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第四節 初めての不祥事 2話目

「どうしたのかねバトラー先生。最近ヤング先生と同様、顔色が優れないようだが」

「えっ! いや、そんなことありませんよ!」

「彼女を医務室に運ぶ際に風邪でもうつされたのかね。もしそうだとして私にはうつさないでくれたまえよ」

「ヤング先生はただの疲労ですから、その点はお気になさらず」

「ああ忘れていた。一番は生徒に……移さないように」

「……そうですね」


 合同授業の折にモーガン先生とお決まりの雑談。そして今回も私に対する愚痴のようなものを呟いてはチクチクと痛いところを突いてくる。


「それはそうとそのヤング先生の件、校長が進捗はどうなっているのかと言っていたが」

「ぎくっ!?」


 典型的な反応を示してしまったが、事実ここ最近どれだけ探しても写真立ては見つからず、調べようにも物が無いという状況をそのまま説明できる筈もない。


「……何か不都合でもあったのかね?」

「いえっ、ただまだ調査中としかいえません」


 ふん、と呆れたのか納得したのか分からないが、モーガン先生はそれ以上何も言わずに両腕を組んで決闘の方に目を見やっている。


「……急ぎ報告ができるよう、全力は尽くします」

「校長から君が頼まれたのだ。私に言わず、結果は校長に示したまえ」

「……ええ、そのように」


 雑談もほどほどに、今日の決闘授業ではもう一つこなすべき演習がある。それまで見に徹していたモーガン先生が決闘場の方へと歩き出し、そして場内中央にて足を止めるとそのもう一つの演習内容について語り始める。


「それでは例年では行わなかったが今回初の試みとして……二年生にも同様の決闘を行って貰う」

「ええっ!?」

「やるの!? っていうか、やっていいの!?」


 二年生の間からは動揺と困惑の声が挙がっているが、これは私の方からモーガン先生に提案してみたものだ。校長から悪意のある魔法について先に教えるように言われたことをきっかけに、どうせなら決闘も先に経験させた方がより悪意のある魔法への対処法に熱が入るとふんでの提案だ。

 最初はモーガン先生も渋っていたが、この校長の言葉を言い訳にしてねじ込むことができている。

 そしてもう一つ、どうして私がこの決闘を提案したのかというと――


「それじゃあリリー、ミヤ。二人でまず勝負して貰おうか」

「ええっ!? わ、私!?」


 驚いた拍子にずれた眼鏡をなおすリリーとは対照的に、同じ二年生の金髪の少女――いじめっ子のミヤはすんなりと立って決闘場の方へと姿を現わす。


「ふん。言われたからにはやりますけど、どうして私とリリーなんですか」

「君達は以前から何かとお互いに言いたいことがありそうだからね。これを機にスッキリ清算して貰おうかなって」

「スッキリ……ねぇ」

「っ……せっ、先生、どうして……」

「どうしても何も、今言ったとおりだよリリー。さあ、お互い杖を構えて!」


 ここは一度、公の場でしっかりと勝ち負けをつけて文句を言わせないように――というのが建前で、私の本音は今まで教えてきた防衛術をリリーが使うことで、この場で引き分けにして上手くお互いに認め合うような形を作ることが目的だ。これはバスカヴィル寮監のモーガン先生との打ち合わせの際にも折り込み済みで、二人の実力を把握しているからこそその結果を期待しての指名だ。


「う、うぅ……」

「あら? 負けるのが怖いのなら辞退しても結構よ。私は誰が相手でも勝つ自信があるから」


 ミヤの言うとおり、彼女の実力は二年生の中でも高い。しかし防衛術に関してそれまで勉強してきた量は、リリーの方が上手だ。


「……っ! やっ、やってやる!」


 目線を下に向けて俯いていたリリーだったが、自分で自分を鼓舞したのか、一呼吸おいて前を真っ直ぐに向いて、決意に満ちた顔を作り出す。


「……防衛術なら負けないとでも言いたいわけ?」

「ちっ違う……こ、この勝負に……勝つ!」


 二人互いに背を向けて、一歩、二歩、三歩と下がって距離を取る。そして振り返って杖を構える。


「いいかい、使って良いのはあくまで武装解除――」

「ディサーメント!」


 私の念押しの言葉を遮って、ミヤは杖先から武装解除の魔法を放つ。

 突然の不意打ちとなってはいくら防衛術が得意なリリーでも対処が難しい、というより誰も対処できない。

 そう思った私はこの決闘を没収試合として、新ためて注意を含めて仕切り直すことを考えたが――


「カウンタッ!!」

「なっ!?」

「っ!? それは!?」


 その場にいる誰しもが、リリーの手から杖が離れることを確信していた。しかし実際に宙を舞ったのは、他でもないミヤが持っていた杖。


「反射魔法……!?」

「……バトラー先生、もしやミスウォーカーに――」

「いえ、私は教えていません。私はあくまでパリィをある程度連続して使える程度と認識していたのですが……仕方ありません」


 決闘場へと踏み込んだ私は、ひとまずその場の動揺を静めるべく適当な言葉を並べて短評を二人に送る。


「勝負はそこまで! ミヤ、まだ説明をしている途中だったんだから、気持ちは分かるが魔法を使ってはならない。そしてリリー、反射魔法を会得できたなんて驚きだ。独学でやったのかい?」

「う……ええと、そうだよ」

「そうかい。大人ですら会得できるのは一部の人間だという高難度の呪文。素晴らしかったよ」

「……う、うん」


 本当ならもっと手放しで喜ぶべき事なのだが、そもそもこの学校でカウンタを使えるのは私と校長、可能性としては教頭やモーガン先生くらいの極めて限られた者の筈。

 それを教えも受けず、独学で彼女が習得できるだろうか。

 ……何かがおかしい。絶対にこれは裏がある。


「とにかくこれで授業は終わり。次の授業に遅れないように」

「……先生……もっと褒めてよ……」


 呟きながら去って行くリリーに対して、私は何も言うことができなかった。

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