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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第87話 パトリック(実兄)とエドワード(義兄)その1

無事にマドレーヌ嬢の関心を引き、リオ様との結婚に待ったをかけることができたシエナは満足だったが、リオとアーノルドは、おさまらなかった。


「シエナ、やりすぎ」


「うーん。女性心理は女性に聞けってことなの? 僕たち怖かったよ。平気であのマドレーヌ嬢にタヌキ娘だなんて言うんだもの」


「でも、まあ、関心を引くことはできたと思います」


「いや。それはそうだけどさ」


三人は連れ立って、ハーマン侯爵家に戻ってきた。


その間、それはそれは大勢の人たちが、ジロジロジロジロ三人を見ていた。


ハーマン侯爵家に入っていくのを見て、後を尾けてきたらしい娘たちは納得したらしく、門番にとがめられる前に、離れて行った。リオはまるで平気そうだった。どうも、いつものことらしい。慣れているのか、シエナも気にしていない。


ただ、一人アーノルドは、おそれおののいていた。

イケメンおそるべし。


「リオ様のお友達、すごく美しい方がいたわ!」


町娘が興奮して結構な大声でしゃべっていた。


「マンスリー・レポート・メンズ・クラシックに載ってなかったよ? 今度、載るといいね! 誰だかわかるもんね?」


ヤバい。


「アーノルド様。今日はご協力くださいまして、本当にありがとうございました」


おお。侯爵家に戻れば、いつものシエナだった。


「アーノルド様の結婚に対する真摯なご意見、感動しましたわ。マドレーヌ様は婚活っておっしゃっていましたけれど、身分や財産以外に大事なことがありますわ。人柄や相性はとても大事だと、私も思いますの」


アーノルドはちょっと赤くなった。そう言えば、この人は財産がないとそしられ、婚約破棄されたのだった。

今もいわれのない非難にさらされている。姉が駆け落ちしたので、きっと妹も節操がないに違いないと言う噂だ。意図してばらまかれたものだと言うことは知っているが、アンジェリーナ・シークレットに載ったせいで、一部ではやっかみを買って、噂がぶり返されているかもしれなかった。


「いえ。お役に立てて幸いです」


アーノルドは礼儀正しく答えて侯爵邸を辞去したが、そのあとでリオがシエナに聞いていた。


「無理じゃない?」


「何のことですか?」


「だって、アーノルドの性癖に、アリス嬢、耐性ないと思うけど……相性がどうのって、あいつ、ヤバくない?」


「性癖?」


「あー。いや、もう、いいけど」


扉の向こうでは侍女たちが騎士姿のシエナに見ほれていた。


「リオ様と、どんな高貴な会話をなさってらっしゃるのでしょう」


「見るだけで眼福とはこのことですわ。高貴でお美しいこと、この上ない」


別に高貴な会話ではなかった。




しばらくすると、マドレーヌ嬢と同じレストランで食事をしていた四人のうち二人が、イライザ嬢に伴われて、侯爵邸の小さい方の客間にやってきた。


ラッフルズ家長男エドワードとシエナの兄のパトリックだ。


「リオ様。シエナ様にご紹介をお願い申し上げます」


イライザ嬢がリオに言った。


リオはこの二人の訪問を先に聞いていたらしい。

彼は、急いで客間の椅子から立ち上がっると、精悍な顔立ちのいかにも騎士風の男性を迎えに出た。次いで、立派な服だが商人風の男が続いて入ってきた。


シエナは誰だかわからず、目を見張っていた。


リオはシエナの方へ向き直って言った。


「シエナ。兄上のパトリック殿だ」


「お兄様? まさか」


シエナは口の中で小さくつぶやいた。


シエナは、この年の離れた兄と会ったことがほとんどなかった。


パトリックは、両親のリーズ伯爵夫妻と折り合いが悪かった。

騎士学校は寮に入ったし、卒業すると、すぐに騎士団に入ってしまった。それきり、家に戻ることもほとんどなく、絶縁に近い状態だった。


シエナとリリアスの姉妹より色の濃い目と髪をしていて、戸外の仕事が多いせいか、ずっと肌の色は黒かったが、顔立ちはよく似ていた。


パトリックは、シエナをしげしげと見た。


「リリアスとよく似ている」


それから、懐かしいと言うような表情になって言った。


「シエナ、本当にすまなかった。リリアスのこともだ。私にできることなんか、何もないと思っていたんだよ。そう考えること自体が間違いだった。リリアスの夫のエドワード殿に言われたよ」


シエナは、さらに驚いて、もう一人の男性を見た。


「シエナ、紹介しよう。リリアスの夫のエドワード・ラッフルズ殿だ」


シエナの周辺では、イケメンかどうかは大きな問題だった。


だが、今、エドワードの顔を見た時、顔なんて些細な問題なのだと思わずにはいられなかった。


エドワードは特に特徴がない平凡な顔だちだった。だが、はっきりとした意志と知性が目の中には光っていた。


「メイ・アレクサンドラ・シエナ・リーズでございます。どうぞ、シエナとお呼びくださいませ」


ちょっと、エドワードはあわてたようだった。ラッフルズ家は大富豪だが、平民だ。


「伯爵家の令嬢に礼を尽くされるような身分ではございません」


「いいえ。あなたはリリアスの夫ですわ。お義兄さまです」


シエナは言い、傍らの兄のパトリックは満足そうだった。


「エドワードは、情けない兄の僕をここまで引っ張ってきてくれたんだ。シエナ、父には責任を取ってもらおうと思う」


「責任?」


「そう。父には引退をしてもらおうと思っている」


パトリックが言った。


「一つは借金問題だ。従兄弟のリオの家の財産を奪って返していない」


リオがうなずいた。


「もう一つは、リリアス。リリアスの婚約を阻止できなかったのは痛恨だ。あんな結果を招いてしまって」


エドワードの顔を見てパトリックは無理やり笑った。


「よい夫を得ることができて、むしろ幸せだったかもしれないが、それにしても、悪いのはリリアスだと貴族社会では烙印を押されている。許せない」


エドワードが続きを説明した。


「リオ様の問題は比較的簡単です。現在、リオ様が腕のいい弁護士を雇って、伯爵を追い詰めています。リオ様は伯爵家の子どもではなく、甥です。また現在はハーマン家の養子なので、どんなに追い詰めても、誰も非難しないと思います。問題はレイノルズ侯爵です」


今度はパトリックが言った。


「レイノルズ侯爵は、シエナが一方的に婚約破棄したことにしようとしている」


リオがむっとした顔をした。


「父親のリーズ伯爵がシエナ嬢とボリスの婚約を取り決めたことにしたいのだ。そうすれば、婚約破棄された自分たちが被害者だと言い張れる。ボリスは牢に入れられっ放しだが、そうなれば、出してもらえると計算しているのだろう。悪いのはシエナだからね」


「リリアスの時と同じ構図ですな」

むすっとしたエドワードが口をはさんだ。


「今、シエナの後ろ盾はハーマン侯爵家だ。これにひびを入れることができたら、シエナは無力だと思っている。たかが若い令嬢一人、なんとでもできると思っていると思う」


聞いているリオは黙っていたが、明らかに怒っていた。


「レイノルズ侯爵は、リーズ伯爵の気の弱いあてにならない性格を知り抜いている。脅せば何とでもなると思っているだろう」


「それでマドレーヌ嬢ですか? 人を馬鹿にしている」

リオが叫んだ。


「マドレーヌ嬢の黒幕はレイノルズ侯爵だ。王都の近くの町はずれに住んでいたマドレーヌ嬢を見つけ出したのだ。ラッフルズ家の取引先が事情を聞き出してくれた。子どものいない男爵夫妻が、皇帝陛下のご落胤と言う娘を喜んで引き取ったそうだ」


「本当に帝国の皇女様なのでしょうか?」

シエナが聞いた。


「わからない。だが、問題はどれくらい帝国が彼女を気にするかだと思う。マドレーヌ嬢に利用価値があれば、皇女と認めてくれると思うが、ヘマをしたら、知らないと切られるんじゃないかな。美貌と才覚で、どこかの高位貴族の御曹司と結婚を決めたなら、帝国は彼女を認めて、優遇するんじゃないかと思う。利用価値が出てくるからね。そうでなかったら、何の援助もしないのではないかな」


「でも、マドレーヌ嬢はお金はあるんだと言ってましたわ。皇帝からもらったと」


「そのお金はレイノルズ侯爵から出ているらしい」


エドワードが言い、シエナたちはびっくりした。

レイノルズ侯爵はケチで有名だった。

あんなお金の価値がわからない、野暮な娘にお金をたくさん渡すとは思えなかった。


「いわば軍資金だよ」


エドワードが説明した。


「リオ様を籠絡しろと言われていると思う。どこの家の令息でもいいわけではない。ターゲットはリオ様ひとり」


リオは顔を引き締めた。


「あんな女を好きになる訳がないじゃないか」


「だからこそ、帝国の皇女様を使ったんじゃないか? 絶世の美女を差し向けても、話にならない。圧力をかけたくても、ハーマン家相手では王家でもなければ無理だ。だから、帝国の皇女と自称している女を選んだのだろう。帝国相手だと、何をされるかわからない」


緊張した顔のリオたちに向かって、エドワードはちょっと笑って見せた。


「ラッフルズは、帝国とも取引がある。どこの国にも商人はいるからね。金は商売では共通語で、ある程度は同じルールが通用する。でないと、商売が成立しない。だから、ラッフルズなら帝国の商人に伝手がたんまりある」


「エドワード様……ご迷惑では」


シエナが言った。


エドワードは、シエナの方に向き直って、強い調子で答えた。


「ご迷惑? 何言ってるんです。これはリリアスのためなんです。僕の妻。彼女の名誉回復のためです」


「あ……お姉様の。ごめんなさい」


「そうです。レイノルズ侯爵がどんなふうにあの娘に取り入ったかはわかっている。明らかにヤツこそが犯人です。だが、侯爵は、誰を敵に回したか知らない」


パトリックが、シエナに近づき、優しく肩に手をかけた。


「リリアスの結婚は秘密になっている。エドワードの家族しか知らない。だから、レイノルズ侯爵はラッフルズを敵に回したことを知らない」


「ラッフルズは全力でレイノルズ侯爵を貶める。息の根を止める」


穏やかな顔の商人が言った。


次はパトリックだった。


「僕は父に引退を求める。なんとしてでも、当主の座をもぎ取るつもりだ」


彼も静かな顔をしていたが、エドワードとシエナに謝った。


「リリアスにもシエナにも苦労をかけた。申し訳ない。もう少し俺が妹たちのことを気に掛ければよかったのだ」


「あなたは王都にいなかったし、ただ、侯爵家の跡取りと結婚すると聞いただけでは、結構な縁談だとしか思いようがなかったろう」


エドワードが庇った。


「それにしてもだ。俺はこれから、伯爵が隠居している田舎の古い屋敷に行く。弁護士と一緒にね。それからひとつ小芝居を打って、爵位を譲ってもらう」


パトリックはニヤリとした。


「それで、心配なのがシエナだ」





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