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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第23話 川べりのカフェデート

リオは普通の格好……すなわち騎士学校の制服でも騎士服でもない、少し裕福な町人が着ているようなシャツと上着で現れた。


それを見たシエナもあわてて、ダイアナが差し出した町人の娘の簡単な服をまとった。


いつの間に準備されてたのかしら?この服。学園では絶対着ないような服なのに?


それはリオが黒っぽい地味な格好だったのに、明るいグリーンでシエナの薄い色の髪によく映えた。


そのままに流した髪は豊かで、くるくると自然に渦を巻いて顔を彩った。


「まずは、最近流行りのカフェを制覇しに行こう」


リオはシエナの手を握った。


「迷子になってはいけないからね。王都の町は、結構、混むんだよ」



川べりのカフェは、大人気らしかった。


確かに小高いところから見下ろす川の様子は、圧巻だった。


二人は、やたらに愛想のいい店員に、とても見晴らしのいいテラス席へ案内された。


こんなに混んでいるのに、なぜこんないい席が空いているのかしらとシエナは疑問に思ったが、それも一瞬のこと。すぐに眼下に広がる景色に目を奪われた。


「きれいね……」


「この川は王都のぐるりを回っている。貨物の船が多くて交通の要所だ。王城は、ほら、あそこだ」


キラキラする川面には、かなり大きな商船が何艘も浮かんでいて、王都が政治の中心であると同時に、大きな商都であることをうかがわせた。


「この先は海。向こうはセドナだ」


セドナ……名前しか知らない。


「僕はあのまま田舎に埋もれるのが嫌だった。モリス先生には何度も何度もしつこく騎士学校の特待生の試験を受けろと勧められていたんだ。だけど、シエナがいたから、あの田舎を離れるつもりはなかった」


私がいたから?


「そう。たった一人の家族で大事な人だった。でも、シエナが王都に行ってしまったら、僕を引き留めるものなんか何もない。伯爵なんか知ったことではない。僕は書置きを残して出て来た。伯爵は僕の行方なんか探さないと思うけど、探しようもないと思う。シエナさえ黙っていてくれたら」


なんだか、親なんかいない二人きりの孤児の話のようだった。


「さあ、お菓子が来たよ? 栗のタルトだ。もうそんな季節なんだね」


シエナもリオさえいればいいような気になって来た。


気心が知れている。いつでも、果てしなく優しい。


そして最近はグッと頼りがいが増してきた。


リオに任せてしまえば、どうにかなる気がする。


一人で頑張って来たシエナには、ほっと心を許せる大切な相手だった。


騎士学園のテオドールとアーネストの、本人の自覚もよく分からない訪問の顛末や、騎士学校の授業の話、シエナからはアンダーソン先生からの語学の授業の話など、いろんな情報を交換していたが、シエナはふと、リオに聞いた。


「そういえば、アッシュフォード子爵って、リオ、知っている?」


リオが紅茶にむせた。


「あ、うん、知っていると言えば知っているかな?」


「どんな方なの?」


シエナは熱心に聞いた。


「ええと、武芸は一流らしい。勉学も好成績だ。人間は……そうだな、僕からは何とも」


「家のヴィクトリアとアレクサンドラは、とてもやさしくていい方だって言うの。あ、彼女たちはハーマン侯爵家からやって来た使用人たちよ」


シエナはあわてて追加説明した。リオが知っているはずがない。


「えーと、伯爵が雇ったわけではないんだよね? そんな気遣いもお金もないはずだ」


「そう思うわ。私、ハーマン侯爵のご子息に気に入られたのだと説明されたの、ベイリーに」


シエナはちょっと困りながら説明した。


今更気がついたけど、気に入られたってどういう意味なんだろう。


「うん。ベイリーって誰?」


リオが目線を逸らして聞いた。


「ベイリーは、自称伯爵家の執事なの」


「自称?」


「ハーマン侯爵家から来たって言うの。ハーマン侯爵家から来た人たちで、リーズ伯爵家は一杯なのよ。リオ、どうしたらいいのかしら?」


「どうしたらって……」


「このままご厚意に甘えていていいのかしら?」


その先には何が待ち受けているのかしら。


だって、ハーマン侯爵のご子息、アッシュフォード子爵のことを全然知らないのだもの。


「私、お名前も知らないので、こっそり、アッシュフォード子爵にあだ名を付けたの」


なぜか、これは猛烈にリオの関心をそそったらしかった。


「なんてあだ名?」


「魔法使いの王子様」


リオはゴボッと妙な声を出した。


「ま、魔法使いの王子様……」


王子様か……


「だって、ドレスも家の中の装飾品も、どんどん気前よく買ってくださるの。私の部屋だって最初はなかったの。マーゴが暖炉に火を入れるだけの燃料がない、掃除も手が回らないって言うんですもの。私、台所の横の狭い小部屋で寝ていたわ」


それを聞いて、リオの黒みがかった青い目が強い光を放った。


「服も一枚もなかった。裏から何回も継ぎを当てて、生地が透けるくらい薄くなった黒のぼろ服をいつも着ていたの。伯爵家の令嬢と名乗るわけにもいかなかった。みんな、私のひどい恰好を見て、平民の特待生だろうと言っていたわ」


「それで婚約解消を求められた?」


シエナがこくんとうなずいた。


「そんなことで解消されるのは嫌だったわ。恥ずかしかったし。だけど、いいの。私は最初からジョージが嫌いだった」


思わず知らず、目から涙があふれてきた。


ジョージは嫌いだったので、婚約解消は何とも思わなかった。だが、罵倒しなくてもいいではないか。騙したなどと、それはシエナに責任があるわけじゃない。


それからニヤニヤしながら、見ていたカーラ嬢。


不愉快だった。


人の不幸を喜ぶだなんて品性が卑しい人間のすることだと思う。


「シエナ、悲しまないで。魔法使いの王子様のことを思い出して。いつだってシエナの味方だよ」


「そうなの。あの時ドレスの箱を開けた時、どんなに嬉しかったことか」


シエナは夢を思い返して言った。本当にあの瞬間は夢のようだった。


「救われた気持ちだった。誰だか知らないけど、私のことを気にかけてくれる人がいると思った」


「そうなの……」


リオはシエナをじっと見つめていた。


「魔王様は、とてもいい方だわ」


ん? 魔王?


「誰?それ?」


「魔法使いの王子様。略して魔王」


「シエナ、略さなくてもいいんじゃない?」


「でも、魔法使いの王子様って言うの、ちょっと恥ずかしくない?」


「いや、魔王も大概じゃないかと……?」


それ、人前で言ってて恥ずかしくない?


「で、私、魔王様の正体が知りたくて。なんでも騎士学校に住んでいるらしいの」


「騎士学校の寄宿生だって言いたいんだね?」


「だけど、寄宿生に爵位があるような人は誰もいないって、イライザ嬢は言うのよ。あっ、イライザ嬢は情報通の私のお友達なの」」


リオはハーマン侯爵の養子になってから、寄宿生をやめ、自宅生になった。

コーンウォール卿夫人に呼び寄せられ、謹厳実直を絵に描いたようなベイリー氏(父の方)が夫人と二人ががりでリオに貴族教育を施していた。これは結構大変だった。


したがって、現在、魔王は学校に棲んではいない。


「魔王が棲む……なんだか都市伝説になりそうな話だね」


「でも、魔王様はとても美しい方なんだそうなの」


「え? へ、へえ?」


「魔王様が美しい方だなんて……なんか魔法の国の物語みたいね?」


リオは返事に窮した。


「魔王様は何を考えてらっしゃるのかしら? 正体を知りたいだなんて、おこがましいわよね」


リオは自分の容貌については、正しい認識を持っていた。


しかし人外の魔王級の美貌かと言うと、それは?である。


シエナは真剣に目の前のリオに尋ねた。


「アッシュフォード子爵について、何か知らない? リオ? どうして、直接、私の目の前に現れないのかしら? 何か事情があるのかしら?」




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