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頑張りましたね、姫咲先輩  作者: 勝花
第2話:宮城拓也は役員を増やしたい
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 時刻は、一日前の昼休みにさかのぼる。


「役員を増やしたいんです」


 宮城は三年生の階の廊下にいた。行き交う生徒は多いが、一年の上履きを履いているのは宮城だけである。多少目立つものの、気にせず話を続けた。


「明日、役員志望者の面接の時間を用意しています。藤乃森(ふじのもり)先輩にも来ていただきたいんです」


「わたし?」


 目の前にいる生徒が、不思議そうに小首をかしげた。


 三年生の中でも大人びた外見の女子だった。目元が柔らかく、話し相手が自然と安心する雰囲気を持っていた。ふんわりした栗色の長髪をサイドテールにまとめて肩口から垂らしている。女子の中では背が高く、グラビアアイドル顔負けの抜群のプロポーションが人目を惹いた。


 藤乃森愛(ふじのもりあい)


 立場でいえば、宮城の直接的な先輩にあたる。


 前期生徒会副会長である。


「引退したわたしがいたら邪魔にならない?」


「藤乃森先輩だからこそ来てほしいんです。姫咲先輩の事情がわかる人はかぎられていますので」


 藤乃森は姫咲の幼馴染だ。姫咲の裏の顔を知っている。人前に立つのが大嫌いな姫咲が生徒会にいるのも、藤乃森の影響が大きいらしい。


 宮城が生徒会を志望した時も、藤乃森のおかげでスムーズに事が運んだ。生徒会室まで書類を持ってくるように頼まれたせいで姫咲の醜態を目撃するハメになったが。悪いのは油断した姫咲であり、藤乃森に落ち度はない。


「役員はまだ二人だけよね。誰も入らなかったの?」


「妨害を受けました」


「怜凪ちゃん……」


 察したのか、藤乃森が困ったように苦笑いした。


「姫咲先輩の評判は生徒会にとっても重要です。役員の人選は、口がかたく、姫咲先輩の本性を知っても平気な人にしたいんです」


「難しそうよね~」


 にこにこと藤乃森が間延びした相槌を打つ。成熟した外見に反して、仕草は子供っぽかった。


「完全に条件に当てはまる人がいるとは思っていません。少しでもリスクを下げたいんです。おれの主観だけでは適切な判断にならないでしょう。姫咲先輩とつき合いの長い藤乃森先輩にも判断してほしいんです」


 生徒会役員を増やすのは急務だが、リスクもある。人選を誤って姫咲の裏の顔が周知される事態は避けたい。


 好き嫌いが激しい姫咲との相性もある。つき合いの浅い宮城だけでは、判断に不安があった。


 本来なら本人に立ち会ってほしいところだが、増員に非協力的な以上、代役を立てるしかなかった。


 今回の面接は、生徒会役員が敬遠されてから久しぶりの志望者だった。万全の態勢で臨みたかった。


「わかった。怜凪ちゃんは反対するかもだけど、そろそろ二人はマズいよね。でも、生徒会長抜きで進められるの?」


「印鑑が必要になりますが、おれが預かっています。手続きが終わったあとに姫咲先輩が抗議しても、おれに仕事をやらせていた弱みがあります。黙らざるを得ないでしょう」


 書類の押印は主に宮城が代理でしている。本来は生徒会長自らが確認しなければならない作業だ。印鑑の管理まで押しつけられていた。


 生徒会室での状況が想像できたのだろう。藤乃森が同情するような目になった。


「怜凪ちゃんも前は違ったんだけどね。宮城くんが生徒会に入って安心しちゃったのかな」


「前期の生徒会ではまじめだったんですよね?」


「うん。ずっと頑張っていたから気が抜けちゃったのかも」


 一年から生徒会に在籍していた姫咲は広報の役職だった。生徒会室でも優等生の顔を崩さなかったらしい。本性を知っているのは藤乃森だけだった。


 気を張っていた反動だろうか。生徒会長就任後は開き直って、すっかりだらけている。


「そもそも、まじめなフリをしなくてもよかったんじゃないですか?」


 無理に優等生を演じた結果、〝模範〟な姫咲怜凪のイメージが定着した。だからこそプレッシャーが大きくなっている。周囲の期待に応えようとして自分の首を絞めている。


 辛いなら、はじめから自分らしくすればいい。宮城には理解できなかった。


「そっか。宮城くんは自分を認めてあげられるんだね」


「? どういう意味ですか」


「怜凪ちゃんはね、自分に厳しいの。うそをついても理想の姿を見せたいのよ」


「……信じられませんね」


 宮城から見た姫咲は自分に甘い。自堕落で好き勝手にしている。


「自分に厳しいなら、もう少し仕事をしてほしいですね」


「ちょっとだらしないところがかわいいんじゃない~」


 藤乃森がうっとりと頬を緩めているが、よくわからなかった。生徒会室で一日中ゲームをして、惰眠を貪っているようなやつが、ちょっと?


「明日の放課後に生徒相談室でお願いします」


「生徒会室じゃないんだね」


「姫咲先輩がいるでしょうから」


 特に用事がなくても姫咲は生徒会室に入り浸っている。念のため、当日は足止めするつもりだった。


 約束をとりつけて、宮城は踵を返した。そのまま歩こうとする。


「宮城くん」


 後頭部に柔らかい感触がした。頭を撫でられていた。


 振り向いて、宮城は目線を下げた。女子の中で背の高い藤乃森でも、宮城とは差がある。なにが楽しいのか、にこにこしていた。


「……なんです?」


「いつも頑張っているから~。甘えたくなったら言ってね?」


「からかわないでください」


 頭を撫でる手を退かし、改めて背を向ける。振り返らずに足を進めた。


 準備はできた。


 姫咲に隠れて新たな生徒会役員を確保する。


 それが、今回の目的だった。


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