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どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が、なんだか向こうからやってきた。  作者: buchi


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第19話 ベイリー氏の活躍

「アッシュフォード子爵!」


いよいよアッシュフォード子爵が誰だかわかるのだ。


「アッシュフォード子爵様には大変感謝申し上げています」


シエナは必死になって言った。


「私は学園に身の置き場もありませんでした。姉と同じだろう、節操のないあばずれに違いないと、同じ髪の色と目をしているばっかりに、さんざん悪口を言われてきました。着ていく服もなくて、目立たないように帽子をかぶって学園には通っていたくらいです」


ベイリー氏は無表情だった。


「でも、ある日、アッシュフォード子爵から、ドレスのプレゼントが届いたのです」


「うれしかったですか?」


「嬉しかったです! 本当に救世主のように感じました。伯爵家の財政状態は私にはわかりません。マーゴが家の家具など売れるものを処分していたことも知りませんでした」


「だって、お嬢様、そうしなければ、私たちは食べるものさえ満足に買えなかったのです。この冬だって、燃料が買えなくて私はどう冬を越そうか悩んでいました」


ベイリー氏はくるりと振り返ると、後ろにいた商人らしい男に声をかけた。


「貯蔵室に燃料を入れておけ」


「かしこまりました」


「アッシュフォード子爵にはとても感謝しています。アッシュフォード子爵はどんな方なのでしょう」


ベイリー氏は台所の椅子をシエナに勧め、「失礼ながら……」と断って自分も腰掛けた。そして、マーゴにはお茶の用意をするように言った。


「お金がないからって、薄い紅茶なんか入れたら承知しませんよ。そんな心配はもうないからね。それから、お菓子も何もかも節約なんて考えなくていいから。ひとっ走り行って、甘いものを買ってきなさい。お金はここにある。ひと月分だ」


マーゴは買い物より、ベイリー氏の話を聞きたそうだったが、強い目つきに押されて出て行った。



「アッシュフォード子爵は、騎士候補生として、騎士学校に通っていらっしゃいます。十七歳の才気あふれる若者ですよ」


ベイリー氏は、もう少しで、すごいイケメンですと言いそうになったが、思いとどまった。


「アッシュフォード子爵の父上は、元騎士団長で元帥も経験されたハーマン侯爵でございます。そのご子息があなたを見そめたのですよ」


ベイリー氏がくすっと笑った。


「あなたを本気で愛してらっしゃる。そのことは私どもにも伝わりました。ハーマン侯爵の姉上のコンスタンス様もようやくあなたへの気持ちをお認めになられたので、こうやってあなたを守ることにしたのですよ」


「守る?」


「ええ。まずは盗賊や不測の事態から。どこの家だって、防犯はしています。ましてやここは若くて美しいあなたと足腰が弱ったマーゴだけで住んでいます。アッシュフォード子爵は大層心配されまして」


アッシュフォード子爵とは、一体、誰なの……?


ベイリー氏は、その話になるとおかしくて仕方ないらしく、口元が笑いっぱなしだ。


シエナの方は全く落ち着かなかった。

すごく、すごく奇妙な気持ち?


ドレスはうれしかったし、とてもありがたかった。

おかげで陰口から逃れられた。

ドレスさん、ありがとう……では、なかったのだ。


アッシュフォード子爵様、ありがとう……でも、どなたなの?


そして、そして、あなたの目的は何? どうして、こんなに親切にしてくれるの? 

だが、この質問は聞きにくかった。


「どなたなのでしょう? 私、存じ上げていますでしょうか?」


「先日、騎士学校も参加したダンスパーティが行われたそうですね。行かれたそうですよ?」


「ええっ?」


シエナは声を上げた。


全然わからない。

でも、あの中にいたのよね?


どなたかしら?


いや、本当にどなたなの?


学校に行ったら、イライザに聞かなくちゃ。

シエナは決意した。


「ところで……」


急にベイリー氏の目が鋭くなった。


「あそこに手紙の束が積んであるように見えるのですが?」


「え? はい!」


台所の棚に、大量の紙の束が積んであった。

伯爵宛のなにかのお誘いの手紙だった。


そうだわ。

ここまでお世話になってしまった。


それにほんとに夢のよう。

何から何まで、心を尽くして下さる。


まるでおとぎ話のゴッドマザーのよう。


違うわ。ゴッドファーザー……ヤクザではないしな……


でも、きっと、悪いようにはなさらないわ。


シエナは、思い切ってベイリー氏を頼ることに決めた。


「実は父の伯爵宛なんですの。私が開封するわけにはいかないかもしれませんが、早く開けないと失礼に当たる場合もあると思います。でも、開けたところでどうしたらいいか、わからなくて……」


ベイリー氏の黒い目がキラリと光った。


「私はこの家の執事ですから、拝見いたしましょう」


なんだか知らないけど、いつの間に?


しかしベイリー氏はつかつかと紙の山に近づくと、全部持ってきて、まるで手品のように体のどこからかペーパーナイフを取り出し、鮮やかな手つきで開け始めた。


「お茶会のお誘い……お返事が要りますね……これは婚約の検討ですか……お茶会、お茶会、結婚の話かな? ゴア家からもきているようですね」


見ていくうちにベイリー氏の額のシワがどんどん深くなっていくので、シエナは気が気でなかった。


結婚の申込とは、どうしたら良いのだろう。


それに、ゴア家は婚約解消を求めてきて、それに応じたはず。残りは何の話かしら? 学費を払えとでも言うのかしら?


シエナが気を揉んでいると、世にも渋い顔をしていたベイリー氏が結論を出した。


「ドレスが要りますね。あと、礼儀作法の先生も!」

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