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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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"氷戯"(後編)

掲載日:2026/07/14

店の前に通りがかる者は無い

陽射しが、強くなり始めて居た



深く下げた頭の上を「そんな事だろうと思って居ました」という、軽蔑の混ざった声色が通過していく

だとしても僕は、どうしても彼の躰を砕いて口に入れてみたかったのだ


一度(ひとたび)欲望を口にしてしまった以上、もう後には引けない気がした



「そこをなんとか」


「なんとか、と言われましても……」


執事の少年は怒った様子を視せながらも、照れたような雰囲気も在る

付け入る隙は、まだ残されて居る様に思われた



「実はな」


恥ずかしげに笑い、顔を上げてみる

「僕は」

「君の魔法的生命化を解除し、氷に戻す事も可能なんだ」

僅かに可能性を感じての恫喝だったが、帰ってきたのは激昂と罵倒だった


怒りの言葉を笑顔のままに受けながら

明白に自分が悪いのであるにも関わらず、僕は胸中で『こいつ本当に今すぐ、(ただ)の氷にしてやろうかな』と思い始めた


実際にはそこまではしないし

そうする事では得られない栄養がある事を、僕は知って居たが



「でもね」

おおよその罵詈が終わった気配を感じ、僕は口を挟んだ

「でも───君のだから、食べたいんだよね」


執事が言葉を失う

表情から視るに、今度こそ怒りによるものでは無いと感じる

流れに乗る為に僕は言葉を続けた


「生命化の解除は、部分的に行う事が可能なんだ」

 

「だから痛くならない」


「それに……後日、手を継ぎ足す事だって出来るよ?」


空気の色が変わった気がする

戦いは、終わった


僕よりもそうした機微を悟る事に長けて居たのか

完璧なタイミングで、店主が氷断用のぎざぎざした長いナイフを持って、笑みを顔に張り付けながら店の奥から現れた



「もう………」


執事がシャツの左袖を捲くり、ナイフを受け取る

「───旦那様の、バカ」


嘆息しながらも、彼は少し嬉しそうに視える

とても心の満たされる光景だった



んっ、と声を上げながら

或いは息を深く吐き出しながら

少年執事は自らの腕に(のこぎり)のようなナイフを、ぎこぎこと食い込ませていく


思わず、微笑まずには居られ無かった




現実には、仮に魔法生物だとしても『欠損した手足を治す方法』など存在しない



彼の四肢が残り一つになったら、本当の事を教えてあげよう

それよりも砕けた彼がどんな味をするのか、今から愉しみで仕方が無かった


気温が高い

聞く所に拠れば、少し溶けた氷は削ると食感が良いのだという


僕は誰にも気付かずに、微笑みながら舌舐めずりをした

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