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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第38話 アラン殿下の悪だくみ

町娘の格好をしたシエナと広場に二人並んで座って、串焼きを買い食いしたり、出来立てのお菓子を頬張ったりするのは、とても楽しかった。


「おいしい……」


あまり感想などは言わないシエナが、珍しく嬉しそうだったのが、見ていて楽しい。


どこか見えないところで、リオとか言う抜群にイケメンな男が猛烈にイラついていると思うと、余計楽しかった。


「シエナ、髪に草の葉っぱがついてるよ?」


「そうですか? どこでついたのかしら?」


「さっき花屋に寄った時じゃないかな」


そう言いながら、何もついていないシエナの髪に触れてみる。柔らかい。


「あ、葉っぱ、どっかに落ちちゃった」



後でジョゼフから、何してるんですかと叱られた。


「うるさいなー。それより最高のドレスメーカーって、どこかわかったの?」


「……ハリソン商会という店でした」


ジョゼフの懸命なお願いで、リオを刺激しないように、ドレスメーカー訪問だけはしないことになった。


シエナのサイズを測ったり、アランの瞳の色に合わせた生地選びに、リオを付き添わせようものなら、何が起きるか分からない。


アラン殿下が楽しみにしていたドレス作りは、ジョゼフから差し止めを喰らってしまった。


「サイズが知りたい。どうしたもんかな。リーズ家は、ハーマン侯爵家の手の者で固められてるし、まさか学内で測るわけにはいかないし……」


「シエナ様は、ハリソン商会の顧客でした」


「え? あ、ハーマン侯爵家もか」


ジョゼフはうなずいた。


「以前にも、侯爵家からドレスの発注を受けたことがあるそうです。サイズも知っているようでした」


「それなら、話が早い。それに、侯爵家発注の時のドレスの値段もわかるな。下回らないようなドレスを注文しよう。ハリソン商会を呼んで来い」


ジョゼフは頭を抱えた。


殿下、お願いだから他国の(たかが)侯爵家なんかと張り合わないで。


セドナは大国で、王太子殿下が使える費用内でドレスくらい何着でも買える。

だが、後で請求書を見られた時、なんと言い訳するのか。


かなり身分のある令嬢か令夫人しか使わない有名ドレスメーカーへの発注履歴って……


「気にするな」


「気にしますよ!」


騎士学校のダンスパーティの招待状は、セドナの外交部を動かして手に入れた。


国家機密だからと銘打って、リオには黙っているようシエナには口止めした。


「リオは弟だろ? 別に気にしないと思うよ?」


絶対に気にすると思いますわ、とは言えない。


リオが気にするのは、アランが並の身分ではないと見抜いているからだ、とシエナは思っている。


あの聡いリオのことだ。アラン様が、実は、セドナの王家の誰かだろうとわかっているのだろうと思う。セドナ王室の中で、似たような年回りの人物を探せば、自ずと答えは出てくる。


王太子殿下その人。


その人にシエナが、異常なほど気に入られている。

リオがそれを気にして不安げなのは、シエナの幸せを願っているから。


本来、王太子殿下に気に入られることは本望のはずだが、シエナの身分を考えると、手放しで喜べない。


もしブライトン公爵令嬢なら、正妃という身分があり得るのだが、シエナは伯爵家の出。それも超がつく貧乏で、すでに事実上没落済みのグタグタ。


父親が耐えかねて、爵位と領地を売ってしまったら、ただの貧乏平民に成り下がるだけだ。


そうなったら、シエナはどうなるか。


セドナの王太子の気まぐれで、セドナに連れ去られたら、リオはシエナを助けることができなくなってしまう。


アッシュフォード子爵という人もいるが、国内の騎士候補生の誰かだと聞いた。


それなら、特待生入学のリオが上に立つ可能性もある。シエナはリオが非常に優秀なのだということを、例のマンスリー・レポート・メンズ・クラシックで知った。将来の騎士団長の可能性が高いとも。


『特待生合格者のうち、貴族の出の者の多くが、騎士団長の座にまで上り詰めている……』


だけど、セドナ王家には勝てない。


悲壮な顔をしながら、リオがアラン様の後からついてきているのは、そのせいだとシエナは感じていた。



「でも、私が騎士学校のダンスパーティに出たら、すぐ、リオにはバレますわ」


「いいんだよ。きっと、リオも文句は言わないさ」


言わせない、という意味なのだと、シエナは悟った。


もう、黙っているしかなかった。




騎士学校のダンスパーティは、主に女性たちの間で話題になっていた。


騎士団は平民でも入学できる。


その意味では、貴族学園より一段落ちる存在だった。婚活の手段としては、貴族学園のダンスパーティに出る方が効率はいいのだが、なにしろ騎士はかっこいい。


「そのようなわけで、皆様、気合を入れて参りましょう!」


通りかかったアランは思わず、見入ってしまった。令嬢たち、屈託なく、とても楽しそう。


「あの方が、イライザ嬢ですよ」


ジョゼフが注意した。


「以前、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックという謎タイトルの冊子を届けてくれたことがありまして。三位以上にランキングされた時、受け取ったでしょう?」


「ご令嬢方の方が、騎士学校のダンスパーティには、熱心なんだね」


お供していたジョゼフがため息をついた。


「当たり前でしょう」


アラン様のように、男で出張する人物は珍しい。


……と言うより、いるはずがなかった。


騎士側はほとんど男で構成されている。ウェルカム女性状態だ。そこへ、これ以上ないほど邪魔な感じに乗り込もうと言うのだ。イケメン番付ナンバースリーの男が! 用事もないのにわざわざ!


「たまたま適当な社交の会がないからって……」


護衛兼通訳のジョゼフは、渋い顔をした。


「何を言う。お忍びなんだから、王家のパーティになんか出られない。出たくもない。ゴートの騎士学校の様子を視察に行きたいといえば、どのお目付役もみんな納得していたではないか」


「それは、そうですけど……」


シエナと踊りたいだけのくせに。


「それに僕は、特待生で成績ナンバーワンのリオの友人だ」


アランは胸を張った。


「リオから、ぜひ見に来ないかと誘われたといえば、生徒たちの方も全員納得だろう。騎士候補生たちだって、文句は言うまい」


ジョゼフはゲンナリした目を、主人に向けた。


どれだけ悪用しているんだ、この設定。


肝心のリオは、アランとシエナ(とジョゼフ)が、騎士学校のダンスパーティに参加するなんて夢にも思っていないだろう。


挙句の果てに、リオから招待状をもらったんだ、などと嘘をかまされたら、どれほど怒るか知れやしない。


「かまわないだろう。シエナをセドナに連れて行くなんて無茶はしないよ」







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