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第四節 初めての不祥事 3話目

「……ん? あれはスコット先生と……リリーなのか?」


 午後の授業も終わった放課後の空き時間。この日は一人で翌日の授業準備を行い、一区切りついたところでふと準備室の窓の方に目を向けた時のことだった。


「居残り練習……飛翔訓練をしているのか」


 かつてはブラウンが教鞭を振るっていたせいでできていなかった箒での飛行練習だったが、スコット先生の指導の下、他の一年生らと混ざって居残り練習を受けているようだ。


「……トラウマになっていないようで良かった」


 魔法使いの中で箒を使わない、使いこなせない者はそう少なくない。高所からの落下を筆頭にして、それ以外にも事故や怪我をきっかけに箒を手放す魔法使いの話など、人生一度は耳にするものだ。

 そして彼女の場合、ブラウンという悪辣な男がその原因となってしまうのではないかと密かに危惧していた。しかし流石はスコット先生、現役のブルームレーサーというべきだろうか。箒に乗ることの便利さ、楽しさを上手く伝えられているようだ。


「……ちょっと様子でも見に行こうかな」


 そう思った私は、久しぶりに自ら校庭の方へと赴くことにした。



          ◆ ◆ ◆



「はいそれじゃ、ゆっくりと降りてきて。最後まで箒の制御に集中するように。慣れてくる頃が一番落下事故を起こすから」

「お、おおお……ぅ」


 他の生徒と比べてやはり不慣れな部分はあるのか、多少フラフラとしながらリリーは箒に跨がったまま校庭へと着地をする。そしてそれを見たスコット先生は口角を上げて合格を意図する言葉を告げる。


「よくやったわねウォーカーさん。これならFがつくことはないわ」

「や、やたっ……!」

「流石は現役プロレーサー、素晴らしい指導です」


 そこへ純粋な賞賛の意味を持って拍手をしながら私が近づいていくと――


「授業見学されるのなら事前にお話を頂きたかったです。バトラー先生」

「……むぅ」


 ……えぇーと、あまり歓迎されなかった感じなのは把握できる。


「すいません、つい準備室の窓から頑張る生徒の姿が見えましたので」

「そうですか。放課後練習はこれにて終了ですので、それでは失礼します」


 軽い会釈だけをしてその場を去って行くスコット先生。それに釣られるようにして一年生もまた何かを察したのか、気まずそうに素早く校庭を去って行く。


「あっ……行ってしまいましたか」


 そうして残されたのは私とリリーの二人。そしてリリーはというと、私に何か言いたそうにしながらも、ぐっと口をつぐんで一年生と同じように校庭から立ち去ろうとしている。


「……上手に飛べていましたよ、リリー」

「……っ! ……べっ、別にっ、スコット先生が、上手なだけ、だからっ!」


 意地を張っているのかこちらの方を向くこともなく、そのまま素通りをしていくリリーの背中を、私は静かに目で追っていく。


「……私、何か悪いことでもしたんでしょうか?」


 その場には誰もいないと分かっているが、誰に問う訳でもなく私は一人呟いたのだった。

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