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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第49話 ブライトン公爵家から課せられたミッション

そして、翌朝、シエナは一人、わざわざ公爵家が仕立ててくれた馬車に一人で乗って学校に向かった。


「あの、馬車まで出していただくわけには……」


「いいのですよ。公爵様からは了解していただいていますから」


カーライル夫人がニコニコしながら答えた。


「その代わり、セドナ語の勉強のために、キャロライン嬢を、あの、なんて言ったかしら? あなたが通訳をしている留学生と話をさせてみてくださいな。留学生との会話は、キャロライン様の語学の実習にとてもいいと思うの!」


「え? でも、ご身分上、問題が……」


ありますわと言いかけて、シエナは言葉を途切らせた。


普通なら、公爵令嬢と近しく話が出来るほどの身分じゃないのでと続く場面なのだが、今回は違う。

真逆だ。


王太子殿下に勝手に人を近づけたら、シエナが叱られる。

どう考えたって、隣国の王太子の方が、ブライトン公爵家より格上だ。

この国にいる限り、ブライトン家より格上なんてないのだが、なにせアラン様は王族なのだ。


「大丈夫よ。あなたが一緒なら、公爵令嬢が一介の留学生と話をしたところで、誰も何も言わないわ。ましてや同じ学園の生徒同士ですしね」


ですから、それ、逆なんです。ブライトン公爵令嬢より、アラン様の方が格上なんですって。


そうとは言えないシエナは、返事に詰まった。


「護衛にリオ様が付いているなら、街に出て行っても安心ですしね。公爵様が珍しくえらく寛大なことをおっしゃっていました」


カーライル夫人がニコニコ笑顔で付け加えた。


え?


街行きの許可まで出されてしまった。

学園内ならともかく、外まで一緒に出かけろと?


パタンと軽い音がして、馬車のドアが閉められた。


「いってらっしゃい」


カーライル夫人が、一見邪気のなさそうな笑顔で見送ってくれた。


丁重過ぎる。ただの無一文のニアリー居候に。意味がありそう……


「は、はい。行って参ります……」


カラカラと馬車は走り出し、シエナは必死で考えた。



なんと言う! 何と言う深慮遠謀!


サササササーッとシエナの前に、ブライトン家の回答が開かれて行った。

まるで巻物がコロコロと広がっていくかのように。


昨日、あんなにカーライル夫人の部屋で、待たされたのには理由があったのだ。


さすが、公爵家。


恐ろしい。


権力の中枢にいる公爵は、アラン様の正体を当然知っていたわけで。


カーライル夫人の愛想のいい笑顔に送り出され、アラン様にキャロライン嬢を引き合わせろとの命令を下されたにシエナは、その意味を段々深く理解していくにつれ、更に顔色青ざめた。


カーライル夫人は、セドナ語の学習などと、もっともらしい言い訳?を持ち出しきたが、多分、これはそうじゃない。

なぜなら、セドナからの留学生なら、もっと手頃な女子生徒がいくらでもいるからだ。

なぜ、わざわざアラン様を指名してくるのか……?

そう。隣国の王太子だからだ!


最初はキャロライン嬢の婚活を、公爵が企んだのかと思った。


何しろアラン様は隣国の王太子である。未婚の。


王家の血をも引くキャロライン様となら、留学先で例の真実の愛に落ちましたと言いだせば、アラン様との結婚の可能性だってありうる。


シエナは真剣に計算した。


だが、これはなかなか冒険だ。留学がもうすぐ終わろうかと言う時期に、キャロライン様とアラン様が、熱烈な恋に落ちる時間があるかどうか。

それに末娘を可愛がっている公爵が、娘を知り合いも少ないだろう隣国に嫁がせることを本気で期待しているだろうか。


それでも、語学の勉強を理由に、王太子を紹介するようにと言われた。

公爵令嬢のキャロライン嬢が隣国の王太子と個人的に親しくなっておくことは、決して損ではない。有益だ。

今後の彼女の社交力や影響力に大きな力を添えることだろう。


それなら、納得がいく。


それが、ブライトン家がシエナを置いてくれた理由だろう。


馬車まで都合してくれたのだ。


何かを求められているとしても不思議はない。


「それは……確かにキャロライン様をアラン様へ引き合わせることくらいなら、今の私なら比較的簡単に出来ると思うわ。それに、カーライル夫人は街行きの話を持ち出していたけど、むしろ、街で会う方が好都合。学園だと、キャロライン様とアラン様が一緒に居られたら、他の令嬢方もやってきそうだわ」


うーん、うーんとシエナは悩み始めた。


カーライル夫人がどれくらいわかっているのか知らないが、アラン様は、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックで、現在第二位にランクインしている。


注目の上昇株なのだ。


リオの冷たい系正統派イケメンに対して、アラン様はチャラ男系愛嬌イケメンとして、それってどうなの?的な地位を占めている。王太子殿下なのに。


多分、公爵は、家同士の勢力図とか隣国の王太子の結婚とか、そう言う事情にはお詳しいと思われるが、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックの順位及びそれがもたらす影響に関しては全くご存知あるまい。


例えば、使用人的な匂いを漂わせるシエナではなくて、華やかなキャロライン嬢がアラン様にまとわりついた途端、有象無象のご令嬢方が、我先に押し寄せるとか。


「外の方がまだ安全よね」


シエナはため息をついた。


「外歩きに誘おう」


だが、シエナは、その前にジョゼフを通じて了解を得なくてはいけない。

それもまた、シエナに与えられたミッションだ。


「なんて言って、了承させようかしら」




なんだか思いつめた様子で教室に入って来たシエナを、噂を聞いて知っている学友たちは、遠巻きにした。


「シエナ様が来られたわ」


彼女達は心配事で頭一杯な様子のシエナの様子を窺った。


「ねえ、お聞きになった?」


「聞きましたわ! なんでも、あのレイノルズ家のボリス様と婚約しなくてはいけないらしいわ。家の都合で」


「レイノルズ家のボリス様? あの有名な遊び人と?」


「どうかなさいましたの? なんのお話?」


シエナのおとなしい性格を知るご令嬢方が集まってきた。


「お姉さまが無理矢理婚約させられていたことはご存じ? 多額のお金を積まれて。それでも、どうしても嫌だったらしいわ。お姉さまのリリアス様は駆け落ちして仕舞われた。行方は今も知れないわ」


教室にいた彼女達はざわざわした。


もちろん有名な話だったので、知っている者も多かったが、知らない者もいた。だが、シエナの婚約話で昔の物語は復活した。


「駆け落ちなんてねえ」


貴族の結婚は契約婚。一方的な契約破棄は許されない。


「確かに駆け落ちは……よくないわ。でも……」


実家の没落を食い止めるために、美貌の娘は犠牲になったのだ。


それも一人ならず、二人までもが家の犠牲になるという。しかも、今度は損害賠償の意味で。


「支払いができないなら、娘を差し出せと言われたらしいですよ?」


いつの間にか話に加わっていたイライザ嬢が横から言った。


ええーっ?と声が上がる。


「ひどくない? 数年前だって、ボリス様はいい噂は聞かなかった。でも、今は、ずいぶん太ってしまわれて、しかもハゲかけなんですってよ? おまけに口が臭いの」


「まああっ」


ボリス様を知らない令嬢の方が多かったが、イライザ嬢のもたらしたこの情報は、彼女たちをビビらせるには十分以上だった。


「もし、自分だったらと思うと……」


「聞くだけで、身の毛がよだちますわ」


「今は歯磨き粉も歯ブラシも、特製のものがございますのに……」


「きっと、リオ様も心を痛めていらっしゃいますわ。私たち、そんな結婚嫌ですわ」


「それで、シエナ様はあんなご様子に……」


全員が、深い同情と憤りを持って、こっそり物思いに沈むシエナを見つめた。




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