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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第58話 テオドールの告白 その2

そんなわけで、キャロライン嬢が人気の少ない森に探索に出かけるという情報をキャッチした彼は、チャンスとばかり、街道に駆けつけた。


人気(ひとけ)は少ないだろうという彼の読みは完全に外れて、十分距離をとってアラン様ご一行から見えないように配慮された大勢の護衛団の真っ只中に飛び込む結果となってしまったわけだが、


「お前か……」


もし騎馬の護衛がジョゼフだったら、不審者として問答無用で警備兵に突き出されて侯爵家の恥となるところだったが、生憎(あいにく)と言うか幸いと言うか、騎馬で付き従っていたのは、アラン様のご意向でリオだった。


同じ学校の生徒で、侯爵家の御曹司という身分も知り抜いているので、そう邪険にもできない。おまけにテオドールの父マクダネル侯爵は宰相を務めている。


どうもテオドールは日頃からリオに突っかかってくる。

理由はリオがイケメンだからだが、リオにはその理由が飲み込めなかったので、やりにくいやつだと思っていた。


「大丈夫です。あやしい者ではありません」


宰相の息子を()巻きにして王都に連行するわけにはいかない。リオは疑心暗鬼のジョゼフ相手に弁解に努めた。


「なんでお前がここにいる? は? まさか、お前もキャロライン様狙いか!」


興奮したテオドールがジョゼフ向かってケンカを売り始めた。

せっかくリオが身元保証に努めてやっているのに。不審者発言は止めていただきたい。


リオは、げっそりしてテオドールのいささかしゃくれ気味の顎とどことなく骸骨を彷彿とさせる顔を見た。


「どなたなのですか?」


セドナ側を代表して、ジョゼフが緊迫した声で聞いてきた。


「テオドール・クレイブン、宰相のマクダネル侯爵の嫡子です。怪しい者ではありません、一応」


フルネームでバレてしまった。一応って、どう言う意味?


「同じ騎士学校の生徒だ。大方、ブライトン公爵令嬢の追っかけをしてきたのだろう」


「そんなもの、お帰り願いましょう。招かれざる客と言うやつですよ」


ジョゼフはすげなく言ったが、アラン様が乗ってきた。


「ええ? そうなの? 追っかけ?」


ジョゼフとリオが嫌な顔を始めた。


「ねえ、君。テオドール君?」


ジョゼフとリオはますます嫌な顔をした。悪い予感がする。


「どうしてこの馬車追っかけてきたの?」


テオドールは声を振り絞った。


「実は……実は……振られることはわかっているのですが、自分に素直になりたくて」


「傍迷惑だ」


ジョゼフがボソリと言った。


「自分に素直とは?」


アラン様が聞かなくてもいいのに、聞いた。


「実は……」


テオドールは問わず語りに説明を始めたが、聞きたくなかったリオに寸断された。


「こいつ、ブライトン公爵令嬢にベタ惚れなのですよ。ただ、顔面コンプレックスがあって、顔のまずい男は嫌われるって思い込んでて、告白できないのが悩みだったんです。多分、今日は、公爵令嬢が遠出をすると聞きつけて、犯行に及んだものと思われます」


テオドールの恋物語なんか聞いちゃいられねえリオが、超簡潔にまとめた。


しかし、ジョゼフが別視点から反応した。


「しかし、それはアラン様の行動が筒抜けだという?」


「大丈夫です。こいつの目的はキャロライン嬢で、キャロライン嬢の行動が筒抜けだっただけだと思います」


「ううむ。人員を割いて帰すのも面倒くさいような」


ジョゼフは悩み始めたが、アラン様は簡潔に命じた。


「ジョゼフ、降りて」


「え?」


「そして、テオドール君、馬車に乗る?」


「まああ、アラン様ったら、何をおっしゃることやら」


割り込んできたのは、キャロライン嬢である。


「いくらなんでも……」


「こんな醜い男と同じ馬車は嫌だと」


地獄を這うような声でテオドールが尋ねる。


アランはワクワクした。これが、恋の修羅場ってヤツ?


「嫌だなあ。そんなつもりじゃないよ。だって、告白でしょ? 面白いなと思って」


「アラン様、ちょっと趣味が悪くございませんか?」


流石にシエナが低い声で止めにきた。


「嫌だな。馬車の中で告白しろだなんて言ってないよ。そうじゃなくて、侯爵家のご子息で宰相の息子なら、同乗して行ってまた王都の町に帰ればいいよ。その後で告白すればいいじゃない」


「ありがたき幸せ」


「アラン様、私、嫌なんですけど」


キャロライン嬢が抗議を始めた。さすがのシエナ嬢も反対を唱えた。テオドールが見世物になっていると、気の毒に思ったらしい。


「密かに静かに、誰もいないところで告白ってするものだと、私、思っていましたわ」


「私もですわ。それにこれから告白しますって、わかっていて、皆さんの前で好きですとかなんとか言われるのは嫌ですわ」


「そうなのか。僕は告白ってしたことがなくて」


「よろしいですか? アラン様。今後、女性に告白するときは、こんな公開告白なんてウケませんから」


「それは趣味の問題かも知れないよ?」


三人が話している間に、諦めた様子のジョゼフが馬車を降り、代わりにテオドールを馬車に押し込んだ。

そして、馬上の人になった。


「あんなアホらしい馬車に同乗なんかしてらんねえ」


リオとジョゼフ、二人は一言もしゃべらずそのまま目的地に向かった。




目的地に着いたとき、完全に元気なのはアラン様だけで、あとの五人はかなり消耗しているようだった。


「キャロライン様、予定していた散策は殿方にお任せして、私どもは、農園のテラスで田舎風のお茶とお菓子をいただきませんか?」


「そうね」


アラン様とジョゼフは、植物の植生や種類を調べに農園の主と一緒に出て行ってしまった。


疲れたらしいシエナ嬢とキャロライン嬢は、農園を見渡せるテラスに陣取ってお茶を運ばせていた。



リオはシエナに状況を聞きたかったが、アラン様がギロリと見てくるものだからそれは諦めて、テオドールに話しかけた。


「告白の時は、花を持っていかなければいけなかったらしい」


見るも無惨に打ち砕かれた様子で、テオドールは言った。


「それは誰の意見?」


「キャロライン嬢だ」


「シエナはなんて?」


「シエナ嬢は何も言わなかった」


使えないな、この男。リオは密かに思った。シエナがどんなシチュエーションが好みなのか聞き出そうと思ったのに。


「それから場所も選んだほうがいいらしい」


「どんな場所がいいんだって?」


「星降る夜に二人きりで」


「それは誰の意見だ?」


「もちろん、キャロライン嬢だよ。他の人の意見はどうでもいいだろう」


リオは頷いた。リオだって、シエナの意見以外どうでもいい。


「アラン様はどうしている?」


「シエナ様とヒソヒソ喋っていたよ。感じ悪いなあの男」


リオは物凄く深く頷いた。なかなかいい男じゃないか、テオドール。たとえ、顎が少々しゃくれ気味だったとしても。


「だが、俺が憎いのは、あのマンスリー・レポート・メンズ・クラシックだ」


「うん」


リオも思うところはあった。


「顔だけでランキング付けだなんて人格を拒否された気分だ」


「そうだな」


「お前らはいいじゃないか、今月号の一位と二位だ」


「どっちかが一位で二位なんだ?」


顔なんか本気でどうでもいいと思っていたが、あのアランと一騎打ちだというなら、聞いておかねばなるまい。


「お前が一位でアランが二位だ。絵姿もついていたぞ」


思い出した。コーンウォール卿夫人の紹介で画伯が来ていたことがあった。絵のモデルだなんて嫌だったが、他ならぬコーンウォール夫人の頼みだったし、貴族の子息は大抵絵姿の一枚や二枚、描かせていた。


「結婚の際に役立ちますし、肖像画は必要ですわ」


結婚相手はシエナしか考えられられなかったが、乗り越えなければならない心理的障壁を思うと胸が痛くなった。


弟設定問題とシエナの低すぎる自己評価が、リオの告白を阻んでいた。


だが、それとこれとは別だ。リオは大人しく肖像画のモデルを務めた。


画家は、若くて美しいモデルだと言って密かに喜んでいたらしいが、そこまでは知らない。


その後、イライザ嬢はアッと驚くような雑誌を持ってきてくれた。

コーンウォール卿夫人が受け取ってリオはちらと見ただけだったが、表紙に自分自身の顔より大きな自分の顔が載っている時点で、もう見るのも嫌になった。

表紙載りしているってことは、多分、リオが一位なのだろう。


「載ってる側もうれしくはないんだよ」


「キャロライン嬢とシエナ嬢から聞いたが、今度、アンジェリーナ・シークレットというのも刊行されるらしい。アラン様が勝手に盛り上がっていた」


「何、それ」


「貴族令嬢の魅力を解明って、テーマらしい」


「それはダメだろう」


「そうだよな。俺もそう思う」


「親が知ったら黙っちゃいるまい」


「でもな、匿名だそうだ」


「それは意味があるのか? 誰だかわからなくてもいいのかな」


リオが懐疑的に尋ねた。


「あるある。特徴でその人だってわかるらしい。それに基本的に誉めていくから、そう問題は 出ないだろうって。だいぶ予約が入っているらしいよ」


「へええ。特に欲しいとは思わないが、できたら一応拝んでおくかな」


馬を休ませ、水を飲ませてから、彼らはキャロライン嬢とシエナがいるテラスへ入った。アラン様とジョゼフの二人はまだ戻っていなかった。


「あの、キャロライン嬢……」


テオドールが切り出した。


「あなたの父上に切って捨てられることは覚悟の上だけれど、あなたが赤毛でも僕はあなたがとても好きなんだ」



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