第84話 デート問題
そんなわけでリオとシエナたちは、翌日の十二時頃、街の真ん中の中央広場の噴水前に、たたずんでいた。
一見、騎士学校の生徒がたむろっているように見える。
だが、どうしようもないのはまず、リオが大男だったことだ。目立つ。
それから、連れの男の髪が長い。しかも珍しい銀髪だ。それを緩く三つ編みにして背中に流している。目立つ。
「カツラの方が……」
とシエナが言ったが、長髪イケメンを見たいと言う意見の方が勝ってしまった。
「いったい、何しに出かけるのかわからなくなってきたよ」
とはリオの弁。
昨夜、シエナの見事なイケメンぶりに、イライザ嬢もハリソン商会の針子も侍女たちも強烈に盛り上がって、ああだこれだと演技指導が始まったのだ。
「シエナ様! もう少し肩を張って! 歩くとき、大股で!」
「こうですか?」
「すごい! イケてる! どこからどう見ても、騎士様ですわ!」
リオは頭が痛くなってきた。
こんなことしても、意味があるのだろうか?
リオは男なので、イケメン破壊力に理解がない。もっとすごいイケメンを連れて来れば、リオに執着しなくなるだろうと言う発想についていけてなかった。確かにテオは実在しない人物なので、リオからテオに乗り換えてくれた方が助かるけれど。
男装していても、シエナはシエナ。男じゃない。
今日のシエナは、いつもの少し困ったような様子とは違っていて、キリッとしていた。目つきが厳しい。
これはこれで悪くない。
顔も十センチくらい近いし、それもちょっと嬉しいポイントだ。リオは傍らのシエナの顔に見ほれた。
「お前らさあ……」
目線を落とすと、アーネストがいた。忘れていた。
「なんなんだよ。デートかよ」
「デートではありません。人のデートを妨害しに来たんです」
アーネストは文字通り正鵠を射られてプンスカした。
シエナは、これからマドレーヌ嬢とリオのデートを妨害するつもりなのだが、アーネストは、そのせいで、アリス嬢とのデートがダメになったのだ。せっかくのチャンスだったのに。お申し込みをするのに、どれだけ苦労したと思っているんだ。
「なんで、俺が要るんです、シエナ嬢」
「テオドールです」
シエナが注意した。
「テオドールって呼んで。テオでもいい。マドレーヌ嬢にばれたくないんだ」
「すっかりやる気だね、テオ」
二人で街中に出たことで、リオは浮かれまくっていた。(実は三人である)
「リオ。緊張感が足りない」
「うまくいく気がしないよ」
リオはどうでもいい気がしてきた。
「それは困る。とても話がややこしくなる。アーネスト様もすみません。今度、アリス嬢にデートをそれとなく頼んでおきます。今日のところは助けてください」
「いや、その……」
シエナ嬢は騎士服で男口調だし、厚底ブーツを履いているのでアーネストとほぼ同じくらい身長がある。すっかり男同士の気分になってしまって、うっかり愚痴ってしまったが、アリス嬢の親友だった。よく考えたら、仲良くしておく方が得策だ。
その頃、イライザ嬢、キャロライン嬢、アリス嬢の三人は、公爵家特権で噴水がある中央広場を見渡せる、高そうなレストランを借り切って、監視していた。
「OKです。三人でダラダラしゃべっている生徒以外の何ものにも見えません」
イライザ嬢が報告した。
「シエナ……やるわね。見事なまでに板についているわ。どこからどう見ても優男だわ」
キャロライン嬢が、またもや父親の書斎からちょろまかしてきた双眼鏡を持ち出してきて言った。
それにしても、すごい。
イケメンにしても度が過ぎる。リオはやっぱりこうしてみると、体つきがすごい。がっちりしている。シエナは(テオだが)細すぎるが、とりあえず優男風だ。そして、遠くからでもイケメンすぎる。
二度見されるタイプだ。
そばを通る町娘も、なんなら馬車で通過するどこかのご婦人方も気になると見た。
噴水周りを三周した馬車もあった。
「二周くらいならまだしも……」
徒歩の連中はもっと露骨で立ち止まって見ている。
リオとシエナは、ほかのことに気を取られていて、見物人たちを気にしていないようだが、アーネストの方は気が付いているらしく、視線にさらされるたびに露骨にため息をついていた。
「あっ。きたわよ!」
マドレーヌ嬢が現れたらしい。
「どんな人なの?」
「ほら。あの、暑苦しいくらいに着飾っている女よ。後ろから侍女がついてきているわ!」
見ていると、彼女は馬車を降りて一直線にリオの方へ向かって行った。




