を勢いよく跳ね上げると、中から現れたぼさぼさの髪の少年、もとい、れっきとした大人の女性が正座した格好で眠たい目をこすりながら天井に手を伸ばして大あくびをした。


「ふああ〜っ!」


そしてしばらく呆然と一点を見つめる。


 真藤澪しんどうれい28歳。


はっとするぐらいの美人なのに、男運がない恐ろしく奥手なOLである。

澪はあまり朝は強くない。目が覚めてからしばらく寝ぼけてボーっとしているのが日常だ。そのままの姿勢で目を開けながら眠ってしまうこともある。あやうく寝坊しそうになるのだが、いつもダメ押しで携帯で起こされる。


 今日も一瞬、意識を失いかけたところで携帯の着信音がけたたましく鳴り響く。澪ははっとして目を見開くとテーブルの携帯に手を伸ばした。


「いつまで寝てんだよ!遅刻するぞ!なんなら寝込み襲いに行ってやってもいいんだけど?」


長年聞きなれた声が電話の奥で笑っている。


「遠慮しときます。おきりゃあいいんでしょ!流星りゅうせいのどエッチ!」


カチンときて少し呂律がまわらなさそうな喋りで不機嫌そうにとりあえずやり返すと、勢いよく切る。毎朝の日課である。


 春日流星かすがりゅうせいは同級生にして隣に住む腐れ縁の幼馴染。成績や得意科目も似た二人は高校も同じ、大学も学部こそ違えど、同じ学校となった。腐れ縁はそこまでかと思いきや、今勤めている化粧品メーカーの採用試験会場でも偶然にも出くわし、めでたく合格して二人は同僚となり、現在に至る。さすがに部は違うが、皮肉なことにフロアは同じなのである。そのせいか、小学校の時からほぼ習慣化した澪を起こすのが、そのまま流星の日課となっている。もちろん、昔は窓から起こしにやってきたのだが、大人になってからは澪が窓をきっちり閉めるようになったので、いつからか携帯になった。


 澪はまだ目覚めきってない体を引きずりながら階段を下りると、母の作る味噌汁と玉子焼きのいい匂いに急に頭がはっきりして来る気がして、条件反射のようにダイニングキッチンに顔を出す。


「ああ、澪、おはよう。早く支度しなさい。遅れるわよ。」


澪をそのまま小さくしたような母が忙しく動きながらちらっと澪に視線を向けて笑った。


「は〜い。」


とやり過ごそうとして一瞬ぎょっとする。流星が父の傍らに座り、クスクス笑っていた。


「おはよ〜。寝坊助。早くしろよ。先に行っちまうぞ。」


流星が清々しい笑顔を澪に向けてくる。澪は真っ赤になりながら、すぐ傍の洗面所に駆け込んだ。


「なんであんた、こんなに早いのよ!」


寝起きのぼさぼさ頭のだらしない姿を見られたことに羞恥しながら、焦っていらだたしく洗面所から怒鳴った。


「べつに。早く起きたから支度が早くできただけ。おまえとちがって優雅な朝食を楽しむために

たまには早く起きるのさ♪」


そう流星がやり返す。その傍らで新聞を読みながらそのやり取りに笑っている父の声が聞こえる。澪は大きくため息をつきつつ、さっさと顔を洗って髪を整えた。


 流星は、隣の家で1人暮らしをしている。正確には10年前に父親を単身赴任にさせたくない流星の母が父親の転勤についていってしまって、高校を卒業すると同時に自分の家で1人暮らしとなっていた。澪の両親も、もともと地元で、流星の両親と4人は幼馴染なこともあって、流星の面倒を見ることを気持ちよく請け負ったのだ。どうせ、学校も同じなんだしということで、現在に至る。言わば春日家とは家族同然の付き合いだった。


 おまけに何かにつけてやり合う二人のやり取りを見るたびに澪の両親は、


「本当の兄妹みたいね、あんた達」


と目を細めるだけで、澪の気持ちは一切無視だった。澪にとってはいい迷惑である。家の中を自由に動き回る流星には隠し事はできない上、澪の両親も何も疑わずになんでも話す。その結果、流星は澪のことなら知らないことはなかったというより、本当に家族同然でこの家のことで流星が知らないことはまずないといっても過言ではない。


 ただひとつ、澪が誰にも言わずにひた隠しにしていることを除いては…。


澪はバタバタと2階に駆け上がり、化粧をすばやくして身支度を整えると、顔つきもきりっとビジネスパーソンの顔になる。もともと知的な美人だったので、少し化粧するだけで澪の綺麗さはひどく磨かれる。少し中性的で禁欲的な雰囲気をもち、非の打ち所がないような知的でクールな容貌はいかにも仕事が出来そうなやり手のビジネスパーソンに見える。澪は完璧に支度を整えるともう一度階段を下りてダイニングに改めて顔を出す。


「やあ、真藤澪サマ。おはようございます。今日もお美しいですね。」


流星はそう言ってけらけら笑う。


流星おまえ、一回殺してやる!澪はむっとしながらもバツが悪そうに流星をちらっと見ていかにも不機嫌そうに挨拶した。


「おはよ。なんなのよ、その言い方。」


「いやあ、クールで完璧な真藤澪サマの、マル秘実生活を見られるのも俺だけだよなあと思って。」


そう言ってクスクス笑いながらのんびりご飯を食べている。その様子になんだか腹がたって澪が噛み付く。


「流星!会社で変なこと言わないでよ!」


「朝が弱くてぼけまくってるとか?」


「流星!あんたねえ…!」


その瞬間澪の味噌汁を持ってきた母が口を挟んだ。


「澪!遅れるわよ。さっさと食べなさい。」


母の声に澪は時計を見る。やばい、ほんとだ。時間がない状況を把握して無言でご飯を駆け込む。流星が涼しい顔してクスクス笑っている。ゆっくり食後のお茶に手をかけた流星にキッと睨みをきかせるとその後は食事に集中した。


「あ、お父さん、時間ですよ。」


流星は傍で新聞を広げて読んでいた例の父親に声をかける。


「お、おお。そうだな。」


のんびり席を立つと玄関に向かった。その後を追うように母が父親の鞄を持って走って行った。すでに、食事も終盤になっていた澪は母の後姿を渋い顔して見送る。


「鞄ぐらい自分で持っていけばいいのに。」


「いいじゃない。お母さんはうれしそうなんだから。俺もあんな風に尽くしてくれるかわいい人が嫁に欲しいなあ。なあ、澪?」


涼しい顔して厚焼き玉子を無心にほおばる澪を覗き込んでくる。澪はその返事にも何かいってやろうかと思ったが、時間がないので無視することにした。食事が終わると洗面所に駆け込んでも言う一度歯磨きをして口紅をつける。最後に鏡でチェック。


「よし、完璧!」


そういってニッコリ笑って振り返るとそこに流星が立っていて、広い胸に思わずぶつかりそうになる。


「確かに完璧な美人だな。俺は化粧してなくてもきれいだと思うけどね。」


流星がよろめきそうになった澪の腕を掴みながら済まして見下ろしている。


「なんなのよ!びっくりするじゃない!人の後ろに急に立たないでっていつも言ってるでしょう?」


澪はドキドキして体が熱くなるのを隠すように掴まれた腕を強引に引き戻して睨みつけた。


「そんな感情的に突っかかられるとそそられるよね。キスしたくなる♪」


意味ありげに色気たっぷりの目をして笑って顔を近づけててくる。流星の美しく端正な顔が間近にせまった。思わず、腰が抜けそうなぐらいにぐらっとくる。それでもなんとか体制を立て直すと一発流星の鳩尾に食らわした。


「うっ…。」


流星がうずくまっている間に横をすり抜けるとダイニングに置いてあったバッグを握り締め、玄関に向かった。


「いってきまーす。」


玄関で父親の見送りを済まして戻ってくる母親に声をかけて足早に出かける。


「あら、流星くんは?」


「知らないわよ。あんなバカ!」


母に振り向きもせずに捨て台詞のように吐き捨てると、そのまま駅のほうへと足を向けた。どうせ、駅まで行く間に追いついてくるのだ。


 流星は身長180センチはある。学生時代はバレー部で鍛えた所為か、手足が長く、がっしりしているのに大柄な感じは受けない。いたってスマートでエレガントな男だ。さらに、妙に華やかで色気があるのでどこにいても人目を惹く。もちろん学生時代もファンクラブができるほど、女の子に人気だった。


 今も会社や取引先ではモテモテで、女の噂が耐えない。昔から、とっかえひっかえ女を替えている。しかも、憎たらしいことに面食いでもあるため、美人揃いだ。流星は口もうまいし、顔もいい。そんな綺麗で色気のある男にマジに口説かれればほとんどの女はイチコロである。

厄介なことに流星は大人になると、時々さっきみたいに色仕掛けで澪をからかったりするようになったのだ。


 澪はそんな流星を腹ただしく思いながらも、時々どぎまぎして真に受けそうになる。そんな自分に自己嫌悪しながらも今日まで腐れ縁の幼馴染を続けている。


ーばかだね、流星はからかってるだけなんだから。本気にしちゃだめよ。−


そう言い聞かせると、後ろから流星が追いついてきたのに気付いて、小さくため息をついた。



 
















































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