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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第99話 自己評価が低すぎる

リリアスはシエナとそっくりな豊かな髪を、商家の嫁にふさわしく簡単に結んでシエナの前に座った。


「お茶にしましょうよ。ルイは眠ったし」


「お姉さま」


この言葉を発するのは、何年ぶりだろう。姉はすっかり落ち着いて、にこやかな様子だった。


「リオネールと婚約したんですって?」


リリアスは笑いを含みながら聞いた。


「はい……」


シエナはしぶしぶ答えた。


「あら。嫌なの?」


なんて答えたら……。リオのことは嫌いではない。だけど、リオのおかげで?シエナがアンダーソン先生とも相談しながら、営々と築いてきた将来計画は全部変更を余儀なくされた。


「ボリスの結婚はなくなったし、父は隠居しました。もう心配はいらない。でも、私は自分では何もできなかったんです」


リリアスはむむむと口を結んだ。


いろいろと(主に義妹のアマンダ夫人から)妹の活躍を聞く限りにおいて、シエナが何もできなかっただなんて、それはない。

シエナは大活躍したと思う。


やっぱりキャロライン嬢とイライザ嬢の友達だけあると、リリアスは思っていた。

二人とも、なにか妙に気概がある。特にイライザ嬢のは本物で、雑誌を作ってみたりファンクラブを作ったりと大活躍だ。

シエナは地味でおとなしそうに見えるが、いざとなると……結構やっていると思う。


「アラン殿下には、最終的に大変に助けていただきましたし」


それだ。そもそも、アラン殿下の気に入るだなんて、それはものすごく難しいことなのだ。


顔がかわいいから許されるとか言った問題ではない。


彼は隣国の王太子で、それなのに、ただの留学生に化けて生活したがった。

かなり無理のあるプランだ。

ただの貴族の生活なんか、面白いことなんか何もない。常に特別扱いされてそれに慣れていたアラン殿下は、多分、すぐに飽きて、あるいは腹を立てて、そんなフリなんかかなぐり捨てて、元の特権階級の王太子殿下に戻るはずだった。


それが3か月ほどの短い期間だったが、留学生に化けて、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックでは見事一位を勝ち得て帰って行った。

しかも本人は大満足。

彼にとって、すばらしい時間だったらしい。


聞けば様々なイベントやお茶会を、シエナが取り仕切ったと言う。

ブライトン公爵家からの無理な顔合わせのお願いも、実現させたし、後から決闘事件の顛末を聞いたアーネストの父は震え上がっていた。

笑い話に仕立て上げて、アラン殿下のお怒りを無事におさめたシエナには、正直なところ、感謝しきりだった。


「私には、お金もなんの力もなくて。リオとの結婚も、本当はリオのお荷物になるだけじゃないかと思うと、辛いんです」


リリアスは一瞬、言葉に詰まった。


「リオはとても喜んでいると思うわ」


シエナは、マドレーヌ嬢に狙われたリオを助けた。その話をリリアスは、イライザ嬢を通じて、アマンダ嬢から聞いた。


リリアスは具体的には、シエナが何を言ったのか知らないが、マドレーヌ嬢はあっという間に偽のテオドールに夢中になってしまった。

そのためリオをほったらかしにしたので、レイノルズ侯爵と契約違反の件でもめ始めた。腹を立てたマドレーヌ嬢は、レイノルズ侯爵とのやり取り全部を、テオドール・クレイブン本人に提出した。


シエナがテオドールを名乗ったのが、いけなかったのである。

 

マドレーヌ嬢の脳みその中身については、みんなが疑問を抱いていた。正直、大丈夫なのかなー?とか、思っていた。


したがって、なんでどうして、彼女が大事なお手紙一式全部を、愛するテオ様に渡したのかわからない。


「もしかすると、私は皇女様なのよ!なのに、迫害されてるわ!とか言いたかったのかも知れないけど」


後から聞いたイライザ嬢は、こう論評した。


テオドールに送ったのだが、本来の宛先は多分シエナ。テオドールはそれをシエナに回し、気の利くシエナはそれをアーネストに回した。


「とりあえず、宰相に見ていただいた方がよろしいかと。お忙しいことはわかっていますけれど」


さすがである。アラン殿下に仕えたせいで、国際感覚が磨かれたのだろうか。


「機転が利くな。アラン殿下が手放さなかったはずだ」


証拠をどうもありがとう。


一侯爵家が他国の皇帝に申し立てなどするものではない。


シエナは知らないが、レイノルズ侯爵は国家にとって危険人物とみなされたらしい。それでなくても、息子のボリスは(アーネストどころではない異常性癖の持ち主で)貴族全体の名誉を著しく傷つけた。出来れば、貴族の仲間のカウントにいれたくない。さらにはアラン殿下への暴行未遂事件だ。

アラン殿下がシエナの為に穏やかな対応を取ってくれたおかげで、深刻な国際問題には発展しなかったけれど。


イライザ嬢の情報によると、この時点でアーネストの父はシエナの家柄や伯爵家の惨状は目をつぶることにして、本気で、息子の結婚相手候補とし

て考慮を始めたと聞く。

リオが聞いたら、激怒するだろうけれど。



しょんぼりと自分は何もできなかったと言う妹に、リリアスはかける言葉が見つからなかった。


これだけ、いろいろやっているのに、一体何言ってるんだろう


「お世話になったアッシュフォード子爵に望まれたら、その通りにするしかないと思います」


この話は、アマンダ夫人、コーンウォール卿夫人、イライザ嬢にまで伝わって、全員がため息をついた。


「挙げ句の果てに、リオにはもっと有利な結婚があるのではないかと、言い出して、自分は身を引く方が、とかなんとかかんとか」


まあ、元々、そう言う傾向があった。


「アンジェリーナ・シークレットに載って、あれは誰だと大評判になったと言うのに……」


イライザ嬢がぼやいた。


「リオが聞いたら泣きますわ」


これはコーンウォール夫人。



実際リオはこの話を聞いて絶句した。


「そんなに僕のことが嫌いなのですか?」


「えーと、多分、それはないと思うんけど……」


どことなく歯切れの悪いコーンウォール夫人だった。


「あのう、あなたにはもっといい縁談が来るんじゃないかって言っているの」


「シエナに、もっといい縁談が来るかもしれないじゃなくてですか?」


「え? いえ、違うのよ。あなたによ。もっといい家、具体的にはキャロライン嬢とか、アリス嬢を想定しているらしいのよね」


横で小さくなって聞いていたイライザ嬢は深いため息をついた。


二人ともリオファンクラブの会員である。会長と副会長である。


シエナが勘違いをしておかしくはないが……おかしくはないが、おかしいだろう。


「シエナを12月祭りに誘ってきます」


決然とリオは発言した。そして コーンウォール夫人を見据えた。


「こうなるからシエナはこの家に縛り付けておいて、外出制限して、付きまとって、僕の本気を毎日知らしめなくてはいけないと思ったんです」


茫然とするコーンウォール夫人に向かって、リオは宣言した。


「それをあんなラッフルズみたいな、人の出入りの多い家に連れて行って。変な男に見初められでもしたらどうするんです。アッシュフォード子爵にはさんざん世話になったんだから、ご恩返しに婚約しろと迫って、ようやくOKもらったんですよ? シエナときたら、全然わかっていないんだ。毎日口説き続けて、それで何とかその気にさせようと……。プレゼントを渡しても、遠慮するし、代金をお支払しますとか言うし、キャロライン嬢ですか、変な独立不羈の気概を吹き込んだの。ほんとにラッフルズに弟とか従兄弟とかいないんでしょうね。心配だ。これから出かけてきます」


問わず語りに明かされるシエナの婚約事情。というかリオの執着事情。


三人は茫然とした。




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