第1話(3)
「おかえり、兄ちゃん」
ソファーで肘枕をしてせんべいをかじりつつテレビをみながら4つ下、小6の妹が出迎えてくれた。オバハンか、お前は。我が家は4人家族なのだが、両親ともに帰宅は夜遅い。そのため家事は妹と分担して行っている。今日の晩飯は俺の担当だが……。冷蔵庫を開けて俺は固まる。なんもねえ。余った野菜ならちょこっとあるんだが、ありあわせで作れちまうほど俺の料理スキルは高くない。どうしたもんか……。
「麻弥ねーちゃんに作ってもらおっか!」
「どひょえーい!」
おおっと、今のは忘れてくれ。懐から飛び上がって来られたもんで驚いちまった。さて、その選択肢があったか。奴はなんとこの年で料理までイッチョ前にこなしてしまうのだ。ぐぬぬ、しかし。先ほど尻尾巻いて逃げた俺が言うのもなんだが、あいつに頼るのはいいかげん俺のプライドが許さん。いいさ、俺にだって中学時代から積み重ねた経験があるんだぜ。見てろ妹よ。今うまいもん作ってやる――――
――――
「なにこれえ。こんなん食べれないし」
「だまれ。食え」
「だって苦いし、辛いし、なのになんか変に甘……ぅぷ」
く、野菜のコチュジャン炒めが焦げちまったから中和せんとカ〇ピス入れたのが失敗だったか。だが自分で作ったんだ、俺は全部食うぜ。全、部……。
夕食を無事(!?)に済ませ、風呂から上がりリビングに戻ると、妹がパタパタ駆け寄ってきた。
「ポストになんか入ってた!」
俺は妹が差し出した茶色の封筒を受け取った。
封筒には何も記載がなく、どうやら直接玄関ポストに投函されたようだ。おそるおそる茶封筒を開け中を覗くと、なにやらカードが一枚入っているようだった。取り出してみると、これは――タロットカード、か? カードの中心部にはコンパス、その上には人の頭とライオンの胴体をしたスフィンクスと思しき生物、四隅には羽の生えた動物が描かれている。他にもなにか入っているかと封筒を逆さにすると、はらりと紙が一枚落ちてきた。拾い上げてみると、小さな字でこう書かれていた。
『運命の輪』
これは……ヤバイ系のやつか?
俺がカードと紙を手に取りしげしげと見ているところを横からぴょこぴょこ飛び跳ねて自分も見ようと試みていた妹だったが、しびれを切らしたか俺の正面に回りこむと同時に「てやっ」と俺からカードと紙をかっさらっていった。
「あ、コラ。まだ何か分からないから、返せ」
しかし妹は舌を出し、
「やだー。ちょっとだけみせてー」
と言い俺から遠ざかる。タロットなんか知るわけがないのに、この小6。まあすぐに飽きるだろう。目を瞬かせながらカードを色んな角度から見て喜んでいる妹をよそにリビングに戻った俺は、とりあえずソファーに深く腰掛け冷静になって考えてみる。
――結論。確実にアヤシイ。送り主の情報が全くないというのが怖すぎる。もしやこれは、ヤバい宗教かなにかの勧誘だったり催眠だったりするのだろうか――――そう本気で思った瞬間、急に部屋の至るところから見られているように感じて、年甲斐もなく背筋が凍りついて怖ろしくなった。頼む。何かの間違いであってくれ。
俺が頭を抱えてうなっていると、妹がテテテ、と寄ってきた。
「飽きた」
予想以上の早さでしたね。たいへんよくできました。受け取ったカードを俺はもう一度見つめてみるが、やはり心当たりはない。――うん、手違いだ。そうに違いない。俺には関係ない。自己暗示をかけるようにして、カードをひとまずテーブルに置き、俺はそのまま自室のベッドに潜り込んだ。




