第2話(11)
この蒸し暑さだというのにやや長風呂をしてしまったことを苛みつつうちわ片手にリビングへ戻ると、麻弥はソファーに深く背中を預けながら再び先ほどの写真を訝しげに見つめていた。
「間違いない。葵だよこの子」
俺は少し距離を置きながら目を凝らし、
「だから誰なんだ」
「同じ幼稚園に通ってた子。でも年中さんの時に引っ越したから、卒園アルバムに載ってないんだよ」
「ふうん?」
俺は写真と『終わりと始まり』の紙を受け取り、もう一度その子の顔をよく確かめた。だがやはり見覚えは……
「んっ!?」
そのとき、記憶の中の遠く奥深く蓋をされたどこかが、熱く光を発したように感じた。そして何かを思い出せという強力な指令が下り、足元が浮かされたような奇妙な感覚を身に受ける。俺は……覚えている――“記憶にない”少女と幾度か時間をともにした、どこかくすぐったいような“記憶”が……突然の別れに胸を締め付けられ、同時に何も行動できなかった悔しさが……確かに俺の中に存在する。
「ちょっと思い出したかもしれない」
「ああ、そう? 葵、美人だったよねー。なんていうか儚げで、完成してたって言うか」
俺は床に胡坐をかいて、
「幼稚園児がそんな感想を抱くか」
「失礼な。私はこれでも神童として育った自覚があるのですよ」
キリッとしたわざとらしい声で麻弥が胸を張る。すると持ち上げられたパジャマから再度へそが姿を見せる。
「そ、それよりなんでこの写真と紙がアルバムに挟まってたかってことが問題なんだ」
動揺はしてないからな。
「へ? うーん、そんなのなお君自身にしかわからないでしょ」
「どういう意味だ?」
すると麻弥は体を少しよじるようにして、
「自分で保管してたんでしょ?」
「は?」
「……だってなお君、葵のこと好きだったじゃん」
――――なん……だと…………!?




