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第2話(4)

「……後ろ。乗れよ」


「あ、うん」



ほら見ろ、なんかビミョーな空気がうにょうにょ漂いはじめたじゃねえか。と俺は横たわった恭介に目配せしたが、返事がない。ただの屍のようだ。ともかく、チャリは借りてくぜ。



麻弥はどこか違う方向に視線を落としつつ、荷台に横向きにちょこんと座り、申し訳程度に俺のシャツの裾をつまんだ。




しかしそんな空気も、細くデコボコしたスリリングなあぜ道を自転車で駆けていると、なんだか子どもの頃に帰ったようなわくわくした気分になり、すっかり霧消していた。それは麻弥も同じだったようで、弾んだ声で後ろから問いかけてきた。


「最後に二人乗りしたのっていつだったか覚えてる?」


「さあ、いつだっけかな。忘れた」


「6年生の夏だよっ」


麻弥は懐かしむように柔らかくはにかみ(直接見たわけではないがなんとなく分かる)、そしてあろうことか、肩と頭を俺の背中に乗せてきた。


「のわっ!?」


ただでさえ不安定な道だ。急に体重をかけられ俺はバランスを崩し(断固として主張するが、動揺したのではない)、麻弥を乗せたまま車体は右に左に蛇行する。俺はなんとかして持ち直そうとするが、両脇を畑に挟まれたあぜ道で、幅は2メートルもない。





……うん、無理でした!



「きゃあああっ!!」




二人は畑に投げ出される。ああ……視界がゆっくり傾いてゆく……



どふっ、とまあなんとも地味な音で土に落ちる。しかしよく耕された畑のおかげで、痛みは全くなかった。俺はむくっと上半身だけ起こす。するとすぐそばで倒れていた麻弥も起き上がってこちらを見る。二人は互いの土まみれになった全身を見る。そしてもう一度目が合うと、二人ともこらえきれなくなって、子どものように無邪気に笑った。




「あはは、なんかこの感じ、ずーーっと忘れてたなあ」


俺は麻弥の汚れた制服を指差し、


「でもそれじゃ、図書館行けないな」


「あ……でも、楽しかったからいいや!」


「いいのかよ!」


また麻弥はきゃははは、と笑う。もう、俺も笑うしかねえな。あはははは!




すると麻弥は涙をぬぐいながら、


「ねえなおくん、わたしね」


「ん?」


「わたし……」



「くぉら!! 人んちの畑で何やっとるか!!」


麻弥の言葉を遮るように、後方で男性の声が空気を切り裂くように響いた。俺はチラッと後ろを振り返り、70過ぎくらいの爺ちゃんがホースを手にこちらに向かってきているのを確認した。土まみれになったうえ水まで引っ掛けられてはたまったもんじゃない。


「まずい、逃げるぞ!」


とっさに俺は麻弥の手を引き、走り出した。走って、走って、もう追ってきてないことは分かっていたけど走り続けた。


楽しくてしょうがなかった。気付いたら、自分たちの家まで来ていた。



「ぜえ、はあ、ここまでくりゃ大丈夫だろ」


「はぁ、はぁ、当たり前でしょ。どこにそんな長いホースがあるの」


「はあ……はあ、確かに」


俺は麻弥を見た。どんな顔してるのか、ちょっと気になったんだ。麻弥は俺の視線に気付き、一瞬目を合わせ、そして目線はつながれたままであった手に注がれ、じわわーっと頬を桜色に染めてゆく。


「あ、悪い」


俺はパパッと手をほどいた。麻弥はそのままぽやん、とした顔でほどかれた手から視線を俺に移し、小さく口を開く。


「さっきの続き……」


しかし俺は、


「ああ、それはまた明日にでも聞かしてくれ。早く風呂に入らんとな」


といいかげんに流し、我が家に駆け込んだ。






……我に返った途端、急に照れくさくなったんだ。


おそらく、昨日から言おうとしてる事だろう。それになんとなくだが、その話は聞きたくないような気がした。昨日も、今日も。









あ。畑にチャリ置いてきた。……ま、いいか。


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