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第29話 アラン殿下、果し状を受け取る

アランはカタコトがかわいい上に、顔もよかった。

家柄が良いという漠然とした説明も本人を見ていると、納得がいく。

誰も王太子殿下その人だとは想像していないだろうが、立ち居振る舞いから言動まで、相当な身分とすぐわかる。


ブライトン公爵令嬢やダーンリー侯爵令嬢とも、すっかり打ち解けて話すようになり、あのイライザ嬢のそれとない事情聴取さえ上手くかわして笑わせている。


「お見事ですわ、アラン様」


思わずシエナはアランを讃えてしまった。


「女性相手でも、アラン様は、お話がとてもお上手ですわ」


シエナはアランを褒めたが、アランの方はちょっと陰気な顔をした。


「僕は女性とうまくお付き合い出来るようになればと思っていただけで、邪心はない」


邪心て何?


「モテようとか、女性の注目を浴びようとか……」


まんまアラン様のご希望ではないですか。

ていうか、それ以外のどんな目的でゴートへ来たんですか?と問い詰めたいところを、そこは相手は王太子殿下なので我慢した。


「それなのに女性の研究ではなく、男性の気持ちを研究する結果となった」


「はあ……?」


「果し状だ」


果し状……? 


アラン様は一枚の紙をガサガサ取り出して、広げてみせた。


「読んでいいんですか?」


「読んでほしい。これ、どうしたらいい?」


意中の女性に対し、親しげに接していると、長々と恨みが書き連ねられ、この命に代えるとも横恋慕の罪を問いたいと、震える筆跡で書いてあった。


そして日時と場所の指定があり、武器は剣を提案してきた。


署名はアーネスト・グレイ。最後に血判が押してあった。


読み終わって顔を上げたシエナ嬢は、不思議そうに言った。


「血判は不要だと思うんですけど」


「シエナ嬢、問題はそこじゃないでしょ?」


いささか焦った調子でアランは言った。


「この手紙、おかしいでしょ? 誰が誰の意中の女性だか知らないけど……」


「アーネスト・グレイ様の意中の女性ではありませんか?」


「だから、僕はアーネスト・グレイが誰だか知らないし、意中の女性が誰なのかも知らないんだ! 大体、婚約者のいる女性に話しかけるのは、どこの国でもよろしくないだろう? ちがうか?」


「いいえ。あってますわ」


真面目にシエナは答えた。


「だったら、教えてくれるのが君の役目だろう! どうして黙っていた?」


「だって、グレイ様には婚約者なんていませんもの」


「え?」


アランは目を丸くした。


きれいな目だった。思わず、シエナは笑ってしまった。


「グレイ様がおかしいと思いますわ。婚約しているわけでもないのだから、グレイ様の意中の女性が誰かなんて、アラン様が知っているはずがないでしょうに」


「誰も知らないの?」


「知りませんとも」


「じゃあ、こいつは縛り首だ」


シエナは慌てた。


それはその通りである。


何というか、無罪の罪、完全な冤罪である。しかも相手が悪い。隣国の王太子殿下だ。


「知らなかったこととはいえ、手当たり次第に決闘を申し込むのか、このバカは」


シエナは必死で考えた。


「わかりました。謝罪させます」


「こいつをか。こんな頭がおかしい奴が謝罪なんかするのか」


「ええと、頭はおかしいですけど、謝罪には来ます。絶対」


「どういうこと?」


アラン様は疑り深そうに聞いた。


「まさかセドナの王太子だって、バラす気じゃないだろうね。それされると、僕はセドナにいる時同様、大勢の護衛を連れて、下心満載のご令嬢に取り囲まれて、いつもニコニコしているだけの生活を送らなきゃならなくなるんだよ?」


「意中の女性を使えばいいんです。グレイ様は人が変わったみたいに大人しくなりますわ」


「誰が意中の女性なの?」


「アリス・ダーマス侯爵令嬢ですわ。決闘状のことをアリス様にバラしますよと、グレイ様を脅せばいいんです。ついでに、アリス様に惚れ込んでいることをアリス様本人にバラしますよとか……」


「ちょっと待って! 相思相愛でもないのか?」


「告白すらまだです。これからです。振られるかも知れませんわ」


「それで、果し状?」


アラン様は信じられないという顔になった。


「完全な暴走ではないか」


「おっしゃる通りですわ。でも、これもまた一貴族の醍醐味でございましょう?」


シエナとしては、どうあってもグレイ様の首と胴体をくっついたままにしておきたかった。縛り首は(多分)冗談でも、彼に何らかの罰が与えられたら、接待役としては失格だ。


「果し状は笑えないよ」


「でも、グレイ様のアリス嬢へのヘタレっぷりをお聞きになったら、きっと笑われますことよ。それに、グレイ様は特殊性癖をお持ちで、アリス嬢のピンヒールで踏まれるのが快感なんです」


「へ?」


許せ、アーネスト・グレイ。

内心、シエナはグレイ様の個人情報に向かって謝罪した。

これも、半分は、グレイ様の処分を軽くするためだから! 残り半分は、シエナのためだけど。


「それもアリス様にバラすと言えば、きっと平謝りに謝って、決闘なんか全面的に取り下げになりますわ。気の毒なので、和解のお茶会を四人でしましょう。きっと喜びますわ」


「こんなやつ、喜ばせる気になれないな」


アラン様はブツブツ言った。




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