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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第67話 観察者もいたりして

このダンスパーティ、リオとアラン殿下の勝負の場だけではなかった。


会場の片隅では、イライザ嬢とキャロライン嬢が、戦場で敵状を警戒しているベテラン騎士のように鋭い眼光で、ダンス会場と言う、本来なら世にも色っぽい会場を見回していた。


「アラン殿下は去った……と言うことは勝負はリオ様の勝利と言うことかしら……」


キャロライン嬢が腕組みをして、判定を下した。


「そうとも限りませんわ、キャロライン様」


珍しい物大好きの赤公爵ことブライトン公爵が、伝手をたどって手に入れた秘蔵の外国製の双眼鏡を、キャロライン嬢は父の公爵の書斎からこっそり持ち出していた。


そしてその高価な貴重品をのぞき込んでいるのはイライザ嬢だった。

イライザ嬢は趣味の関係から近眼気味だったのである。


「シエナは今リオ様と踊っているわ。アラン殿下の負けよ。あなたはそう思わないの?」

 

キャロライン嬢はイライザ嬢に尋ねた。


「アラン殿下は、ご身分からシエナ様をあきらめたんじゃないでしょうか」


「何それ?根性ないわね」


イライザ嬢は、双眼鏡から目を離した。


「なぜなら、シエナ様をセドナまでお連れになっても、シエナ様は一介の貧乏伯爵家のご令嬢。しかも婚約問題でケチが付きまくりです。ご両親がおそろいで権勢のある家の出身か、外国の王家の姫でなければ、王太子妃としてふさわしいと認められないでしょう。そんな家のご出身であってすら、あれこれとアラを探すような宮廷ですわ。国外の貧乏伯爵家の出身では、身の置き所もないでしょう」


むむむとキャロライン嬢は黙った。


イライザ嬢は、それこそキャロライン嬢なら、可能性はあると思っていた。


ゴートの姫君は、三人ともとうの昔に嫁いでいた。王太子殿下のお子さまはまだ小さ過ぎたし、王弟殿下に女のお子さまはいない。

ゴート国で、身分が高く、美貌才覚ともそろっている適齢期の令嬢は、王太子殿下の従姉妹に当たられるキャロライン嬢くらいだろう。


しかしながら、キャロライン嬢とアラン殿下が恋仲になったとかというなら可能性もあったかもしれないが、見ての通り、キャロライン嬢は立派な推し活派。推しの幸せが自分の幸せで、イライザ嬢がそれでいいのかと疑問を抱くほどだ。


しかも、最近は推し活活動家から評論家に成長してしまった気がする。


その理論派のご令嬢に、イライザ嬢が解説する。


「王子という身分に恋を押しつぶされてしまい、恋敵に譲らざるを得ない状況になったのです。リオ様なら、変質狂的にシエナ様を溺愛してくれる。ある意味、ゆだねられる相手です。アラン様の秘めた恋は、高貴な身分ゆえ悲恋に終わらざるを得なかったのです」


「あざとかわいいアラン様が、実はこの上なく高貴な隣国の王太子殿下だっただなんて。しかも、あの軽いノリの仮面の下には、真剣な恋の炎が燃えていたと。感動的な恋物語ね」

キャロライン嬢がうなずきながら言った。


ええと、今のイライザ嬢のリオ様評に異論はないのか。そして、アラン殿下に対するその解釈は、どこの恋愛小説から拾ってきたのかしら。


「多分……でも……」


イライザ嬢は自信がなかったので、ためらいがちに言った。


「おそらくアラン様は本気だったのではございませんか?」

 

キャロライン嬢が眉をしかめた。顔はしかめているが、内心は小躍りしていた。


なお、よろしい。


「キャロライン様は、馬車に乗ってご一緒に遠乗りにされたのでございましょう?」


イライザ嬢に聞かれて、絶好の観察チャンスがあったことを思い出した。しかしながら、せっかく一緒に行ったのに、あまり思い出がないのだ。

なぜなら、あのテオドールがやって来たから。


最初に馬車に乗っていたのは、アラン殿下とジョゼフ。途中からはジョゼフの代わりにあのテオドールが乗って来た。


思い出しても腹の立つ。


「途中でアラン様がリオ様を降ろしてしまわれて、さらに代わりに馬車に乗せた護衛のジョゼフまで降ろして、テオドールを乗せてしまったのよ! おかげで馬車内の顔面偏差値がダダ下がりになってしまったの!」


イライザ嬢は友人の顔を眺めた。


テオドールのことは知っている。

マンスリー・レポート・メンズ・クラシックを目の敵にしている厄介な敵である。


しかしながら、アンジェリーナ・シークレットの話を聞きつけるや否や、真っ先に予約を入れてくれた。しかも百冊。

用途が不明だけれど。


需要がありそうな気がして、『タイプ別❤️理想のアプローチ方法』と言う特集を追加しようか、イライザ嬢が真剣に悩んだ原因でもある。


「アラン様ときたら、ずっとシエナとしゃべっているの! シエナがすごく困ってる顔をしてるのに。だけどテオドールが訳の分からない話題をずっとふってくるので、全然集中できなかったわ」


おおっ


イライザ嬢は、会場を眺めるのはやめて、キャロライン嬢の話に神経を集中した。


「なんのお話だったのですか?」


イライザ嬢は、テオドール式の口説き術に興味が湧いた。読者ニーズを知るのは大事である。


「シロアリの繁殖方法について、彼、詳しいらしくて。ハネムーンって、羽根(ハネ)(ムーン)って意味なんですって。シロアリのオスとメスは、結婚前には羽根があって空中で式を挙げるんですって。私、全く知らなかったわー。爬虫類の生態を少し勉強しようかしら」


イライザ嬢は頭を抱えた。

令嬢相手に、爬虫類とか昆虫の話は基本NGだと思う。

特集を組むなら、タイプ別より先に、「誰にでも当てはまる女子とのトークのネタ&ツボ Q&A特集」の方がいいかも知れない。


だが、話は別方向へ走って行った。


「テオドールがうるさくて、アラン殿下にとりつかれているシエナを助けられなかったの」


シエナ嬢は、とても親切で優しい。

キャロライン嬢が気にするほどに。


でも、ただのお人好しではないことは、ブライトン公爵家で彼女がいつのまにかキャロライン様の筆頭侍女の地位を占めてしまったことからもわかる。


イライザ嬢も、実は例のマンスリー・レポート・メンズ・クラシックの仕事を手伝ってもらったことがあったが、一を聞いて十を知るとは、なるほど彼女のことなのだと思った。

めっちゃ楽。

頼める。頼れる。安心。頼んだら最後、何も問題なし。何かあったら相談に来るし。


「仕事をさせると、ものすごくしっかり抜けも落ちもないのに、自分のことになると遠慮ばかり……いえ、何一つ望まないの。このままでは不幸になってしまうわ」


イライザ嬢は納得した。


アラン殿下を頼れば、賢いシエナのことだ、うまく人目につかず、それ相応の位置やお金を得ることもできるだろう。

そして、リオを頼れば……イライザ嬢はコーンウォール卿夫人のいわば弟子だった。おかげでハーマン侯爵家の内情に通じている。シエナとリオはただの従兄妹で、結婚になんの差支えもないことも知っている。

しかもリオはシエナに執着している。未来の侯爵夫人の座が、目の前に食べて欲しそうにぶら下がっている状態だ。


「自分の幸せがなんなのか、計算できないのかしら? アラン殿下なんか放っておいて、リオを捕まえておけばいいのに」


今、シエナ嬢は、ダンスの真っ最中だと言うのに、一種懸命リオから離れようとしているからだった。


「一体リオ様の何が気に入らないというのかしら? シエナときたら!」


キャロライン嬢までが気になったらしく言いだした。


「シエナは自分がいると、リオの立派な結婚の妨げになるだなんて言うのよ!」


「リオ様は、きっと立派な結婚など望んでいませんわ」


イライザ嬢はつぶやくように言った。リオ様はシエナとの結婚を切望している。


「キャロライン様、推しの推しは推しだとおしゃっていましたわね?」


「ええ? 何の話? どういう意味?」


「リオ様の幸せのためなら、一肌脱ぐと」


「まあ、私に何かさせるつもり? 公爵家の名を落すような真似ならしないわよ?」


「そうではございません。それから、推しの幸せなら、涙を呑んで推してくれる方がもう一人おられます」


「涙を飲んでって……私はやりたいことをしているだけだけど、誰のこと?」


「アラン殿下ですわ」


「アラン殿下?」


イライザはうなずいた。


「きっとリオ様との結婚をお勧めしてくださいますわ」


「恋敵なのに?」


イライザはうなずいた。


「リオ様に任せることが出来れば、アラン様は後顧の憂いなくこの国を離れられますわ」


キャロライン嬢のスイッチが推し間違えられた瞬間であった。



その夜、リオはシエナの手をしっかりと握って、彼女を侯爵家の馬車へ案内していた。


リオは決然としていた。


どーでもこーでも、シエナを自邸に連れ込む屁理屈に気付いたのだ。


「でも、キャロライン様に、なんて説明したら……」


心配するイエナに、リオは冷たかった。


「まだ、そんなことを言うだなんて。説明しましたよね? 侯爵家の次期当主の姉が、いくら公爵家でも侍女を務めているだなんて、外聞が悪いんだ。僕に迷惑が掛からないようにするって言いましたよね?」


それはもちろん……でも、なんだか違う……とシエナは思った。姉じゃないし。リオの話は、時々、姉になったり従兄妹になるけど、なぜだろう。


「それに、アンジェリーナ・シークレットの発刊は来週に迫っている。きっと評判になってしまうだろうと思う。いよいよハーマン侯爵家にとっては面倒なことになる。せめて外に出ないでいただきたい。ましてや、公爵家に居続けることなんて不可能だ」


シエナは抗議した。


「それについては、私は何の関係もないと思うの。こんな風に逃げるように、公爵家を辞めてしまったら、余計に印象が悪いんではないかしら?」


キャロライン嬢に誤解される……そう思っただけで、全速力で弁解に行きたい気持ちにかられるシエナだった。

イライザ嬢のことは、自分には思いもよらない様々なことをやってのける人物として尊敬していたのに、なんでこんなことを仕出かしてくれたんだろう。

言いたくないが大迷惑だった。


「でも、仕方ないでしょう。結果として、あなたはアンジェリーナ・シークレットの最初のページに載っているんです。あなたのせいじゃないにしても、キャロライン嬢のみならず全員を押しのけて一位なんです。公爵家にいられるわけがないでしょう? さあ、馬車はここです。早く乗って。みんなに迷惑が掛からないようにね」


味方だと信じていたリオに冷たくなじられて、もう、いっそシエナは泣けてきた。


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