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第81話 マドレーヌ皇女登場を編集

最初の予定通り、アラン殿下はセドナに帰っていった。

アラン殿下とは、あのダンスパーティ以来、会う機会はなかった。

アラン殿下は完全にシエナの日常になっていた。ジョゼフもだ。


多分、もう、二度と会うことはないだろう。

そう思うと寂しい。


そして、シエナは、今はハーマン侯爵家に住んでいた。

学校にはここ一週間ほど行っていない。


一つには、そろそろ試験があって、学校の授業がないため。

もう一つはアンジェリーナ・シークレットのせいだった。


「絶対に噂になっているわ」


シエナは心配だった。


リオにファンは多い。


そのリオの恋人らしいとダンスパーティの時に大々的に知れ渡っている。

姉だと思って油断していたら、実は恋人だったと。


「だまされたような気分だわ」


シエナが、ではない。ファン一同、そう思っているだろう。しかも、アンジェリーナ・シークレットでは、キャロライン公爵令嬢やアリス侯爵令嬢を差し置いて、堂々の一位を獲得しているのである。


「カーラとか、どう考えるでしょうね?」


カーラは、最初の婚約者のジョージが、この女性と結婚したいから、婚約は破棄してほしいと連れてきた女性だ。


さすが、美人だがあばずれとして有名なリリアス嬢の妹だ、アラン殿下とも何かあったに違いない、それなのに、美男で有名で裕福な侯爵家の跡取りであるリオとも親密だなんて……とか言われているだろう。


世の中にはカーラみたいな女性が大勢いるのだ。好意的になんか受け取られるはずがない。シエナについて、悪い噂を広めている人がいるだろうな。


そう思うと憂鬱だった。



だが、シエナの知らない間に、事態は動いていた。


「イライザ様が訪問に来られました」


ダイアナが案内してきた。あわててシエナは彼女を通した。


イライザと言えば、例のアンジェリーナ・シークレット。

どうしてシエナを選んで載せちゃったのか、異議申し立てをしたいところだけれど、イライザはイライザなりに考えるところがあるのだろう。


客間に案内されてはいってきたイライザ嬢は、妙におずおずしていた。


「実は、困ったことが起きてしまいまして」


アンジェリーナ・シークレットでまた何か騒ぎが?

シエナは不安になった。

もう、怖いのでアンジェリーナ・シークレットは受け取りはしたものの開けていない。


シエナは知らないが、リオは三十冊ほど買い込んだ。

絵の部分だけ、夜中、取り出して、うっとり眺めている。


「いえ。アンジェリーナ・シークレットについては心配ありません。この前説明した通り、シエナ嬢の立場をうまぁく説明しているの。読めばわかったでしょ?」


親が勝手に結婚相手の決めてしまうしきたりの被害者のように書かれているの。あれを読んで、結構涙にくれた令夫人も多かったらしいので、むしろ同情的になったと思うわとイライザ嬢は説明してくれた。


「ホラ。キャロライン様のお付きのカーライル夫人なんか、あなたの境遇の説明書きのところを読んで、三日三晩泣きどおしだったらしくて……」


思い出した。

親の破産が原因で、初恋の人をあきらめて年寄りの伯爵家に嫁がされたカーライル夫人は、当時ボリスとの婚約話が持ち上がっていたシエナにものすごく同情的だった。


「そんな調子で……まあ、効果はあったと思います」



でも、じゃあ、ほかに一体何が? シエナはびくびくした。


「実はね。数週間前に、地方の男爵令嬢が貴族学院に編入して来ていたの。名前はマドレーヌ嬢としか聞いていないのだけど」


「……全然、知らないわ……」


「そうよね。だって、私すら、よく知らなかったんですもの」


イライザ嬢が知らない。それはどんな人なのかしら。シエナは想像した。地方出身の男爵家の令嬢という触れ込みの令嬢たちは、とても数が多い。


男爵家は、闇?で売り買いされることが多い爵位だ。

領地を持たない、名誉男爵という爵位もあって、これは借金のカタに領地を流してしまったのだが、やっぱりお金に困って、その後爵位も売ったため、領地と爵位がバラバラになってしまった代物である。


ちなみに全部、養子縁組を組むので、ツジツマはあっている。ただし、養子なので、法律上は親子でも、血のつながりはない。完全な赤の他人になる。


こうなってくると、誰が誰なのか、複雑怪奇。血筋をどうのこうの歴史をたどるとか、全く無駄になる。


「まあ、そんなことはさておいて、そのマドレーヌ嬢は、リオ様に求婚しているの」


……え。


「求婚?」


「ええ。何しろ、婚約者もいないことですし」


イライザ嬢が珍しく非難がましく言った。


「誰が求婚しても、問題はないでしょう?」


なんだか、問題が山盛りのような?

シエナはピキッとなった。

こう、はっきりと説明できないけれど、この場合一番しっくりくる言葉は、身の程知らず?


「田舎の身元もよくわからない一男爵家の娘が、押しも押されぬ侯爵家の令息に求婚するだなんて、聞いたこともないわ。でもね……」


イライザ嬢の話が長くなりそうなので、シエナは侍女を呼んでお茶の準備をさせた。


考えてみれば、イライザの話が重要でなかったためしがない。


イライザ嬢はぐったりとシエナの客間の椅子に掛けた。


「そもそもの発端は、コーンウォール夫人からの調査依頼だったの」


そういうと彼女は手紙を数通取り出した。


「全部リオ様宛なの。ファンクラブを通さないだなんて、許せないわ」


お怒りのポイントはそこなの? シエナは手紙を読んだ。ものすごく短い文章だった。貴族が書く手紙ではない。


『次の王宮のダンスパーティでは、私をパートナーに選んでね。リオ様大好き』


署名はマドレーヌだけ。家名も書いていない。


シエナは眉をひそめた。

小学生でも、もう少しマシではないだろうか。


「頭がおかしいのかと思ったくらいです」


イライザ嬢の意見に、なんとなくシエナは同意した。


「でも、この手紙、毎日届くんです」


毎日!


「いつからですか?」


「今、二十通くらいありますから……」


まあ、十日ほど前からかな?とイライザ嬢は言った。


「計算が合いませんが?」


「二通来る日もあるのよ」


イライザは簡単に答えた。郵便ではない。わざわざお使いが持ってくるそうで、その費用を考えたら、頭がどうにかしていたとしても、貧乏人に出来ることではないと言うのだ。


「いつから届き始めたかは、執事のベイリーに聞けばわかるけど、とにかく内容がエスカレートしているの。最近では、婚約してねとか、婚約の為の契約書を作りましょうとか」


なぜだかわからないが、シエナは急に額のあたりが熱くなってきた。


「はああ?」


「それで本人の噂を集めてみたのだけれど……」


犯人マドレーヌ嬢は、リオと同じ年でシエナとはクラスが違っていた。

貴族学園は騎士学校と違って、十八歳までと卒業年は決まっているが、編入は自由だ。好きな年齢から入れる。特に女性の場合、学業を身につけるより、社交の為に入学する側面があるからだ。

シエナも当時の婚約者の母親のゴア男爵夫人が、社交面で顔を広めてほしいと希望したので、途中入学したのだ。


「なんと女性のお友達が一人もいなかったの」


それはまた……


「そうはいっても話くらいはするでしょう?」


「それがねえ。この方、帝国の皇女様だそうなのよ」


「ええ? 男爵県令嬢ではなかったのですか?」


セドナの王太子殿下が去った後に、帝国の皇女様?


イライザは、ちょっとうんざりした様子だった。


「最初は男爵家の令嬢だとなんっていたのだけどね。帝国の皇女だと言い出したのは、十日程前。つまり、この手紙が着きだした頃と同じ頃」


「その頃から、妄想に憑りつかれたとか?」


シエナは極めて妥当なことを言い出した。


「いえ。私もそれを疑ったんだけど、違うみたい。その頃から、急に羽振りがよくなって、それまで女子寮に住んでいたのにタウンハウスに移ったんですって。それから、ハリソン商会からの情報なんだけど、ドレスの発注をしようとしてハリソン商会から断られたらしいわ」


突然、お金持ちになった成金のとる行動だ。


「どんな人なのか見に行こうと思ったの」


「一緒に行くわ」


なんだか知らないけど、不安。リオが心配。


「ところがね、向こうから来ちゃいました」


「え? イライザ嬢のところへ?」


「そう。食堂で、お昼を食べていたのよ。そしたら、マドレーヌ皇女様の方から来たの」


シエナはうなずいた。イライザ嬢は神出鬼没。食堂で待ち伏せしたのだろう。


「待ち伏せだなんて!」


イライザ嬢は反対した。


「あれを待ち伏せとは言わないわ。ものすごく大きな声で、イライザさーん、いませんかー? アンジェリーナ・シークレットのことでお話がありまーすって」


イライザ嬢は平民とはいえ、裕福な家庭の出。平民ながらもブライトン公爵令嬢やコーンウォール夫人にかわいがられ、それなりに礼儀作法も身につけ、問題なく貴族の家に出入りしている。この大声でのアナウンスには震え上がったそうだ。 


食堂中が注目する中、マドレーヌ嬢が現れた。


「美人は美人よ。大きなくりくりした目、真っ黒でツヤツヤな巻き毛、背は低いけど、豊満な美人ってところね。地声は大きいけど」


かなりお金のかかった装いだったとイライザ嬢は言った。


「宝石も大きなのをつけていたわ。学校で授業を受けるスタイルじゃなかったけど。それと、もしかすると偽物をつかまされているのかもしれない」


「それで、何の話だったですか?」


「アンジェリーナ・シークレットに載せてほしい、それも一位にしてほしい。自分は資格が十分あるからって」


「資格?」


「アンジェリーナ・シークレットとかマンスリー・レポート・メンズ・クラシックってどういう選択基準なのか聞くのよ! 企業秘密ですわ!」


まあ、それはシエナだって聞きたい。


「彼女が言うには、まずアンジェリーナ・シークレットは偏っているっていうのよ。黒い髪の女性が載っていないって」


「そうでしたかしら?」


よく読んでいなかったシエナは首をひねった。


「それから、この度、自分、マドレーヌ嬢は、皇帝陛下のご落胤だと言うことが分かったので、セドナの王太子同様に載せてほしい、いや、載せないのは不敬罪だと言い出したの」


「不敬罪!」


シエナは仰天した。ボリスも不敬罪で捕まっていたっけ。


「大丈夫よ。不敬罪になんかならないわよ」


「それはそうだけど、別にアラン殿下は、王太子殿下だから載ったわけじゃないわ」


「そうそう! そこなのよ。でも、もちろん、わかってくれなかったの。だけど、問題は彼女が本当に皇女なのかそうではないのかって点なのよ」


シエナはイライザ嬢を見つめた。


その通りだ。







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