表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

04.葡萄酒の夢

「邪魔をするよ」

「おや」

 灯台が見下ろす村の中心にある家の一室にノックをして入れば安楽椅子に座った白髭の老人が薄目を開ける。

「今朝は留守にしていたと聞いたけれど」

「ああ、今しがた戻ったところだ」

 そう言いながらマントの下から取り出した瓶をテーブルに置く。

「これは?」

「王都の方で作られているという特級の葡萄酒だ、一度飲んでみたいと言っていただろう」

「ああ……そんなこともあったっけなぁ」

 確か、五〇年ばかり前に。

「どうやって手に入れた? まさか前に言ってた秘薬のように王宮に盗みに?」

「いいや。流石にそれはエルフに追い回されて懲りたので今回は真っ当に手に入れてきた」

「具体的には?」

「なに、近くに出没しているドラゴンをちょいと討伐して褒美に頂戴しただけさ」

 そう言いながら台所から借りて来た木製のジョッキに注ぐ。

「しかしお前さんがそんなに優しいとは嵐の前触れかね?」

「さぁね」

「それとも……次の春を迎えるのは厳しいと見るかい?」

 その言葉に葡萄酒を零しかけて慌てて手先を立て直す。

「森の生き物たちの支度がかなり厳重だ、今度の冬はかなり厳しいだろう……」

「そうか……いや、自分でも何となくわかっていた」

「すまない」

「いいんだ、婆さんを八年待たせている……ここらが潮時だろう」

「そうか……そうかもな」

「それより良い酒をありがとう」

「ああ、是非飲んでくれ」

 皴深い手に重さを考慮して半分くらい注いだ葡萄酒を渡す。

 一昔前なら並々と注がなければ文句を言われたが今はそんなことはない。

 軽く頭を振ってその考えを追い出し、昔から何十回かしたように木製のジョッキを合わせて傾ける。

「美味い」

「なら良かった」

「だが」

「ん?」

「これなら我が村の葡萄酒もそんなに負けていない気がするな」

「ああ、確かにいつもの酒の方が美味いかもな」

 笑いながらもう二口ほど口を付ける。

 半分ほどしか注いでないとはいえほぼほぼ飲み干してくれたことに安堵するが、これ以上は良いと首を横に振られる。

「残りはそっちで飲んでくれ」

「……わかった」

「ありがとうな」

「いや、こちらこそ勝手に灯台に住みついた俺に良くしてくれてありがとう」

「ははは……そんなこともあったっけなぁ」

 皴くしゃの顔と声でそう笑ってから。

「もしよければ、だが」

「ああ」

「お前さんの気が向いているうちはこの村を気に掛けてはくれないか」

「暫くはそのつもりだ」

「それでいい、ありがとう」

「責任感が強すぎるだろう、前村長」

「それだけここを愛しているのさ……親父も爺さんもそうやって生きて来た」

「ああ、そうか……そうだな」

 頷いて立ち上がったところに、もう一つ呼び掛けられる。

「お前さんは、何を気にかけてそんなに生きることにしたんだい?」

「……さぁね?」

「いや、済まない……実は知っていた」

「言ったっけか?」

「昔、酔い潰れていた時に誰かの名前を呼んでいたよ」

「……そいつは失態だった」

 一瞬だけ時が戻って若者同士の笑い方で笑い合う。

「不思議な響きだったが、きっと綺麗な女性なんだろう?」

「まあ、そうだ……ありがとうな」

「いいや、幸運を祈るよ」

「……じゃあ、また様子は見に来る」




***




 部屋を辞して、後ろ手にドアを閉めたところで夢から覚めた。

「……久しぶりに見たな」

 もう名前も忘れたつもりでいるのに、偶にそうやって何百年か前の誰かを思い出す、そうやって長い間生きて来た。

 さて、明日が想定される運命の日。

 義務を果たしてまたこんな永遠の日々に戻ることとしよう。





お読みいただきありがとうございます、あと一話で完結します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ