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役立たずと追放された俺の農業スキル、実は作物を兵器や霊薬に進化させる最強の力でした。  作者: 黒崎隼人


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第5章:領主の陰謀

 ボアデストロイヤー撃退の一件で、俺は村の英雄になった。村人たちからの尊敬と感謝の眼差しは、くすぐったくもあったが、素直に嬉しかった。

 だが、その名声は、やがて厄介な人物の耳にも届くことになった。この辺境一帯を治める領主、バルザック侯爵だ。

 ある日、領主の使いと名乗る役人が、数人の兵士を連れて俺の農園にやってきた。


「貴殿が、かの藤田耕作殿か。領主バルザック様が、貴殿の能力に大変興味を持っておられる」


 役人は尊大な態度で、一枚の羊皮紙を突きつけてきた。それは、領主からの召喚状だった。断ることは許されない。俺とミーヤは、不安を抱えながら、領主の館へと向かった。

 壮麗だが、どこか悪趣味な装飾が施された館。謁見の間で待っていたのは、肥え太り、贅沢な衣装に身を包んだ、見るからに強欲そうな中年男だった。彼がバルザック領主だ。


「ほう、お前が魔物を倒したという農民か。見れば、なんとも貧相な男よ」

 バルザックは、ねめつけるような視線で俺を値踏みすると、本題を切り出した。

「貴様の作る特殊な作物、そしてそれを生み出す能力。素晴らしいな。気に入った。今日より、そのすべてを我が物として差し出すのだ。さすれば、我が庇護の下、安楽な暮らしを約束してやろう」


 あまりにも一方的で、横暴な要求だった。俺の畑も、スキルも、すべて奪い取ろうというのだ。


「お断りします」

 俺が即座に断ると、バルザックの顔が怒りで歪んだ。

「断るだと? この私に逆らう気か、一介の農民ふぜいが!」

「コウサクの能力は、彼自身のものです。誰にも奪う権利はありません」

 隣にいたミーヤも、毅然とした態度で言い放つ。


 激高したバルザックは、忌々しげに俺たちを睨みつけ、そして卑劣な笑みを浮かべた。

「ならば、力づくでも言うことを聞かせてくれるわ。よいか、このアルム村を含む、我が領地全域の税を、来年より十倍にする。払えなければ、村人全員を奴隷として売り飛ばしてくれるわ!」


 あまりの暴挙に、俺は言葉を失った。税を十倍にするなど、正気の沙汰ではない。村を人質に取って、俺を屈服させようというのだ。村人たちの顔が脳裏に浮かぶ。彼らにそんな仕打ちはさせられない。


「……待ってください」


 俺が声を絞り出すと、バルザックは勝ち誇った顔で「どうした、命乞いか?」と嘲笑った。

 その時、俺の隣で冷静に状況を分析していたミーヤが、そっと俺の耳元で囁いた。

「耕作、時間を稼ぐのよ。奴の要求を逆手に取るの」


 ミーヤの言葉に、俺は一つの賭けに出ることを決意した。


「領主様。一つ、ご提案があります」

 俺は覚悟を決め、バルザックをまっすぐに見据えた。

「俺に一年、時間をください。一年後、この領地全体の農作物の収穫量を、現在の五倍にしてみせます。もし達成できたなら、増税の話は白紙撤回。そして、俺たちの活動に一切干渉しないと約束していただきたい」


「収穫量を五倍だと?」

 バルザックは、最初は馬鹿にしたように笑っていたが、やがてその目に強欲な光が宿った。収穫量が五倍になれば、税収も大幅に増える。たとえ税率を上げずとも、莫大な富が転がり込んでくる計算だ。

「面白い……! よかろう、その賭け、乗ってやる! だが、もしできなかった場合はどうなるか、分かっておろうな?」

「ええ。その時は、俺のすべてを差し出します」


 こうして、領地の未来と俺自身の運命を賭けた、無謀とも思える約束が成立した。

 村に戻った俺は、村長や村人たちに事情を説明した。最初は絶望していた彼らも、俺の決意と計画を聞くうちに、次第にその顔に希望の色を取り戻していった。


 俺の計画は、壮大なものだった。

 まず、資金を使って、領地全体の灌漑システムを改良する。干ばつに弱い土地にも安定して水を供給できるように、大規模な水路を建設するのだ。幸い、商人ギルドとの取引で得た資金がまだ残っている。

 次に、俺の【農業スキル】で生み出した『進化種の種』を、領地内の他の農民たちにも配布する。俺の畑だけでなく、領地全体で作物の進化を起こすのだ。

 進化種の種は、通常の種よりも遥かに生命力が高く、成長も早い。痩せた土地でも力強く根を張り、多くの実りをもたらすはずだ。


「みんな、力を貸してくれ! 俺たち農民の力で、あの悪徳領主の鼻を明かしてやろうぜ!」


 俺の呼びかけに、村人だけでなく、噂を聞きつけた近隣の村々の農民たちも立ち上がってくれた。

 男たちは鍬を手に水路を掘り、女たちは種を仕分けし、子供たちでさえも小さな手で石拾いを手伝ってくれた。領地全体が、一つの大きな目標に向かって動き出す。

 それは、孤独だった俺が、この世界で初めて経験する大きな連帯感だった。

 俺は、地平線まで続く畑を見つめながら、固く誓った。必ずこの賭けに勝ってみせる。そして、俺たちを苦しめる権力者に、農民の底力を見せつけてやるのだ、と。一年後の収穫祭は、俺たちの勝利の祝宴になるはずだ。

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