第1話(2)
寝られずともうつらうつらしているうちに授業は終わっていて、今帰りのホームルームも終わった。
「部活か……」
愚痴をもらしながらも着がえようとネクタイに手をかけたとき、後ろから肩がつつかれた。振り向かずともその行為の主が誰だか分かるのだが、便宜的に一応振り向いてやる。
「今日部活ないよ。キミ」
案の定、そこにいた麻弥は短めに切りそろえた髪をやはり涼しげにさらりと風に泳がせて。
「……なぬ?」
「今日から期末テスト一週間前。なので部活はありませぬぞ、なおや君」
途端に、俺の中で何かがスプラッシュした。
「そうだった! 助かったぜ……」
んならもう学校に用はないぜと鞄を肩にかけると、そいつは不自然に目線を斜め下辺りに移し、横髪などを指先でいじりながら言いにくそうにぼそっと呟いた。
「……たっ、たまには一緒に帰ろうかな……って」
「ん? ああ、じゃ帰るか」
断る理由も無いから応じたが、確かに考えてみればこいつと帰宅をともにするのもしばらくぶりだな。
久々の二人での帰路であるが、するのは本当に他愛もない話ばかりで何も変わったことはない。隣り合って歩いていると、時たま互いの腕が触れる。ちょっと伸ばせば手も繋げそうだが、別段そんな衝動に駆られることもない。世間的にはこいつも女子という生物らしいが、今更そんな扱いに変えるのも無理だ。
この地域は都会の喧騒とは無縁の、ぶっちゃけド田舎である。上から見たら超巨大なサッカースタジアムみたいになってんじゃないかと思うほどに田んぼとあぜ道だらけで、周りはなんもない。あぜ道を抜けると川が見えてきた。浅くて流れも緩やかであるため、昔はよくここで遊んだものだ。
河川敷を進んでいると、昨日学校内で見かけたとかいう猫の話から最近はぬか漬けに凝ってるとかいうもはやどう転じたのか聞いていた俺ですら分からない話が終焉を迎え、数秒の沈黙を経たのち、また話題を変えてきた。
「そうそう、期末試験だけど、大丈夫なの?」
……そういう話題は勘弁だぜ。俺の露骨に嫌がる顔を見てこいつはさらに嫌味を加算し、
「赤点取ったら夏期講習強制参加だって。そのときなおくん寝てたから聞いてなかったでしょ」
「なんだと……」
絶望にうちひしがれる俺を尻目に余裕そうなこいつは昔から成績優秀、身体能力抜群と絵に描いたようなハナマルさんを演じている。対する俺は先の中間試験では赤点スレスレ、身体能力もビミョーときた。ああ、もうなんなんすかね。
そうこうしていると二人の家まで辿り着いた。幼馴染みと言ったろう。例に漏れずお隣さんなのである。嫌な話題から逃れたい俺は「じゃな」とだけ言ってさっさと自分の家まで駆け足する。すると慌てた様子で麻弥が、
「あ、ちょっと待って」
と俺を引き止めたが、なんかもう走り出した手前止まるわけにもいかず、俺は家に逃げ込んだ。別に、何も今改まって話さなきゃならんこともないだろう。会おうと思えばすぐ会えるんだから。




