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第5話 ダンスパーティ参加計画

アンダーソン先生の協力で、授業の時間割は組み直され、語学を多くとることになった。


「あなたは時間があまりないのでしょう?」


「ええ。実は」


マーゴの手伝いもしなければならなかったし、アマンダ嬢の家庭教師もあった。



この頃では、アマンダ嬢のお友達にも算数や国語、宿題の手伝いをすることが増えてきた。


ただ、アマンダ嬢は算数は出来なかったけれど、生粋の平民だったので、こういった授業が無料だと考えていなかった。友達のイライザ嬢が一緒に教わることになると、イライザ嬢の分まで気前よく払ってくれた。


「だって、先生方は、あの人たち自身が貴族だからね。高位貴族の子弟にはいい顔をするけど、私たちみたいな貴族の爵位を金で買ったような平貴族には、そりゃもうお高く留まって教えるんだ」


実はただの商家の娘で、金持ちの伯父が爵位を買ったのでその養子になって入学してきたイライザ嬢が一緒になってうなずいた。


「なんだか腹立つだろ? そうかって、外から教師を呼んで来たら、怒るしね。特待生に教えてもらうなら、誰も文句言わないさ。生徒同士だし、特待生にお金を払うのは慈善だって認識だからね」


シエナは伯爵令嬢である。なにか根本が間違っている部分があるっちゃあるんですけど……。

まあ、細かいことはどうでもいいか。


「本当にそうですわね。学園内は平等ってことになっていますのに」


「そうだよ。あんただって、本当なら学年一番のはずなのに」


「私たち、あなたがいて、運がよかったわ。教えてもらえるもの。それになんだかシエナといると何となく安心のよ」


イライザ嬢が熱心に言いだした。だが、それを聞いてシエナは不思議に思った。


「安心?」


前にアマンダ嬢からも同じことを言われたことがあった。


「私みたいな貧乏特待生と一緒に居ても、何もいいことなんかありませんわ」


「うーん。でもね?」


アマンダ嬢も首をひねりながら言った。


「なんだろう。貴族のしきたりとか、あるじゃない。私ら、知らん間にいろいろ踏み倒している気がするんだよね。口の利き方もそうなんだろうけど。せっかく、こんな学校に高い金出して通っていても、よくわかんないまま終わりそうなんだ。でも、あんたは平気だろ?」


「平気とは?」


「ほら、貴族連中の口の利き方やお辞儀の仕方を平然として見てるし、変とも思ってないみたい。あんたのしゃべり方を真似しておけば、もめないみたいなんだ。この頃、真似してんだよ、あたしたち」


「そ、そうなのですか」


シエナは伯爵家の令嬢だ。逆に貴族社会しか知らない。ちょっと赤面した。


「だからさ、ダンスパーティのレッスンの時も絶対付き合ってほしいんだ」


「えっ?」


あれ、本気だったのか。


「特待生は入れませんわ」


シエナは言った。


実は特待生ではない。ただ、ドレスがないだけだ。あと、ジョージにバレると面倒だ。

ジョージが練習に来るのかどうか知らないけれど。


「ダメなのかなあ?」


「私、聞いてみましたのよ?」


イライザ嬢が熱心に言いだした。彼女は何とも不思議な赤毛の持ち主で、まさにニンジン色という表現がぴったりの髪色をしていた。これでだいぶ目立って損をしていると思う。


「入場してはダメというわけではないんですって」


「ダメというわけではないのでしょうけれど、用事がないのにウロウロしていては邪魔なだけですし、こんな格好でダンス会場にいたら、悪目立ちするばかりですわ」


シエナは惨めそうに、擦り切れて、ところどころ継ぎが当たっている服を見下ろした。


「ねえ、ドレスくらい用意するから!」


アマンダ嬢が言いだした。


「ええ? そんなわけには」


いや、本気で困るんだって。だって、大声では言えないけれど、アマンダ嬢のドレスは全部原色である。


本人の性格同様、キッパリはっきりしている。


赤なら赤だ。青は青。


正直、カーラ嬢のあふれんばかりのレースとリボンにも閉口したが、アマンダ嬢の原色ドレスにも目を奪われた。それを着るのかと思うと、どうにも困る。


「じゃあ、私のドレスではどうでしょう?」


イライザ嬢が言いだした。


「アマンダ嬢のドレスでは直しがいると思うのですわ」


そ、そう言えば……。アマンダ嬢とは体格が全然違っていた。


アマンダ嬢は背は変わらないのだが、がっちりとした体つきだった。しかも、どちらかと言えばふくよかだ。ガリガリのシエナなら、同じくガリガリのイライザ嬢のドレスの方があっている。


「そうだね。確かにシエナは骨と皮だから……もっと、食べなよ」


「そうですわね。ちょっと、お金がないので……」


アマンダ嬢とイライザ嬢から思いっきり同情されてしまった。


「喰いたいものも、食べられないのかい!」


アマンダ嬢、お言葉が、お言葉が、乱れてますわ。


「とにかく、まず、何か食べに行きましょう」


イライザ嬢が提案してきた。


イライザ嬢だって痩せているくせに。


「食事をしながら相談しよう! ダンスのレッスンて初めてなんだよ。ダンスパーティってよくあるらしいね! 何の為にやるんだろうな? 公開運動会なのか?」


「いえ、あの……」


「違いますわ、アマンダ」


イライザ嬢が注意した。


「男女で踊るんですの。そして、その時、気に入った殿方を見つけるんですの」


端的な説明だ。シエナもうなずいた。若干、言い方にダイレクト過ぎ感があるにはあったが。


「私たちも、出来るだけ魅力を振り舞いて、男性を釣りあげますのよ。そのための会ですから」


「へええ。そうなのかい」


アマンダは感心しているようだが、妙な解釈を仕出かさなければいいがとシエナは心配になって来た。


「それから、本番の会には騎士団付属学校からの参加者もあるのです」


「騎士団?」


イライザ嬢は鼻息荒くうなずいた。


「正確には騎士団へ入るための学校の生徒ですわ。若いのです。皆さん、見事な胸板の持ち主ばかりですの!」


「そりゃいいね!」


シエナは黙った。そこまでは知らない。


「腕の筋肉もすばらしいそうですの。貴族も平民も、筋肉次第で選ばれるんですって」


それは絶対嘘だ。


「女性をお姫様抱っこなんてお茶の子さいさいですわ。日々筋肉を鍛えていると……」


「イライザ様、それ、どこ情報?」


思わず口を突っ込んだ。


「武芸や馬術、学科の成績で選ばれるんではなくって?」


「でも、家格だけではないですから。ここみたく」


イライザ嬢は筋肉フェチだったのかと納得する。


「ですからね、行かなくちゃいけないんですの! 少なくとも見物には! シエナ嬢もぜひぜひ。そして後で品評会をいたしましょう! そのためにもまずはダンスのレッスンを。万一、誘われたら直接イケメンの筋肉に触れるチャンスですわっ」


話が筋肉に飛んで行ってしまって、シエナはちょっと答えに詰まったが、そう言うことじゃない。


ドレスもないけど、そもそも行きたくないんです、ダンスパーティのレッスン。だって、ジョージと、それからジョージがいれば、洩れなく付いてくるあのカーラ嬢が面倒なんです。


シエナの心の叫びは誰にも知られることなく、着々とダンスパーティの練習会場に連れ込まれる準備が整っていった。それも、全くの善意から。


「付き合ってくれるなら、それなりに払うからさあ」


カネ!


学校へ来て初めてシエナは、生まれて初めて骨の髄までカネの重要性を知ることになった。それも、小銭の大事さまで。


「で、では、そうですね、あの……」


「ですとも。品評会の人数は多い方が盛り上がりましてよ」


かたわらではイライザ嬢がしたり顔で、ウンウンとうなずいていた。




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