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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第61話 ドレスが二枚!

その結果、シエナのダンスパーティ用のドレスは、二枚届くという恐ろしい結果になった。

しかもお届け先は、ブライトン公爵家だ。


「シエナ様に?」


公爵家の使用人一同が仰天した。


「キャロライン様には一枚も届いていないのに?」


考えたが、テオドールにはそんなことをする権限がない。そんな真似をしようものなら、ブライトン公爵が黙っていないだろう。


「キャロライン様には、婚約者がいませんし」


「じゃあ、シエナ様には婚約者がいるんですか?」


いない。


「このドレスはどういうことなの?」


カーライル夫人までやってきて尋ねた。


「そもそも一体誰からなの?」


「アッシュフォード子爵からと……アラン様からです」


カーライル夫人が眉を顰めた。


「アッシュフォード子爵? 誰なの?」


アッシュフォード子爵の襲名は知られていなかった。


「両方ともずいぶん高価なドレスですけれど……」


侍女仲間が当惑したように言い出した。


「さすがは伯爵令嬢ですわね。(なんで、そんな人が侍女をやってるんだろう?)ですけれど、ダンスパーティの時はどちらをお召しに……?」


シエナが固まって動かなくなった。


リオに感謝の気持ちを示したい。

だけど、アラン様は王太子殿下。機嫌を損ねるわけにはいかない。


リオ。本当は私にお金をかけてはいけないわ。


シエナは呟いた。


そんなお金があったら、キャロライン嬢や、他の有望な令嬢との結婚に力を入れないと。


シエナは、ドレスを持ち込んだというベイリーを捕まえた。彼はまだ帰っていなかった。


「お嬢様!」


馬車に乗って荷物を運んできたベイリーはシエナの姿を見かけて喜んだが、同時に困った様子にもなった。


「お嬢様、その格好はなんです」


シエナは公爵家の侍女の服を借りていたのだ。


「ああ、これ? 服がないもので」


ベイリーは顔を顰めた。


「お嬢様の服を公爵家に持ち込んではいけませんでしょうか?」


「伯爵にさえバレなければ、構わないと思うわ。カーライル夫人に伝えておくわ」


ベイリーはモジモジした。


「お嬢様。ハーマン侯爵家へお帰りいただくわけにはいかないのでしょうか」


シエナの目がきらりと光った。


「それはできないと思うわ」


「どうしてですか? お嬢様」


「リオの縁談の邪魔になってはいけないわ」


「あのね、お嬢様」


ベイリーは流石に一言言わずにいられなかった。


「リオ様が何をおっしゃったのか私は知りませんが、リオ様はあなた様を花嫁として迎え入れたいと切望してらっしゃるのですよ?」


シエナは何も答えなかった。


「お嬢様。いつまでもお友達のお屋敷にいるわけにはいかないでしょう? ここを出なくちゃならなくなったら、どうされるおつもりなんですか? リオ様のお屋敷しかないでしょう?」


「私は、ブライトン公爵家で侍女になりたいの」


「え?」


ベイリーは口をアングリ開けて思い切り驚いた。


裕福な侯爵家の令夫人になれるというのに、それを捨てて、一生他人の家の使用人になるというのか?


「私のような貧乏人と結婚してもリオには一つもいいことはないと思うの」


いや、ある。

リオ様はシエナ様一筋なのだ。もはやそれは妄執に近いくらいだ。魔王とか言っていたけれど、さすが魔王だけあると使用人間で冗談になるくらいの執着ぶりなのである。


「それにリーズ伯爵家は破産に近い状態だし、評判も悪い。リオの出世に差し支えるわ。リオは若い女性にとても人気があるの。きっと有利な結婚ができるわ。私はそのためには邪魔なのよ」


ベイリーはシエナの言い分を黙って聞いていた。


「シエナ様……あなたはそれなら今後どうされるおつもりなのです?」


「だから、ブライトン家か、王城ででも雇ってくれるところを探したいと思っています」


「そんなわけにはいきませんよ……?」


この方は、ご自分の容姿のことを忘れていらっしゃる。


これほどまでにお綺麗な方なら、たとえ実家が破産していようと、いや、逆にそれだからこそ、手に入れようと画策してくる男は多いに決まっている。


「自分のしたいことをやりぬくためには、それ相応の実力が要ります。あなたと結婚したいと言う圧力をはねのけるだけの力があなたにはあるのですか?」


「それは……どうだか私にはわかりませんが……」


シエナは心もとなげに言った。


「だからこそ、今も、レイノルズ侯爵からお話が来ているのでしょう?」


ベイリーはむしろ怒りを覚えて言った。認識が甘すぎる。


「それを断るためには、レイノルズ家をはねつけるほどの家で働かないと」


「ハーマン家では不十分ですか?」


「リオの迷惑になるわ」


ベイリーの目がキラリと光った。


「もし、キャロライン様がハーマン家に嫁がれたら、侍女として同行されるのですか?」


シエナはその言葉に、大きな目をさらに大きくしてベイリーを見つめ、不意に目を伏せた。


キャロライン様にお仕えする。不満はない。だが、リオとキャロライン様が現実問題として結婚したら、その場合、ベイリーの言う通り、シエナはお供することになるだろう。


それは……


ベイリーは言い過ぎたと思った。誤魔化すために殊更に軽い調子で続けた。


「では、お嬢様、お召し物の件は承りました。すぐにお届けします」


「……お願いします……」


シエナはベイリーと目を合わせないまま、トボトボと自室に戻っていった。


シエナは、そこまで考えたことがなかった。


偉そうに、独り立ちするとか言っていたけれど、ベイリーの一言は胸に刺さった。


認めたくないけれど、それは嫌だったのだ。




戻ってみると、自分の部屋は、豪華なドレスでいっぱいになっていた。


ふさわしいアクセサリーも一緒に贈られていた。


リオは青紫の、アランはローズ色のドレスを送ってくれていた。いずれも同じハリソン商会製のもので、あの二人から、同じパーティ用のドレスを、同一人物のために作れと言われた時、ハリソン商会はどんな顔をしたのだろうかとシエナはぼんやり考えた。


箱に手をふれた時、カサリと音を立てて、手紙が床に落ちた。


『ダンスパーティには僕を選んで』


リオだった。


リオ……リオは大事だ。伯爵家がもうダメだと言うことは、シエナにもよくわかっていた。

だからリオだけでも、といつも思っていた。


今更だが、リオを助ける権利は、自分にはなかった。

姉弟ではなかったからだ。


そして、今の自分には、リオどころか自分自身を助ける力すらない。


シエナはうつむき、ひっそりと泣き始めた。




「キャロライン様」


「シッ」


コソコソとイライザ嬢がキャロライン嬢の袖を引く。


「ドアの隙間から、こっそりのぞくだなんて、はしたのうございますよ?」


イライザ嬢はヒヤヒヤしながら、カーライル夫人が通りかからないかとキョロキョロした。こんなところを見つかったら、大変である。キャロライン嬢も、自分も。


「いいから。青紫がリオ様ので、ローズ色がアラン様ね。覚えたわ」


イライザ嬢はため息をついた。


キャロライン嬢は、テオドール様から真剣な愛の告白を受けたはずだ。

正直、マクダネル侯爵家なら圏内だと思うのだが。


それは無視か。


あのピクニック以来、ずっと、リオ様がどんなにカッコいいかばっかり話しておられるけど。


「推しの推しは推し」


キャロライン様は言い切った。


「…………」


なかなか寛大な方だ。推しの推しが、革製品のブランドだったり、スイーツだとでも言うなら納得できるが、恋人である。これが、納得できようか。

推すのか? ライバルじゃないのか?


「すてきな真実の愛物語になりそうね……。うん、アラン様は悪者枠ね。バッチリだわ。ヒーローはリオ様で、ヒロインはシエナ嬢。ねえ、配役的にピッタリだと思わない?」


ちっとは現実世界に戻ったらどうだ、この公爵令嬢。


「キャロライン様、本の読みすぎではございませんか?」


そういえば、恋愛本が大好きで、妄想に浸り気味なところがある。もはやテオドール様でもいいのではないか? 妄想系ということで一括で。


イライザ嬢は、雑なことを考えた。

しかし、キャロライン嬢は言った。


「容姿は男性の要素として、第一だと思うの」


イライザ嬢の方は遠い目になった。女性を容貌で評価すると正義感にかられるくせに。


しかも、アラン様を悪者枠だなんて。セドナ国の人たちが聞いたらなんていうことか。アラン様は、なんだかご身分が高そうだし。


キャロライン嬢がリオ様とデートに出かけたことを聞いたファンクラブの面々は、最初は、険悪になった。


しかし、キャロライン嬢がうっとりした様子で、リオ様がどんなにステキだったかを語るのを聞いているうちに……


「さすがリオ様」


「隅から隅まで王子様ですわ!」


「次のダンスパーティには、リオ様&シエナ様の特別バージョンのうちわを作成いたしましょう!」


「リオ様、ステキ。アラン様はあざと可愛いけど、今回は悪役ってことで!」


本物の王子様の扱いがひどい。

それに、今回はって何? 次回があるのかしら。


「シエナ様はシンデレラ要素がありますから!」


キャロライン様が混ざると、どうして話がそっち方向に向いてしまうのだろう。


「楽しみだわ! ダンスパーティ!」


なぜ、そうなる。イライザ嬢はイヤな予感しかしないのだが。ここは、ひとつ、このご令嬢方にカツを入れねばなるまい。


マンスリー・レポート・メンズ・クラシックを運営しているイライザ嬢が言えた義理ではないのだが。


「いつまでも外野気分では、ご自分の真実の愛が見つかりませんわよ?」


この中では一番身分の低いイライザ嬢が遠慮がちに言うと、キャロライン嬢が華やかに笑った。


「それはそれ。きっといつかどこかで見つかるわ」


毒気を抜かれたような表情で、イライザ嬢はキャロライン嬢たちを眺めた。


そうか。


この人たちは、親が決めた結婚以外考えてはいけない人たちだったのだ。


忘れていた。


それなのに、キャロライン様は猛烈にキラキラした目でイライザ嬢を見た。


「さあ! 今度こそ、真剣勝負よ!」



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