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第20話 ご令嬢仲間

翌日シエナはイライザを必死になって探した。


なにしろ、謎の大事件である。


ベイリー氏は、見た目は快活で愉快そうな人物だった。


もう四十才に手が届こうかというくらいの年回りで、キラキラした黒い目と同じく黒いほおひげが印象的な人物。


テキパキしていて、シエナの意見を十分聞いてくれるが、ベッドも机も本棚もあっという間に手配されていた。


何だかすごい。


しかし、表情が豊かというか、手紙の山を読んだとき、彼は深刻な顔をしていた。もう、すごく都合が悪かったらしく、見ていたシエナがドキドキしてきた。


そんなにマズい話が書いてあったのかしら。


シエナとしては、気になるのはゴア家の問題くらいだった。


ジョージは気持ちの悪いことを言ってきた。例の、シエナがジョージに惚れ込んで、ジョージはやむなく婚約したのだ、惚れてる男に戻ってもらえて嬉しいだろうという話である。あまりにも腹が立つので、できることなら、一発お見舞いしてやりたいくらいだった。


「やるなら顎がいいわ。顎、頑丈そうだし」


独り言を呟きながら、シエナは、イライザ達が午後になると集まる食堂の片隅に向かった。


そこでシエナは、イライザ嬢をはじめとする貴族のご令嬢がたに外国語や算数を教えていたのである。そのほかに、テストのヤマを張っていて、シエナ嬢の予言はよく当たると評判だった。


「あのう、予言ではありませんのよ?」


「あっらー、何をおっしゃっているのかしら」


あのダンスパーティから一週間。


気がつけば、勇敢なる赤公爵のご令嬢、キャロライン嬢やダーマス侯爵家のアリス嬢なども集まってきていた。


「先日のテスト、全問正解だったのですわ」


「私もですわ!」


「私もですわ!」


「私、一問、間違えてしまいましたの」


残念そうなイライザ嬢は、正解を暗記する暇がなかったそうである。


「残念ですわ。メモ書きして持参したら、カンニングになりますし」


やっていることは同じような気がする。


「前回はその手で行きましたの!」


「あのう、確か前のテストでは、一問外したかと」


シエナは恐る恐る告白する。


「予言がうまく降りてこない時って、ありますわよ。ファイトッ」


違う。


そうじゃない。



食堂の片隅において、本日はみんなを代表してブライトン公爵令嬢のキャロライン嬢が今後の抱負を述べた。


「これからは、私どももリオネール・リーズ獲得作戦会議のメンバーとして、なおかつリオネール・リーズファンクラブの一員として、活動したいと思いますの」



「獲得する」と「ファンクラブ活動」は、根本的に趣旨が異なると思うのだけど……


それからシエナとしてはもう一つ気になることがあった。


「あのう、リオはそれほどのものではないと……」


目の前の令嬢は、とても華やかで、シエナやリオのような生活の苦労なんか微塵も感じさせない。


リオだって、数か月前まで、馬丁と同じ格好で馬小屋の掃除をしていたのだ。


「何をおっしゃることやら! 先日のダンスパーティの席上のリオ様は輝くようでしたわ!」


確かに、夜会服のリオは輝くようだった。


だが……


公爵令嬢と侯爵令嬢は、その割には、リオなんかほったらかしで、騎士候補生と白熱した議論を叩き交わしていた。


アリス嬢の相手は、もっと殴って欲しいと哀願していたし、キャロライン嬢の相手は容貌コンプレックスがあったらしく陰気臭くややこしく喰い下がり、その都度、痛恨の一撃で(口撃だが)返り討ちにされていた。(最も気にしているあごの形について、わざわざ言及され、公衆の面前で、あごの形になんて気にすることございませんわ!とか指摘されていた)その一言一言が悪意がなくて、むしろ善意なのに、奇跡のような命中度だった。痛い。


あの会以降、イライザ嬢は、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックと言う何かを発行し始めたらしかった。

要はイケメン度格付けランキングらしい。


「リオ様が栄えある第一位を獲得!」


キャーと歓声が沸いたが、シエナはほとんど聞いていなかった。

それより重要なことがある。

シエナは、恐れ多くも公爵令嬢のキャロライン嬢に話しかけてみた。


「ところで、ハーマン侯爵と言う方、ご存じありませんこと?」


キャロライン嬢は知っていた。


「父が元帥でしたの。武門つながりで騎士団長と父はよく話をされていましたわ」


え? すごい。


思わず、シエナはキャロライン嬢の顔を見返した。


「ハーマン侯爵は騎士団長でしたから、方向性は違うかも知れませんが、昔は当家にもよくお越しになられて」


「どんな方ですの?」


「私は直接お話したことはありませんが、非常にプライドの高い方と伺っております」


「まああ。でも、今はお加減が良くないとか」


「そうらしいですわね。私も父が親しいもので話は時々聞きます。お子様がおいででないので、お姉さまのコーンウォール卿夫人が面倒を見ておられると聞いています。奥様が何年か前に亡くなられたので」


「え?」


お子さまがいない?


「ご子息がいらっしゃるのではないのですか?」


「良く存じませんわ。外国におられるのかもしれません」


キャロライン嬢が不思議そうにシエナの顔を見た。

どうして関係のないハーマン侯爵のことをこんなに熱心に聞くのか、疑問に思ったに違いない。


「どこかで聞いた名前だなあと思いましたの。それだけですわ」


シエナは思い付きで、答えた。


「まあ、筆頭侯爵家ですからね」


そうだったのか。


しかし、さすが公爵家の令嬢だった。各家の系図がしっかり頭の中に入っている。


見習わなくちゃ。


決意も新たに自宅へ向かうシエナだったが、家には試練が待ち構えていた。





何がどうしてそうなったのか知らないけれど、シエナの生活は一変した。


家に帰ると、デデンとしたダイアナが、丁重かつよくわからない圧力を帯びて迎えてくれる。


「おかえりなさいませ!」


「おかえりなさいませ!」


その後ろには、何故だかマーゴもいて声をそろえている。


マーゴ、何がどうしてそうなったの?



そして、最近は家庭教師だと言う礼儀作法の先生が付き添って、事細かに立ち居振る舞い、食事のマナーを注意してくる。


名前はマチルダと言って、どう見てもきっちりと言う言葉が全身を覆い尽くしていた。


灰色のひっつめ髪、灰色の地味なドレス、黒縁のメガネ、どうやら夫がいるらしく太い金の指輪をしていた。

後でよく聞くと、夫はずいぶん前に亡くなっているそうだ。どうりで、二十四時間体制での付き添いが可能なのね。

でも、ちょっとイヤだった。事細かなダメ出しが。


唯一、助かるのは、彼女は、シエナが学校でわからなかった問題を聞くと、なぜか即答してくれるところだ。すごい。


そして、その時だけは黒縁メガネをちょっと手で直して、何だか得意そうだ。フフンと言う声が聞こえてきそう。


「さあさ、マチルダ様、ハリソン商会が来ました。学園が終わったころに採寸のために来ることになっていましたよね。お茶会用の服を何着か作っておかなければ……」


ダイアナが威風堂々と入って来た。


「お、お茶会?」


「そうですわ。何軒かのお宅からお招きいただいています。これまで、社交らしい社交をされてこなかったでしょう。田舎の屋敷におられたので」


違います。ドレスがなかったのと、本来なら面倒をみてくれるはずの母が責任放棄して実家に帰ってしまったからですわ。


「ドレスは、急いで何着かお作りしましょうね。本当におきれいなお嬢様ですこと。さぞ、お似合いでしょう」


一見(いちげん)の客は相手をしないとまで言われているハリソン商会。

それを、呼びつけるとは!


実は、そんな噂も侯爵家令嬢のアリス嬢から仕入れた。ずいぶんお高く止まった店だなあと思ったものだ。

だが、実際に会ってみるとハリソン商会の店員は全員、それはそれはあたりが柔らかくて感じのいい人たちだった。


「お嬢様には少し濃いめのお色が似合うかも知れませんわ。白もお似合いでしょうけど、神々しくなってしまいそう」


「これだけお美しいのですもの。ドレスも作り甲斐があると言うものですわ。目立って仕方がないと思いますけど」


いや、目立ったら困る。

何しろマチルダ先生からは、礼儀作法に関しておびただしいほどの回数のダメ出しをされている。


「手始めはコーンウォール卿夫人のお茶会ですわね」


ダイアナが言った。






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