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3 光る腕

 魔法使いターニャは怪我をした腕を調べている

 薄い筋が残ってしまったが、完治したようだ。

 ショック症状すら回復しているようである。


「鎧外すのを手伝ってくれないか。ターニャ」

 ドーリンは鎧の隙間から血を流している。

「ええ、いいわ、ありがとうドーリン」

「気にするな……」

 鎧を外すと、下に着込んでいる布鎧にはかなり血がにじんでいる。返り血ではなく、自分の血のようだ。

 それも脱いで新しい傷と古傷だらけの上半身を晒す。

「包帯を貸してくれ、デリク」

「別にいいけど、そんな怪我ぐらい奇跡で治せないのか」

「……」

 無言のドーリン。

「ドーリン、あなた、他人は治せても自分の怪我は治せないのね」

 ターニャ。

「……」

「図星なのか? とりあえず、奇跡で人を治せるのなら悪い話ではないね」

 包帯を放り投げるデリク。

 受け取るドーリン。

「それよりも、この女の子だ。さっきからぴくりとも動かないけど、調べた方がいいよね、当然」

 魔方陣には踏み込まず、様子を伺うデリク。

 傍らのローブの男の死体が邪魔なのでどけようとする。

「うわっ! おい、みんな。この男、木の人形だぜ」

「なに?」

 ドーリンが目を見開く。

 ローブをばさっと広げると、中は服を着た木の棒だった。

 普通の木の棒ではなく、何らかの呪文がびっしり刻まれている。

「変わり身の術? ……違うね、装備を残して消えるわけがない。でも、結構たっぷりと現金残してくれてるよ。スゲー重い財布!」

 ブツブツ言いながら人形を調べて、ほくそ笑むデリク。

「それはたぶん、自分に降りかかった『死』を禍として、事前に準備した依代に禍を移す高度な妖術よ。その棒切れに術が刻まれているでしょ?」

 触らないように慎重に眺めるデリク。

 ターニャにそういわれると、木の棒が恐ろしくなる。

「それなら、死体はどこに行ったんだ?」

 ドーリンが問う。

「敵は死んでないわ。依代と入れ替わったのよ。妖術師は逃げたわ……」

「なんだ、それじゃあ倒してないのかよ。鬱陶しい敵だぜ」

 デリクが文句いう。

「そんな強力な術は早々簡単にかけられないから、敵の労力と魔術品を消耗させたわ、気休めみたいな話だけど……」

「連続で倒すしかねぇのか……お、指輪が落ちてる」

 目ざとく気が付くデリク。

「とりあえず、戦利品の回収は待って、魔道眼を使うから」

「使える術は二つだけじゃなかったのか」

「魔道眼は入門の時に誰でも習うの。戦闘用で知ってるのは二つなのよ」

「とりあえず、強けりゃ文句はないけどね」

 肩をすくめるデリク。

 やがてターニャの目が一瞬青く輝く。

「その依代は当然として、その指輪には魔力があるわ。あと、魔方陣」

「それ以外は単なる一般品か、たいしたものは無いな。指輪はどうしよう?」

「呪詛の品物では無いわ、単なる魔力の品物よ。性能によってはかなり高値で売れるから持って帰りましょう」

「女の子はどうだ」

 ドーリンが問う。

「魔力らしいものは感じられないけど、服の下に何か施術されていたらわらかない」

「ということは、服を脱がせて調べないといけないのか……ぐへへ」

「この変態!」

 ぼこっとターニャに頭を叩かれるデリク。

「いてて、待て、ターニャ。オレはホルス人の巨乳美女以外全く興味ないのだ。ましては人間の女なんて……」

 妖精小人種族はホルス人ともいう。

「嘘おっしゃい! さっきの台詞言った時すごくスケべそうだったわよ」

「やれやれ、彼女はターニャに任せるから俺達はこの部屋を探索するとしよう。女の子は魔方陣から出して大丈夫なのか?」

 ドーリンはムクリと立ち上がりながら言う。

「わからないわ。でも出すしかないと思う。手をこまねいて放っておくわけにも行かないじゃない」

 それを聴くと、ドーリンはずかずかと魔方陣に足を踏み入れ少女を担ぐ。

 特に何も起きる様子は無い。

「女の子はターニャが隣で調べてくれ。俺達はこの部屋を調べておく」

「わかったわ」

 作業に取り掛かる三人。


「ドーリン。ガーゴイルは、このバケモノはどこから来たんだ。何か知っているか」

 デリクが隅のごみをひっくり返しながら聞く。

「こいつはレッサーガーゴイルと言って妖術師が好む魔物だ。普段は石像に偽装しているが、主の命令でいつでも動き出す。人間に悪魔を憑依させて作ると聞くが、本当かどうか……うわさ以上のことは知らんよ」

「死んでも人間に戻るわけでもないから、そのうわさも眉唾だな」

 怪物の死骸は怪物の姿で倒れいている。

 調べ終えると、一冊の魔術書が見つかった。

 二人の小人には全く理解できない。

「結局、金目の物はオッサンの財布と指輪だけか。がっかりだ」

「守銭奴極まれりだな。ちょっとは少女の心配もしろ!」

「してるじゃん。オレの不安そうな表情がわからないのか、ドワーフの単純脳には」

「……どう見ても、財布を手に入れて喜んでいるようにしか見えんぞ」


 そのような話をしていると、にっこりと微笑んだターニャが広間に来る。

「女の子が意識を回復したわ」

「良かった良かった、金づるが死んだら元も子もない」

 デリク。

「……オマエは一生黙ってろ!」


 少女は柱に寄りかかって座っている。

 意識は戻っているようだ。

「あ、ありがとうございます。助けていただいたのね。でも、私、ほとんど記憶が無いの。最後に覚えているのは、いつの間にか深い森の中にいて、突然恐ろしい魔物に襲われて……そこから何も覚えてないの」

「あなた、名前は?」

「セレネ、です」

「……間違いないみたいね。お父様がお待ちかねよ。すぐに帰りましょう」

「体は動くか?」

 ドーリンが優しく聞く。

「は、はい、あ……無理みたいです」

 ちょっと顔を赤らめて謝るセレネ。

 手足に力が入らないようだ。

「困ったわね。螺旋階段がすごく危なっかしいから、ドーリンでも背負っていくのはちょっと怖いわよね」

「仕方がないな。これ貸してやるよ」

 デリクはそう言うと懐から、羽毛が描かれた護符を取り出す。

「何よ、それ」

「これは一塊の荷物に貼り付けると重さが十分の一以下になると言う魔法の護符なのだ。人間に貼り付けても効果は同じ。いつどこで黄金の塊を拾うかわからないからな。買っておいて良かった」

「そんなものを買っているから、安物の刀とか買うはめになるんだろ」

 ドーリンのツッコミ。

「じゃ、ま、とりあえず、動かないでねセレネたん。ぺたっとな」

 セレネに護符を貼り付けるデリク。

 ドーリンがそっと持ち上げると、まるで体重がないような軽さである。

「おお、これは確かに何とかなるな。お嬢さんを背中に括り付けてくれ」

 ドーリンの背中にセレネを乗せて、落ちないように紐で結ぶ。

 慎重に降りて行く三人。


 順調に塔から脱出し、帰還の途に付くのであった。




 針葉樹の森の中を行く四人。

 

「ターニャ。あの魔法書から何かわかったかい?」

 ターニャのサークレットにデリクの思念が伝わってくる。

 妖術師の塔から脱出した四人は帰途についていた。


 セレネは翌日には体力をある程度回復し、ゆっくりだが歩けるようになっている。

 順調に行くと今日には森を抜けることが出来るだろう。

 先頭はデリク、ターニャ、セレネ、ドーリンの順番である。

 デリクは少し先行して身を隠しながら進み。安全を確かめてから動く。

 彼らは警戒して旅を行っていた。

 妖術師を倒せなかったが故である。

「いえ、特にこれといったものは……妖しげな術が色々と記されているけど、あの魔法陣に関する記述はないわ」

「え? 怪しげな術ってどんなの? 今夜の休憩でちょっと見せてよ」

 興味津々のデリク。

「おい、それは黒魔術だろ。そんな術を使えば魂が穢れるぞ」

 ドーリンは否定的だ。

「ドーリン、魔法魔道に関してだけ言えば、それは誤解よ。怪しげに見えても魔道である限り根は同根なのよ。悪人の振るう剣も善人が振るう剣も剣自体に善悪が無いのと同じことよ」

 魔法魔道とはいわゆる『魔法使い』が使う魔術のことである。

 特殊な技術として世界に薄く広く伝播していた。

「フン! これだから魔法魔道は信用できない。奇跡なら善なら善、悪なら悪とはっきりとしておる」

 世界には魔法魔道とは別に神の奇跡という魔術体系があり、ドーリンはその技術の専門家である。

「でも、妖術師の術は奇跡とも魔道とも取れるハイブリッドの術が多いみたいだわ。明らかに神に力を請うのに魔道みたいな術があるもの。この本の中で私が使える術は少ないわ、逆に言うとドーリンにも使える術が載ってるかも」

「なにを言うか。俺は悪の術に興味は無いぞ、俺が興味を持つものは……」

「酒とギャンブル」

 デリクがにやついて補足。

「そう、酒とギャンブル……って、おい、信仰者にむかって不信心なことを言うな!」

 このようなことを思念で会話しながら、歩いている。

 セレネはサークレットを持たないので、この三人は無言で歩いているように感じていた。

 しかし、サークレットがあっても、歩くだけでかなり消耗しているセレネには会話に参加する気力はなかっただろう。

 疲労だけではなく、妖術に魂を犯されたような恐怖心がいつまでも付きまとっていた。


 ふと、立ち止まるデリク。

 そっと手を上げ、皆を止めると、下生えの中に身を隠すよう手で指示を出す。

「どうした」

 ドーリンの思念。

「向かっている方向に馬のいななきが聞こえた、そこで待っていて、偵察してくるよ」

 セレネにもわかるように小声で話すデリク。


 皆の前で下生えの茂みの中に入ると魔法のように消える。

 不注意な人間には目の前でもわからないかもしれない。

 それほどに高度な隠密だった。


 暫く行くと森は切れ、水辺に生える草が生い茂っている。

 川があった。

 そして、その付近には馬の気配がある。

 何者かが、川辺にいるのだ。

 デリクはゆっくりとその人物に近付いて行く。


 その男は森の中を流れる細い清流の畔で腰を下ろして休憩していた。

 剣と皮鎧で武装し、見た感じは辺境のパトロールを行う斥候兵である。

 観察していると、やがて、更に数騎がやってくる。

 休憩している男を含めると合計四騎になる。

「隊長。西側の森には、手配犯達の足跡はありませんでした」

「ごくろう、フム。そうすると後は北側の森だけだ」

 隊長と呼ばれた男は休憩していた男である。

 装備も馬も他と違いは無いが、見ると隊長のみ腕章があり、剣も支給品ではなく意匠が凝っていた。

(北側と言うと俺達が潜んでいる場所になるな。はて、手配犯なんて出会ったかな)

 デリクは北側から斥候部隊を観察している。

 小川は北西から南東へ流れており、彼らは東側の河原にいた。

「半刻、食事を取って休憩しろ。休憩後北部を捜索する」

 部下三人は簡単に敬礼すると装具を脱ぎ食事の準備に取り掛かる。

(何だろう、この胸騒ぎ)

 デリクはそっと皆の元に戻る。


「どうだった、デリク」

 口に出して言うドーリン。

「国境警備のパトロールが休憩していたよ。彼らの話を盗み聞きしたけど、どうやら、手配犯を追っているみたいだよ」

 デリクも声に出す。

「てはいはんー?」

 ドーリンは明らかにデリクを犯罪者でも見るかのような目で見ている。

「おい、野良ドワーフ。もしかして、ものすごく疑っているだろ」

「もしかしなくても疑っているぞ」

「確かに、いつもこそこそしてるし、守銭奴と言えばそれ以外何者でもないし、何か盗んだりしてないの、デリク?」

 ターニャの指摘。

「……ちょっと言いすぎだと思ったりしない?」

「とりあえず、さっさと吐け、このドブネズミめ」

 がっしりと首根っこを掴むドーリン。

「ぐえ、やめろ。とりあえずまだ銀行の金庫の合鍵しか作ってない。盗みをしてなかったら犯罪者じゃないだろう。俺の魂の純粋さが見えぬか、この目ぇ節穴!」

「お前の魂なぞ、妖術師よりも穢れておるわ! 盗み働く気、満々じゃねーか!」

 いがみ合う小人種族二人。

「きゃっ」

 セレネが小さな声を上げる。

「どうしたの、セレネさん」

 ターニャ。

「左手の甲に変な光が……」

 ターニャに差し出されたセレネの手の甲には怪しげな幾何学的紋様が浮き出している。

 紋様は袖をまくると、手の甲から肘あたりまで広がっていた。

 刺青のようでもあるが、魔力を帯びて青白く光る。

「これは、もしかしたら『魂の傷』かしら……」

 少女二人の深刻な雰囲気にいがみ合いをやめる男達。

「塔で調べた時にはこんな文様はなかったわ」

「『魂の傷』ってなによ」

 デリク。

「『魂の傷』は妖術師や魔物が狙いをつけた人間の魂に印をつけることだ」

 ドーリンはデリクを放して繁々とみる。

「この娘はまだ妖術師に狙われているわ」

 ターニャの言葉に青ざめるセレネ。

「わたしが……なぜ」

 思わず問いかける少女に、皆が無言になる。




2026/3/7 微修正

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