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第1章 嘆きの歌

ハッと目がさめる.頭がうまく働かない.

知らない天井だ.いや,この場合天井というには高さがありすぎる.何より透明で天井というには無機質だ.

虫籠?

体が思うように動かない.今までにない違和感を体に覚える.

カサカサッ!!

何かが横で蠢く.全人類共通で不快感を覚えるであろうこの音.

”虫?”

そう呟こうとしたが声が出ない.違和感に次ぐ違和感.周囲を見ると透明な壁に反射した自分の姿がうっすらと確認できた.驚きのあまり正常な思考ができなかったが,目の前に映る景色を素直に受け入れるとするならこう認識できる

『虫になってる』


...思い出した.私の名前は田渕悠太.某国立大学で動物生態学の学位を納めた後,害虫駆除会社に就職したのだった.新年度を迎えた直後のあの日,確か大型ショッピングセンターからの依頼で地下倉庫のゴキブリ駆除を任されたのだった.新年度が始まったばかりだったので,その日は新入社員研修を兼ねていたということもあり,入社したての新人も現場に連れてきていた.

倉庫の扉は重厚な鉄扉で,重い扉を押し開けると,電気のついていない地下倉庫には無数のゴキブリが蠢いているのが音で分かった.四方から聞こえるカサカサという音に「食品を扱う環境でなぜここまでゴキブリを放置するのか」と半ば感心していた.

倉庫という広い空間の害虫駆除ということで,大型の殺虫剤散布装置を使った(クソでかいバルサンみたいなもの).殺虫剤には選択性(少量で害虫を殺せるが,少量では人間は死なない)があるため,多少殺虫剤を吸引しても問題はない.しかし,大量に吸い込んでしまうと危険なので,装置を起動させてから,急いで倉庫外に出る手筈だった.

装置を起動させると殺虫剤の散布が開始された.選択毒性とはすごいもので,まだ散布開始から少ししか経っていないのに隙間という隙間からゴキブリが這い出てきた.この仕事は何年もしているので私はこの光景に慣れたものだが,横からは,悲鳴が聞こえた.

「キャーーーッ!!」

想像を絶する数のゴキブリに新入社員が発狂したのだ.この仕事を始めた最初のことは私も大量のゴキブリには驚きはしたが,この新入社員はその比じゃない.発狂した彼は一目散に出口へ向かい,重たい鉄扉を勢いよく閉め,逃げ出した.私も彼の後を追いかけようとした時,

『扉が開かない』

扉の向こうで錯乱状態の彼がゴキブリが倉庫外に出ないように扉を押さえつけてるのだ.どう頑張っても扉は開かず,次第に濃度が濃くなる殺虫剤に耐えきれず,思わずむせこんだ.殺虫剤は選択毒性があるから人間に害は少ないとは言っても,薬剤は薬剤.目に入れば激痛を発生させ,気管支に入れば呼吸ができないほど苦しくむせこむ.息ができなるほど殺虫剤の濃度が高くなり,次第に意識が遠くなった...


完全に思い出した.私はあの日あの場所で死んだ.そしてなぜか目が覚めると,透明な虫籠に入ったゴキブリに生まれ変わったてた!


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