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生徒相談室には三人が揃っていた。六人掛けのテーブルを挟んで座っている。宮城は藤乃森と並び、対面の席に着く生徒を観察した。
志望者は、一年一組の雛形芹亜。清潔な身なりの女子だった。校則の緩い望陵高校では身だしなみを崩した女子もいるが、彼女はきっちりしている。事前に集めた情報によると、一学期の成績は優良。素行も問題なし――期待できる。
「緊張しないでください。おれも一年です。面接ですので一応、敬語で話しています。普段通りでけっこうですよ」
「い、いえ。本当に一年、ですか……?」
「? 六組です」
質問の意図が、宮城には読めなかった。
「宮城くんって大人っぽいからね~。わたしは見学してるだけだから気にしないでね~」
ほんわかした藤乃森の雰囲気のおかげで、雛形は幾分かほっとした様子だった。次いで、落ち着きなさそうに目を動かした。
「えっと、姫咲会長は?」
「今日は用事があるので、面接はおれがします」
「そう……」
雛形が少しがっかりしたように肩を落とした。
騙す形になるが、姫咲が知れば妨害してくる。出席させるわけにはいかなかった。
他の生徒の例に漏れず、雛形も姫咲に憧れているようだ。これはマズい。姫咲の本性を知った時、激しい怒りに転じる恐れがある。
やはり難しい。
宮城の求める条件に一致する生徒を見つけるのは困難だ。せめて口のかたさだけでも見極めたい。
話を進めようとすると、雛形が先に口を開いた。
「あの、有音く――川本先輩が御礼を言ってました」
「合唱部の?」
「家が近所で。たまに会うんです。姫咲会長のこと、すっごく褒めてました。ちょっと引いちゃうぐらい」
以前、美術部の騒音問題で生徒会を頼ってきた、合唱部の部長だ。意外な接点だった。
「姫咲先輩には、あとで伝えておきます」
雛形が嬉しそうにうなずく。話をしているうちに緊張がほぐれたのか、リラックスした様子になっている。良い空気で面接をはじめられそうだ。
「では、まず生徒会を志望する理由を――」
――ガチャ。
生徒相談室のドアが、前触れなく開いた。
瞬間――時が止まった。
濡烏と形容すべき、大和撫子を体現した艶やかな黒髪がなびく。
ドアを開けた人物が部屋に足を踏み入れると、さわやかな春風が吹く錯覚が起こった。
「遅くなりました。まだ、終わってないかな?」
「か、会長!?」
鮮烈な存在感を振りまいて、姫咲がしとやかに微笑んだ。
――バカな。なぜ来た。
驚愕のあまり、宮城はあっけにとられた。
面接の件は話していない。いつも通り、仕事を手伝う様子はなかった。ちょっとしたいさかいはあったが、今も生徒会室でくつろいでいるはずだった。
「宮城くん、お疲れ様。あとはわたしに任せて」
姫咲の微笑が横から見下ろしていた。
やむを得ず、宮城は自分の座っている真ん中の椅子を譲った。端の席に移動する。
姫咲が席に着く。手に抱えていた物をテーブルに置いた。なぜか、大量の書類を持ってきていた。
最悪の事態に動揺しながらも、宮城は平静を装った。
「忙しいので来られないのかと思いましたよ」
「わたしだけ休むなんてできないよ。愛ちゃんも誘ったんだね」
「怜凪ちゃん。久しぶり~」
藤乃森がマイペースに笑った。動揺した様子がまるでなかった。
まさか、姫咲に知らせた?
いや、そんな人ではない。生徒会の人員不足は以前から心配していた。トラブルがあれば事前に連絡があっただろう。
宮城はできるかぎり声を潜めた。
「……どういう風の吹き回しですか」
すぐに声量をおさえた返事があった。
「拓也、やけにあっさりしてたじゃん。相談事なのに生徒会室を使わなかったし。なんか変だなって思って」
鋭い。そうだ、こいつはメンタルがぽんこつのくせにやたらと能力が高い。ぐーたらな姿を見過ぎたせいで油断した。面接の場所を当てたのはおそらく消去法だろう。生徒会室が使えないなら、生徒相談室が次の候補になる。
宮城の計画は見抜かれていた。
「ごめんね。ちょっとだけ待ってもらってもいいかな」
姫咲が雛形に声をかける。憧れの先輩が突然現れた衝撃のせいか、まともに声が出ない様子で、こくこくとうなずいた。
とにかく、妨害されないように注意するしかない。姫咲は表の顔で振る舞わなければならない以上、この場で雛形を拒絶することはできないはずだ。
宮城が身構えていると、姫咲が体の向きを変えた。
さあ、どう出る――?。




