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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第33話 アラン殿下 VS アッシュフォード子爵 その2

「お見えになられました」


非のうちどころのない執事に案内されて、アランは邸内を進んだ。


実はアランは他人の屋敷などを訪問したことがない。

全く行かない訳ではないが、王太子殿下の来訪ともなれば、大抵相手は大騒ぎで、アランの姿が見えるだけで一大イベント状態になっている。


こんなに人気(ひとけ)がなくて、静かな建物の中を歩くのは初めてだった。


外見同様、内装もよく手入れされていて、重厚な設えだった。


ドアを開けてもらって、中へ入る時はちょっとドキドキした。



相手は座っていた。


王太子殿下が入室するとき、相手は必ず立って、うやうやしく頭を下げている。

当然、同じ対応を予想していたアランは、座ったまんまという無礼な相手にカッとなった。

隣で護衛もムカッとしたらしいが、二人とも今はただの一貴族とその通訳である。王太子とそのお付きではない。


「お呼びたてして申し訳ない」


若い子爵はすらりと立ち上がってあいさつした。


初めて顔を見た。


すっごいイケメン……だった。


むしろ細面。鼻が高く、なんだかよくわからないけど、めちゃくちゃ顔立ちが整っている。


そして背が高くて、アランより高くて、アランよりたくましそう。


全然予想と全く違う!


普段、男に完全に関心のないアランが思わず見とれてしまった。美男。


隣を見ると、通訳の護衛が、これまた目を見張っていた。男前。



なんでこんな男が、金で囲い込みしてるんだろう!


もしかしてゴートでは、男性から結婚を申し込んだり、告白すると、社会的に抹殺されるとか?


余計な憶測を発明してしまった。


「あなたが、アラン・レッド卿ですか?」


落ち着いた低い声が響く。


「ソウデスネ……」


「シエナの従兄弟にあたるリオネールです。どうぞお掛けになって」


従兄弟?


驚き過ぎて、通訳になんと言われたのか聞くフリまで忘れて、アランは椅子に座った。王太子の自分がものすごく緊張していた。


だが、相手も同じくらい緊張していることに気が付いた。


「実は、少々お願いがありまして……」


子爵が固い声で切り出した。


「あなたの通訳を私の従姉妹がしているそうですが、それは、別の方に代えていただくわけにはいきませんか?」


「え?」


アランは目を丸くした。


子爵はため息をつくと、通訳の顔を見た。あわてた護衛がセドナ語で通訳してくれる。


「留学の際、学園に頼んだところ、シエナ嬢を推薦していただきました。セドナ語に堪能で、よく気のつく優秀な通訳です。学園内のことは、学園の方に通訳してもらった方は事情に通じているので助かるのです」


護衛が通訳してくれた。


「もっとセドナ語に通じた別な生徒がいるのではないですか?」


「シエナ嬢がいいです」


思わずアランは、片言のセドナ語で返した。考える余地もない。


「男性の方がよろしいのでは無いですか? 受ける授業が男性と女性で違う場合もあるかも知れませんし……」


そんなこと、アランの勝手である。セドナの王太子は、むかっとなった。


「女性の世界は、男性にはわかりません。女性の通訳の方が都合がいいのです。誰を通訳にするかなんて、私が決めることだ」


護衛は、冷や汗をかきながら伝えた。


割と失礼な言い分である。侯爵家に向かって。


しかし、王太子殿下に向かって、お気に入りの通訳を変更しろなどという要求はあり得ない。セドナなら、首がハネ飛ぶレベルの話だ。

だが、今は、一介の貴族。爵位すらない設定。


護衛は頭が混乱してきた。


子爵の眉がしかめられるのを見ると、アラン様は余計敵意を持ったらしい。


大人気ない、大人気ないよ、アラン様。自分からお忍び留学を選んだくせに。



しかし、王太子殿下として、ずっとチヤホヤされ続けてきた殿下は、頭ではわかっていても、条件反射で感情的にムカッとなったらしい。


「女性と知り合いになりたいと言うことですか?」


冷笑気味に子爵が聞いた。


「それに何か、問題でも?」


こんなにイケメンに言われなかったら、こうまで真っ向勝負な返事はしなかったかも知れない。


俺の方がイケメンだと言う余裕があったと思う。たとえ、身分で劣る設定だったとしても、中身(この場合は外見)で勝負して勝てるという優越感が残ったはずだ。


だがしかし、相手は、何か圧倒的なまでの、グサリとくるイケメンだった。



一方、護衛は、ものすごく気を揉んでいた。


なんだか知らないけど、殿下が勝手に暴走を始めている。


殿下。それ、言っちゃダメなやつ。しかも、ゴート語わかるの、今の一言でバレましたよね? 気付いていますか? あ、ダメですね?


「いやあ。ずいぶんあからさまですね」


いささか侮蔑的な目つきでアッシュフォード子爵が丁寧に言った。


「女性は好きですよ?」

アラン殿下がすぐに返事した。


殿下、煽らないでください。子爵も殿下をバカにしたような言い方は止めてあげて! 殿下にそんな耐性はついていないんだから。


「まさか、シエナがターゲットだと言うんじゃないでしょうな?」


「そのまさかだったら、どうします?」


子爵の美しい肌に青筋が浮かんでいた。


殿下、やめてってば! 他人の家……というか、他人の国で、余計な騒動を起こさない! これ、王族の鉄則。

生意気だって、お怒りはわかりますけど、相手は殿下のご身分をまったく知らないんだから当然ですって。


「シエナからあなたのことを聞いて、紳士だと思っていた。この国に女性を漁りにきたとは知らなかった」


セドナ時代に、女性にモテてモテて困り果てていたアランである。

これは、聞き捨てならない。


「漁りにくるほど、困っていない。むしろ余っているくらいだ」


抗議&豪語した。


「何の話だ? それなら、シエナでなくても構わないだろう?」


「ええと、シエナ様は優秀で、この国のいろいろな女性をご紹介くださいました。大変、気の利いた方で、お陰様でアラン様にとっては非常に良い勉強になったと存じます」


護衛兼通訳が、事態の収拾を図って、恐る恐る口を挟んだ。


何か言いかけて子爵は口を開けたが、発言を控えた。


(なにか致命的な悪口を言うつもりだったに違いない。アランも護衛も口撃に備えて、一瞬、身構えた)


しかし、子爵は、今度はもの柔らかに切り出した。


「あなたは、ゴート語が十分話せるではないか。通訳なんか不要だろう」


しまった。


アランと護衛兼通訳は、しまったという表情が顔に出てしまった。


それを見た子爵はニヤリとした。


「片言で可愛らしいなどと言う評判をとっていたようだが、正体がバレたようだな。ほら」


その手にあったのは、例のイライザ嬢謹製のマンスリー・リポート・メンズ・クラシック。


「これを見たまえ」


アランと護衛兼通訳は、差し出された冊子を覗き込んだ。もちろん文字だけである。絵姿などは掲載されていなかった。



「これは……」


「なんと……」


二人とも衝撃を受けた。


すごい内容だ!


すばらしい調査力!


自分が載っていなければ、ただの紙束。載っているため、今は神束。


アランは、自分が三位にランクインされている事に気付いて、すぐにそのページを開き、目を通した。

アランの魅力が的確に語られ、今後も目が離せない優良株と紹介されている。


『品のある佇まいと言動は別格で、他者の追随を許さない。一方で人懐こくお茶目な側面も。一貴族の留学生と言う触れ込みだが、意外な大物かも?』


これぞ慧眼。素晴らしい!


「これっ! 女性版はないのか?」


アラン様は目の色を変えて叫んだ。


隣で護衛はこめかみを抑えた。アラン様……わかりやす過ぎる。


あいにく相手はそんな男ではなかった。女性版のことなど、考えたこともないらしい。


「字もちゃんと読めているではないか」


ハッと気づいたが、もう遅かった。



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