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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第56話 シエナの活躍

イライザ嬢の心痛とは関係なく、街歩きの日はやってきた。


その数日前から、キャロライン様の分まで甲斐甲斐しくシエナは準備を重ねており、なんだかイライザ嬢は切なくなってきた。


公爵邸の警備は厳重だったが、お嬢様のご学友なので、平民だがイライザ嬢の出入りは顔パスだった。

そのためピクニック前日の日も、イライザ嬢は、公爵家へきていた。


「どう振る舞ったらいいかわからないわ。ねえ、リオ様受けするドレスって何かしら?」


そう言うキャロライン嬢にせがまれて、様子を見にきたのだが、そこで目にしたのが、翌日のピクニックを成功させるべく必死に取り組むシエナ嬢だったと言うわけだ。


周りのキャロライン嬢付きの侍女たちも、すっかりシエナ嬢を頼りにしており、指示を仰いでいる有様だ。


(シエナ嬢ってば、ここへきてまだわずか数日じゃなかったかしら?)


「シエナ様。キャロライン様が、どうしても、こちらの冊子にリオ様のサインをお願いしたいので、持参したいと」


侍女が、リオの顔がデカデカと表紙になっている冊子を十冊ほど持ち出した。

そういえば、リオ様とデートに行くと聞いた途端に、恨み半分の他の令嬢方から依頼されていたな。あの本は重いぞ?


「……荷物に入れておきましょう。サインしてくれるかどうかわかりませんけど、ダメ元ですわ」


キャロライン嬢の命令はなんでも聞く気だ。侍女根性が染み渡っている。


シエナ嬢には圧倒的に自分が主人公だという認識が足りない。


アラン様だって、シエナ嬢を嫌っているわけではないはずだ。わざわざ騎士学校のダンスパーティに引っ張り出してきたくらいだもの。


リオに至っては、もはや何が何だかわからなくらいの熱愛ぶりだ。シエナが頼めば、リオはサインなんか何枚でも書くだろう。


それなのに、本人は地味なドレスに身を包み、キャロライン嬢の着ていくものの世話を、キャロライン嬢付きの侍女と綿密に打ち合わせている。


「寒くなりましたから、念のため、こちらのコートも持っていきます」


「少し重いですよ?シエナ様」


「大丈夫ですわ」


「シエナ様、シエナ様のコートは?」


「重いのでいりません」


「でも……」


「それよりも、カフェとレストラン、見学途中の農家への手配と、御者へ予定は伝わっていますね?」


恐ろしい。この秘書力。有能。


抜けも落ちもない。しかも自分で足りない時は、ちゃんと他人を頼ることもできる。さっき、執事がシエナ嬢からの指令を受けて、走っていった。


一体、どうして自分の場合はそれができないのだろうか。

リオの空っぽの手を思うと、なんだかイライザ嬢は悲しくなった。


「シエナ様、シエナ様も着飾ってお出かけにならなくては。リオ様やアラン様のご迷惑になりますわよ? 明日は何を着て行かれるのですか?」


イライザ嬢の質問にシエナはまじめくさって答えた。


「出来るだけ目立たない方がいいと思いまして」


そうして出してきたのが赤茶色の地味なドレスだった。飾りもほとんど付いていない。わずかに襟元に白いレースが飾られているのみだ。


貴族令嬢としてはあんまりだ。


「もう少し派手になさったら……」


これではまるで侍女だ。いや、侍女より地味だ。


「でも、服は実家に置いてきてしまいましたの」


取りにやらせれば……と言いかけて、イライザ嬢は口をつぐんだ。


それは出来ない。


おそらく父親のリーズ伯爵とボリス・レイノルズは、シエナの行方を探している。


そして薄々ブライトン家あたりにいるのではないかとあたりを付けている頃だろう。

だが、相手がブライトン家では手も足も出せないので、黙っているだけだ。

荷物を取りに誰かを送れば、それに難癖をつけてくるに違いない。他人のものを取りに来るとはどう言うことだ、とか、どこへ持っていくのかとか。


(ご身分が高いと言うことは、面倒も多いと言うことだ)


裕福だが商家の出のイライザ嬢はつくづく思った。

イライザ嬢の両親は彼女が何をしようと口を出さない。弟は面白がってくれている。それだけだ。


「もう、明日がお出かけの日ねえ」


ドアが開いて、うしろにエリザベス・カーライル夫人を従えたキャロライン嬢が落ち着きなくやってきた。明日こそは、待ちに待った推しとの一日である。

これまで、推しにとって自分がどう見えるかなんて考えたことがなかった。


推しとは、一方的に鑑賞するものなのだ。


どう向き合ったらいいのかわからない。嬉しい反面、心ははねる。結構な試練だった。


「ええ。本当に」


シエナ嬢がいつものように静かにうなずいた。


「準備は滞りなく出来ていますか?」


カーライル夫人が尋ねた。


「はい。行き先の農家にもカフェもレストランも手配しました。公爵令嬢のお出かけですから、護衛もお願いしています」


「大丈夫かしらねえ」


カーライル夫人は、ギロリとシエナを見たが、シエナは自信たっぷりに答えた。


「アラン様とご一緒ですから、抜かりはございません」


そう。王太子殿下の外出なのだ。

見えないところからセドナとゴートの護衛が十重二十重に警備している。


リオは護衛とは言うものの侯爵家の令息、キャロラインもシエナもそれぞれ公爵令嬢と伯爵家の令嬢で、いずれもアラン様が選ばれたお友達と言う位置付けだ。


計画そのものはシエナが組んだが、全てはジョゼフを通じてセドナ王家の手の者に伝わり、護衛団にも連絡される。


公爵家どころの規模ではない。カーライル夫人の心配など、不必要もいいところだった。


カーライル夫人自身、そのことは承知しているが、キャロライン嬢の手前言ってみただけだ。


「もうっ。心配症なんだから。エリザベスは」


カーライル夫人もようやくにっこり笑い、シエナも微笑んだ。


警備網をかいくぐって、余計な参加者が参入してくるとは誰も思っていなかった。


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