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略奪者の国 ~神保竜一という悪夢~  作者: イチジク浣腸


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鋼鉄の洗礼

2099年4月2日 川口旧工業地帯 午後11時30分


湿った夜気が、放射性物質を僅かに含んだ霧となって街を包んでいた。 かつて鋳物の街として栄えた川口は、今や「リトル・バビロン」と揶揄される外国人労働者の巨大なスラムと化している。復興特区の建設資材を生産する旧工場の背後で、数台の黒いワンボックスカーが音もなく停車した。


「状況は?」


神保竜一は、車内でタブレットの監視画面を見つめながら問いかけた。


「標的は『バラカ・ネットワーク』。表向きはリサイクル業者ですが、実態は密造銃と覚醒剤の供給元です。リーダーは東南アジア系の元傭兵、通称『大佐』。構成員は約40名」


隣に座る田村が、夜視鏡を調整しながら答える。


「警察が手を出さない理由は何だ?」


「裏金と、下手に突つけば暴動が起きるという恐怖ですよ。彼らは居住区のインフラを一部握っていますから」


神保は冷笑した。

「ならば、我々が『秩序』を肩代わりしてやるまでだ。始めろ」


────


暗闇から、漆黒のプロテクターに身を包んだ男たちが音もなく降り立った。日本再興党の傘下組織、**「国民警備義勇隊」**の精鋭だ。彼らの手には、戦前の自衛隊から流出した、あるいは闇ルートで入手したサブマシンガンが握られている。


「閃光弾、投げ(フラッシュ・アウト)!」


轟音と白光が工場の静寂を切り裂いた。 直後、怒号と悲鳴が響き渡る。義勇隊の動きは容赦がなかった。逃げ惑う者たちを、訓練された正確な射撃で無力化していく。


神保は、防弾ベストの上にコートを羽織っただけの姿で、ゆっくりと工場内へ足を踏み入れた。硝煙の匂いと、鉄錆の臭いが鼻を突く。 「神保部長、奥の事務所に『大佐』を追い詰めました」


事務所の扉を蹴り開けると、そこには机を盾にした大柄な男と、震える数人の少年兵がいた。 「クソ野郎……何様のつもりだ!ここは俺たちの場所だ!」 大佐が怒鳴り、古い自動拳銃を構える。だが、神保の視線はその銃口を全く見ていなかった。


「ここは日本の土地だ」 神保の声は、氷のように冷たかった。 「お前たちがここで生きることを許されたのは、我々の復興を助ける『道具』としてだ。道具が持ち主を噛もうとするなら、廃棄する他に道はない」


「……人権団体が黙っちゃいないぞ……」


「人権? ああ、それは『人間』に適用されるルールだ。略奪者に与える慈悲はない」


神保は、美香の形見である拳銃を抜き放ち、迷いなく引き金を引いた。乾いた銃声が一度。大佐の眉間に赤い穴が空き、男は巨木が倒れるように崩れ落ちた。


────


翌朝。新宿の街頭ビジョンには、川口の工場が炎上する映像と、押収された大量の密造銃の画像が映し出されていた。 キャスターは困惑気味に報じている。


『……昨夜、川口市の犯罪組織拠点が、正体不明の武装集団により壊滅させられました。現場には「日本再興」の旗が残されており……』


「見てください、部長」


田村がタブレットを差し出す。ネット上の世論は沸騰していた。


「警察より頼りになる」


「これこそが必要な浄化だ」


「日本人が立ち上がった」


圧倒的な支持。恐怖と不満を抱えていた市民にとって、神保の暴力は「正義の鉄槌」に見えたのだ。


神保は新宿の仮設本部から、再開発が進む灰色の街並みを見下ろした。


「田村、昨夜の少年兵たちはどうした?」


「……規約通り、秘密裏に移送しました。彼らには労働許可証の剥奪と、再教育キャンプへの送り込みが決定しています」


「そうか」


神保のスマートフォンが震えた。発信元は「警察庁・警備局」。 「ほう、予想より早いな」 神保は唇を歪めた。


「罠か、あるいは取引の誘いか。どちらにせよ、舞台は整った」


2099年の春。東京の空は、今日も分厚い雲に覆われている。 しかし神保の目には、その向こう側に、鋼鉄の規律で再建された「新しい帝国」の幻影が見えていた。

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