第3章:最初の商売、そして敵対者
ミーヤという強力な協力者を得た俺たちは、早速、行動を開始した。
「まずはこの作物を売って、資金を確保するわよ!」
ミーヤの言葉に従い、俺は畑で採れた巨大な『進化白根草』と『進化ポポ蕪』を荷車に積み込み、彼女と共に再びリンドブルムの街へと向かった。
街の中央広場で露店を開くと、案の定、俺たちの作物はすぐに人々の注目を集めた。
「なんだこのデカい大根は!?」
「見てよこのカブ、宝石みたいに光ってるわ……」
物珍しさで集まってきた人々に、ミーヤは持ち前の口八丁、いや、商才を発揮して試食を勧めていく。
「さあさあ、お立ち会い! 見てってちょうだい、触ってちょうだい! これはただの野菜じゃないよ! 辺境の清らかな大地で育った奇跡の作物さ! 一口食べれば、病みつきになること間違いなし!」
彼女の巧みな口上に乗せられて試食した人々は、皆、例外なく目を丸くした。
「う、うまい! なんだこの甘さは!」
「こんな美味しい野菜、生まれて初めて食べたわ!」
評判は口コミで瞬く間に広がり、俺たちの露店には長蛇の列ができた。値段は相場の三倍に設定したにもかかわらず、進化作物は飛ぶように売れていく。一日が終わる頃には、荷車は空っぽになり、俺たちの手にはずっしりと重い金貨の袋が握られていた。
「やったな、ミーヤ! すごい大金だ!」
「ふふん、当然でしょ。あなたの作物の価値を考えれば、これでも安いくらいよ」
ミーヤは得意げに胸を張り、俺も思わず顔が綻んだ。初めて自分の力が認められ、具体的な成果に繋がった喜びは、何物にも代えがたいものだった。
しかし、好事魔多しとはよく言ったものだ。
俺たちの成功を、快く思わない者たちがいた。数日後、俺たちの露店に、いかにも悪人面といった風体の男たちが現れた。胸には天秤の紋章が刺繍されている。
「お前らか。最近、騒がしい新参者というのは」
中心に立つ恰幅のいい男が、値踏みするような視線で俺たちと商品を睨みつけた。ミーヤが俺の前に立ち、警戒した声で尋ねる。
「……あなたたちは、商人ギルドの方々ですね。何かご用でしょうか」
「用ならあるさ」
男――商人ギルドの幹部であるマルコと名乗った――は、せせら笑いながら言った。
「このリンドブルムの商業は、我々商人ギルドが取り仕切っている。お前たちのような素人が、勝手な値付けで『規格外』の商品を売りさばき、市場の秩序を乱すことは断じて認められん」
要するに、俺たちの商売が気に食わない、という言い掛かりだ。彼らは自分たちの利権を守るため、俺たちを排除しに来たのだ。
「これは不当な圧力です! 私たちは正規の手続きで露店の許可を得ています!」
ミーヤが毅然と反論するが、マルコは鼻で笑うだけだ。
「許可? そんなものはどうとでもなる。我々に逆らうというのなら、お前たちがこの街で商売できなくしてやることも、原材料の仕入れを止めさせて、村ごと干上がらせることもできるんだぞ?」
卑劣な脅し文句だった。俺一人ならまだしも、お世話になった村にまで迷惑はかけられない。俺が言葉に詰まっていると、ミーヤが一歩前に出た。
「……分かりました。では、こうしませんか?」
彼女は意外にも、穏やかな口調で提案を始めた。
「私たちの作物は、確かに規格外です。しかし、その品質は、これまでの常識を覆すほどのもの。これをギルドの新たな『特級品』として認定し、販売の独占権をあなた方に差し上げるというのはいかがでしょう?」
「なに?」
マルコの目が、ギラリと光る。
「その代わり、売上の三割を私たちに還元していただく。そして、私たちの農園には今後一切手出しをしない、と。これなら、ギルドの利益にもなり、市場の秩序も保てます。Win-Winの関係、というやつですわ」
見事な交渉術だった。相手の欲を巧みに利用し、自分たちの安全と利益を確保する。マルコはしばらく腕を組んで唸っていたが、やがてニヤリと口角を上げた。
「……面白い。よかろう、その話、乗ってやる。だが、もし品質が落ちるようなことがあれば、契約は即刻破棄だ。分かっているな?」
「ええ、もちろん」
マルコたちが去った後、俺は感嘆のため息を漏らした。
「すごいな、ミーヤ。よくあんなこと思いついたな」
「伊達に冒険者として、色んな汚れ仕事も見てきてないわよ」
ミーヤは少し寂しそうに笑った。「でも、これで一時しのぎにしかならないわ。彼らは強欲よ。いずれ、もっと大きな要求をしてくるか、あるいは……農園そのものを奪いに来るかもしれない」
彼女の言葉に、俺は気を引き締める。手に入れた大金と、迫りくる危機。俺は改めて、この世界で生き抜くことの厳しさを痛感した。
同時に、俺の中で新たな闘志が燃え上がっていた。守るべきものができたからだ。俺の畑と、俺を信じてくれたミーヤ、そしてお世話になった村の人々。彼らのためにも、俺はもっと強くならなければならない。
「もっとすごい作物を作って、あいつらが手出しできないくらいの存在になってやる」
俺の決意に、ミーヤは黙って頷き、力強く微笑んでくれた。俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだった。




