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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第21話 魔法使いの王子様 略して魔王

全く正体のつかめないアッシュフォード子爵だったが、こっそりシエナは「魔法使いの王子様」と言うあだ名を付けていた。


略して、魔王。


これを聞いた時、ダイアナの無表情がわずかに動いた。


「……王子様だけでよいのでは?」


「ええー? でも……」


まるで魔王のような力だと思う。


それに顔を知らないから……とシエナは思った。


王子様と言えば……自分の弟だけど、リオのような顔のイメージ。


大きな目と高い鼻、色白でいつも優しい。そして、いつもうれしそう。


「それにしても魔王はちょっと……ご子息様はお若い方ですよ?」



そこへ執事のベイリー氏がやってきた。


シエナとダイアナが表情豊かに話をしている様子を見て、ちょっと心が和むといった顔をしていた。


……ダイアナにしては和やかな顔つきでも、他人が見れば、ただのしかめつらに見えるのだが。


「ところで、シエナ様、お預かりしていた手紙ですが……」


ベイリー氏は、テーブルの上に仕分けした手紙を乗せて言った。


「これは、お茶会のお誘い」


シエナはうなずいた。数件だろうか。


「これは婚約申込」


シエナの顔が引き攣った。


「あの、私、まだそんな。ついこの間、ゴア家とのお話が破綻したばかりですし」


「このお話は、全部、断りました」


ベイリー氏がなにか清々(せいせい)したような顔つきで宣言した。


「えっ?」


勝手に断っていいの?


「どれもこれも、足元を見たような結婚話ばかり。金持ちの老男爵とか、女癖の悪い再々婚とかが、婚約破棄の噂と先日のパーティーの話を聞き付けて、買い時とでも判断したんでしょう」


明らかにベイリー氏は怒っている。


横で荒い鼻息が聞こえたので、振り返ると、ダイアナが盛大にフンと言っていた。


その後ろにはマーゴがいて、半泣きである。


「お父様がしっかりさえなさっていれば……」


シエナは逆にその言葉を聞いて冷静になった。


「お父様なんて頼る方が不幸になるわ!」


しかしベイリー氏の言葉が気になったので尋ねた。


「買い時とは?」


ベイリー氏は大慌てになり、いつもは寡黙なはずのダイアナがベイリー氏を睨みつけながら、解説してくれた。


「まったく、人買いではあるまいし、買い時だなんて、なんと言う言葉を使うのです。お父様のベイリー様に言い付けますよ」


それから、シエナに向かって説明した。


「婚約がなくなった事情がなんであれ、弱っているだろうと考えたのでしょう。なんにしろ婚約解消は女性には不利です。美人で若くてお金に困っていないなら、早い者勝ちだと申し込んできたのでしょう。どんな理由で婚約解消したにしても、この人たちは気にしないくらい自分自身に問題アリの人たちですからね! フン、失礼な!」


「ま、まあ、そんなところです」


ベイリー氏は汗を拭いながら言った。


「ですんで全部、断りましたよ」


「当たり前です!」


意外にダイアナはシエナの味方だった。


「それでと……こちらはお茶会のお誘い」


ドサッと音がしそうな手紙の数で、仕分けされた手紙の数では、最大派閥だった。



「先ほどの手紙の束もお茶会のお誘いではなかったですか?」


ベイリー氏はうなずいた。


「先ほどのお茶会の誘いは、下心のないお茶会のお誘い」


「? はあ」


「こちらのは下心まみれのお茶会のお誘い」


シエナは訳が分からなくなって、ダイアナの顔を見た。


「要するに、あとの分のお茶会のお誘いは、適齢期のご子息や親族がいる方々からのお茶会のお誘いですね」


「多分、あのダンスパーティが原因ですね。とても目立っていたそうですね」


ベイリー氏が言ったが、彼はどこから情報を仕入れてくるのだろう。


「特に、リオネール・リード様とのダンスは、息もぴったりで大勢の注目の的だったそうですね」


「弟とのダンスですもの。家ではよく相手をしていましたから」


そう言いながら、シエナはこの謎のアッシュフォード子爵の話をリオに聞いてみようと決心した。

同じ騎士候補生同士なら、きっと何か知っているに違いない。


リオよりひとつ年上だから、学年は違うのかもしれないが、侯爵家の跡取りは有名だろう。


「あのダンスパーティへは、それぞれの学校の生徒のお母さま方も見に来られるのですよ。皆様、ご自分のご子息のことともなれば、真剣です。社交界と言うものは油断も隙もございませんな。目につくご令嬢方を片っ端から招待される奥様もおられますから」


「それは、ご自分の息子さんの為ですか?」


「まあ、縁結びが趣味と言う場合もありまして……迷惑なのか、有難いのかよくわかりませんが」


確かに。迷惑なのか有難いのかよくわからない。


「日程の関係もありますが、お茶会に関しては、数件はお出になった方がよろしかろうとコーンウォール卿夫人がお決めになりました」


「あ、ありがとうございます」


最初の記念すべきお茶会は、コーンウォール卿夫人とのお茶会だった。

シエナはおしゃれをしたことがなかったので、なんと表現したらいいかわからなかったが、夫人がとにかくとても素敵な格好をしていることだけはよくわかった。

高いんじゃないだろうか。

夫人との会話は、そこそこ弾んだが、シエナは夫人が自分に対してどういう評価を下したのか、その値踏みするような表情がとても気にはなったが、穏やかな雰囲気で終始した。



執事のベイリー氏もダイアナも、ヴィクトリアもアレクサンドラも、とても好意的だ。


みな、しっかりした人たちだが、その彼らが尊重するコーンウォール夫人の取り決めだった。


ここはお任せした方がいい気がした。


「お願いします」


「では、最後の一通ですが……」


何をもったいを付けてと思ったが、その手紙はゴア家からの手紙だった。


「ゴア男爵夫人から婚約解消は解消して欲しいとお願いがございました」


シエナの顔は引き締まった。

シエナはいつになく厳しい調子で言った。


「それは、お断りくださいませ。ゴア家とは今後、金輪際関わりたくありません」


「アッシュフォード子爵もお怒りでございます」


静かにベイリーが言った。


「お出しいただいていた学費とやらは……」


ベイリー氏の口調は、この人がこんな調子でしゃべることが出来るのかと思う程、冷たく、事務的だった。


「全額、お返ししました」



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